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二枚の写真
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「田淵くん」
「あっ、河北さん!!」
想像していたよりも早く河北さんが来てくれて、嬉しいのと緊張が混ざったような声が出てしまった。
「んっ? どうかした?」
「えっ?」
「いや、なんかすごく張り切ってる感じがしたから。今日のリハビリ、楽しかった?」
河北さんってすぐになんでも気づいてくれるんだな。すごい。
「はい。今日は河北さんのお菓子のおかげで頑張れました。あのお菓子、すごく有名なんですね。尚孝くんが行列ができるお店だって教えてくれました」
「昨日は時間帯が良かったからあんまり並ばずに買えたんだよ。美味しかった?」
「はい。すっごく美味しかったです。特にあの、無花果と胡桃のビスコッティっていうのが、すごく美味しかったです」
フィナンシェもクッキーも美味しかったけれど、あの固さがすごく珍しくて、尚孝くんが用意してくれた甘いカフェオレにもピッタリで幾つでも食べられるくらい美味しかった。ビスコッティっていう名前も尚孝くんに教えてもらうまで知らなかったけど、僕の好きなものの一つになったかな。
「やっぱり! あれ、田淵くんなら気にいると思ったんだ。だから、あれだけ追加で持ってきたよ」
「えっ??」
河北さんがさっと背中に隠していたあの小さな紙袋を見せてくれる。
驚きつつも受け取って中を見ると、ビスコッティがいくつも入っているのが見える。
「河北さん……いいんですか?」
「もちろん! 俺もビスコッティ好きなんだよ。だから気に入ってくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます」
河北さんもこれ、好きなんだ……。じゃあ、これは河北さんと二人で食べたいかな。
心の中で尚孝くんにごめんねと謝りながら、僕はこのお菓子だけは河北さんと二人で食べることに決めた。
「あの、僕……いつも美味しいお菓子を持ってきてくれる河北さんにお礼がしたくて……」
「お礼なんて気にしなくていいよ」
「河北さん、優しいからそういうと思ってこっそりお礼を考えようとしたんですけど……ごめんなさい、思いつかなくて……それで、尚孝くんと、山野辺先生に相談したんです」
「谷垣くんと、山野辺先生にも? それで先生はなんて?」
「それが……河北さん本人に聞いた方がいいって……。だから僕、河北さんに聞きたくて……」
「そうか……でも、お礼なんて本当に気にしなくていいんだけど……でも、それじゃあ田淵くんが気になるのかな。あ、じゃあ今日みたいに毎日自撮り写真送ってよ」
「えっ? 自撮り、写真ですか?」
思っても見なかった答えに僕は聞き返すことしかできなかった。
「そう。今日の写真可愛かったから」
「――っ、あれは削除してほしいって……」
寝起きで寝巻き姿だったのに……。
「可愛いって言ったろう? 消すわけないよ。でもほんと、起きて挨拶と一緒に写真撮って送ってくれたら嬉しいな。ああ、できたら寝る時も。おやすみって言ってほしい」
「河北さん……そんなので、お礼になりますか?」
「ああ。一日仕事頑張って寝る時にそう言ってもらえたら今日頑張ったなって思えるし、朝もおはようって言ってもらえたら今日も頑張ろうって思えるよ。ね、田淵くん。頼むよ」
河北さんがそこまで言ってくれるなら、僕はその通りにしたい。
だって僕もおはようとかおやすみなさいとかずっと送ってみたかったんだもん。
「はい。じゃあ今日の夜から送りますね。夜も写真もあった方がいいですか?」
「もちろん! 写真付きで頼むよ!!」
ものすごく前のめりに言われてちょっとびっくりしたけど、自撮りするのも楽しいから良かったかな。
夕食を一緒に食べて、河北さんが帰っていくとやっぱり寂しい。でも昼に会った時よりはまだ余韻が残っているから昨日よりはぐっすり眠れるかも。
お風呂がわりにお湯で濡らしたタオルで自分の身体を拭き、寝巻きに着替える。ギプスが濡れないようにガードをつけて、椅子に座ってシャワーを浴びることもできるけれど、すごく疲れるから週に二度くらいでいいかな。基本的に拭くだけでいいと伝えている。一人暮らしの家でもお金がかかるから髪の毛だけ洗って身体は拭くだけだったし、問題はない。ここでは髪の毛は二日に一度、洗髪ルームで洗ってもらえるからすごく楽でいい。
寝巻きに着替えてから、もふもふのワンワンケースに入ったスマホを撮り、まずはメッセージを書く。
<今日も河北さんに会えて嬉しかったです。お仕事大変でしょうけど、明日も頑張ってくださいね。応援してます。おやすみなさい。伊月>
次は自撮りだ。
今朝はとりあえずプレゼントを受け取ったことを伝えなきゃという気持ちでいっぱいで何も考えずに撮っちゃってたけど、撮って送ってと言われるとどうやって撮ろうかと悩んでしまう。
顔だけ? いや、僕の顔だけ写ってても仕方ないか。できるだけ全身が写ってた方がいいのかな?
