歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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幸せが奪われる

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「ち、違うわよ! ただの桜の形でしょう! 同じなんかじゃないわ!」

これ以上見られちゃいけないと咄嗟に手を出して、それを拾い上げようと思ったら

「あっ――!」

目の前にいた助手だという弁護士が先に拾い上げてしまった。

「迫田さん、これは誰のものですか?」

「わ、私のネックレスよ。返して!」

「そうですか、あなたの。それにしてはかなり短いようですが……」

「あ、いや。そうだわ、これはブレスレットだったわ」

「ブレスレットにしては長すぎますね。それをあなたがネックレスだと言うのは、どこかで誰かがネックレスとしてつけているのを見たのではないですか?」

「くっ――! そ、それは……」

言葉に詰まっている間に、助手の弁護士はどこからともなくルーペを取り出し、念入りにそれを調べ始めた。

「何するのよ! 返してよ!」

「磯山先生、これを見てください!」

何かを見つけたのか、私の言葉を無視して弁護士二人があのネックレスをじっくりと見ている。

「迫田さん、これは本当にあなたのものですか?」

「そ、そうよ。そうだって言ってるでしょう!」

「わかりました。それではこれを見ていただきましょうか」

そういうと、弁護士は立ち上がり、少し離れたデスクから持ってきた台の上にネックレスを置き、パソコンを開いてこちらに向けた。

「これは、顕微鏡機能を備えた書画カメラです。この飾りの裏側をパソコンに映し出します」

一体何が始まるっていうの?
よく覚えてないけど、あんな小さなものに何も書かれていなかったはず。
けれど、拡大されてぼんやりしていたものがスッと鮮明にパソコン画面に映った瞬間、

「――っ!!!」

私ははっと息を呑んだ。

<我が息子・一花に捧ぐ>

確かにそう書かれていたからだ。

助手の弁護士はそれを見ると、さっと部屋を出ていきどこかに行ってしまった。
けれどそれを気にする余裕もないほど、磯山という弁護士と直純に冷ややかな目を向けられる。

「迫田さん、もう一度だけ聞きます。これは、本当にあなたのものですか?」

「くっ――! ち、違い、ます……」

もうこれはそういうしかない。
すると、さっき出て行った助手の弁護士がスマホを片手に戻ってきた。

「これは櫻葉一眞さんが生まれてきた息子さんのために用意した、世界に一つだけの特注品のネックレスだと櫻葉さん本人から確認が取れました。しかも、息子さんと最後に会ったあの沐浴後につけたばかりだということも覚えていましたよ。それから一時間もしない間に息子さんは病院から連れ出された。これがネックレスとしてつけられていたのを見たのは、沐浴の時に同席していたあなただけだということになります。そして、これも見ていただきましょうか」

そう言って出してきたのは、写真。

「つ、次は何よ」

「これは実行犯である鵜池早紀が櫻葉家長男を新生児室から連れ去っている写真です。ここ、見てください」

その写真もさっきほどの台の上に乗せて拡大されたのを見ると、

「あっ、赤ちゃんの首に、ネックレスが……ない」

立ち上がって画面を見つめる直純の震える声が耳に入ってくる。

「そうです。さっきの写真にはネックレスが確認できます。こちらの写真にはそれがない。そして、迫田さんがそのネックレスを持っていたということは……」

「ああ、もうっ! そうよ! 私が盗んだの! これでいい?」

真綿で首をしめるようにじわじわと責められてもう反論する余裕もなかった。

「盗んだ……母さんが……」

直純は震える声で何度も呟くと、そのまま力なく椅子に沈み込んだ。

「未成年者略取の共犯についてはまだじっくりと話を進めるとして、とりあえず今は窃盗の容疑で警察に連絡します」

「ちょっと待ってよ! 警察だけは勘弁して!! 大体、もう十年以上の前のことなんだから誘拐も窃盗も関係ないでしょう!!」

「あなたが勘違いをなさっている様ですから説明しますが、櫻葉家長男誘拐についてはまだ時効は成立していません」

「はっ? なんでよ! そんなの嘘よ! 弁護士が嘘ついていいと思ってるの?」

「いいえ、嘘ではありません。誘拐された一花さんは実行犯である鵜池早紀の監視の元で長い間生活をしていたのです。その間、時効期間は停止しています。そして、一花さんは三年前にようやくその実行犯の手から離れた。すなわち、誘拐という犯罪行為が終了して、まだ三年しか経っていないということです。誘拐の時効は最低でも五年。まだ時効は成立していません」

「――っ、そ、そんな……っ、う、そでしょ……っ」

このままじゃ、捕まってしまう。
今の私の幸せが奪われてしまう。

そんなの、嫌だ!!!

「うわぁぁぁーーっ!!!」

私は大声を張り上げながら、扉へと走った。

「母さんっ!!」

直純の声が聞こえるけれど、止まっている余裕もない。
しかし、扉を開けて逃げようと思った私の目の前に大きな影が立ちはだかった。

「逃しはしないぞ!」

「あっ、な――っ、どう、して……きゃぁっ! やめてっ!!」

病院では見たこともなかった、鬼のような形相をした櫻葉さんに行く手を遮られたかと思ったら、後ろから現れた警察官二人に捕まえられる。

「話は署でゆっくり聞かせてもらおうか」

「嫌だ、離してっ!!」

連れて行かれるのが嫌で振り回した腕が警官の顔に当たってしまった。

「くっ――! 公務執行妨害で逮捕する!!」

そう叫んだかと思うと、もう一人の警官が取り出した手錠を素早くかけられ茫然としてしまう。

「わ、私が……たい、ほ……う、そでしょ……」

これが本当なのか、現実を受け止めきれない。
全身の力が抜けて崩れ落ちそうになったところを抱えられ、私はそのままパトカーに乗せられてしまった。
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