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初恋 葵side
手取り足取り教えてください!
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「ごめん。葵の隣に立つ勇気ない」
今まで何度同じセリフで振られたか……もう思い出すこともできない。
僕は瀬名葵。20歳の大学生。身長は170センチに一歩足りない169センチ。
年齢イコール彼女なし。
昨夜も告白したけれど、同じセリフでフられた……。
でも、言っておくけど僕はモテないわけじゃないっ!!
僕は生まれてから今までずっと女の子に囲まれて生きてきたんだ!!
女友だちだっていっぱいいるし、周りには可愛い子だっていっぱいいた。
だけどっ! 振られ続ける理由はただひとつ……。
雪のように色白でシミひとつない綺麗な肌、漆黒の髪はサラサラと手触りが良く、パッチリとした大きな二重にまつ毛が驚くほど長くクリッとした可愛らしい瞳、小さくて鼻筋のくっきりとした綺麗な鼻、ぽってりとして赤いプルプルの唇。
そう! 僕のこの女の子みたいに可愛すぎる顔のせいだ。
顔だけじゃない。
髭どころかすね毛も脇毛もほとんどないし……それに下だって薄くて……僕の男性ホルモンは一体どこにいっちゃったんだって文句言いたくなる。
それもこれもミス日本だかなんだかっていう母親そっくりなせいだ。
いや、別にお母さんが嫌いではないんだけど……。
でも、良いなって思う子に告白しても――
“自分より美人な彼氏とは一緒に並びたくない”
そう言われてしまう。
はぁーっ。
このままじゃ、僕は一生恋人なんてできないよ……。
告白した相手は、同じカフェでバイトをしてた違う大学の女の子。
僕より少し早くバイトを始めていた彼女に仕事を色々教わっているうちに、笑顔が可愛くて付き合いたいなって思ったんだ。
「凛花ちゃん! 僕と付き合って欲しいんだ!」
悩んで悩んで必死にそう告白したのに、凛花ちゃんは笑って、
「こんな可愛い彼氏なんて無理。メイクもしてないのにこんな可愛い葵が隣にいたら私よりナンパされそうだし……。
ごめん、葵の隣に立つ勇気ない」
と一蹴した。
その上、
「葵とは友達がいい」
そう言われたら、『わかった、ごめんね』としか返せなかった。
――葵といると、楽しい。葵って意外と男らしいところもあるんだ!
そう言ってくれてたのに……結局顔か……。
なんでこんな顔に生まれちゃったんだろう。
もっと、もっと男らしく生まれたら良かったのに……。はぁーっ。
その上、
――悪いんだけど、明日のバイトシフト誰かと変わってくれる?
さすがにフった相手と次の日に同じシフト入るの、ちょっときついんだよね。
って言われちゃったんだ。
今日は朝から夕方までバイトできるはずだったのに休むことになっちゃって……。
家にいても嫌なことばっかり考えちゃって気が滅入るから気分転換に外に出たのに、電車乗り間違えて今まで足を踏み入れたこともない銀座に来ちゃうし……。
ああ、もうっ! ツイてない。
あーあ、本当にもっと男らしい格好良い顔に生まれてたらな……。
はぁーっ。
初めて来る銀座でどこを歩いたらいいのかわからずに彷徨っていると、目の前に突然大きな建物が現れた。
ここ……ホテル?
なんだろう……ここだけ別の空間みたいだ。
入ってみたいけど、こんな高級そうなホテルに僕なんかが入ったら迷惑かなぁ?
それでもうずうずと湧き上がってくる好奇心を抑えきれずに僕はホテルの玄関まで足を踏み入れた。
ううっ。なんかいろんなところから視線が突き刺さってる気がする。
やっぱり僕みたいなのがこんな高級そうなホテルに近づいてたら目立っちゃうよね。
でも、すごく気になる。
玄関から少し離れた場所に銀座のど真ん中とは思えないほどたくさんの緑がある場所を見つけ覗き見ると、そこには美しい庭園が広がっていた。
「わぁっ」
思わず声を漏らすと、入口にいたホテルの人が近づいてきた。
怒られるっ。
そう思ったけれど、その人は優しく微笑みながら
「いらっしゃいませ。お客さま」
と声をかけてくれた。
「あ、あの……僕、泊まりに来たわけではなくて……その……」
「ホテルはお泊まりに来ていただく方だけの場所ではございません。当ホテルの中庭はお散歩も楽しんでいただけますよ」
「えっ……入ってもいいんですか?」
「もちろんでございます。さぁ、どうぞこちらへ」
そのホテルの方に案内してもらって中庭に足を踏み入れると、そこは陽射しが降り注ぎ綺麗に手入れされた日本庭園が広がっていた。
うわっ、ここ本当に東京?
