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可愛い子たち
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<side一眞>
可愛い一花の反応を楽しみながらの映画鑑賞は、この上なく楽しかった。
本当に麻友子によく似ている。
麻友子もああして、感情豊かに声を出してくれたものだ。
一度イタズラ心を出して、ホラー映画を上映したことがあったが、最初から震えっぱなしで私の腕に縋りついたままで、それでも必死に私のそばにいてくれた。
――ごめん、怖がらせすぎたな。
映画を途中で止めて、涙で瞳を潤ませた麻友子を抱きしめながら謝ったが、
――怖かったけど、一眞さんにずっと抱きついていられたからよかったです。
そう言って笑顔を見せてくれたんだ。
懐かしいな。
麻友子を失ってから、この屋敷の至る所で麻友子の思い出や痕跡を感じて辛い日々を過ごした。
特に二人でこの部屋で映画を楽しむことが多かったから、このシアタールームには入れなかった。
麻友子がいない現実を突きつけられるのが怖かったんだ。
けれど一花と再会を果たし、この部屋に久しぶりに入った時、寂しさよりも麻友子と過ごした楽しい時間を思い出して嬉しかった。
ここには麻友子がいる。
ここで麻友子と一花と、そして征哉くんと家族で過ごせることを幸せだと感じられるようになったんだ。
こうして私の気持ちが変わったのも、一花と再会できたお陰だな。
映画を見終わってリビングへの移動中に、二階堂が客が来たと知らせてきた。
待ちに待った知らせに私はその場で飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。
一花の喜ぶ顔が見られる。
ああ、ちょうどいいタイミングで来てくれたものだ。
一花を征哉くんに任せて、応接室に急ぐとケージを前にソファーに座る青年が見えた。
「やぁ、甲斐くん。待ってたよ」
「お待たせいたしました。この子もずっと櫻葉さんにお会いできるのを楽しみにしていましたよ」
「おお、そうか」
「ケージから出してあげてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
私もソファーに近づくと、開けられたケージから可愛いミニチュアダックスフンドの子犬が出てきた。
初めての家だというのに騒ぎもしないのは、優秀なブリーダーである甲斐くんの手によって育てられたからだろう。
「さぁ、フラン。今日からここがお前の家だよ」
「クゥン」
「おいで」
その場にしゃがみ込んで手を差し出すと、トコトコと歩いてきて手に顔を擦り寄せてぺろっと舐めてくれた。
「ああ、フラン。可愛いな」
一花と再会した時から犬を我が家に迎えようと考え、史紀に相談したところ、優秀なブリーダーを紹介してもらった。
それが甲斐くんだった。
彼の元に何度も赴き、この子と出会って運命を感じて我が家に迎えると決めた。
我が家に迎えるまでは、こちらでも準備があるし、甲斐くんの方でも準備がある。
その準備が整うまで私はずっと待っていたのだ。
我が家に迎えると決まった日から、この子は私の決めた名前で躾けられる。
そうすることで、こちらに来てすぐにその名前に反応できるようになるのだ。
けれど、運命的にこの子を迎えると決めたから、その時はまだ名前を決めていなかった。
何にしようかと考えて、すぐに一花を思い出した。
そして、この名前に決めたんだ。
一花の大好きなプリン。
そう、フランはスペイン語でプリンのことだ。
きっと一花なら可愛いと言ってくれるだろう。
「甲斐くん、ありがとう。フランは我が家で大切に育てるよ」
「はい。よろしくお願いします」
「私の可愛い息子にも会ってやってくれるか?」
「はい。もちろんです」
「そうか、ありがとう。じゃあ、フランも一花に会いに行こうか」
一花に会うのが楽しみでたまらないのか、フランが尻尾をパタパタと振っている。
「ふふっ。可愛いな。おいで」
さっとフランを抱き上げて、一花たちが待つリビングへ向かう。
扉をノックして少し扉を開けてから、フランだけ中に入らせた。
「わぁっ!」
嬉しそうな一花の声が聞こえて、甲斐くんと二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
そっと扉の影から様子を伺うと、一花と征哉くんがフランと戯れている姿が見えて、思わずスマホを取り出し写真を撮った。
「ああ……可愛い」
「ええ、本当に可愛らしいですね」
一花を見つめる甲斐くんの愛おしそうな視線がつい気になってしまうくらい、その声に熱がこもっている。
「甲斐くん、悪いが一花には……」
「えっ? あ、いえ。すみません。勘違いさせてしまいましたね。可愛いもの同士が戯れている姿に感動しただけです。一花さんに邪な感情を抱いたりはしませんから、ご安心ください」
「いや、悪い。息子可愛さに失礼した」
「いえ。あれほど可愛らしいのですから当然ですよ。それくらい警戒される方がいいですよ。私にはすでに心奪われた相手がいますので、一花さんの後ろで守っていらっしゃるお方にもお伝えください」
征哉くんか。
いち早く甲斐くんの存在に気づいて牽制していたか。
ふふっ。一花のこととなると容赦ないからな。
「ありがとう、伝えておくよ」
そう言って、私たちは一花の元に近づいた。
この子が私たちの新しい家族だと伝えると、一花も征哉くんも喜んでくれた。
まぁ、征哉くんはまだ甲斐くんのことを牽制していたがな。
「この子の名前はフランだ。一花、征哉くんも仲良くしてやってくれ」
「わぁー、フラン。僕は一花だよ。よろしくね」
その言葉に答えるように、フランがぺろっと頬を舐める。
