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突撃!まさに修羅場※
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ポカポカと温かいものに包まれながら目を覚ますと、自分が誰かに抱きしめられているような感覚があった。
誰だっけ、これ?
寝ぼけ眼で目の前の厚い胸板にペタペタと触れると頭上から
「朝からいたずらっ子だな」
と蕩けるような甘い声が聞こえた。
驚いて顔を上げると、目の前にお義兄さんの笑顔が現れた。あまりにも近くて驚いて思わず顔を下げると、楽しげに笑っている。
「どうして……一緒に寝てるんですか?」
恥ずかしい気持ちを隠すようにそう尋ねると、
「巧巳くんが魘されてたから気になって」
と返ってきた。
本当はソファーで寝ようとしたらしいが寝る前に心配で俺を見にきたら魘されていたらしく、手を差し出したら握って離さなかったらしい。
うわぁっ、そんな恥ずかしいことしちゃったんだ。
「迷惑かけちゃってごめんなさい」
「いや、いいんだ。元はと言えば俺の妹のせいだからね」
そうだ、早く由夏とのことを何とかしないと。昨日は俺が帰ってくることを教えてなかったから、俺が今、東京の、しかもお義兄さんの家にいるなんて思ってもいないだろう。由夏には今日の帰宅は夜になると言っておいた。その方がサプライズの喜びも増すと思って……でもそんなのは俺のただの妄想だったんだな。
本当なら今頃はテーマパークに向かっていたはずだ。楽しくて記念に残る日を過ごしているはずだったのに……。一生懸命働いてきて、あんな裏切りってないだろう!
ああ、もう2度と顔を見たくないくらいだけど、今日会わないといけないのか……。それだけで胃がキュッと痛くなる思いがする。
思わず大きなため息をついていた。
「巧巳くん、朝食を食べたらこれからのことを少し話し合おうか」
「はい」
昨日は何も考えられなくて、慰謝料なんかいらないからすぐに離婚をって思った。でも、一晩経って気付いたんだ。
あの写真には俺たちの家で撮られたものもあった。もしかしたら俺たちのあのベッドであいつらはヤっていたのかもしれない。そう考えただけで虫唾が走る。
もうあの家では暮らせない。引っ越し費用も新しい家具もそして慰謝料だってきっちり取ってやる!! あいつに俺を裏切ったことを後悔させてやるんだ。
俺はそう思うことで自分を奮い立たせることにしたんだ。お義兄さんに用意してもらった朝食を食べ、リビングであの資料を広げながらもう一度冷静に話し合った。
「巧巳くん、これからどうする? 由夏を呼び出すか?」
「あの、それなんですけど……俺、由夏には今日の夜、家に帰る予定だって知らせてあるんです。だから、今はその男と一緒にいるんじゃないでしょうか?」
「なるほど。そうかもしれないな。よしっ。少し待っててくれ」
お義兄さんはスマホを取り出し、どこかへ連絡し始めた。電話かと思ったら何やらものすごいスピードでメールを打っている。流石に覗くなんて出来ないけど相手は誰だろう?
