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初めての触れ合い
真人は、どこか緊張した面持ちのまま、それでも素直に私の隣へ腰を下ろしてくれた。
肩が触れそうなほどの距離。
それだけで、これまでよりもずっと近くに来られたような気がして、胸の奥が静かに満たされていく。
ふわっと漂ってくる甘く柔らかな香り。
整髪料の類ではない。おそらく真人自身のものだろう。
これ以上見つめていては、さすがに警戒されてしまうかもしれない。
「髪、まだ濡れてますね」
そう言って、首にかけていたタオルをそっと手に取る。
風邪を引くから……そんなもっともらしい理由を口にしたが、本当はただ、こうして無防備に髪に触れさせてくれるのが嬉しかった。
力を込めすぎないように、指先に意識を集中させる。
壊れ物に触れるように、ゆっくりと丁寧に……
こんなふうに誰かの髪に触れたことが、今まであっただろうか。
大我が相手なら、遠慮などいらなかった。
多少乱暴に拭こうが文句ひとつ言わないし、実際それで困ったこともない。
けれど、真人は違う。
華奢な身体も、細い首筋も、どこか触れればそのまま崩れてしまいそうで、無意識のうちに、扱いが慎重になる。
いや、壊れそうだからではない。
壊したくないと思っているからだ。
大我が真宙のことを宝物のように大切に扱っていたときには、過保護すぎると笑ったことがあった。
だが、今ならわかる。
あれは過保護だったのではない。
ただ大切にしたかっただけなのだと。
タオル越しに伝わる髪の柔らかさに、意識が引き寄せられる。
指先が、ほんの少し首筋に触れた。
その瞬間、真人の肩がわずかに揺れる。
驚かせてしまっただろうか。
そう思って手を止めかけたが、真人は何も言わなかった。
その無防備さに、胸の奥がじわりと熱を帯びる。
「すみません」
真人が謝るが、謝ってもらう理由はどこにもない。
むしろ、こんなふうに無防備に晒してくれて嬉しいくらいだ。
――こういうことに慣れていない
真人がそう言ってくれて、さらに嬉しさが募る。
真宙が恋愛に奥手だと教えてくれたが、本当にこれまで恋愛をしてこなかったというのが伝わってくる。
きっと真人は不安になっているだろう。これまでの私の恋愛経験を。
真宙がなんでも口にするようにと忠告してくれたから、ここは絶対に間違えない。
「こうして拭いてあげたことがあるのは、大我だけです。私は女性はもちろん、男性とも今まで一度もお付き合いはありませんから」
正直に告げると、真人は驚きつつも私に質問を投げかける。
最初は躊躇っていたが、私は真人に聞かれて困るような質問はない。
「私と、その……こうして触れ合うことは、どう感じますか?」
耳まで赤くして尋ねてくるその言葉に、真人の誠実さを感じた。
男同士だから、どこまで触れ合っていいのか……
不安になるのも無理はない。
やはり、そこはお互い同じであるべきだろう。
今まで誰にも触れたい、近づきたいと思うことはなかったが、真人となら同じ熱を感じて、一緒に朝を迎えたいとさえ思う。
「ハグをしたり、キスをしたり………もちろん、それ以上のことも……」
どれも真人が許してくれるなら……
私は真人とそういう気持ちで触れ合いたい。
そう告げた途端、真人が一気に顔を赤らめ、私との距離をとる。
やはり踏み込みすぎたか。
性急過ぎた事を詫びたが、どうやら緊張しているだけのようだ。
私も同じ気持ちだと伝えるように、真人の手を持って自分の心臓に触れさせた。
これまでないほどに速い鼓動に、真人はふっと表情を和らげる。
真人の目が私を求めているように見えて、顔を近づける。
もうすぐ触れる……
その時、真宙の声が聞こえた。
風呂に入ってくるという報告だったが、一人ではない。
二人で入る、という言葉に真人は衝撃を受けているようだった。
息子たちが、私たちよりもずっと先を進んでいるのはわかっている。
それでもこれは競争ではない。
私たちは少しずつ進めばいい。
「さっきの続き、いい?」
息子たちがいなくなって、すぐに問いかける。
真人が頷いてくれたことに安堵しながら、そっと唇を重ねた。
