ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

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家族だから

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「遥くんを名前で呼んでいるのだから、私のことも名前でいい」

「えっ? 西条さんを、名前で? そんなこと、無理です!」

いくら子どもたちを混乱させないためと言っても僕が西条さんを名前で呼ぶわけにはいかない。

「無理? どうしてだ?」

「だって、西条さんと僕は雇い主と雇い人ですよ。そんな相手を名前でなんて……」

そんなの許されるはずがない。というか許されてはダメだ。

「えーっ、はるかちゃん。みんなかぞくなんだよー。そうだよね? ぱぱ」

「碧斗、その通りだ。私が遥くんに名前を呼ばれるのはおかしいことじゃない」

「ぱぱのなまえって、しゃちょーだよね? だれかがいってたー!」

碧斗くんは西条さんの名前を知らないみたいだ。
そりゃあそうか。周りにいる人はみんな西条さんを名前で呼びかける人なんていないんだから、西条さんの名前を社長だと思っても無理はない。

「ははっ。違うよ。パパは、は、る、お、みと言うんだ」

西条さんはさっとスマホを取り出すと、僕に見えるようにメモ画面に『悠臣』と出して見せた。

「わぁー! はるかちゃんににてるー!! ねぇねぇ、はるかちゃん! ぱぱのおなまえ、よんでみてー!!」

「よんでみてー!!」

碧斗くんと琳にキラキラした目で見つめられる。
西条さんも何故かニコニコしているし、これは言わなきゃ終わらない感じだ。

「は、悠臣、さん……」

名前で呼びかけるのがこんなにも恥ずかしいなんて初めて知った気がする。

「ぱぱー、おなまえよばれてよかったねー」

「ああ、そうだな。じゃあ、遥くん。これでいいな?」

「えっ、あ、はい……」

戸惑いつつも、はいとしか言えなかった。
でも本当に僕……これから、悠臣さんって呼ぶの?
なんだかすごくドキドキするんだけど……。

それからは緊張のせいか、食事をしても何も味がわからなかった。
気づけば目の前のお皿は全て空になっていて食事が終わっていた。

西条さんが碧斗くんと琳を椅子から下ろしてくれている間に、テーブルの上の食器をまとめて流しに持っていっていると、またコンシェルジュさんの連絡フォンが鳴った。

「何かあったんでしょうか?」

「友人から荷物が届いたみたいだ」

ご友人からだという荷物はあのデリバーリーボックスに運ばれるらしい。
さっきの椅子はそこに入らなかったから対面での手渡しだったみたいだ。

碧斗くんと琳は西条さんと一緒に玄関に行き、戻ってきた。
西条さんの手には百サイズよりももう少し大きそうな箱。
リビングの真ん中で、その箱を開ける西条さんに碧斗くんと琳も興味津々だ。
僕は予洗いした食器を食洗機に並べながら、その様子を見ていると箱から次々に物が出てくる。どうやら日用品らしい。

日用品をご友人から? と不思議に思ってしまうほどその量の多さに驚いてしまう。

「ぱぱー、これってなぁに?」

「新しいシャンプーとボディーソープだ。髪や身体を洗うのに使うものだよ。碧斗と琳のはこっち。そしてこっちが遥くんのだ」

「えっ?」

大人に比べて肌が弱い子どもたち用のはともかく、自分の名前が出てきて驚いて声を上げてしまった。

「あの、僕のって……」

「風呂場にあったのは私に合わせて買った物だから、遥くんには少し刺激が強いだろうと思っていたんだ。今日たまたま友人と会う機会があって刺激の少ないものはないかと話題に出したら、友人のパートナーが使っているものを送ってくれたんだよ」

西条さんが掲げて見せてくれたシャンプーとボディーソープは桜色のボトルでなんとも可愛らしい。
ご友人の奥さまが使われているものなんだろう。そんな大層なものを僕が使うのはかなり勿体無い気がする。

「遥くんが使わなければ無駄になってしまうから、ぜひこれ使ってくれ」

念を押すように言われて、僕は頷くしかなかった。

三人がお風呂に入るのを見送り、その間にサークルの中に布団の準備をしておく。
今日も碧斗くんと琳を迎えることになっているから、ベルの音には注意しておかないと。

今日の二人のパジャマは、西条さんが買ってきてくれた色違いでお揃いのパジャマ。
いくつかあった中で、琳が着たいと言った甚平パジャマを碧斗くんも着たいと言ってくれた。

碧斗くんのは黒地に青のストライプ。琳のはその反対だ。
ガーゼ素材で汗も吸い取ってくれそうでパジャマだけで使うのは勿体無い。
このまま夏祭りにでも遊びに行けそうだ。

「西条さんって子ども服を選ぶの上手なんだな……」

なんだか意外なところがどんどん出てくる。
二人のパジャマを見つめていると、浴室からの呼び出しベルが鳴って急いで迎えにいった。

そっと脱衣所の扉を開けて中に入る。

「りーん。おいでー」

声をかけて、バスタオルを広げて待つ。
今日は西条さんの裸を見ないようにしようとしゃがんで目を瞑って待っているとガラッと扉が開く音が聞こえて琳がバスタオルに飛び込んできた。

その衝撃に思わず目を開けると、僕の視線の先に逞しい西条さんの裸が見えた。

「わっ!」

びっくりして声を上げたけれど、何故か西条さんは気にするそぶりもない。

「男同士だから気にしなくていいだろう。私たちは家族だからな。なぁ、碧斗」

「かぞく、かぞくー!!」

西条さんの声の後ろで碧斗くんのはしゃいでいる声も聞こえる。
ああ、そうか。きっと碧斗くんを納得させるために家族という言葉を使うようにしているんだろう。
そこで僕が恥ずかしがったらダメだよね。

「そうですね、家族ですから」

なんとか冷静を装いながら笑顔で返すと、西条さんは驚きと笑顔が入り混じったような不思議な表情をしていた。
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