こんな街中に綺麗な庭園のあるホテルがあったなんて……知らなかったな。
あっ、これは桜の木か。
今度は春に来てみたいな。
うわぁっ、池まである。
すごい、キラキラして冷たそう。
祖父母の家の近くにあったあの綺麗な池を思い出して、つい入りたくなってしまう。
小鳥の囀りも聞こえるし、ここ、本当に癒されるなぁ……。
池にかけられた紅い橋を歩きながら、池の鯉を眺めていると、
「君、ちょっと良いかな?」
と突然声をかけられた。
突然聞こえた声に僕は驚いて顔をあげると、そこにはギリシャ彫刻のように整った顔立ちの長身の男性が立っていた。
最初は僕なんかに話しかけてくれているとは思えなくて、キョロキョロと辺りを見回したけれど、周りには僕たち以外誰もいなくて、さっきの声かけが僕にかけてくれたものだとわかった。
慌ててお散歩していただけだって答えると、彼は急に話しかけたことを謝りながら、少し話をと誘ってくれた。
『はい』と頷くと、さっと自然に肩を抱かれた。
すごくスマートな動きで嫌な気持ちが全くしない。
ああ。こんなふうにできたらきっと女の子たちにもモテるんだろうな……。
そんなことを思いながら隣を歩く彼をチラ見する。
体型にピッタリ合ったダークスーツが男の色気っていうのかな……そういうのを醸し出してる気がする。
この並びだと横顔しか見えないけれど、まるで外国人のようなスッと細いシャープな鼻筋が凄くかっこいい。
しかも、歩いている様も指先の動きまで全てがかっこいい。
こんなふうに男らしくて格好良い人だったら、告白して振られるなんて経験ないんだろうな。
きっとぼくが羨むような人生を歩んできたに違いない!
女の子みたいな顔は生まれ持ったものだからどうしようもないけど、男らしく振る舞えたら少しは女の子たちの見る目も変わったりするかもしれないよね。
彼にどうにかしてカッコよくなる方法とか教えてもらえないかな?
今思えば、その時の僕は凛花ちゃんに振られたショックできっとおかしくなっていたんだろう。
でも僕の頭の中はもう彼のことしか考えられなくなってしまっていた。
案内された東屋の前には色とりどりの花が咲き乱れていて、甘い匂いに包まれていた。
『わぁっ、綺麗』思わず声を上げると、彼は隣で嬉しそうに微笑んでいた。
花を見ただけで子どもみたいにはしゃぐ僕にも笑顔を向けてくれるなんて、彼はなんて優しい人なんだろう。
けれど、そう思ったのも束の間彼にここに何をしにきたのかと問われて、やっぱり分不相応だったのかと少し恥ずかしく思いながら、このホテルの中庭にたどり着いた経緯を話すと、彼はにっこりと笑って、
『ここの中庭は風情があって癒されるだろう? 私もここに来るとホッとするんだ』
と言ってくれた。
ああ、やっぱりこの人優しい人だ。
男の僕から見ても格好良いし、性格のすごく良い人だし、何よりすごく男らしく見える。
こんな人に色々と教えてもらえたら、僕だって絶対男らしくなれるはずだ!
さっきあったばかりで図々しいと思われるかもしれないけれど、これを逃したらもうこんな人と出会えないかもしれない。
ここは勇気を持って誘うしかない!
頑張れ!
僕は彼を見つめながら、思い切ってお願いすることにした。
「あの、僕……実はあなた(の男らしい顔と振る舞い)に一目惚れしてしまって……。
もし、よかったらその……(あなたみたいに格好良くなる方法を)僕に手取り足取り教えて欲しいんです!!」
はぁっ、はぁっ。
パニックになって一気に捲し立ててしまったけど、多分自分が言いたいことはちゃんと伝えられたはず。
彼の反応を見ようと恐る恐る見上げると、彼は驚いた表情でじっと僕を見ている。
そりゃあそうか。
急に知らない人から格好良くなる方法を教えてなんて言われたら驚くに決まってる。
でも、これを逃したらいつまで経っても僕は振られ続けるんだ!
この機会を逃すわけにはいかない!!