腕を思いっきり伸ばして一度撮ってみる。
これでいいかな? 遠すぎてよく見えないとか?
とりあえず悩んだ末に座っている全身と顔だけのを撮って二枚送ることにした。
どっちがいいか聞いて、河北さんの選んだ方の構図で撮るようにしよう。
メッセージと一緒に二枚の写真、そして<どっちの写真がいいか教えてください>というメッセージも添えて送ると、すぐに既読がついたもののなかなか返信がない。
どっちも変だったから選べない、とか……? わぁ、ありうる……。
どうしよう……失敗したかな?
しばらく経って、
<ごめんね。可愛すぎて悩んでた。どっちも選べないからこれからも毎日二枚送って! その方が頑張れそう!! おやすみ>
というメッセージと一緒に河北さんの写真が送られてきた。
「わっ! これ、お家の河北さんかな? かっこいいな」
ワイングラスを片手に笑顔の河北さんをみてどきっとする。
大人の男の人って感じだな。ほんと、カッコ良すぎる。
僕は消灯になってからもずっと河北さんの写真を見ながら、眠りについた。
「あっ、河北さん!!」
想像していたよりも早く河北さんが来てくれて、嬉しいのと緊張が混ざったような声が出てしまった。
「んっ? どうかした?」
「えっ?」
「いや、なんかすごく張り切ってる感じがしたから。今日のリハビリ、楽しかった?」
河北さんってすぐになんでも気づいてくれるんだな。すごい。
「はい。今日は河北さんのお菓子のおかげで頑張れました。あのお菓子、すごく有名なんですね。尚孝くんが行列ができるお店だって教えてくれました」
「昨日は時間帯が良かったからあんまり並ばずに買えたんだよ。美味しかった?」
「はい。すっごく美味しかったです。特にあの、無花果と胡桃のビスコッティっていうのが、すごく美味しかったです」
フィナンシェもクッキーも美味しかったけれど、あの固さがすごく珍しくて、尚孝くんが用意してくれた甘いカフェオレにもピッタリで幾つでも食べられるくらい美味しかった。ビスコッティっていう名前も尚孝くんに教えてもらうまで知らなかったけど、僕の好きなものの一つになったかな。
「やっぱり! あれ、田淵くんなら気にいると思ったんだ。だから、あれだけ追加で持ってきたよ」
「えっ??」
河北さんがさっと背中に隠していたあの小さな紙袋を見せてくれる。
驚きつつも受け取って中を見ると、ビスコッティがいくつも入っているのが見える。
「河北さん……いいんですか?」
「もちろん! 俺もビスコッティ好きなんだよ。だから気に入ってくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます」
河北さんもこれ、好きなんだ……。じゃあ、これは河北さんと二人で食べたいかな。
心の中で尚孝くんにごめんねと謝りながら、僕はこのお菓子だけは河北さんと二人で食べることに決めた。
「あの、僕……いつも美味しいお菓子を持ってきてくれる河北さんにお礼がしたくて……」
「お礼なんて気にしなくていいよ」
「河北さん、優しいからそういうと思ってこっそりお礼を考えようとしたんですけど……ごめんなさい、思いつかなくて……それで、尚孝くんと、山野辺先生に相談したんです」
「谷垣くんと、山野辺先生にも? それで先生はなんて?」
「それが……河北さん本人に聞いた方がいいって……。だから僕、河北さんに聞きたくて……」
「そうか……でも、お礼なんて本当に気にしなくていいんだけど……でも、それじゃあ田淵くんが気になるのかな。あ、じゃあ今日みたいに毎日自撮り写真送ってよ」