すぐに相手から返信がきて、
「巧巳くんの言っていた通り、今、その男と2人で家にいるみたいだ。どうする? 乗り込むか?」
と尋ねてきた。
あ、なるほど。さっきのメールの相手は例の由夏を調べてくれたっていう探偵さんかもしれないな。きっと俺のために今日の由夏の動向を調べるようにお願いしてくれていたんだろう。
こんなに急に? と思う気持ちもあったが、お義兄さんがここまでやってくれてるんだから、俺がここで尻込みする訳にはいかない。
「はい。行きます! 全部を知ってしまった今の状態でこれから先由夏と夫婦ごっこもできないし、すぐに方をつけたいです」
「よしっ。急いで用意していこう」
俺たちがマンションに着いた時、ススッと近寄ってきた人が小声であの男も由夏もまだ出てきていないと教えてくれた。やっぱり探偵さんに調査をしてもらっていたんだ。お義兄さんって本当に用意周到で仕事のできる人なんだな。
うちのマンションの共有廊下の音は意外と響く。それを知っていたから、2人で音を立てないように玄関までたどり着いた。ゆっくり丁寧に鍵を開け、細心の注意を払って扉を開けると、玄関には俺のじゃない男物の革靴が並んでいた。それを見た瞬間、急に現実味を帯びてきた。そうか、やっぱり由夏が不倫してるのは事実だったんだな。
緊張で足が震えるのを必死に我慢しながら息を殺して寝室の前までやってくると、中から甘ったるい情事の声が聞こえてきた。
『ああ、気持ちいいっ』
『もっと……奥まで、きて……』
『やぁ……っ、んんっ……』
『ゆか、愛してるよ』
『うん、わたしも……けんじを愛してる……』
『生でいいだろ?』
『うん……っ、はやくぅ、あぁ……んんっ』
部屋の外まで漏れ聞こえていた声をスマホに録音して、2人で一気に寝室に飛び込んだ。
「「きゃーっ!!」」
「こ、こいつら誰だっ! どういうことだよ?!」
2人が大パニックになっている中、お義兄さんは一心不乱にスマホのシャッターを切り続けていた。
真っ裸で覆いかぶさった男のモノを挿入られて喜んでいた由夏とその男のあられもない姿がバッチリ写っている。これで言い逃れすることはできないだろう。
俺の姿に気づいた由夏が青褪めた顔で俺を見ている。
「あ、あの……た、くみ……」
「由夏、お前たちが不倫してることもうわかってるからな。ここに証拠もある。もう離婚だ」
由夏の言葉を遮るようにそう言い切ると、
「ごめんなさい! 許して! 魔が差しただけなの。巧巳と離婚したくない!! お願いっ!」
と泣き喚きながら素っ裸のままその場に土下座した。
あの男は由夏のその姿に目を丸くして驚いたまま、呆然とベッドに座り込んでいた。あいつは由夏に本気だったんだろうか。
「とりあえず、お前ら服を着ろ」
由夏にそう声かけだけして俺は寝室を去った。
昨日お義兄さんに話を聞いた時の方が混乱していた。今は驚くほどに冷静な自分がいる。もしかしたら、俺は由夏をそれほど愛していなかったのかも知れないな。
未だ泣き喚く由夏となぜか冷静な男を連れお義兄さんがリビングに現れた。そして泣きじゃくる由夏の隣に男を立たせ、俺の座る隣に腰を下ろした。
「巧巳くん、どうする?」
「離婚します。慰謝料を由夏とそっちの男 2人ともに請求して、それから、お前たちが逢瀬を重ねてたこの家にこれ以上住むことはできないから引っ越し費用と新しいベッドも2人で折半して払ってもらう」
「わかりまし――」
「いや、私は巧巳と離婚しない!!」
この状況をわかっていないのか、由夏が突然大声で叫び出した。
「お前、この後に及んで何を言い出すんだ!!」
お義兄さんが由夏を咎めるが
「だって! ただの遊びだもん! 賢治はただ単にエッチがうまかったから一緒にいただけだし。巧巳と別れたら今みたいな快適な生活できないじゃない!!」
と言い放った。
なんだ、由夏はこの男を一ミリも愛してないじゃないか。あいつは身体だけの存在で、俺は単なるATMってわけか。
なんだ、それ。俺の中にあった由夏とのこれまでの日々がガラガラと音を立てて崩れ去っていくのを感じた。こんなやつとどうして結婚したんだろう。自分の見る目のなさにがっかりした。目の前の女をほんの少しでも愛してたなんて事実を記憶から抹消してしまいたい。
言い争う時間さえも使うのが勿体無く思えて、俺は『もういい』と部屋から出ていこうとした。しかし、そんな俺を止めたのはお義兄さんだった。
俺の手をぎゅっと握り、
「ちょっと待って」
と声をかけるとすぐに由夏に向かって怒鳴り始めた。
「お前、いい加減にしろよ。どれだけ巧巳くんを傷つければ気が済むんだ!! 今、親父と母さん呼んでるから、言いたいことがあるなら2人の前で好きに言うんだな」
「な、なんでお父さんたちまで? お兄ちゃんは私と巧巳のどっちの味方なのよ!!!」
「うるさいっ!! 誰がどう見たってお前が悪いんだろ!! 巧巳くんがどれだけお前に尽くしてくれてたかわかってるのか??」
