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元カノとの遭遇
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ただの思いつきで前の作品を引っ張り出して番外編を書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side松井>
「松井くんっ! 松井くんでしょう?」
営業先からの帰り道、すれ違った女性から突然声をかけられて、驚いて顔を上げるとそこにはなんとなく記憶にある女性が立っていた。
「えっと……」
「ええーっ、忘れたの? 私、梓よ。飯山梓」
「飯山って……ああっ」
「ふふっ。思い出してくれて嬉しい」
彼女は大学のとき、他大学とのサークル親睦会で桐生に一目惚れして、毎日のように大学に押しかけてきて猛アタックの末に、桐生が根負けしてOKした相手だ。
でも、ちょうど卒論やら就活とかで桐生が忙しい時期で、結局ほとんど会えないまま数ヶ月で彼女の方から別れを切り出してきたって聞いていた。
メッセージやら電話もかなり頻繁にきていて、疲れ切っていた桐生はこの彼女と別れてからは、大学を卒業するまで誰とも付き合ってなかったし、就職してからはずっと楓さんに片想いで付き合ったことはなかったって言ってたから、実質、この彼女が桐生にとって最後の彼女ってことになるんだよな。
同じ年だから、もう30過ぎか……。
楓さんに会わせて貰う前なら、彼女もかなりイケてる部類に入るだろう。
メイクのおかげかもしれないが、30を過ぎている様には全然見えない。
だけど、楓さんのあのすっぴんでの透明感。
シミもシワも全くないどころか、毛穴すら見えないあの艶めくような完璧な肌を目の当たりにした後だと、彼女はやはりくすんでみえる。
だが、それは仕方がない。
桐生の言葉を借りていうなら、楓さんは天使なのだから。
比べる方がかわいそうだ。
「あっ、松井くん。指輪してる。結婚したんだね」
「あ、ああ。そうなんだ」
「あの時の仲良かったメンバーはみんな結婚したの?」
「ついこの前青木が結婚して、最後は桐生だなって話をしてたんだけ――」
「ええーっ、桐生くん! まだ独身なの?」
「えっ、いや、だから……」
「そっかぁー、私と別れてから桐生くんの浮いた話を聞かなかったから心配してたのよね」
「えっ? 心配って?」
「ふふっ。隠さなくてもいいって。桐生くん、私に振られたこと引きずってるんでしょ?」
「いや、そうじゃなく――」
「桐生くん、別れを告げた時すっごく寂しそうな顔してたもんねぇー。ああ、私ってば罪な女。桐生くんにかわいそうなことしちゃったわ」
いや、だから話聞けよ!
こいつ、全然話聞こうとしねーな。
「でもちょうどよかったわ!」
「はっ? ちょうどいいって何が?」
「だからーっ、私、ちょうど今フリーなの。そこまで思い続けてくれるんだから、思いに応えてあげないとかわいそうでしょ? 桐生くんの会社って就職したあの会社だよね? じゃあ、今から会いに行ってみるわ! ふふっ、松井くん。いい情報教えてくれてありがとう。じゃあねぇー」
「あっ、ちょ――っ、待てって! おいっ!」
俺の叫び声も虚しく、彼女は足早に去っていった。
はぁーっ、だからなんで話聞かないんだよ!
もう面倒なことに巻き込まれたな……。
とりあえず桐生に連絡しとくか。
もう定時だから電話でもよかったが、とりあえず
<緊急事態・楓さんが危険。すぐに連絡くれ。それまでは会社を出るな>とメッセージを送った。
楓さんの名前を入れておいたおかげか、すぐに既読がついたかと思ったら、桐生から電話が来た。
ーなんだ? 楓が危険ってどういうことだ?
