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二人一緒に
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<side征哉>
「一花、行こうか」
泊まりに行く準備を整えて、牧田に全ての荷物を車に積み込ませてから一花を迎えに部屋に行った。
抱き上げようとすると、その手を遮るように
「あっ、あの……ちょっと話があって……」
と一花から声がかかった。
「どうした? 何か気になることでもあるのか?」
「そうじゃなくて……あの、いろいろ僕のためにしてくれた征哉さんには申し訳ないんですけど……」
その言い出しにくそうな表情に、少し不安が込み上げる。
もしかして私が一緒に泊まるのが嫌なのか?
それとも……これからは櫻葉家で暮らしたい、とか……?
ようやく会えた父親と一緒に暮らしたいと思うのは当然だろう。
今日泊まってそのまま……と言い出すのではないかと思うと、途端に不安になった。
一花の願いはなんでも叶えてやりたい。
だが、離れることだけは別だ。
何を言われるのかと緊張しながら、一花の話の続きを待った。
「あの、saraさんに作っていただいたぬいぐるみなんですけど……あれを、お父さんにあげたいなっていうか……麻友子お母さんの仏壇に置いててあげたいなって思って……」
「えっ……」
「ごめんなさい……でも、この前麻友子お母さんの仏壇に置かせてもらった時、写真のお母さんがすごく喜んでいる気がして……持って帰ってきちゃって悪かったかなってずっと思ってて……お母さんには赤ちゃんの僕がついててあげられたらなって思ったんです。だから……わっ!!」
私は一花の言葉に居ても立ってもいられず抱きついた。
「ごめん、一花っ」
「ど、どうしたんですか? 征哉さんっ」
「私は一花の気持ちを何も分かってなかった」
「えっ? それってどういう……」
「あのぬいぐるみはお義父さんとお義母さんにプレゼントしよう」
「いいん、ですか?」
「ああ、もちろん私のライオンも連れて行ってくれ。離れ離れだと私が泣いてしまうからな」
「征哉さん……」
私はなんて愚か者なんだ。
一花が私と離れたいなんていうはずないのに。
「あのぬいぐるみを連れてくるよ」
一花のベッドから見える位置に並べて置いていた私たちの人形を腕に抱きかかえて一花の元に連れて行った。
「ふふっ。本当に僕と征哉さんにそっくり」
一花は愛おしそうに羊の一花とライオンの私の頭を撫でる。
「ああ、saraさんのおかげだ。でも本当にいいのか? 気に入っていたのに」
「はい。僕には本物の征哉さんがいますから、この一花にはライオンの征哉さんも必要ですもんね。それにライオンの征哉さんが泣いちゃうと困りますから」
笑顔で返してくれる一花の優しさが何よりも嬉しい。
と同時に自分の狭量さに呆れてしまう。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
羊の一花とライオンの私を胸に抱き、最後の時間を惜しんでいる一花を優しく抱きかかえて部屋を出る。
「あら? もう出かけるの?」
「はい。未知子お母さん、行ってきます」
「ふふっ。今日はぬいぐるみちゃんたちも一緒なのね。気をつけて行ってらっしゃい」
母に見送られ、私たちは櫻葉邸に向かった。
<side二階堂(櫻葉邸執事)>
「そろそろくる頃じゃないか?」
「旦那さま、少し落ち着かれてください。10分ほど前に征哉さまから家を出たとご連絡いただいたばかりですよ。流石に早すぎます」
「まだ10分しか経っていないのか? 時間が経つのが遅すぎるな」
一花さまがこちらにお泊まりになると決まってから、旦那さまはずっと浮かれておいでだ。
私はこの18年、旦那さまと共に過ごしてきたから今の旦那さまの嬉しいお気持ちは痛いほどよくわかる。
先日、一花さまが初めて我が家にご帰宅なさった時は、私の今までの人生で一番幸せだった。
麻友子さまが今の一花さまのお姿を見られないことだけが心残りだけれど、それでも旦那さまの嬉しそうな姿を見られただけで嬉しかったのだ。
一花さまはこの屋敷に嫁いで来られた頃の麻友子さまに本当によく似ていらっしゃる。
旦那さまと一緒にいらっしゃるのを見た時は、あの瞬間だけ昔に戻ったような気にさえなっていた。
一花さまがすでにご伴侶さまを得られていたことは驚いてしまったけれど、それが貴船征哉さまならいうこともない。
旦那さまも相手が征哉くんでよかったと仰っていたくらいだから。
兎にも角にも今回のご宿泊も旦那さまにとって幸せな時間になるように、私は精一杯務めるだけだ。
それからしばらくしてようやく、我が家の門が開く音が聞こえ、ガレージに車が進んでいくのが確認できる。
先日、征哉さまの車を登録しておいたおかげでスムーズにガレージまで入っていただくことができた。
「二階堂、一花たちを迎えにガレージに降りるぞ」
ここでどっしりと待ち構えていらっしゃったらいいのに……。
そうは思いつつも、あれだけ待ち侘びていた旦那さまを止めることもできず、私も一緒にガレージに向かった。
「一花っ!」
「あっ、お父さん!」
「くっ――!!」
笑顔の一花さまにお父さんと呼びかけられて、喜びが溢れてしまったようだ。
まだまだ旦那さまは一花さまの麗しさに慣れるまでに時間がかかりそうだ。
「一花、行こうか」
泊まりに行く準備を整えて、牧田に全ての荷物を車に積み込ませてから一花を迎えに部屋に行った。
抱き上げようとすると、その手を遮るように
「あっ、あの……ちょっと話があって……」
と一花から声がかかった。
「どうした? 何か気になることでもあるのか?」
「そうじゃなくて……あの、いろいろ僕のためにしてくれた征哉さんには申し訳ないんですけど……」
その言い出しにくそうな表情に、少し不安が込み上げる。
もしかして私が一緒に泊まるのが嫌なのか?