「えっ? 自撮り、写真ですか?」
思っても見なかった答えに僕は聞き返すことしかできなかった。
「そう。今日の写真可愛かったから」
「――っ、あれは削除してほしいって……」
寝起きで寝巻き姿だったのに……。
「可愛いって言ったろう? 消すわけないよ。でもほんと、起きて挨拶と一緒に写真撮って送ってくれたら嬉しいな。ああ、できたら寝る時も。おやすみって言ってほしい」
「河北さん……そんなので、お礼になりますか?」
「ああ。一日仕事頑張って寝る時にそう言ってもらえたら今日頑張ったなって思えるし、朝もおはようって言ってもらえたら今日も頑張ろうって思えるよ。ね、田淵くん。頼むよ」
河北さんがそこまで言ってくれるなら、僕はその通りにしたい。
だって僕もおはようとかおやすみなさいとかずっと送ってみたかったんだもん。
「はい。じゃあ今日の夜から送りますね。夜も写真もあった方がいいですか?」
「もちろん! 写真付きで頼むよ!!」
ものすごく前のめりに言われてちょっとびっくりしたけど、自撮りするのも楽しいから良かったかな。
夕食を一緒に食べて、河北さんが帰っていくとやっぱり寂しい。でも昼に会った時よりはまだ余韻が残っているから昨日よりはぐっすり眠れるかも。
お風呂がわりにお湯で濡らしたタオルで自分の身体を拭き、寝巻きに着替える。ギプスが濡れないようにガードをつけて、椅子に座ってシャワーを浴びることもできるけれど、すごく疲れるから週に二度くらいでいいかな。基本的に拭くだけでいいと伝えている。一人暮らしの家でもお金がかかるから髪の毛だけ洗って身体は拭くだけだったし、問題はない。ここでは髪の毛は二日に一度、洗髪ルームで洗ってもらえるからすごく楽でいい。
寝巻きに着替えてから、もふもふのワンワンケースに入ったスマホを撮り、まずはメッセージを書く。
<今日も河北さんに会えて嬉しかったです。お仕事大変でしょうけど、明日も頑張ってくださいね。応援してます。おやすみなさい。伊月>
次は自撮りだ。
今朝はとりあえずプレゼントを受け取ったことを伝えなきゃという気持ちでいっぱいで何も考えずに撮っちゃってたけど、撮って送ってと言われるとどうやって撮ろうかと悩んでしまう。
顔だけ? いや、僕の顔だけ写ってても仕方ないか。できるだけ全身が写ってた方がいいのかな?
腕を思いっきり伸ばして一度撮ってみる。
これでいいかな? 遠すぎてよく見えないとか?
とりあえず悩んだ末に座っている全身と顔だけのを撮って二枚送ることにした。
どっちがいいか聞いて、河北さんの選んだ方の構図で撮るようにしよう。
メッセージと一緒に二枚の写真、そして<どっちの写真がいいか教えてください>というメッセージも添えて送ると、すぐに既読がついたもののなかなか返信がない。
どっちも変だったから選べない、とか……? わぁ、ありうる……。
どうしよう……失敗したかな?
しばらく経って、
<ごめんね。可愛すぎて悩んでた。どっちも選べないからこれからも毎日二枚送って! その方が頑張れそう!! おやすみ>
というメッセージと一緒に河北さんの写真が送られてきた。
「わっ! これ、お家の河北さんかな? かっこいいな」
ワイングラスを片手に笑顔の河北さんをみてどきっとする。
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僕は消灯になってからもずっと河北さんの写真を見ながら、眠りについた。
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