パパ活相手は婚約者? 〜セレブなイケメン社長に抗えません

波木真帆

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ずっと一緒にいたい <side征輝>

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「社長、ご機嫌ですね。何かいいことありました?」

「ああ。いつもの珈琲屋が満席でね。入れなかったんだ」

「えっ? それがいいことですか?」

「そのおかげで運命の相手に出会えたんだよ」

「運命の相手、ですか? その話詳しくお聞きしたいですね」

「そうだな。あ、その前にこの子たちを調査しておいてくれないか?」

秘書の吉岡よしおかに高崎くんから見せてもらった学生証の写真と史希くんの写真を見せた。
高崎くんの言葉に嘘は無かったように思えたが、一応念の為だ。

「桜城大学の学生さん? これはこの写真の子の学生証ですか?」

「いや、学生証と写真は別人だ。この二人を調べてくれ」

「何やら深い事情がありそうですね。後で詳しく説明してくださいよ。とりあえずすぐに調査します。2時間ぐらいでわかると思いますので、では……」

吉岡は足早に部屋を出て行った。

私は自分のスマホに入っている彼・史希くんの画像を見ながら、今抱えている大きな仕事に取り掛かった。

1週間後、史希くんと会う予定にしている日は父の会社・海堂商事の創立50周年記念パーティーがホテルで行われる。
仕事を部下に全て任せ、名ばかりの社長をしている父はそもそもが社長の器ではない。
見栄っ張りで自分をよく見せることしか考えていない。
祖父から受け継いだ会社を私に継がせ、そして私の子が継ぐことだけしか考えていないのだ。
だから、今海堂商事がどんな状況にあるかもわかっていない。

私は父の会社の有能な部下たちから相談を受けていた。
なんとかして早く父の会社を継ぎ、あの父を会社から追い出してくれないか。
そうでもしなければもう海堂商事は破綻するのだと。

祖父が必死に必死に作り守ってきた会社はそんなところまで来てしまっているのだ。
部下たちとの協議の結果、海堂商事の有能な社員は全て私の会社で雇い受けることを条件に海堂商事を吸収合併することが決まった。
そしてパーティー当日、私は父に絶縁状を叩きつけるつもりでいるのだ。

ここに史希を連れて行き、史希が私の恋人であり婚約者だと周知させる。
私を結婚させ後を継がせたがっていた父は大打撃を受けることだろう。
そして、海堂商事の破滅を知ってさらに落胆するはずだ。


「ふぅ……これで邪魔者が消えて仕事に集中できるな」

最後の確認も終わり、独言る。

ちょうどいいタイミングで部屋がノックされ、中に入ってきたのは吉岡。
どうやら調査が終わったらしい。

「どうだった?」

「どちらからお聞きになりたいですが?」

「まずは高崎くんから」

「はい。高崎司 20歳。桜城大学経済学部2年。見た目のチャラい印象とは違って学業は優秀で学部内では常にトップ10に入っているようです。東京生まれ、東京育ち。現在、弁護士、医者、政治家など高学歴、高収入の男性を対象にしたサイトで恋人活動・いわゆるパパ活のバイトをしています。今の所トラブルはなく、評判はいいようです」

「なるほど」

おおむね話をしていた通りだな。

「もう一人の方は、安曇史希 20歳。同じく桜城大学経済学部2年。首席入学しておりまして、今も学業はダントツのようです。福岡生まれ、福岡育ちで、大学入学と共に上京しています。福岡時代、野上将人という同級生と小・中・高と同じ学校で仲が良く深い間柄と周知されていますが、実際は二人に肉体関係はないようです。しかもこの野上将人は高崎司の従兄弟にあたります。彼は現在、高崎くんの紹介で高崎くんのおじいさんが経営している古書店でアルバイトをしています」

「よし、もういい。よくわかった」

「それでこの子たちは一体?」

私は吉岡に先ほどの出来事を全て話して聞かせた。

「それで私に調査をお命じになったのでございますか?」

「ああ。嘘偽りはないと思ったが一応な。彼のアルバイト先といい、高崎くんが彼を守っていたのは間違いないようだな。彼の保護者である高崎くんに認めてもらったのだから私は全力で彼をものにする。吉岡、あの時計を彼にプレゼントするからサイズ調整をしておいてくれ」