「だ、だめ……ですか?」
背の高い彼を見上げてお願いしてみると、彼は一瞬目を背けたものの
「私でよければ、喜んで」
と笑顔で振り返って僕の手を取ってくれた。
彼が手をとってくれたその時から、僕の運命は大きく変わったんだ。
今まで何度同じセリフで振られたか……もう思い出すこともできない。
僕は瀬名葵。20歳の大学生。身長は170センチに一歩足りない169センチ。
年齢イコール彼女なし。
昨夜も告白したけれど、同じセリフでフられた……。
でも、言っておくけど僕はモテないわけじゃないっ!!
僕は生まれてから今までずっと女の子に囲まれて生きてきたんだ!!
女友だちだっていっぱいいるし、周りには可愛い子だっていっぱいいた。
だけどっ! 振られ続ける理由はただひとつ……。
雪のように色白でシミひとつない綺麗な肌、漆黒の髪はサラサラと手触りが良く、パッチリとした大きな二重にまつ毛が驚くほど長くクリッとした可愛らしい瞳、小さくて鼻筋のくっきりとした綺麗な鼻、ぽってりとして赤いプルプルの唇。
そう! 僕のこの女の子みたいに可愛すぎる顔のせいだ。
顔だけじゃない。
髭どころかすね毛も脇毛もほとんどないし……それに下だって薄くて……僕の男性ホルモンは一体どこにいっちゃったんだって文句言いたくなる。
それもこれもミス日本だかなんだかっていう母親そっくりなせいだ。
いや、別にお母さんが嫌いではないんだけど……。
でも、良いなって思う子に告白しても――
“自分より美人な彼氏とは一緒に並びたくない”
そう言われてしまう。
はぁーっ。
このままじゃ、僕は一生恋人なんてできないよ……。
告白した相手は、同じカフェでバイトをしてた違う大学の女の子。
僕より少し早くバイトを始めていた彼女に仕事を色々教わっているうちに、笑顔が可愛くて付き合いたいなって思ったんだ。
「凛花ちゃん! 僕と付き合って欲しいんだ!」
悩んで悩んで必死にそう告白したのに、凛花ちゃんは笑って、
「こんな可愛い彼氏なんて無理。メイクもしてないのにこんな可愛い葵が隣にいたら私よりナンパされそうだし……。
ごめん、葵の隣に立つ勇気ない」
と一蹴した。
その上、
「葵とは友達がいい」
そう言われたら、『わかった、ごめんね』としか返せなかった。
――葵といると、楽しい。葵って意外と男らしいところもあるんだ!
そう言ってくれてたのに……結局顔か……。
なんでこんな顔に生まれちゃったんだろう。
もっと、もっと男らしく生まれたら良かったのに……。はぁーっ。
その上、
――悪いんだけど、明日のバイトシフト誰かと変わってくれる?
さすがにフった相手と次の日に同じシフト入るの、ちょっときついんだよね。
って言われちゃったんだ。
今日は朝から夕方までバイトできるはずだったのに休むことになっちゃって……。
家にいても嫌なことばっかり考えちゃって気が滅入るから気分転換に外に出たのに、電車乗り間違えて今まで足を踏み入れたこともない銀座に来ちゃうし……。
ああ、もうっ! ツイてない。
あーあ、本当にもっと男らしい格好良い顔に生まれてたらな……。
はぁーっ。
初めて来る銀座でどこを歩いたらいいのかわからずに彷徨っていると、目の前に突然大きな建物が現れた。
ここ……ホテル?
なんだろう……ここだけ別の空間みたいだ。
入ってみたいけど、こんな高級そうなホテルに僕なんかが入ったら迷惑かなぁ?
それでもうずうずと湧き上がってくる好奇心を抑えきれずに僕はホテルの玄関まで足を踏み入れた。
ううっ。なんかいろんなところから視線が突き刺さってる気がする。
やっぱり僕みたいなのがこんな高級そうなホテルに近づいてたら目立っちゃうよね。
でも、すごく気になる。
玄関から少し離れた場所に銀座のど真ん中とは思えないほどたくさんの緑がある場所を見つけ覗き見ると、そこには美しい庭園が広がっていた。
「わぁっ」
思わず声を漏らすと、入口にいたホテルの人が近づいてきた。
怒られるっ。
そう思ったけれど、その人は優しく微笑みながら
「いらっしゃいませ。お客さま」
と声をかけてくれた。
「あ、あの……僕、泊まりに来たわけではなくて……その……」
「ホテルはお泊まりに来ていただく方だけの場所ではございません。当ホテルの中庭はお散歩も楽しんでいただけますよ」
「えっ……入ってもいいんですか?」
「もちろんでございます。さぁ、どうぞこちらへ」
そのホテルの方に案内してもらって中庭に足を踏み入れると、そこは陽射しが降り注ぎ綺麗に手入れされた日本庭園が広がっていた。
うわっ、ここ本当に東京?