焦った様子の桐生に俺はついさっきの出来事を包み隠さず全て話した。
ーで、彼女が今お前の会社に向かってんだよ。楓さんも同じ会社だろ? なんか巻き込まれたらやばいと思って連絡したんだ。
ーわかった。連絡サンキューな。あとは任せておいてくれ。
そう自信満々な様子で電話が切れた。
翌日、気になった俺は桐生に連絡を入れた。
ーそれで、どうだった? 大丈夫だったのか?
ーああ、楓と一緒にオフィスを出てロビーに降りた途端、桐生くんっ! って大声で呼び止められてさ……。
そう言って桐生が話したのは驚きの内容だった。
<side桐生>
飯島梓か……。
全く面倒だな。
「桐生? どうした? なんか困ったことでも?」
ここは本当ならなんでもないと隠すべきなんだろう。
でも楓には隠し事はしないって決めてるんだ。
「実は楓に聞いてもらいたいことがあって……」
そう言って、俺は休憩室に楓を連れて行った。
「どうしたんだ? そんなに困ったことが?」
「実はさ、松井が営業先の帰り道に俺の元カノにあったらしくて……」
「えっ? 元カノ?」
「あっ、勘違いしないで。その子とは本当に何の関係もなかったんだ。他大学とのサークルの親睦会で初めて出会ったんだけど、そこからストーカーまがいのことされて付き合うって言わなかったら、何かやらかしそうな子でさ。青木たちにも迷惑かけちゃってたから仕方なくオッケーしたんだよ。でもそこからすぐに俺も卒論やら就活やらが忙しくて、ほとんど会えない状態だったんだけど、彼女にしてみれば俺を落としたことが目的だったっていうか、彼氏にできただけで満足だったみたいで……俺を彼氏にしたってことがステイタスだったみたいなんだよ」
「そんな……っ、ひどい」
「よくあることなんだ。みんな俺の中身より顔だけで選ぶから、恋人になれたってことだけで満足されちゃって……付き合ってデートしても、なんかイメージと違うとか言われたりして……」
まぁ、感情が入っていないからそう思われても仕方ないんだけど。
確実に楓とのデートとは気持ちからして違う。
「でも、松井と話して、俺がまだフリーだと勘違いしたみたいで、よりを戻してあげるって言ってうちの会社に向かってるらしくて……俺、楓に誤解されたくないんだ。本当に楓以外とよりを戻す気なんてさらさらないし楓を手放したくないんだ。信じて欲しい」
「ふふっ。バカだな」
「えっ……」
「俺が誤解するわけないだろ。俺は桐生のこと、ちゃんと信じてるから……」
「楓……」
「行こう! ロビーにその彼女がいたら俺がガツンと言ってやるよ! 俺が桐生の恋人だって」
「――っ!!! 俺の楓が、かっこいいっ!!」
「ふふっ。ご褒美は今日の夜、たくさん愛してくれたらいいから」
そう言って楓の顔が近づいてきて、俺の唇にちゅっと触れた。
ああ、楓が会社で俺にキスしてくれるなんて……っ!!!
なんて最高なんだ!!
