301 / 311
番外編
滝川くんの提案
しおりを挟む
<side一眞>
まさか一花に叱られるとはな。
だが、自分の立場をあれほど理解し、私が特別扱いをすることをキッパリと断るなんて……。
一花はあれほど過酷な環境で成長しながら、素直でいい子に育ってくれたものだ。
これも征哉くんと未知子さんのおかげだろう。
一花を救い出してくれたことは、どれだけ感謝しても足りないくらいだ。
こうして私の腕に戻ってきてくれた一花。
十八年間成長を見守ることは奪われてしまったが、これから先の人生はまだまだ長い。
奪われてしまった時間以上に、一花との時間を大切にすればいい。
「さっきの桜の飾り、本当に可愛かった。史紀さんも持ってるんですか?」
「私は車の鍵につけていますよ。ほら」
私の腕に抱かれたまま、一花が史紀と楽しげに会話をしている。
史紀がポケットから取り出した車の鍵を見て、一花が目を輝かせている。
「わぁー! 本当だ。可愛い! でもちょっとさっきのと形が違う?」
一花が可愛らしく首を傾げる。
その姿に滝川くんは悶えてしまいそうになるのを必死に抑えているようだ。
まぁ、もう少し一緒に過ごせば一花の可愛さにも慣れるだろう。
「ほお、よくわかったな。毎年、少しずつ変えているんだよ。その年の限定のほうが嬉しいだろう?」
「ああ、そっかー。さすがパパ!」
「ははっ。一花に褒められるのは嬉しいな」
この年で息子に褒められてこんなに嬉しいとはな。
きっと一花が上っ面の賛辞ではなく、素直な気持ちを伝えてくれているからだろう。
「あ、あの……」
突然、滝川くんが声をかけてきて驚いた。
「ん? 滝川くん、どうした?」
「あ、あの……ご子息に桜カフェの新メニューを考えていただく、というのはいかがでしょうか?」
「一花が、新メニューを?」
「はい。現在飲料部門で新作メニューのコンペを行っています。もちろん忖度のないように名前を伏せてご子息に考えていただいたメニューを応募して、それが通ればご子息も櫻葉グループの一員として仕事をしていただいたことになりますので、入社記念のキーホルダーを差し上げることも問題ないか、と……」
思いがけない滝川くんの提案に驚きつつも、それは面白いという気持ちのほうが強かった。
「それはなかなか斬新な提案だが、一花はどうだ? やってみるか?」
「しん、めにゅー? ってなんですか?」
一花がキョトンとした顔で尋ねてくる。
それがとてつもなく可愛い。
滝川くんも史紀も思わず笑ってしまっている。
「ははっ。そうだな、それから勉強しようか。我が社のために一花に頑張ってほしい」
「はい! 僕、頑張ります!」
この笑顔、麻友子によく似ている。
今、桜カフェで定番になっている人気メニューも麻友子が考案してくれた。
そこに一花の考えてくれたメニューが並んだら……こんなに嬉しいことはないな。
エレベーターが私の部屋がある階に到着する。
先ほどのロビーと違ってしんと静まり返っているが、一花は興味深そうな表情を向けた。
「ここがパパのお部屋のある階ですか?」
「ああ、そうだ。史紀の部屋はすぐ下の階にあるよ」
「わぁー! 史紀さんのお部屋も見てみたいです!」
一花が笑顔を向けると史紀はすぐに笑顔で頷いた。
「いいですよ、私の部屋には秘密基地があるんです。一花くんだけそこに案内しますよ」
「ひみつきち? なんだか楽しそう!」
史紀があの部屋に他人を入れるとはな。
あそこは私でも足を踏み入れたことがない部屋だ。
長い間、負担をかけてきた史紀が精神を保つための場所。
そこがあったから頑張れたと何度も言っていた。
ある意味、そこは史紀の聖域のものだったろう。
そこに一花が入れるとは……想像していた以上に、史紀は一花を気に入っているようだ。
まさか一花に叱られるとはな。
