ベビーシッター先でラブラブな家族生活はじまりました

波木真帆

文字の大きさ
73 / 203

不安にさせないために…… 2

しおりを挟む
「あ、あの……すみません、僕……お世話も何もかもほったらかしで眠っちゃったみたいで……」

マッサージを受けたまま眠ってしまったことに気づいたのだろう。
そんなふうに謝ってくるが遥くんは何も悪くない。そうなるように私がわざと仕向けたのだ。

妹さんを失って、琳くんを引き取ってからこれまでずっと一人で誰に頼ることもなく琳くんを育ててきた遥くんが疲れていることに気づいたから、何も気にすることなく休ませてやりたかった。

私が仕事でいない時間はどうしたって一人で二人の世話をさせてしまう。それなのに家事まで完璧にしてくれるんだ。仕事なら当然と思うかもしれないが、それにしたってかなりの重労働だろう。遥くんの体力が持っているのが不思議なくらいだ。

実際、昨夜の私は大した大変さはなかった。
二人分の歯磨きをするのに少し手間取ったくらいで、寝かしつけもなく寝てくれた。
遥くんがいないから諦めて聞き分け良くしてくれただけかもしれないが、それでも楽だった。

正直に昨夜の様子を伝えると遥くんは安堵のため息を漏らしていた。

「これから夜の寝かしつけは私に任せてくれたらいい」

そんな私の提案に自分の仕事だと遠慮しようとした遥くんにすかさず夜は契約外のことだと告げた。
遥くんに頼んだのは朝私が出勤してから、帰ってくるまで。

それを過ぎれば私も碧斗の親だ。そして、今は琳くんの親でもある。
二人で協力しながら子育てをするのは当然だろう。

そう説明すると、遥くんは少し戸惑った様子を見せながらも頷いてくれた。

これで、毎晩遥くんをマッサージして寝かせることができる。
あれを堪能できるなら、毎日だって子どもたちと寝るのも楽しくていい。

このついでにさっきから気になっていることも話しておこう。

私のことは名前で呼ぶことに決まったはずなのに、ずっと西条さんと呼んでいる。そのことに遥くんは気づいていないようだ。

私は遥くんに呼び名が間違っていることを伝えた。ハッとする遥くんの表情がたまらなく可愛い。
こんな素直な表情を見せるところが琳くんも良く似ている。

「普段から呼びかけておかないと、咄嗟に出ないぞ。子どもたちにおかしいと思われてもいいのか?」

少し強めに告げると、遥くんは真っ赤な顔をして私を見上げた。

「は、はい。気をつけます……は、悠臣さん……っ」

「くっ!」

可愛すぎる!
この距離でその顔で名前を呼ばれたらまずい!
一気に熱が込み上げて声が出そうになるのを必死に抑えた。

遥くんは私の様子が気になったのか尋ねてくるが、可愛らしく名前を呼ばれたことに興奮したなどと本当のことは絶対に言えない。慌てて誤魔化そうしたが、ふっと遥くんの視線が下がりそうなのを見て思わず声が出た。

なんせ、さっき真っ赤な顔で見上げられ名前を呼ばれた衝撃で、パジャマの下で緩く勃ち上がってしまっている。
なんとかパジャマの裾で隠しているが、視線を向けられたら同じ男だ。確実に私の状態に気づかれてしまうだろう。

私が突然大声を上げたものだから、遥くんの視線がパッと私の顔に向いた。
それにはホッとしつつも、なぜ声をあげたかの説明が必要になる。

頭の中をフル回転させながらさりげなく枕を膝に乗せ、例の状態を隠した。

「いや、あの……そうだ! 言うのを忘れていたんだが今日はここで朝食を摂るから、弁当は昼食用にしてもらえないか? それともすぐには無理だろうか?」

なんとか絞り出した言い訳に遥くんは何も怪しむ様子を見せず了承してくれた。本当に素直で助かった。

朝食にパンをお願いすると、彼はゆっくりとベッドを下りた。
これからシャワーを浴びるからと声をかけ、遥くんが部屋を出ていくのを見送った。

パタンと扉が閉まると、大きなため息が漏れた。なんとかバレずに済んでよかった。

身体の力が抜けてベッドに横たわると、ふわりと甘い香りがした。

これは……遥くんの匂いか。

私の匂いに遥くんの匂いが混ざり合って、なんとも興奮する。

これを洗ってしまうのは勿体無いな……。

そんな性癖などなかったはずだが、このシーツだけは残しておきたい。そんな気にさせられた。
なんと言っても遥くんが初めて私のベッドで寝たシーツだ。記念に残しておくくらいいいだろう。

部屋のクローゼットの中にしまっておいた保管用の袋を取り出し、遥くんが使ったシーツを丁寧に剥ぎ取って折り畳み、その袋に入れた。これは碧斗のものでも記念になるものを取っておくといいと言われて村山にもらったものの余りだが、捨てずにいて正解だった。

シーツを袋に入れて匂いを嗅ぐと、遥くんの甘い香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
その匂いにさらに昂ってしまっているソレに呆れつつも、これが本能なのだと諦めた。

そのシーツをクローゼットに隠し、遥くんから見えないようにさっと部屋を出て脱衣所に向かった。
シャワーを浴びながら、数回欲望の蜜を弾けさせ、なんとか落ち着いたところで急いで風呂を出た。

ジャケットなしのスーツ姿に着替え、自室を出ると遥くんから目玉焼きの硬さを尋ねられる。

西条さんと言いかけて、名前で呼びかけてくれたのが可愛い。
それに朝から目玉焼きの硬さを尋ねられるなんて、なんだか新婚のようだなと思わず笑みが溢れた。

私好みの半熟の目玉焼きと焼きすぎないベーコン。そして野菜スープと食パンにブラックコーヒー。
どれも私好みで嬉しくなる。

食べようとしたところで、遥くんがどこかに行ってしまいそうな気がして声をかけた。

「遥くんも座ってくれないか? 朝食を一人で食べるのはなんだか味気ない」

子どもっぽいと思われそうだが言わずにはいられなかった。
遥くんは素直に受け入れてくれて自分の分のコーヒーを淹れていつもの席に座ろうとした。
そこなら顔は見えるが、距離が遠い。

「食事をしながらだが、遥くんに少し話したいことがあるから隣に来てもらえないか?」

そう頼むと、遥くんはコーヒーを持って私の隣にやってきた。
途端にあの甘い香りがふわっと漂ってくる。興奮しそうになるのを必死に抑えて、私はゆっくりと口を開いた。
しおりを挟む
感想 527

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...