「――っ!!! ああ、早く帰ろう!!」
俺は楓の手を取って、急いでロビーに降りた。
「桐生くんっ!!」
強い香水をぷんぷんと振り撒きながら、駆け寄ってくる女性の顔に朧げながら覚えがある。
毎日可愛い楓を見ているから、比べるのも申し訳ないが劣化がすごい。
「どちら様ですか?」
「いやぁねー、他人行儀なんだから。あなたの恋人の、梓よ」
大声でそう叫んだ瞬間、ロビー中がしんと静寂に包まれた。
それはそうだろう。
俺はもう楓との交際を会社に宣言しているし、もうすぐ結婚式もあげる予定でパートナーシップも申請中だ。
営業成績トップの俺と、営業事務のエースの楓の仲はもうみんなに認められているということだ。
隣には楓もいるのに、この女性は何を言っているんだ? という空気が流れている。
「申し訳ありませんが、私の恋人、というか一生のパートナーは隣にいる彼だけです。あなたとは今までもこれからも赤の他人です。失礼します」
そう言って彼女の前を立ち去ろうとした。
俺の頭の中はもう楓とのご褒美エッチしかない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「まだ何か?」
「彼がパートナーってどういうこと? 桐生くん、あなた……ホモなの?」
「そういう言い方は差別的だと思いますが、私はゲイでもノーマルでもない。ただ一人の人間として彼を心から愛してるんです。だから、彼と一生添い遂げる、それだけです」
「嘘でしょ?! なんであなたが男となんて!! あなたみたいな人には私こそ相応しいのに! 私がこんな男に負けたっていうの? ふざけないでよ!! あなたにはがっかりだわ! もっとかっこいい人だと思ってたのに。私の元カレが男と結婚なんて、最悪の黒歴史よ!!」
「お前、ふざけ――」
「言いたいことはそれだけですか?」
あまりの言われようにムカついて反論しようと思ったら、今まで聞いたこともないような楓の怒りの声が聞こえた。
「何よ!! 本当のことを言ってるだけでしょう?」
「あなたは結局桐生をうわべだけでしか見ていないからそんな発言が出るんでしょう? 桐生だって人間なんです。寝起きは悪いし、いつだって甘えてくるし、少し離れただけでバンバンメッセージを送ってくるような過保護なところもあるし、俺のことが好きすぎて時々バカになっちゃうこともあるけど、それも全部ひっくるめて桐生だし、それが可愛いんです。良かったです、あなたが桐生のいいところを何も知らなくて。桐生は全部俺のものですから、手を出さないでくださいね! 行こう、桐生!」
そう言って、楓は俺の手を取って、スタスタとロビーを抜けていった。
<side松井>
ー後で聞いたんだけど、目の前で堂々と楓から惚気を聞かされた彼女は、そのまましばらくの間抜け殻のように呆然と立っていたらしいよ。
ーひぇー、楓さん。いう時はいうんだな。
ーああ、俺もびっくりしたよ。
ーでも嬉しかったんだろ?
ーああ、それはもちろん。あんなに俺の全てをいいと言ってくれる人は今までいなかったからな。
ーそうだな、大切にしろよ。
ーわかってるって。昨日だって、たっぷりと朝まで……
ーああ、もういいよ! 友達の情事なんて聞きたくない。っていうか、朝までって楓さん。今日は仕事大丈夫だったのか?
ーいや、あの後上司から連絡が来て、大変だっただろうから今日は二人とも休みでいいって言われてさ。内勤だけだったから助かったよ。
ーお前らの会社って……お前らどれだけ優遇されてるんだ?
ーまぁ、俺たちがいないと会社が回らないってことかな。なんて行ったってトップとエースだからな。
ーはいはい。まぁ、でも良かったよ。
ーああ、松井が先に知らせてくれたからだな。今度お礼に飯奢るよ。
ーその時は楓さんも連れてきてくれ。
ーまぁ、お前ならいいか。わかったよ。楓に伝えとく。
きっと隣に楓さんがいるんだろう。
幸せそうな友人との電話を切り、無事に終わって良かったとホッと胸を撫で下ろした。
それにしても楓さん……敵に回したら怖そうだな。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side松井>
「松井くんっ! 松井くんでしょう?」
営業先からの帰り道、すれ違った女性から突然声をかけられて、驚いて顔を上げるとそこにはなんとなく記憶にある女性が立っていた。
「えっと……」
「ええーっ、忘れたの? 私、梓よ。飯山梓」
「飯山って……ああっ」
「ふふっ。思い出してくれて嬉しい」
彼女は大学のとき、他大学とのサークル親睦会で桐生に一目惚れして、毎日のように大学に押しかけてきて猛アタックの末に、桐生が根負けしてOKした相手だ。
でも、ちょうど卒論やら就活とかで桐生が忙しい時期で、結局ほとんど会えないまま数ヶ月で彼女の方から別れを切り出してきたって聞いていた。
メッセージやら電話もかなり頻繁にきていて、疲れ切っていた桐生はこの彼女と別れてからは、大学を卒業するまで誰とも付き合ってなかったし、就職してからはずっと楓さんに片想いで付き合ったことはなかったって言ってたから、実質、この彼女が桐生にとって最後の彼女ってことになるんだよな。
同じ年だから、もう30過ぎか……。
楓さんに会わせて貰う前なら、彼女もかなりイケてる部類に入るだろう。
メイクのおかげかもしれないが、30を過ぎている様には全然見えない。
だけど、楓さんのあのすっぴんでの透明感。
シミもシワも全くないどころか、毛穴すら見えないあの艶めくような完璧な肌を目の当たりにした後だと、彼女はやはりくすんでみえる。
だが、それは仕方がない。
桐生の言葉を借りていうなら、楓さんは天使なのだから。
比べる方がかわいそうだ。
「あっ、松井くん。指輪してる。結婚したんだね」
「あ、ああ。そうなんだ」
「あの時の仲良かったメンバーはみんな結婚したの?」
「ついこの前青木が結婚して、最後は桐生だなって話をしてたんだけ――」
「ええーっ、桐生くん! まだ独身なの?」
「えっ、いや、だから……」
「そっかぁー、私と別れてから桐生くんの浮いた話を聞かなかったから心配してたのよね」
「えっ? 心配って?」
「ふふっ。隠さなくてもいいって。桐生くん、私に振られたこと引きずってるんでしょ?」
「いや、そうじゃなく――」
「桐生くん、別れを告げた時すっごく寂しそうな顔してたもんねぇー。ああ、私ってば罪な女。桐生くんにかわいそうなことしちゃったわ」
いや、だから話聞けよ!
こいつ、全然話聞こうとしねーな。
「でもちょうどよかったわ!」
「はっ? ちょうどいいって何が?」
「だからーっ、私、ちょうど今フリーなの。そこまで思い続けてくれるんだから、思いに応えてあげないとかわいそうでしょ? 桐生くんの会社って就職したあの会社だよね? じゃあ、今から会いに行ってみるわ! ふふっ、松井くん。いい情報教えてくれてありがとう。じゃあねぇー」
「あっ、ちょ――っ、待てって! おいっ!」
俺の叫び声も虚しく、彼女は足早に去っていった。
はぁーっ、だからなんで話聞かないんだよ!
もう面倒なことに巻き込まれたな……。
とりあえず桐生に連絡しとくか。
もう定時だから電話でもよかったが、とりあえず
<緊急事態・楓さんが危険。すぐに連絡くれ。それまでは会社を出るな>とメッセージを送った。
楓さんの名前を入れておいたおかげか、すぐに既読がついたかと思ったら、桐生から電話が来た。
ーなんだ? 楓が危険ってどういうことだ?
焦った様子の桐生に俺はついさっきの出来事を包み隠さず全て話した。
ーで、彼女が今お前の会社に向かってんだよ。楓さんも同じ会社だろ? なんか巻き込まれたらやばいと思って連絡したんだ。
ーわかった。連絡サンキューな。あとは任せておいてくれ。
そう自信満々な様子で電話が切れた。
翌日、気になった俺は桐生に連絡を入れた。
ーそれで、どうだった? 大丈夫だったのか?