だが、自分の立場をあれほど理解し、私が特別扱いをすることをキッパリと断るなんて……。
一花はあれほど過酷な環境で成長しながら、素直でいい子に育ってくれたものだ。
これも征哉くんと未知子さんのおかげだろう。
一花を救い出してくれたことは、どれだけ感謝しても足りないくらいだ。
こうして私の腕に戻ってきてくれた一花。
十八年間成長を見守ることは奪われてしまったが、これから先の人生はまだまだ長い。
奪われてしまった時間以上に、一花との時間を大切にすればいい。
「さっきの桜の飾り、本当に可愛かった。史紀さんも持ってるんですか?」
「私は車の鍵につけていますよ。ほら」
私の腕に抱かれたまま、一花が史紀と楽しげに会話をしている。
史紀がポケットから取り出した車の鍵を見て、一花が目を輝かせている。
「わぁー! 本当だ。可愛い! でもちょっとさっきのと形が違う?」
一花が可愛らしく首を傾げる。
その姿に滝川くんは悶えてしまいそうになるのを必死に抑えているようだ。
まぁ、もう少し一緒に過ごせば一花の可愛さにも慣れるだろう。
「ほお、よくわかったな。毎年、少しずつ変えているんだよ。その年の限定のほうが嬉しいだろう?」
「ああ、そっかー。さすがパパ!」
「ははっ。一花に褒められるのは嬉しいな」
この年で息子に褒められてこんなに嬉しいとはな。
きっと一花が上っ面の賛辞ではなく、素直な気持ちを伝えてくれているからだろう。
「あ、あの……」
突然、滝川くんが声をかけてきて驚いた。
「ん? 滝川くん、どうした?」
「あ、あの……ご子息に桜カフェの新メニューを考えていただく、というのはいかがでしょうか?」
「一花が、新メニューを?」
「はい。現在飲料部門で新作メニューのコンペを行っています。もちろん忖度のないように名前を伏せてご子息に考えていただいたメニューを応募して、それが通ればご子息も櫻葉グループの一員として仕事をしていただいたことになりますので、入社記念のキーホルダーを差し上げることも問題ないか、と……」
思いがけない滝川くんの提案に驚きつつも、それは面白いという気持ちのほうが強かった。
「それはなかなか斬新な提案だが、一花はどうだ? やってみるか?」
「しん、めにゅー? ってなんですか?」
一花がキョトンとした顔で尋ねてくる。
それがとてつもなく可愛い。
滝川くんも史紀も思わず笑ってしまっている。
「ははっ。そうだな、それから勉強しようか。我が社のために一花に頑張ってほしい」
「はい! 僕、頑張ります!」
この笑顔、麻友子によく似ている。
今、桜カフェで定番になっている人気メニューも麻友子が考案してくれた。
そこに一花の考えてくれたメニューが並んだら……こんなに嬉しいことはないな。
エレベーターが私の部屋がある階に到着する。
先ほどのロビーと違ってしんと静まり返っているが、一花は興味深そうな表情を向けた。
「ここがパパのお部屋のある階ですか?」
「ああ、そうだ。史紀の部屋はすぐ下の階にあるよ」
「わぁー! 史紀さんのお部屋も見てみたいです!」
一花が笑顔を向けると史紀はすぐに笑顔で頷いた。
「いいですよ、私の部屋には秘密基地があるんです。一花くんだけそこに案内しますよ」
「ひみつきち? なんだか楽しそう!」
史紀があの部屋に他人を入れるとはな。
あそこは私でも足を踏み入れたことがない部屋だ。
長い間、負担をかけてきた史紀が精神を保つための場所。
そこがあったから頑張れたと何度も言っていた。
ある意味、そこは史紀の聖域のものだったろう。
そこに一花が入れるとは……想像していた以上に、史紀は一花を気に入っているようだ。
1,125
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる