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微笑ましい光景
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フランス語を話せない者がいないと思っているエミールがいつものように滑らかに注文の声をかけると、リオ、ソラ、ケイトはポカーンと口を開けている。
ジュールは普段はユヅルにわかるようにゆっくりと話してくれているからな、フランスに来てから流暢なフランス語を聴いたといえば、昨夜のPère Noëlくらいか。
あれはユヅルたちに気づかれないようにわざと早く話したものだしな。
耳馴染みのない3人にはもはや単語の一つも聞き取れていないかもしれない。
だが、ユヅルはここ数ヶ月の勉強の成果がちゃんと身についているようだ。
ミシェルがみんなにエミールの言っていたことを教える前にちゃんと内容をわかっていたようだ。
嬉しそうにこっそりと笑っているのが可愛い。
ここには他にも美味しい飲み物はあるが、やはりというか当然というか、みんなユヅルと一緒にショコラショーに決めたようだ。
甘いものが好きなミシェルはともかく、リュカまでもショコラショーを頼むとは思わなかったが、
『職務中は周りに合わせてブラックコーヒーを飲んだりしているが、プライベートでは甘いものをよく飲んでるんだよ。彼らと一緒にいるときは自然体のリュカが見られて楽しいよ』
とジョルジュは笑いながら教えてくれた。
そうか。
リュカにもユヅルや彼らとの出会いは良い刺激になったのかもしれないな。
代表でユヅルが注文をするらしい。
「えっと…っ『sept chocolat chaud s'il ブプレ』
可愛らしいユヅルの発音にエミールは相合を崩したものの、今までの者たちと違ってすぐに反応できたようで、ユヅルは喜んでいた。
あのジュールでさえ、初対面の時はユヅルの可愛らしい発音にやられていたが、あの時よりはかなり上達もしていたからエミールは踏みとどまれたのかもしれない。
最初の頃のあのユヅルの発音は思い出すだけで今でも笑みが溢れてしまうのだからな。
上手に注文できたユヅルを、リオたちが尊敬の眼差しで見つめながら褒め称えている。
ふふっ。
こうやってどんどん上達するのだろうな。
しばらくしてエミールが運んできたショコラショーを次々とユヅルたちの前に並べていく。
ひと目見ただけで、ケイトたちの口から感嘆の声が漏れる。
こんなにも喜んでもらえるとエミールも嬉しいだろう。
ああ、リオは初めて見る飲み物に感動しているようだ。
『リオは嬉しそうだな』
『ええ。こうしてここでショコラショーを頂かなければ、きっと知らないままだったと思います。弓弦くんたちと一緒に体験できてよかったと思いますよ』
ミヅキは決してリオから視線を外すことなくそう答えた。
こんなふうに自分の伴侶にしか目もくれないところが好ましい。
きっとミヅキも私に同じことを思っているのだろうな。
『ロレーヌさん、あれってもしかして?』
『ふふっ。マサオミはさすがだな。あのケーキを知っていたか?』
『はい。毎年お正月に秀吾の家族と食べていたので見覚えがありました』
『そうか、さすがだな。』
『んっ? あのケーキ、何か意味があるのか?』
『アヤシロは知らないのか。あれはGalette des roisというケーキなんだ。本当は正月に家族が揃って食べるものなんだが、みんなは正月前に帰ってしまうだろう? だから、今日特別にエミールに頼んで作ってもらったんだよ。あれの中にfève という小さな陶器の人形が入っていて、それに当たったものに1年間幸福が訪れると言われているんだ。こういうのは大人数でやらないと楽しくないからな』
『へぇ、そんなケーキがあるのか。知らなかったな』
『今回は特別だから、fève 以外にも入れてあるから、みんな喜んでくれるはずだぞ』
あの人形が誰に当たるかはわからないが、きっとユヅルなら選んでくれそうな……そんな気がする。
あのケーキを誰から選ぶかという話になり、年齢順でケーキを選び始めたが、なんと一番最初に選んだのはユヅル。
『ミ、ミヅキっ! リオの方がユヅルより年上なのか?』
『えっ? ああ、年齢は同じなんですが誕生日がリオの方が少し早いんですよ。と言ってもリオの誕生日は施設に預けられた日にしているようなので、本当はもっと前かもしれませんが……』
『あっ、そうなのか……じゃあ、リオは本当の誕生日を?』
『ええ。知らないんです。しかも、自分が誕生日だと思っている日も危うく嫌な思い出になりそうになったんですが、その日に私と出会ったので、リオの中では誕生日=私と出会った日だと思ってくれているようですよ』
『そうか、誕生日に……ならば、私と同じだな』
『えっ?』
『私もユヅルに初めて会ったのはユヅルの誕生日だったんだ』
『そんな偶然が……。いや、こうなると必然だったのかもしれないですね。結婚できる年にお互いに最愛に出会えたことは』