言い争う2人を俺はただ黙って見つめていた。それからすぐに玄関のチャイムが鳴り、お義父さんとお義母さんが入ってきた。すでにお義兄さんからいろんな話を聞いていたらしいお義父さんは部屋に入ってくるなり、すぐに由夏の顔を平手で思いっきり殴りつけた。
「ギャァッ!」
あまりの勢いに由夏はそのまま吹っ飛ばされ口から血を流している。おそらく歯でも折れたのかもしれない。あまり激しい暴行はかえってこっちが訴えられかねない。
「お義父さん、やめてください!」
必死に止めると、お義父さんは大粒の涙を流しながら俺の方を向いた。
「巧巳くん、うちのばか娘が申し訳ない。由夏を許してもらえないだろうか?」
「親父、それは……」
「……すみません。俺はもう由夏さんと再構築することはできません。離婚しか考えていません。ですが、由夏さんが嫌だと言っていて……申し訳ないんですが、お義父さんの方から説得してもらえますか?」
お義兄さんの言葉を遮り、俺はお義父さんに離婚の意思を伝えた。
「……そうか、わかった。私が責任を持って離婚させる」
「はい。ありがとうございます」
「お父さんっ!!! 勝手なこと言わないでよっ!」
背後から由夏の叫び声が聞こえる。
「お前は自分が何をしたかわかってるのか?!」
「何よっ! ちょっと遊んだだけじゃないっ! 誰でもやってることでしょ! 巧巳だって、私が見てないところで何やってるかわかったもんじゃない!!」
はっ。なんだ、結局由夏は俺のことを信用さえもしていない。それなのに生活のために離婚したくないなんて本当に馬鹿げてる。
「お前がそう思っているなら、これから結婚生活続ける意味なんてないだろ」
そう言ってやると、
「あっ、違うっ! そうじゃないの! 巧巳と一緒にいたいだけなの! お願いだから離婚なんて言わないで!!」
と縋ってきたが、もうあいつには騙されない。
「すみません。お義父さん、お義母さん、お義兄さん。こういうことなんで、悪いんですけど、由夏さんが男と一緒にいた家で暮らすつもりないんで、俺この家から出て行きます。あとはよろしくお願いします」
俺は叫ぶ由夏には目もくれず、自分の部屋からとりあえず必要なものだけバッグに詰め込んで家を出た。
誰だっけ、これ?
寝ぼけ眼で目の前の厚い胸板にペタペタと触れると頭上から
「朝からいたずらっ子だな」
と蕩けるような甘い声が聞こえた。
驚いて顔を上げると、目の前にお義兄さんの笑顔が現れた。あまりにも近くて驚いて思わず顔を下げると、楽しげに笑っている。
「どうして……一緒に寝てるんですか?」
恥ずかしい気持ちを隠すようにそう尋ねると、
「巧巳くんが魘されてたから気になって」
と返ってきた。
本当はソファーで寝ようとしたらしいが寝る前に心配で俺を見にきたら魘されていたらしく、手を差し出したら握って離さなかったらしい。
うわぁっ、そんな恥ずかしいことしちゃったんだ。
「迷惑かけちゃってごめんなさい」
「いや、いいんだ。元はと言えば俺の妹のせいだからね」
そうだ、早く由夏とのことを何とかしないと。昨日は俺が帰ってくることを教えてなかったから、俺が今、東京の、しかもお義兄さんの家にいるなんて思ってもいないだろう。由夏には今日の帰宅は夜になると言っておいた。その方がサプライズの喜びも増すと思って……でもそんなのは俺のただの妄想だったんだな。
本当なら今頃はテーマパークに向かっていたはずだ。楽しくて記念に残る日を過ごしているはずだったのに……。一生懸命働いてきて、あんな裏切りってないだろう!
ああ、もう2度と顔を見たくないくらいだけど、今日会わないといけないのか……。それだけで胃がキュッと痛くなる思いがする。
思わず大きなため息をついていた。
「巧巳くん、朝食を食べたらこれからのことを少し話し合おうか」
「はい」
昨日は何も考えられなくて、慰謝料なんかいらないからすぐに離婚をって思った。でも、一晩経って気付いたんだ。
あの写真には俺たちの家で撮られたものもあった。もしかしたら俺たちのあのベッドであいつらはヤっていたのかもしれない。そう考えただけで虫唾が走る。
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俺はそう思うことで自分を奮い立たせることにしたんだ。お義兄さんに用意してもらった朝食を食べ、リビングであの資料を広げながらもう一度冷静に話し合った。
「巧巳くん、これからどうする? 由夏を呼び出すか?」
「あの、それなんですけど……俺、由夏には今日の夜、家に帰る予定だって知らせてあるんです。だから、今はその男と一緒にいるんじゃないでしょうか?」
「なるほど。そうかもしれないな。よしっ。少し待っててくれ」
お義兄さんはスマホを取り出し、どこかへ連絡し始めた。電話かと思ったら何やらものすごいスピードでメールを打っている。流石に覗くなんて出来ないけど相手は誰だろう?