それとも……これからは櫻葉家で暮らしたい、とか……?
ようやく会えた父親と一緒に暮らしたいと思うのは当然だろう。
今日泊まってそのまま……と言い出すのではないかと思うと、途端に不安になった。
一花の願いはなんでも叶えてやりたい。
だが、離れることだけは別だ。
何を言われるのかと緊張しながら、一花の話の続きを待った。
「あの、saraさんに作っていただいたぬいぐるみなんですけど……あれを、お父さんにあげたいなっていうか……麻友子お母さんの仏壇に置いててあげたいなって思って……」
「えっ……」
「ごめんなさい……でも、この前麻友子お母さんの仏壇に置かせてもらった時、写真のお母さんがすごく喜んでいる気がして……持って帰ってきちゃって悪かったかなってずっと思ってて……お母さんには赤ちゃんの僕がついててあげられたらなって思ったんです。だから……わっ!!」
私は一花の言葉に居ても立ってもいられず抱きついた。
「ごめん、一花っ」
「ど、どうしたんですか? 征哉さんっ」
「私は一花の気持ちを何も分かってなかった」
「えっ? それってどういう……」
「あのぬいぐるみはお義父さんとお義母さんにプレゼントしよう」
「いいん、ですか?」
「ああ、もちろん私のライオンも連れて行ってくれ。離れ離れだと私が泣いてしまうからな」
「征哉さん……」
私はなんて愚か者なんだ。
一花が私と離れたいなんていうはずないのに。
「あのぬいぐるみを連れてくるよ」
一花のベッドから見える位置に並べて置いていた私たちの人形を腕に抱きかかえて一花の元に連れて行った。
「ふふっ。本当に僕と征哉さんにそっくり」
一花は愛おしそうに羊の一花とライオンの私の頭を撫でる。
「ああ、saraさんのおかげだ。でも本当にいいのか? 気に入っていたのに」
「はい。僕には本物の征哉さんがいますから、この一花にはライオンの征哉さんも必要ですもんね。それにライオンの征哉さんが泣いちゃうと困りますから」
笑顔で返してくれる一花の優しさが何よりも嬉しい。
と同時に自分の狭量さに呆れてしまう。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
羊の一花とライオンの私を胸に抱き、最後の時間を惜しんでいる一花を優しく抱きかかえて部屋を出る。
「あら? もう出かけるの?」
「はい。未知子お母さん、行ってきます」
「ふふっ。今日はぬいぐるみちゃんたちも一緒なのね。気をつけて行ってらっしゃい」
母に見送られ、私たちは櫻葉邸に向かった。
<side二階堂(櫻葉邸執事)>
「そろそろくる頃じゃないか?」
「旦那さま、少し落ち着かれてください。10分ほど前に征哉さまから家を出たとご連絡いただいたばかりですよ。流石に早すぎます」
「まだ10分しか経っていないのか? 時間が経つのが遅すぎるな」
一花さまがこちらにお泊まりになると決まってから、旦那さまはずっと浮かれておいでだ。
私はこの18年、旦那さまと共に過ごしてきたから今の旦那さまの嬉しいお気持ちは痛いほどよくわかる。
先日、一花さまが初めて我が家にご帰宅なさった時は、私の今までの人生で一番幸せだった。
麻友子さまが今の一花さまのお姿を見られないことだけが心残りだけれど、それでも旦那さまの嬉しそうな姿を見られただけで嬉しかったのだ。
一花さまはこの屋敷に嫁いで来られた頃の麻友子さまに本当によく似ていらっしゃる。
旦那さまと一緒にいらっしゃるのを見た時は、あの瞬間だけ昔に戻ったような気にさえなっていた。
一花さまがすでにご伴侶さまを得られていたことは驚いてしまったけれど、それが貴船征哉さまならいうこともない。
旦那さまも相手が征哉くんでよかったと仰っていたくらいだから。
兎にも角にも今回のご宿泊も旦那さまにとって幸せな時間になるように、私は精一杯務めるだけだ。
それからしばらくしてようやく、我が家の門が開く音が聞こえ、ガレージに車が進んでいくのが確認できる。
先日、征哉さまの車を登録しておいたおかげでスムーズにガレージまで入っていただくことができた。
「二階堂、一花たちを迎えにガレージに降りるぞ」
ここでどっしりと待ち構えていらっしゃったらいいのに……。
そうは思いつつも、あれだけ待ち侘びていた旦那さまを止めることもできず、私も一緒にガレージに向かった。
「一花っ!」
「あっ、お父さん!」
「くっ――!!」
笑顔の一花さまにお父さんと呼びかけられて、喜びが溢れてしまったようだ。
まだまだ旦那さまは一花さまの麗しさに慣れるまでに時間がかかりそうだ。
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