エリート医師は偶然出会った可愛い子猫を囲い込んで離さない

波木真帆

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番外編

もし、あの時ひかりと出会わずに待ち合わせ場所から離れていたら…… 2

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初めての衝撃に身動き一つ取れないまま彼を見つめる。
彼もまた私をみたまま、動かない。

どうしていいか、わからないままでいると、成瀬にポンと背中を叩かれてハッとする。

「あの子を助けられるのはお前だけだよ」

私だけに聞こえる声で成瀬が囁いた。
それは医師としてという意味だったのかもしれない。
けれど、私は一人の男として彼を守りたい。
そんな感情でいっぱいになっていた。

私は心の中で気合を入れ直し、真壁と彼に近づいた。

「真壁。彼が話していた子か?」

「あ、ああ。そうだ。彼は有川ひかりさん。二十歳の大学生だ。有川さん、彼は――」

私は真壁が彼に私の紹介をするのを遮って声をかけた。

「私は、沖野拓哉。聖ラグエル病院の医師だよ」

「お医者、さん……あの、僕……どこも悪いところは……」

「そうだね。でも少し顔色が悪いかな。ここではゆっくり過ごせないだろうし、かといってこの状態の君を一人でいさせるわけにもいかない。今夜は私が君の保護者になるから安心して」

「あの、それじゃ……僕は、家に帰らなくてもいいんですか?」

彼は隣に立つ真壁にチラリと視線を向ける。
その視線すら独占したいと思ってしまっている私は、どうかしてしまったのかもしれない。

「とりあえず今日は彼と一緒にいてください。まだ話を聞くことがあるかもしれないので、ご自宅には帰らなくていいですよ」

真壁がそう説明すると、彼はあからさまにホッとした表情を見せた。

彼が保護者を呼ぶことを拒み続けていると、さっきの電話で真壁が話していたがこんなにも家に帰りたくないというのは余程の理由があるのだろう。
もしかしたらそれも今回の理由の一つなのか?
それもしっかりと頭の中に入れつつ、私は彼に声をかけた。

「それじゃあ今日はゆっくり休んだほうがいい。行こうか」

「は、はい」

彼は私をみてほんのり頬を染めながら頷いた。

「荷物を貸して。私が持つよ」

「え、でも……」

「疲れている時にこんな重そうなものは持たないほうがいいから。ほら、医者の言うことは聞くものだよ」

笑顔を見せながらそう告げると、彼はおずおずとバッグを肩から下ろし渡してくれた。

「それじゃあ行こう。真壁、成瀬。あとで連絡するから」

「あ、ああ。わかった」

真壁は少し驚いていたように見えたが、成瀬は笑顔で「急がなくていいから」と声をかけてきた。
二人の反応の違いに戸惑いつつも、私は彼を連れて部屋を出た。

彼の歩幅に合わせてゆっくりと建物を出る。

「お腹空いてない?」

「あ、だいじょ――きゅるる」

可愛い音がナイスなタイミングで聞こえてきて、彼は恥ずかしそうにお腹を抑えた。

「どこかで食べていこうか。それともうちでゆっくり食べる?」

「えっ、先生のお家に連れて行ってもらえるんですか?」

「もちろん。どこだと思った?」

「あ、病院に連れて行かれるのかと……」

警察に保護されて医師に引き渡されたらそう思っても不思議はないか。

「君にはゆっくり休んでほしいからね。病院だと落ち着かないだろう? その点私は一人暮らしだから気を遣う必要はないよ」

「一人暮らし……あの、僕……先生のお家に行きたいです」

「そうか。じゃあ、そうしようか」

笑顔を見せると、彼は頬を染める。
その表情が可愛くて、ずっと見ていたいと思えた。

「君は助手席ね」

「は、はい」

助手席に座らせて、シートベルトをつけてやる。
こんなこと今まで誰にもしたことはないが、自然と身体が動いた。

運転席に乗り込み、エンジンをかける。

「何か食べたいものある?」

「えっと……あ、ハンバーグ、とか……」

尋ねられると思ってなかったんだろう。必死に絞り出したような答えに思わず笑ってしまう。

「オッケー。ハンバーグなら家にある材料で作れるかな。じゃあ、このまま家に帰ろうか」

ここから家まではそこまで離れていない。だが沈黙が続くと彼に緊張させてしまいそうで話しかけた。

「有川くん……ひかりくんと呼んでもいいかな?」

「は、はい」

名前を呼ばれるだけでこんなにも動揺するなんて、今どき珍しいくらいウブな子だな。

「ケーキは好き?」

「えっ、ケーキ、ですか? 好き、ですけど……」

「よかった。この近くに美味しいケーキ屋さんがあるんだ。そこで食後のデザートでも買って帰ろう」

そう提案しただけで、彼の目が輝いた。
きっと甘いものが好きなんだろう。

しかも今日は疲れているようだから、糖分はとったほうがいい。

私は笑顔になった彼を連れて、ケーキ屋に向かった。
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