甘く柔らかな感触に、初めてキスというものを知った。
肩が触れそうなほどの距離。
それだけで、これまでよりもずっと近くに来られたような気がして、胸の奥が静かに満たされていく。
ふわっと漂ってくる甘く柔らかな香り。
整髪料の類ではない。おそらく真人自身のものだろう。
これ以上見つめていては、さすがに警戒されてしまうかもしれない。
「髪、まだ濡れてますね」
そう言って、首にかけていたタオルをそっと手に取る。
風邪を引くから……そんなもっともらしい理由を口にしたが、本当はただ、こうして無防備に髪に触れさせてくれるのが嬉しかった。
力を込めすぎないように、指先に意識を集中させる。
壊れ物に触れるように、ゆっくりと丁寧に……
こんなふうに誰かの髪に触れたことが、今まであっただろうか。
大我が相手なら、遠慮などいらなかった。
多少乱暴に拭こうが文句ひとつ言わないし、実際それで困ったこともない。
けれど、真人は違う。
華奢な身体も、細い首筋も、どこか触れればそのまま崩れてしまいそうで、無意識のうちに、扱いが慎重になる。
いや、壊れそうだからではない。
壊したくないと思っているからだ。
大我が真宙のことを宝物のように大切に扱っていたときには、過保護すぎると笑ったことがあった。
だが、今ならわかる。
あれは過保護だったのではない。
ただ大切にしたかっただけなのだと。
タオル越しに伝わる髪の柔らかさに、意識が引き寄せられる。
指先が、ほんの少し首筋に触れた。
その瞬間、真人の肩がわずかに揺れる。
驚かせてしまっただろうか。
そう思って手を止めかけたが、真人は何も言わなかった。
その無防備さに、胸の奥がじわりと熱を帯びる。
「すみません」
真人が謝るが、謝ってもらう理由はどこにもない。
むしろ、こんなふうに無防備に晒してくれて嬉しいくらいだ。
――こういうことに慣れていない
真人がそう言ってくれて、さらに嬉しさが募る。
真宙が恋愛に奥手だと教えてくれたが、本当にこれまで恋愛をしてこなかったというのが伝わってくる。
きっと真人は不安になっているだろう。これまでの私の恋愛経験を。
真宙がなんでも口にするようにと忠告してくれたから、ここは絶対に間違えない。
「こうして拭いてあげたことがあるのは、大我だけです。私は女性はもちろん、男性とも今まで一度もお付き合いはありませんから」
正直に告げると、真人は驚きつつも私に質問を投げかける。
最初は躊躇っていたが、私は真人に聞かれて困るような質問はない。
「私と、その……こうして触れ合うことは、どう感じますか?」
耳まで赤くして尋ねてくるその言葉に、真人の誠実さを感じた。
男同士だから、どこまで触れ合っていいのか……
不安になるのも無理はない。
やはり、そこはお互い同じであるべきだろう。
今まで誰にも触れたい、近づきたいと思うことはなかったが、真人となら同じ熱を感じて、一緒に朝を迎えたいとさえ思う。
「ハグをしたり、キスをしたり………もちろん、それ以上のことも……」
どれも真人が許してくれるなら……
私は真人とそういう気持ちで触れ合いたい。
そう告げた途端、真人が一気に顔を赤らめ、私との距離をとる。
やはり踏み込みすぎたか。
性急過ぎた事を詫びたが、どうやら緊張しているだけのようだ。
私も同じ気持ちだと伝えるように、真人の手を持って自分の心臓に触れさせた。
これまでないほどに速い鼓動に、真人はふっと表情を和らげる。
真人の目が私を求めているように見えて、顔を近づける。
もうすぐ触れる……
その時、真宙の声が聞こえた。
風呂に入ってくるという報告だったが、一人ではない。
二人で入る、という言葉に真人は衝撃を受けているようだった。
息子たちが、私たちよりもずっと先を進んでいるのはわかっている。
それでもこれは競争ではない。
私たちは少しずつ進めばいい。
「さっきの続き、いい?」
息子たちがいなくなって、すぐに問いかける。
真人が頷いてくれたことに安堵しながら、そっと唇を重ねた。
甘く柔らかな感触に、初めてキスというものを知った。
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