「あの時計を? 社長、彼に本気なのですね」

「そうだと言ったろう? 彼を逃す気はないからな」

「畏まりました」

私に本気で愛する人ができたら渡そうと思って用意していた時計。
きっと彼の腕によく似合うはずだ。


  ✳︎           ✳︎            ✳︎


今、私の腕の中で生まれたままの姿で眠る史希が唯一身につけているもの……それがあの時計だ。

真っ白で華奢な腕によく似合う。
私の愛の証。


私は絶対にこの手を離しはしない。
愛しているよ………史希。


ギュッと抱きしめ、彼の首筋にキスをするとくすぐったかったのか腕の中の史希が

「うーん」

と可愛らしい声をあげながら身動いだ。

しばらく見つめていると、彼の大きな目がゆっくりと開いていく。
まだ寝ぼけているのかとろんとした目で私を見てから、一気に顔を赤らめた。

「あ、あの……僕……」

「ふふっ。おはよう。私の史希……」

声をかけながら柔らかな唇にキスをすると、

「んんっ――!」

と甘い声をあげた。

「可愛いよ、史希……私のものだ」

「あの、征輝さん……僕、征輝さんのそばにいてもいいんですか?」

「何を言ってるんだ? 当たり前だろう? あんなにも深く愛し合ったと言うのに……」

「だって……僕、司の身代わりで……」

涙を潤ませながら私を見上げる史希の姿に心が痛む。
そうだ、私はまだ何も言っていなかったんだ。

「史希、悲しませて悪い。ちゃんと話させてくれ。史希は身代わりなんかじゃないんだ。私は最初から史希に会いに行ったんだよ」

「えっ? それって、どういうことですか?」

「史希とは初めましてじゃないって言ったよね?」

「はい。僕もどこかでお会いした気がしました」

「1週間前、ヴェスナカフェのテラス席で隣の席に座った」

「ヴェスナカフェ……ああっ! あの時の!!!」

興奮気味に話す彼の表情が嬉しそうでホッとした。

「よかった、思い出してくれて。史希の記憶に残っていたことが嬉しいよ」

「でも、あれだけで?」

「実は君が先に帰った後に一緒にいた友達の司くんに声をかけられたんだ」

「えっ? 司に? どうしてですか?」

「私があの時の一瞬で史希に興味を持ったことに彼は気づいたんだ。それで史希と会えるようにしてあげるって言われてその話に乗ったんだ」

ああ……目を大きく見開いて驚いているその表情でさえ、愛おしいな。

「僕のこと……興味持ってくれたんですか?」

「ああ、一目惚れしたんだ。史希が運命の相手だってすぐにわかった。だから、どうしても恋人にしたかったんだ」

「じゃあ……僕、身代わりじゃなくて……」

「そうだ。史希が好きなんだ。私と一緒にこれから先の人生を共に過ごしてほしい」

史希がたとえ断ったとしても絶対に手放したりはしないけれど、できることなら、うんと言って欲しい。

「史希……一生大切にする。絶対に泣かせたりなんかしない。だから……」

ぽろっと史希の目から涙が溢れる。

「あ、史希……」

「嬉しすぎて、泣いちゃいました……」

「じゃあ……」

「はい。僕も……征輝さんが大好きです。ずっと一緒にいてください……わっ!!」

涙を潤ませ満面の笑みで見つめてくれる史希が可愛くて愛おしくて……私は史希を強く抱きしめた。

「今日からここが史希の家だよ。一緒に暮らそう」

「えっ……今日から? いいんですか?」

「ああ。もう、少しの時間も離れていたくないからな」

そういうと、私はベッド脇に置いていたスマホをとり、吉岡に電話をかけた。

ーはい。吉岡です。

ー私だ。すぐに引越し業者の手配を。

ーあの、彼は了承されているのですよね? 社長の独りよがりではありませんか?

ーもちろんだ。すぐに彼の家を引き払い、全ての荷物を私の家に。いいな、2時間以内に終わらせろ。

ーはぁーっ。承知いたしました。1時間後にご自宅にお伺いいたしますのでそれまでに服はお召しになっていてくださいね。私も業者も社長の裸を見るのは遠慮したいので。では。

最後の一言が余計だが、吉岡に任せておけば問題ない。

「史希、皆が帰るまではこの寝室から出ないでくれ。史希の艶やかな表情は私だけのものだからな」

そういうと、史希は恥ずかしそうに小さく頷いた。



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読んでいただきありがとうございます!
ちょっとしたおまけ話が続きますので、今日は2話連続で更新いたします。
そちらで完結となります。
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