息子の幸せを見届けたら、大人な恋が始まりました

波木真帆

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家族旅行のはじまり

「明日は結局、現地集合ですか?」

すっかり一慶に迎えにきてもらうのが習慣になってしまった金曜の夜、車中で一慶に尋ねた。

「いえ、大我たちがうちに来ることになっているので、一緒の車で向かう予定ですよ」

「そうですか。なら、運転もみんなで交代できますね」

目的地まではここから高速を使って三時間の距離。
私と二人で交代して運転するより、真宙たちも含めてみんなで交代できるほうが負担も少ないだろう。

そんな話をしていると、ポケットに入れていたスマートフォンが震えるのを感じた。

「すみません」

一慶に断りを入れ、取り出してみる。
画面には真宙の名前。

「真宙でした。多分明日の話ですね」

そう言って、通話ボタンを押した。
スピーカーにしていないけれど、静かな車内では真宙の明るい声が響く。

ーお父さん。今、大丈夫?

ーああ。大丈夫。どうした?

ーお父さんって、今、大我のお父さんの家で過ごしているんだよね?

ーえっ、あ。ああ。そうだけど……

当然のように一緒にいると思われて、少し恥ずかしい。
だが、嘘をつくわけにもいかないのだからどうしようもない。
けれど、真宙はそこのところを気にすることもなく、話を続けた。

ー明日なんだけど、七時ごろそっちの家に行ってもいい?

ー七時? それは、早すぎじゃないか?

確か十二時にあの蕎麦屋の予約をとっていると言っていた。

ー実は、途中で美味しいモーニングやってる店があって、そこで朝食食べてから行きたいなって。焼きたてパンとスープの店なんだけど……

電話口の声からも、行きたいというのが伝わってくる。

ちらりと運転席の一慶に視線を向けると、少し笑みを浮かべながら頷いている。
どうやら真宙の提案に乗ってくれるようだ。

ーわかった。じゃあ、みんなで行こう。

ーやったー! お父さんたちも行ってくれるって!

隣に大我もいるんだろう。
嬉しそうに話しかけている声が聞こえる。

ーじゃあ、明日七時に向かうね。

それだけ言うと、あっという間に電話が切れた。
通話が終わると、車内に一瞬だけ静けさが戻った。

「元気ですね。真宙くん」

一慶が、前を見たまま穏やかに言う。

「そうですね。昔からああいうところは変わらなくて……楽しみにしている行事の前だと特にテンション上がるんですよね」

そう言いながら、スマートフォンをポケットに戻す。

「真人さんとよく似ているんじゃないですか」

「えっ、まぁ。そうですね。実は、今回の遠出……結構楽しみにしてます」

「そうなんですか」

タイミングよく、信号で停止した一慶が少し驚いた表情で私を見る。

「楽しみに、してくれてるんですか?」

「え、ええ。家族旅行って、初めてなので……」

「それだけ、ですか?」

「それだけって……」

そう言いかけて、ふっと頭をよぎった。

明日、温泉旅館に泊まるということを……

「あっ、えっと……温泉も、楽しみですよ」

そう告げると、一慶はふっと頬を緩め、車を走らせた。

 ◇◇◇

目を覚ますと、隣には一慶の姿。
最初こそ驚いたものの、これにもすっかり慣れてしまった。

枕元のスマートフォンを手に取る。
まだ起きるには少し早いけれど、着替えを済ませておこう。

まだ眠っている一慶を起こさないようにそっとベッドから抜け出ようとしたが、

「早いですね」

と声をかけられる。

「すみません、起こしてしまいましたか?」

「いいえ。それは大丈夫ですけど、眠れなかったんですか?」

どうやら少し心配をさせてしまったらしい。

「いえ。真宙たちが予定よりも早く来るかもしれないと思ったら、目が覚めてしまっただけです」

真宙のあのテンションの高さを考えたら、早々と突撃してきても不思議はない。

一慶は少しだけ目を細めた。

「それは、もう予測ではなくて確信ですね」

「ええ。否定できません」

そう返すと、小さく笑われる。

二人でベッドを出て、身支度を整える。

朝食は真宙たちとモーニングを食べることにしているから、コーヒーだけ淹れてもらった。

ミルク入りの少し薄めのコーヒー。
朝にはちょうどいい。

ふとみれば、ソファの隣に旅行用のカバンが二つ並んでいる。
自分が準備をした覚えはない。

「あれ、全部一慶さんが?」

「ええ。出張にはよく行ってたのでパッキングは慣れてるんです。真人さんの着替えも全部詰めてますから大丈夫ですよ」

旅行に行くのに、準備も全て一慶に任せっきりだ。
真宙と二人のときは、自分が率先して動いていたはずなのに。

でも、それが全然嫌じゃない。
むしろ、少しだけ肩の力が抜ける感覚がある。

「すみません。全部任せてしまって」

「気にしないでください。私がやりたくてやってるんですから」

そう笑顔で言われて、ほっとする自分がいた。

コーヒーを飲み干したタイミングで、予定よりも三十分早くインターホンが鳴る。

「やっぱり来ましたね」

「ええ、予測の範囲内です」

私たちは笑顔で顔を見合わせて、二人揃って玄関に向かった。
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