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甘い寄り道
サービスエリアに降り立つと、爽やかな風が頬を撫でた。
「んー、気持ちいい」
建物の前にたくさんの車が並び、人の姿も多い。
休日らしい賑わいがある。
「トイレはあっちみたいですね」
穏やかな声で教えられ、まだ少し眠気が残っている頭でついていく。
すると、先にトイレから出てきた真宙が、私たちの姿を見かけて駆け寄ってきた。
「お父さん! 見て、あの幟!」
その言葉に誘われるように視線を向けた。
「ここ、クレープが有名なんだって」
真宙の言う通り、<⚪︎⚪︎サービスエリア人気ナンバーワン! 限定苺クリームクレープ>と幟に書かれている。
確かに美味しそうで心を揺さぶられるが、ここで食べるとせっかくの蕎麦が入らなくなりそうだ。
「真宙が食べるなら買ってあげるよ」
「お父さんは食べない?」
正直なところを言うと食べたい気持ちはかなりある。
その表情を気づかれたのか、一慶がふっと笑った。
「真人さん。ハーフサイズもあるみたいですよ。それを半分こしましょうか?」
「えっ」
思わぬ提案に、驚きの声が出た。
「いいんですか?」
「ええ。私も少し糖分が欲しいところでしたし」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう返すと、一慶は満足そうに目を細めた。
「じゃあ、先に注文しとくね」
そういって真宙と大我はさっさとクレープ屋の列に並び始めた。
「真人さん。行きましょうか」
一緒にトイレに入ると、小便器と個室が一つずつ空いていた。
「真人さん。個室にどうぞ」
「え、でも……」
遠慮している間にも「いいから、どうぞ」と個室に案内される。
正直、外出の際は個室のほうがほっとする。
昔から、小便器に立っていると周りからの視線を感じることが多かった。
個室から出ると、ちょうど一慶も手を洗い終えたところだった。
「待たせてすみません」
「いいえ」
それだけ返して、自然に隣に並ぶ。
特に何かを聞かれることもない。
けれど、歩幅を合わせるようにゆっくり歩いてくれるのが、なんだかありがたかった。
クレープ屋の前へ戻ると、ちょうど真宙たちが商品を受け取っているところだった。
「はい。お父さんたちの分」
「ああ、ありがとう」
ハーフサイズというだけあって、かなり小さいがしっかりと苺も載っている。
「美味しそう」
「早速一口食べてみますか?」
「え、でも……」
「いいですよ、ほら。どうぞ」
私の手からクレープを取ると、そのまま口元に差し出してくる。
パクリと齧ると、柔らかな生地、滑らかで甘さ控えめのクリーム、そして甘い苺の程よい酸味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……っ」
思わず頬が緩む。
「よかったです」
一慶は満足そうに微笑むと、今度は自分でも一口齧った。
私が齧ったところを……
この上なく嬉しそうな表情をしていることに気づいて、じわりと頬が熱くなる。
「うん。美味しいですね」
そう話す一慶の口元を、つい見てしまう。
「真人さん?」
「えっ、あ、はい」
視線を慌てて外す。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。なんでもないです」
そう言いながらも、さっきのクレープの甘さが、まだ口の中に残っている気がした。
「あ、コーヒー。買いますよ」
さっき約束したものだ。
「先に車に戻ってていいですよ。さっと行って買ってきますから」
「いえ、一緒に行きますよ」
そういうと、一慶は大我に車の鍵を渡した。
「じゃあ、行きましょうか。こっちに美味しいコーヒースタンドが出てるんです」
食べかけのクレープを片手に、建物を出る。
ふわりとコーヒーの香りが漂ってきて、わずかに頬が緩む。
コーヒースタンドの前には、数人が列を作っていた。
「結構並んでますね」
「ええ。おいしくて人気なんですよ」
一慶は特に気にした様子もなく、自然に列の最後に並ぶ。
前を並ぶ人たちはカップルか、夫婦か。
私たちだけ、男二人。
それでも不思議と居心地の悪さは感じられなかった。
列の前方では、コーヒーを受け取った客が嬉しそうにその場で一口飲んでいる。
湯気と香ばしい匂いが、さっきまであった眠気を完全に吹き飛ばしてくれる。
やがて順番が来て、一慶は自然に、自分の分のアイスのブラックコーヒーと、私のアイスカプチーノを注文する。
すっかり私の好みを覚えられているようだ。
「真人さん。これ、持っててください」
食べかけのクレープを渡され、一慶は二人分のコーヒーの支払いを済ませ、さっと両手に持つ。
「行きましょうか」
「あ、私がご馳走するはずだったのに……」
「いいですよ。真人さんの食べかけのクレープを食べられただけでご褒美いただいたようなものですから」
さらりと言われて、一気に顔が熱くなる。
私の食べかけが、ご褒美……
それがまったく冗談に聞こえない。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