ーああ、楓と一緒にオフィスを出てロビーに降りた途端、桐生くんっ! って大声で呼び止められてさ……。
そう言って桐生が話したのは驚きの内容だった。
<side桐生>
飯島梓か……。
全く面倒だな。
「桐生? どうした? なんか困ったことでも?」
ここは本当ならなんでもないと隠すべきなんだろう。
でも楓には隠し事はしないって決めてるんだ。
「実は楓に聞いてもらいたいことがあって……」
そう言って、俺は休憩室に楓を連れて行った。
「どうしたんだ? そんなに困ったことが?」
「実はさ、松井が営業先の帰り道に俺の元カノにあったらしくて……」
「えっ? 元カノ?」
「あっ、勘違いしないで。その子とは本当に何の関係もなかったんだ。他大学とのサークルの親睦会で初めて出会ったんだけど、そこからストーカーまがいのことされて付き合うって言わなかったら、何かやらかしそうな子でさ。青木たちにも迷惑かけちゃってたから仕方なくオッケーしたんだよ。でもそこからすぐに俺も卒論やら就活やらが忙しくて、ほとんど会えない状態だったんだけど、彼女にしてみれば俺を落としたことが目的だったっていうか、彼氏にできただけで満足だったみたいで……俺を彼氏にしたってことがステイタスだったみたいなんだよ」
「そんな……っ、ひどい」
「よくあることなんだ。みんな俺の中身より顔だけで選ぶから、恋人になれたってことだけで満足されちゃって……付き合ってデートしても、なんかイメージと違うとか言われたりして……」
まぁ、感情が入っていないからそう思われても仕方ないんだけど。
確実に楓とのデートとは気持ちからして違う。
「でも、松井と話して、俺がまだフリーだと勘違いしたみたいで、よりを戻してあげるって言ってうちの会社に向かってるらしくて……俺、楓に誤解されたくないんだ。本当に楓以外とよりを戻す気なんてさらさらないし楓を手放したくないんだ。信じて欲しい」
「ふふっ。バカだな」
「えっ……」
「俺が誤解するわけないだろ。俺は桐生のこと、ちゃんと信じてるから……」
「楓……」
「行こう! ロビーにその彼女がいたら俺がガツンと言ってやるよ! 俺が桐生の恋人だって」
「――っ!!! 俺の楓が、かっこいいっ!!」
「ふふっ。ご褒美は今日の夜、たくさん愛してくれたらいいから」
そう言って楓の顔が近づいてきて、俺の唇にちゅっと触れた。
ああ、楓が会社で俺にキスしてくれるなんて……っ!!!
なんて最高なんだ!!
「――っ!!! ああ、早く帰ろう!!」
俺は楓の手を取って、急いでロビーに降りた。
「桐生くんっ!!」
強い香水をぷんぷんと振り撒きながら、駆け寄ってくる女性の顔に朧げながら覚えがある。
毎日可愛い楓を見ているから、比べるのも申し訳ないが劣化がすごい。
「どちら様ですか?」
「いやぁねー、他人行儀なんだから。あなたの恋人の、梓よ」
大声でそう叫んだ瞬間、ロビー中がしんと静寂に包まれた。
それはそうだろう。
俺はもう楓との交際を会社に宣言しているし、もうすぐ結婚式もあげる予定でパートナーシップも申請中だ。
営業成績トップの俺と、営業事務のエースの楓の仲はもうみんなに認められているということだ。
隣には楓もいるのに、この女性は何を言っているんだ? という空気が流れている。
「申し訳ありませんが、私の恋人、というか一生のパートナーは隣にいる彼だけです。あなたとは今までもこれからも赤の他人です。失礼します」
そう言って彼女の前を立ち去ろうとした。
俺の頭の中はもう楓とのご褒美エッチしかない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
「まだ何か?」
「彼がパートナーってどういうこと? 桐生くん、あなた……ホモなの?」
「そういう言い方は差別的だと思いますが、私はゲイでもノーマルでもない。ただ一人の人間として彼を心から愛してるんです。だから、彼と一生添い遂げる、それだけです」
「嘘でしょ?! なんであなたが男となんて!! あなたみたいな人には私こそ相応しいのに! 私がこんな男に負けたっていうの? ふざけないでよ!! あなたにはがっかりだわ! もっとかっこいい人だと思ってたのに。私の元カレが男と結婚なんて、最悪の黒歴史よ!!」
「お前、ふざけ――」
「言いたいことはそれだけですか?」
あまりの言われようにムカついて反論しようと思ったら、今まで聞いたこともないような楓の怒りの声が聞こえた。
「何よ!! 本当のことを言ってるだけでしょう?」
「あなたは結局桐生をうわべだけでしか見ていないからそんな発言が出るんでしょう? 桐生だって人間なんです。寝起きは悪いし、いつだって甘えてくるし、少し離れただけでバンバンメッセージを送ってくるような過保護なところもあるし、俺のことが好きすぎて時々バカになっちゃうこともあるけど、それも全部ひっくるめて桐生だし、それが可愛いんです。良かったです、あなたが桐生のいいところを何も知らなくて。桐生は全部俺のものですから、手を出さないでくださいね! 行こう、桐生!」
そう言って、楓は俺の手を取って、スタスタとロビーを抜けていった。
<side松井>
ー後で聞いたんだけど、目の前で堂々と楓から惚気を聞かされた彼女は、そのまましばらくの間抜け殻のように呆然と立っていたらしいよ。
ーひぇー、楓さん。いう時はいうんだな。
ーああ、俺もびっくりしたよ。
ーでも嬉しかったんだろ?