こんな街中に綺麗な庭園のあるホテルがあったなんて……知らなかったな。
あっ、これは桜の木か。
今度は春に来てみたいな。
うわぁっ、池まである。
すごい、キラキラして冷たそう。
祖父母の家の近くにあったあの綺麗な池を思い出して、つい入りたくなってしまう。
小鳥の囀りも聞こえるし、ここ、本当に癒されるなぁ……。
池にかけられた紅い橋を歩きながら、池の鯉を眺めていると、
「君、ちょっと良いかな?」
と突然声をかけられた。
突然聞こえた声に僕は驚いて顔をあげると、そこにはギリシャ彫刻のように整った顔立ちの長身の男性が立っていた。
最初は僕なんかに話しかけてくれているとは思えなくて、キョロキョロと辺りを見回したけれど、周りには僕たち以外誰もいなくて、さっきの声かけが僕にかけてくれたものだとわかった。
慌ててお散歩していただけだって答えると、彼は急に話しかけたことを謝りながら、少し話をと誘ってくれた。
『はい』と頷くと、さっと自然に肩を抱かれた。
すごくスマートな動きで嫌な気持ちが全くしない。
ああ。こんなふうにできたらきっと女の子たちにもモテるんだろうな……。
そんなことを思いながら隣を歩く彼をチラ見する。
体型にピッタリ合ったダークスーツが男の色気っていうのかな……そういうのを醸し出してる気がする。
この並びだと横顔しか見えないけれど、まるで外国人のようなスッと細いシャープな鼻筋が凄くかっこいい。
しかも、歩いている様も指先の動きまで全てがかっこいい。
こんなふうに男らしくて格好良い人だったら、告白して振られるなんて経験ないんだろうな。
きっとぼくが羨むような人生を歩んできたに違いない!
女の子みたいな顔は生まれ持ったものだからどうしようもないけど、男らしく振る舞えたら少しは女の子たちの見る目も変わったりするかもしれないよね。
彼にどうにかしてカッコよくなる方法とか教えてもらえないかな?
今思えば、その時の僕は凛花ちゃんに振られたショックできっとおかしくなっていたんだろう。
でも僕の頭の中はもう彼のことしか考えられなくなってしまっていた。
案内された東屋の前には色とりどりの花が咲き乱れていて、甘い匂いに包まれていた。
『わぁっ、綺麗』思わず声を上げると、彼は隣で嬉しそうに微笑んでいた。
花を見ただけで子どもみたいにはしゃぐ僕にも笑顔を向けてくれるなんて、彼はなんて優しい人なんだろう。
けれど、そう思ったのも束の間彼にここに何をしにきたのかと問われて、やっぱり分不相応だったのかと少し恥ずかしく思いながら、このホテルの中庭にたどり着いた経緯を話すと、彼はにっこりと笑って、
『ここの中庭は風情があって癒されるだろう? 私もここに来るとホッとするんだ』
と言ってくれた。
ああ、やっぱりこの人優しい人だ。
男の僕から見ても格好良いし、性格のすごく良い人だし、何よりすごく男らしく見える。
こんな人に色々と教えてもらえたら、僕だって絶対男らしくなれるはずだ!
さっきあったばかりで図々しいと思われるかもしれないけれど、これを逃したらもうこんな人と出会えないかもしれない。
ここは勇気を持って誘うしかない!
頑張れ!
僕は彼を見つめながら、思い切ってお願いすることにした。
「あの、僕……実はあなた(の男らしい顔と振る舞い)に一目惚れしてしまって……。
もし、よかったらその……(あなたみたいに格好良くなる方法を)僕に手取り足取り教えて欲しいんです!!」
はぁっ、はぁっ。
パニックになって一気に捲し立ててしまったけど、多分自分が言いたいことはちゃんと伝えられたはず。
彼の反応を見ようと恐る恐る見上げると、彼は驚いた表情でじっと僕を見ている。
そりゃあそうか。
急に知らない人から格好良くなる方法を教えてなんて言われたら驚くに決まってる。
でも、これを逃したらいつまで経っても僕は振られ続けるんだ!
この機会を逃すわけにはいかない!!
「だ、だめ……ですか?」
背の高い彼を見上げてお願いしてみると、彼は一瞬目を背けたものの
「私でよければ、喜んで」
と笑顔で振り返って僕の手を取ってくれた。
彼が手をとってくれたその時から、僕の運命は大きく変わったんだ。
応援ありがとうございます!
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