エリート医師は偶然出会った可愛い子猫を囲い込んで離さない

波木真帆

文字の大きさ
3 / 22

今日の約束

「どうぞ。座って」

「は、はい」

まだ不安そうな表情が拭えない。
真壁には食事をしながら話そうと伝えていたが、聞いてなかったんだろうか?
それとも二人になったから話だけしてすぐに帰るつもりだったのか?
それなら無理に食事に誘って悪かったのかもしれない。
今時の若い子は、上司やその年代と食事に行くのも嫌がることが多いと聞く。

「食事の前に君の用事を済ませたほうが良かったかな?」

それなら食事は後回しにしようか。
女将に声をかければ止めてもらえるだろう。
だが、彼はプルプルと首を横に振って、震える声で話し始めた。

「あの、お金が……足りないんじゃないかと思って……」

「お金? どういうことだ?」

「あの、さっきの封筒……」

そう言われて、胸ポケットに入れた茶封筒を取り出した。
糊付けしてあった封を丁寧に剥がし中を見る。
そこにはこの国の一番大きな紙幣が、おそらく十枚ほど入っているように見えた。

「これは? なんのお金だ?」

ひと昔前、担当医師に袖の下を渡す患者もいると聞いたが、聖ラグエル病院では全ての医師に現金などの心付けを渡すこと、そして医師のほうもそれを受け取ることを禁止している。私に相談事があるとはいえ、まさかこんな若い子がこんなことをするとは思わなかったが、いったいどういうつもりでこんな金を用意したのだろう?

「あの、だって、僕の処女をもらってくれる代わりに十万円って……だから、僕……貯めてたお金を全部持って今日ここに……」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。君の、処女? 十万円?」

彼の必死な様子に、その話が嘘じゃないことが伝わってくる。
でも処女とか、十万円とか一体どういうことだ?

まさか、真壁のやつ。警察官でありながら、私に買春させる気なんじゃないだろうな?
しかもこんな大人しそうな子を……
部下だなんて嘘までついて、本当はこの子は未成年じゃないのか?

いや、ちょっと待て。冷静に考えよう。
あの真壁がそんなことをするとは到底思えない。

「ちょっと待ってくれ。あいつに確認するから」

目の前で涙を浮かべる彼に断りを入れて、ポケットに入れていたスマホを取り出した。
みるとメッセージが入っている。送信者の名前は<真壁冬貴>
今まさに連絡を取ろうと思っていた相手だ。

少し緊張しながら、そのメッセージを開いてみる。

<悪い。部下も仕事になったから今日はキャンセルにしてくれ。時間ギリギリまでわからなくて申し訳ない。今度埋め合わせするから>

は?
一体どういうことだ?

真壁も部下も仕事になって来れなくなった?

じゃあ、この子は一体誰なんだ?

想像していなかった事実に頭の中がだいぶ混乱しているが、とりあえず彼が話していることの確認を取る必要がある。
私は必死に心を落ち着けて彼に話しかけた。

「ちょっと確認したいんだが、今日の約束をしたメッセージのやり取りは残っているかな? もし良かったら見せて欲しいんだけど」

まだ涙を浮かべたままの彼は、静かにポケットからスマホを取り出した。
彼のスマホにはメッセージやその他の類は何も来ていないようだ。
彼はいくつかの操作のあと、私に画面を見せてくれた。

「あの、これです……」

それには「タク」という相手と何度もやり取りしたものが残っていた。
彼が見せてくれたそれはゲイのアプリ。

<僕はライトと言います。ネコの大学生です。誰か僕とホテルに行って処女を貰ってもらえませんか? ホテル代は僕が出します。どうぞお願いします>

そんな彼からのメッセージで始まったチャットには、夥しい数の男からのメッセージが届いていた。
その中で、彼は『タク』という名の男からの猛アタックを受けていた。
そして、彼の指示にしたがって、他の男たちからの通知をブロックし、彼と細かいメッセージを送り合い始めた。

<ホテルに行きたいって、体験したいってことだよね?>

<はい。僕、事情があって直ぐにでも体験したくて……タクさんは僕とえっちしてくれますか?>

<ははっ。積極的なネコちゃんだな。まぁ悪くないけど。それじゃあ、二十万円で君の願いをなんでも叶えるよ。準備できる?>

<えっ、お金……あの、二十万はちょっと厳しいです。十万ならなんとか用意できます>

<そうか。本当は処女の相手なら二十は必要なんだけど、まだ大学生だもんな。いいよ、じゃあ十万で願いを叶えるよ>

<ありがとうございます! あの、いつどこに行ったらいいでしょうか?>

<○月×日の夜六時に△駅のモニュメント近くのベンチにいるよ。メガネをかけているから声をかけてくれ>

そんなメッセージのやり取りが残されていた。

この子はアプリ内で知り合った「タク」という男と十万円と引き換えにアナルセックスを体験する予定だったのか……

なんて危ないことをしようとしていたんだろう。
しかも金まで払って……

「タク」という男はもちろん金目当てだろう。
だが、待ち合わせに現れた子がこんなにも可愛い子だったら、絶対にその辺のホテルに連れ込んで処女を奪うだけ奪って金と共にとんずらするつもりだっただろうな。

「君はこの『タク』という男に会いにあの場所にきたのか?」

「はい。そうです。あの、あなたは……」

私の反応に一気に不安げな表情を見せるが、こんなやつ本人だと思われたくない。

「残念ながらこの『タク』とは別人だよ」

「そんな……」

彼の表情が愕然としたものに変わっていく。
明らかにがっかりした表情に、私はなんとなく違和感を覚えた。
感想 55

あなたにおすすめの小説

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。