「んー、気持ちいい」
建物の前にたくさんの車が並び、人の姿も多い。
休日らしい賑わいがある。
「トイレはあっちみたいですね」
穏やかな声で教えられ、まだ少し眠気が残っている頭でついていく。
すると、先にトイレから出てきた真宙が、私たちの姿を見かけて駆け寄ってきた。
「お父さん! 見て、あの幟!」
その言葉に誘われるように視線を向けた。
「ここ、クレープが有名なんだって」
真宙の言う通り、<⚪︎⚪︎サービスエリア人気ナンバーワン! 限定苺クリームクレープ>と幟に書かれている。
確かに美味しそうで心を揺さぶられるが、ここで食べるとせっかくの蕎麦が入らなくなりそうだ。
「真宙が食べるなら買ってあげるよ」
「お父さんは食べない?」
正直なところを言うと食べたい気持ちはかなりある。
その表情を気づかれたのか、一慶がふっと笑った。
「真人さん。ハーフサイズもあるみたいですよ。それを半分こしましょうか?」
「えっ」
思わぬ提案に、驚きの声が出た。
「いいんですか?」
「ええ。私も少し糖分が欲しいところでしたし」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そう返すと、一慶は満足そうに目を細めた。
「じゃあ、先に注文しとくね」
そういって真宙と大我はさっさとクレープ屋の列に並び始めた。
「真人さん。行きましょうか」
一緒にトイレに入ると、小便器と個室が一つずつ空いていた。
「真人さん。個室にどうぞ」
「え、でも……」
遠慮している間にも「いいから、どうぞ」と個室に案内される。
正直、外出の際は個室のほうがほっとする。
昔から、小便器に立っていると周りからの視線を感じることが多かった。
個室から出ると、ちょうど一慶も手を洗い終えたところだった。
「待たせてすみません」
「いいえ」
それだけ返して、自然に隣に並ぶ。
特に何かを聞かれることもない。
けれど、歩幅を合わせるようにゆっくり歩いてくれるのが、なんだかありがたかった。
クレープ屋の前へ戻ると、ちょうど真宙たちが商品を受け取っているところだった。
「はい。お父さんたちの分」
「ああ、ありがとう」
ハーフサイズというだけあって、かなり小さいがしっかりと苺も載っている。
「美味しそう」
「早速一口食べてみますか?」
「え、でも……」
「いいですよ、ほら。どうぞ」
私の手からクレープを取ると、そのまま口元に差し出してくる。
パクリと齧ると、柔らかな生地、滑らかで甘さ控えめのクリーム、そして甘い苺の程よい酸味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……っ」
思わず頬が緩む。
「よかったです」
一慶は満足そうに微笑むと、今度は自分でも一口齧った。
私が齧ったところを……
この上なく嬉しそうな表情をしていることに気づいて、じわりと頬が熱くなる。
「うん。美味しいですね」
そう話す一慶の口元を、つい見てしまう。
「真人さん?」
「えっ、あ、はい」
視線を慌てて外す。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。なんでもないです」
そう言いながらも、さっきのクレープの甘さが、まだ口の中に残っている気がした。
「あ、コーヒー。買いますよ」
さっき約束したものだ。
「先に車に戻ってていいですよ。さっと行って買ってきますから」
「いえ、一緒に行きますよ」
そういうと、一慶は大我に車の鍵を渡した。
「じゃあ、行きましょうか。こっちに美味しいコーヒースタンドが出てるんです」
食べかけのクレープを片手に、建物を出る。
ふわりとコーヒーの香りが漂ってきて、わずかに頬が緩む。
コーヒースタンドの前には、数人が列を作っていた。
「結構並んでますね」
「ええ。おいしくて人気なんですよ」
一慶は特に気にした様子もなく、自然に列の最後に並ぶ。
前を並ぶ人たちはカップルか、夫婦か。
私たちだけ、男二人。
それでも不思議と居心地の悪さは感じられなかった。
列の前方では、コーヒーを受け取った客が嬉しそうにその場で一口飲んでいる。
湯気と香ばしい匂いが、さっきまであった眠気を完全に吹き飛ばしてくれる。
やがて順番が来て、一慶は自然に、自分の分のアイスのブラックコーヒーと、私のアイスカプチーノを注文する。
すっかり私の好みを覚えられているようだ。
「真人さん。これ、持っててください」
食べかけのクレープを渡され、一慶は二人分のコーヒーの支払いを済ませ、さっと両手に持つ。
「行きましょうか」
「あ、私がご馳走するはずだったのに……」
「いいですよ。真人さんの食べかけのクレープを食べられただけでご褒美いただいたようなものですから」
さらりと言われて、一気に顔が熱くなる。
私の食べかけが、ご褒美……
それがまったく冗談に聞こえない。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
感想 198
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