歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています

波木真帆

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精一杯の謝罪と優しさ

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<side磯山>

「征哉くん、榊くんへの連絡を頼む」

「はい。電話してきますね」

助手として私の隣にいてくれていた征哉くんに任せておけば大丈夫だろう。
それよりも心配は彼のことだ。
私は目の前で項垂れる直純くんに声をかけた。

「直純くん、大丈夫か?」

「は、はい」

「悪かったね、君には辛い現実を見せてしまった」

母親が警察官に手錠をかけられ、連れて行かれるところを見て冷静でいられるわけがない。
それでも加害者の家族として涙を流してはいけないと思っているのか、必死に涙を堪えたまま座っていた直純くんがいじらしくて声をかけてしまった。

彼はまだ14歳。
本当は彼がどんなに望んでも別室で待機させるべきだっただろう。
けれど、彼の目が真実を知りたいと訴えていた。
あの時すでに母親への不信感を抱いていた彼を納得させるには、同席するのが一番だったのだろうと思う。

「い、いえ。あ、あの……扉の前にいる人って……」

直純くんは、私の謝罪よりも入り口に立ったまま迫田美代が連れて行かれるのを見送る櫻葉会長が気になっているようだ。

「彼は今回私に弁護を依頼した、櫻葉一眞さんだよ」

「じゃあ、母が連れ去った子の……お父さん?」

震える声で尋ねてくる彼に頷いて見せると、ガタンと勢いよく椅子を倒して立ち上がり、櫻葉さんのもとに駆け出して行った。

「直純くん!」

私の声に止まる様子もなく、櫻葉さんの足元に正座したと思ったら

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」

と床に額を擦り付け何度も謝罪を繰り返した。

往生際悪くしらを切ったり言い訳ばかりをしていたあの母親は、最後まで決して謝罪の言葉を口にしなかった。
それどころか、息子を置いて逃げ出そうとしていたのに。
本当にこの子はなんて良い子なんだろう。

「君は何も悪くない。だからそんなことしなくて良いんだよ」

彼の隣にしゃがみ込み、背中を撫でながらそう言ったけれど、彼は涙を流しながら顔を横に振った。

「僕が……あのネックレスを見つけた時に何か行動を起こせていれば、その子はもっと早く、お父さんのもとに帰れたかもしれない。でも……真実を知るのが怖くて……何もできなかった僕にも責任があります」

「直純くん……」

まだ中学生の子が、あのネックレスを見つけたからといって行動できるはずがない。
それなのに、こんなにも自分を責めるなんて……。
それほどこの事件は彼の心を抉ったのだろう。

櫻葉さんはそんな彼をじっと見つめていたが、スッとその場にしゃがみ込み、

「君の母親がしたことは決して許されることではない。私たちが普通に得られるはずだった幸せを勝手な思いだけで無惨にも奪われ、一花を失ったショックで愛しい妻も失ってしまった。たとえ、謝罪されても私が君の母親を許すことは一生ないだろう」

と低く冷ややかな声をかけた。
その声に彼は青褪めながらも小さく頷いた。

「だが、君がどれだけ責任を感じようと、君には一切の責任はない。だから私に土下座などしなくていいよ」

さっきとは打って変わったような優しい声に、直純くんの表情が驚きと共に一気に和らぐ。

手を取って優しく直純くんを立たせた櫻葉さんは、

「辛いことをさせてしまうかもしれないが、君の知っていることを全て教えてほしい」

と声をかけた。

「はい。僕が知っていることを全部話します。あの、その代わりに……」

「どうした?」

「その、母が誘拐の手伝いをした……その子が、今、どうなっているのか教えてほしいです。元気でいるんですよね?」

「直純くん……」

思いがけない交換条件に私も、そして櫻葉さんも顔を見合わせてしまった。

「安心してくれ。私の息子・一花は今は元気にしているよ。先日、実際に会ってきたんだ」

「本当ですか……よかったぁ……」

自分のことのように涙を流して喜ぶ直純くんの姿に、私は胸が締め付けられる思いがした。


<side征哉>

電話を終え、磯山先生たちのいる部屋に戻ると磯山先生と櫻葉会長が横並びに、そして、櫻葉会長の向かいに直純くんが座っていた。
大人たちに囲まれて萎縮せず、必死に母親の犯した罪と向き合おうとしているのか……。

「磯山先生、連絡してきました」

「ああ、征哉くん。ありがとう」

「それから、直純くん。君のお父さんにも連絡を入れて、ここにきてもらうことにしたからね。お父さんともこれからのことを話し合わないといけないだろう?」

「――っ、そう、ですね。はい、父を呼んでくださってありがとうございます」

彼らのこれからの生活を考えれば、きっと前途多難なことだろう。
それでも前を向いていかなくてはいけない。

絶望のどん底に落とされた、櫻葉さんが今日まで必死で生きてきたように。
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