一瞬征哉くんから嫉妬めいた感情が湧き上がったのを感じたが、そこは何も言わずにおいた。
可愛い一花の反応を楽しみながらの映画鑑賞は、この上なく楽しかった。
本当に麻友子によく似ている。
麻友子もああして、感情豊かに声を出してくれたものだ。
一度イタズラ心を出して、ホラー映画を上映したことがあったが、最初から震えっぱなしで私の腕に縋りついたままで、それでも必死に私のそばにいてくれた。
――ごめん、怖がらせすぎたな。
映画を途中で止めて、涙で瞳を潤ませた麻友子を抱きしめながら謝ったが、
――怖かったけど、一眞さんにずっと抱きついていられたからよかったです。
そう言って笑顔を見せてくれたんだ。
懐かしいな。
麻友子を失ってから、この屋敷の至る所で麻友子の思い出や痕跡を感じて辛い日々を過ごした。
特に二人でこの部屋で映画を楽しむことが多かったから、このシアタールームには入れなかった。
麻友子がいない現実を突きつけられるのが怖かったんだ。
けれど一花と再会を果たし、この部屋に久しぶりに入った時、寂しさよりも麻友子と過ごした楽しい時間を思い出して嬉しかった。
ここには麻友子がいる。
ここで麻友子と一花と、そして征哉くんと家族で過ごせることを幸せだと感じられるようになったんだ。
こうして私の気持ちが変わったのも、一花と再会できたお陰だな。
映画を見終わってリビングへの移動中に、二階堂が客が来たと知らせてきた。
待ちに待った知らせに私はその場で飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。
一花の喜ぶ顔が見られる。
ああ、ちょうどいいタイミングで来てくれたものだ。
一花を征哉くんに任せて、応接室に急ぐとケージを前にソファーに座る青年が見えた。
「やぁ、甲斐くん。待ってたよ」
「お待たせいたしました。この子もずっと櫻葉さんにお会いできるのを楽しみにしていましたよ」
「おお、そうか」
「ケージから出してあげてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
私もソファーに近づくと、開けられたケージから可愛いミニチュアダックスフンドの子犬が出てきた。
初めての家だというのに騒ぎもしないのは、優秀なブリーダーである甲斐くんの手によって育てられたからだろう。
「さぁ、フラン。今日からここがお前の家だよ」
「クゥン」
「おいで」
その場にしゃがみ込んで手を差し出すと、トコトコと歩いてきて手に顔を擦り寄せてぺろっと舐めてくれた。
「ああ、フラン。可愛いな」
一花と再会した時から犬を我が家に迎えようと考え、史紀に相談したところ、優秀なブリーダーを紹介してもらった。
それが甲斐くんだった。
彼の元に何度も赴き、この子と出会って運命を感じて我が家に迎えると決めた。
我が家に迎えるまでは、こちらでも準備があるし、甲斐くんの方でも準備がある。
その準備が整うまで私はずっと待っていたのだ。
我が家に迎えると決まった日から、この子は私の決めた名前で躾けられる。
そうすることで、こちらに来てすぐにその名前に反応できるようになるのだ。
けれど、運命的にこの子を迎えると決めたから、その時はまだ名前を決めていなかった。
何にしようかと考えて、すぐに一花を思い出した。
そして、この名前に決めたんだ。
一花の大好きなプリン。
そう、フランはスペイン語でプリンのことだ。
きっと一花なら可愛いと言ってくれるだろう。
「甲斐くん、ありがとう。フランは我が家で大切に育てるよ」
「はい。よろしくお願いします」
「私の可愛い息子にも会ってやってくれるか?」
「はい。もちろんです」
「そうか、ありがとう。じゃあ、フランも一花に会いに行こうか」
一花に会うのが楽しみでたまらないのか、フランが尻尾をパタパタと振っている。
「ふふっ。可愛いな。おいで」
さっとフランを抱き上げて、一花たちが待つリビングへ向かう。
扉をノックして少し扉を開けてから、フランだけ中に入らせた。
「わぁっ!」
嬉しそうな一花の声が聞こえて、甲斐くんと二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
そっと扉の影から様子を伺うと、一花と征哉くんがフランと戯れている姿が見えて、思わずスマホを取り出し写真を撮った。
「ああ……可愛い」
「ええ、本当に可愛らしいですね」
一花を見つめる甲斐くんの愛おしそうな視線がつい気になってしまうくらい、その声に熱がこもっている。
「甲斐くん、悪いが一花には……」
「えっ? あ、いえ。すみません。勘違いさせてしまいましたね。可愛いもの同士が戯れている姿に感動しただけです。一花さんに邪な感情を抱いたりはしませんから、ご安心ください」
「いや、悪い。息子可愛さに失礼した」
「いえ。あれほど可愛らしいのですから当然ですよ。それくらい警戒される方がいいですよ。私にはすでに心奪われた相手がいますので、一花さんの後ろで守っていらっしゃるお方にもお伝えください」
征哉くんか。
いち早く甲斐くんの存在に気づいて牽制していたか。
ふふっ。一花のこととなると容赦ないからな。
「ありがとう、伝えておくよ」
そう言って、私たちは一花の元に近づいた。
この子が私たちの新しい家族だと伝えると、一花も征哉くんも喜んでくれた。
まぁ、征哉くんはまだ甲斐くんのことを牽制していたがな。
「この子の名前はフランだ。一花、征哉くんも仲良くしてやってくれ」
「わぁー、フラン。僕は一花だよ。よろしくね」
その言葉に答えるように、フランがぺろっと頬を舐める。
一瞬征哉くんから嫉妬めいた感情が湧き上がったのを感じたが、そこは何も言わずにおいた。
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