『ああ、そうだな。私もそう思うよ』
ミヅキとの思いがけない縁に運命的なものを感じながら、私たちは楽しそうにケーキを選ぶユヅルたちの姿に魅入っていた。
ジュールは普段はユヅルにわかるようにゆっくりと話してくれているからな、フランスに来てから流暢なフランス語を聴いたといえば、昨夜のPère Noëlくらいか。
あれはユヅルたちに気づかれないようにわざと早く話したものだしな。
耳馴染みのない3人にはもはや単語の一つも聞き取れていないかもしれない。
だが、ユヅルはここ数ヶ月の勉強の成果がちゃんと身についているようだ。
ミシェルがみんなにエミールの言っていたことを教える前にちゃんと内容をわかっていたようだ。
嬉しそうにこっそりと笑っているのが可愛い。
ここには他にも美味しい飲み物はあるが、やはりというか当然というか、みんなユヅルと一緒にショコラショーに決めたようだ。
甘いものが好きなミシェルはともかく、リュカまでもショコラショーを頼むとは思わなかったが、
『職務中は周りに合わせてブラックコーヒーを飲んだりしているが、プライベートでは甘いものをよく飲んでるんだよ。彼らと一緒にいるときは自然体のリュカが見られて楽しいよ』
とジョルジュは笑いながら教えてくれた。
そうか。
リュカにもユヅルや彼らとの出会いは良い刺激になったのかもしれないな。
代表でユヅルが注文をするらしい。
「えっと…っ『sept chocolat chaud s'il ブプレ』
可愛らしいユヅルの発音にエミールは相合を崩したものの、今までの者たちと違ってすぐに反応できたようで、ユヅルは喜んでいた。
あのジュールでさえ、初対面の時はユヅルの可愛らしい発音にやられていたが、あの時よりはかなり上達もしていたからエミールは踏みとどまれたのかもしれない。
最初の頃のあのユヅルの発音は思い出すだけで今でも笑みが溢れてしまうのだからな。
上手に注文できたユヅルを、リオたちが尊敬の眼差しで見つめながら褒め称えている。
ふふっ。
こうやってどんどん上達するのだろうな。
しばらくしてエミールが運んできたショコラショーを次々とユヅルたちの前に並べていく。
ひと目見ただけで、ケイトたちの口から感嘆の声が漏れる。
こんなにも喜んでもらえるとエミールも嬉しいだろう。
ああ、リオは初めて見る飲み物に感動しているようだ。
『リオは嬉しそうだな』
『ええ。こうしてここでショコラショーを頂かなければ、きっと知らないままだったと思います。弓弦くんたちと一緒に体験できてよかったと思いますよ』
ミヅキは決してリオから視線を外すことなくそう答えた。
こんなふうに自分の伴侶にしか目もくれないところが好ましい。
きっとミヅキも私に同じことを思っているのだろうな。
『ロレーヌさん、あれってもしかして?』
『ふふっ。マサオミはさすがだな。あのケーキを知っていたか?』
『はい。毎年お正月に秀吾の家族と食べていたので見覚えがありました』
『そうか、さすがだな。』
『んっ? あのケーキ、何か意味があるのか?』
『アヤシロは知らないのか。あれはGalette des roisというケーキなんだ。本当は正月に家族が揃って食べるものなんだが、みんなは正月前に帰ってしまうだろう? だから、今日特別にエミールに頼んで作ってもらったんだよ。あれの中にfève という小さな陶器の人形が入っていて、それに当たったものに1年間幸福が訪れると言われているんだ。こういうのは大人数でやらないと楽しくないからな』
『へぇ、そんなケーキがあるのか。知らなかったな』
『今回は特別だから、fève 以外にも入れてあるから、みんな喜んでくれるはずだぞ』
あの人形が誰に当たるかはわからないが、きっとユヅルなら選んでくれそうな……そんな気がする。
あのケーキを誰から選ぶかという話になり、年齢順でケーキを選び始めたが、なんと一番最初に選んだのはユヅル。
『ミ、ミヅキっ! リオの方がユヅルより年上なのか?』
『えっ? ああ、年齢は同じなんですが誕生日がリオの方が少し早いんですよ。と言ってもリオの誕生日は施設に預けられた日にしているようなので、本当はもっと前かもしれませんが……』
『あっ、そうなのか……じゃあ、リオは本当の誕生日を?』
『ええ。知らないんです。しかも、自分が誕生日だと思っている日も危うく嫌な思い出になりそうになったんですが、その日に私と出会ったので、リオの中では誕生日=私と出会った日だと思ってくれているようですよ』
『そうか、誕生日に……ならば、私と同じだな』
『えっ?』
『私もユヅルに初めて会ったのはユヅルの誕生日だったんだ』
『そんな偶然が……。いや、こうなると必然だったのかもしれないですね。結婚できる年にお互いに最愛に出会えたことは』
『ああ、そうだな。私もそう思うよ』
ミヅキとの思いがけない縁に運命的なものを感じながら、私たちは楽しそうにケーキを選ぶユヅルたちの姿に魅入っていた。
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