ーああ、それはもちろん。あんなに俺の全てをいいと言ってくれる人は今までいなかったからな。
ーそうだな、大切にしろよ。
ーわかってるって。昨日だって、たっぷりと朝まで……
ーああ、もういいよ! 友達の情事なんて聞きたくない。っていうか、朝までって楓さん。今日は仕事大丈夫だったのか?
ーいや、あの後上司から連絡が来て、大変だっただろうから今日は二人とも休みでいいって言われてさ。内勤だけだったから助かったよ。
ーお前らの会社って……お前らどれだけ優遇されてるんだ?
ーまぁ、俺たちがいないと会社が回らないってことかな。なんて行ったってトップとエースだからな。
ーはいはい。まぁ、でも良かったよ。
ーああ、松井が先に知らせてくれたからだな。今度お礼に飯奢るよ。
ーその時は楓さんも連れてきてくれ。
ーまぁ、お前ならいいか。わかったよ。楓に伝えとく。
きっと隣に楓さんがいるんだろう。
幸せそうな友人との電話を切り、無事に終わって良かったとホッと胸を撫で下ろした。
それにしても楓さん……敵に回したら怖そうだな。
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いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭相変わらず匂いには手厳しい(笑)
でも変なのは大体クサいんですwwwそして自分は気づいていないのが痛いですよね。
楓は桐生のどんな姿でも愛してますから、ドン引きされても気にならないんですよねえ。
それくらい愛されまくってますし。
でもそれが二人の幸せなんでいいのかな。
おおっ、ちょうどいいタイミングでしたか?
なんとなく昔のを引っ張り出したい衝動に駆られてます(笑)
また次珍しいのがくるかもですねwww
HRKさま。コメントありがとうございます!
おおっ!!あちらも見てくださっていたとは!!!嬉しいです♡
もしかしたら一人くらいは本家?を見てくださってる人もいたりしないかなぁなんて思ってたんですがまさか本当におられるとは♡すっごく嬉しいです!!!
そうなんですよ、わかってて読むと本当にあのビジュアルの二人が出てきてしまうんですが(笑)
あちらで出してたものより少しストーリーも増やしたので楽しんでいただけて光栄です♡
またぜひ読みにきてください(๑>◡<๑)
アサクラさま。コメントありがとうございます!
やっとですよ、ようやくお披露目したと思ったらもう『俺の楓』を強調しまくりです(笑)
可愛い楓にドキドキしつつも後ろに怖い保護者がいるんで邪な気持ちだけは禁物ですね。
そうなんです、桐生は今までの旦那たちとはかなり系統が変わりますね。
同級生というのもあまりないのでお互いにタメ口なのも新鮮んでしたね。
これからですね、貴公子としての伸び代は。
いつも読んでいただき、そしてコメントをいただきありがとうございます!
嬉しいコメントが創作の励みになっていますよ。
本当にありがとうございます♡