不感症の僕が蕩けるほど愛されちゃってます

波木真帆

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ここだけの話

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翌朝、スマホを見ると小田切先生からのメッセージが入っていた。

<もし上司から連絡が来ても絶対に返事を返さないで、私に転送してください。できれば今までのやり取りがわかるものがあれば全てスクショして送ってください>

あれから数時間しか経っていないのに、もう動いてくれているんだろうか……。
僕は何も知らずに眠っていて、申し訳ない。

とりあえず言われた通り、今までのやり取りを全て先生に送った。

いつになく穏やかな週末を過ごし、緊張のままに仕事に向かった。

安田さんと会ったらどうしよう……。
緊張に震えながら、いつもの時間より遅れて営業部のオフィスに入ると

「よっ、今日はのんびりな出社だったな。北原が珍しいな」

と同期の田辺たなべに声をかけられた。

「あ、ああ。ちょっと寝坊しちゃって……」

「そうか、お前でも寝坊することあるんだな」

そう言ってにこやかに自分のデスクへと向かっていく。
いつもと全く変わらない様子にホッとする。

始業時間が始まっても安田さんの姿は見えなかった。
もしかして、今日は休みなんだろうか……。

なら、今日は顔を見なくて済む。
それだけでほんの少し心が軽くなった気がした。

与えられた仕事を黙々とこなし、気づけばもう昼食時間。
誰も何も言っていなかったけど、やっぱり安田さんは休みみたいだ。

「北原っ!」

「わっ!」

「えっ、あっごめん。驚かせたか?」

突然背後から肩をポンと叩かれながら声をかけられて、思わず持っていた書類を落としてしまった。
田辺が申し訳なさそうにそれを拾ってくれながら、謝ってくれた。

「い、いや。ちょっと考え事しててごめん。何か急用だった?」

「いや。もう昼になってるから社食でも行かないかって誘いに来ただけなんだけど……」

「ああ、そっか。え、っと……どうしようかな、って田辺、今日は外回りじゃないのか?」

「今日は先方の都合でキャンセルになったから、内勤してたんだよ。ずっと後ろにいたのに気づかなかったのか?」

「ごめん、集中してて……」

「確かにものすごく集中してたな。今日は安田さんもいないんだから、もう少し力抜けよ」

「えっ? なんで安田さん?」

突然田辺の口から安田さんの名前が出て、思わず身体が震えてしまった。
僕の様子がおかしいことに気づかれてしまったんだろうか?

「なんでって……お前、いっつも安田さんの分全部やらされてただろ?」

「ああ、それか……気づいてたのか……」

「まぁな。正直、安田さんが契約取れてたのはお前の資料があってこそだろ。お前以外にも事務員はいるのにいつもお前を自分の専属みたいに扱ってたし、お前は他のもあるのに、あの仕事量をよくこなせてるなって心配してたんだ」

「心配してくれてありがとう。でも、なんとかやってるから……」

「いや、ここだけの話なんだけどさ」

「何?」

「いや、ここじゃちょっと。あっちに行こうぜ」

そう言って、田辺は僕の手をとって鍵付きの応接室に入った。

「そんなに重要な話?」

「ああ、実は……安田さん、クビになったらしいぞ」

「えっ? クビ? どうして?」

「社内でセクハラとパワハラをしてたあげく社員を脅して無理やり関係を迫ってたのが上層部にバレたらしい」

「セクハラ、と……パワハラ……」

もしかしてそれって、僕のこと?
いや、でも目の前にいる田辺は僕のことは知らないみたいだ。
これってどういうこと?

「ああ、しかも取引先相手の部長の娘との結婚も、睡眠薬飲ませて自宅に連れ帰ってレイプしてその動画で脅して結婚に承諾させたんだってよ」

「うそ……っ!」

「なぁ、やってることが鬼畜の所業だよ。その子が安田さんとの結婚を嫌がって、親に泣きついて今回の件がバレて、そこから芋蔓式にうちの会社でのこともバレたんだってさ。やっぱ悪いことってできないもんだよな」

「あ、ああ。そうだね。それで、クビになったって、安田さんどうなるんだ?」

「相手の親がもうすでに被害届出してて、社内で被害に遭ってた奴らからも一斉に被害届が出てるらしいから捕まるんじゃないか?」

「捕まる……? 本当に?」

「まぁ、そうだろ。安田さん自身が証拠の動画を全部残してたって話だし、言い逃れはできないよな。脅しに使ってた動画や写真が犯罪の証拠として自分の首を絞めることになるんだから世話ないよな」

僕のあの動画も……?
もしかして流出とかないよね?
今のところ、僕もその被害者とはバレていないみたいだけど……これからどうなるんだろう。

あっ、そういえば……

――北原さんの名誉は守りつつ、上司にはしっかりと罪を償っていただきましょう。全てお任せ下さい。

小田切先生がそう言ってくれていたことを思い出す。

そうだ。
小田切先生に任せていたらいいんだ。
何も怖がることはない。
僕は何も気にせずいつも通りにしていればいいんだ。

そう思えるくらい、僕は小田切先生を信用して安心しきっていた。
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