すぐに相手から返信がきて、
「巧巳くんの言っていた通り、今、その男と2人で家にいるみたいだ。どうする? 乗り込むか?」
と尋ねてきた。
あ、なるほど。さっきのメールの相手は例の由夏を調べてくれたっていう探偵さんかもしれないな。きっと俺のために今日の由夏の動向を調べるようにお願いしてくれていたんだろう。
こんなに急に? と思う気持ちもあったが、お義兄さんがここまでやってくれてるんだから、俺がここで尻込みする訳にはいかない。
「はい。行きます! 全部を知ってしまった今の状態でこれから先由夏と夫婦ごっこもできないし、すぐに方をつけたいです」
「よしっ。急いで用意していこう」
俺たちがマンションに着いた時、ススッと近寄ってきた人が小声であの男も由夏もまだ出てきていないと教えてくれた。やっぱり探偵さんに調査をしてもらっていたんだ。お義兄さんって本当に用意周到で仕事のできる人なんだな。
うちのマンションの共有廊下の音は意外と響く。それを知っていたから、2人で音を立てないように玄関までたどり着いた。ゆっくり丁寧に鍵を開け、細心の注意を払って扉を開けると、玄関には俺のじゃない男物の革靴が並んでいた。それを見た瞬間、急に現実味を帯びてきた。そうか、やっぱり由夏が不倫してるのは事実だったんだな。
緊張で足が震えるのを必死に我慢しながら息を殺して寝室の前までやってくると、中から甘ったるい情事の声が聞こえてきた。
『ああ、気持ちいいっ』
『もっと……奥まで、きて……』
『やぁ……っ、んんっ……』
『ゆか、愛してるよ』
『うん、わたしも……けんじを愛してる……』
『生でいいだろ?』
『うん……っ、はやくぅ、あぁ……んんっ』
部屋の外まで漏れ聞こえていた声をスマホに録音して、2人で一気に寝室に飛び込んだ。
「「きゃーっ!!」」
「こ、こいつら誰だっ! どういうことだよ?!」
2人が大パニックになっている中、お義兄さんは一心不乱にスマホのシャッターを切り続けていた。
真っ裸で覆いかぶさった男のモノを挿入られて喜んでいた由夏とその男のあられもない姿がバッチリ写っている。これで言い逃れすることはできないだろう。
俺の姿に気づいた由夏が青褪めた顔で俺を見ている。
「あ、あの……た、くみ……」
「由夏、お前たちが不倫してることもうわかってるからな。ここに証拠もある。もう離婚だ」
由夏の言葉を遮るようにそう言い切ると、
「ごめんなさい! 許して! 魔が差しただけなの。巧巳と離婚したくない!! お願いっ!」
と泣き喚きながら素っ裸のままその場に土下座した。
あの男は由夏のその姿に目を丸くして驚いたまま、呆然とベッドに座り込んでいた。あいつは由夏に本気だったんだろうか。
「とりあえず、お前ら服を着ろ」
由夏にそう声かけだけして俺は寝室を去った。
昨日お義兄さんに話を聞いた時の方が混乱していた。今は驚くほどに冷静な自分がいる。もしかしたら、俺は由夏をそれほど愛していなかったのかも知れないな。
未だ泣き喚く由夏となぜか冷静な男を連れお義兄さんがリビングに現れた。そして泣きじゃくる由夏の隣に男を立たせ、俺の座る隣に腰を下ろした。
「巧巳くん、どうする?」
「離婚します。慰謝料を由夏とそっちの男 2人ともに請求して、それから、お前たちが逢瀬を重ねてたこの家にこれ以上住むことはできないから引っ越し費用と新しいベッドも2人で折半して払ってもらう」
「わかりまし――」
「いや、私は巧巳と離婚しない!!」
この状況をわかっていないのか、由夏が突然大声で叫び出した。
「お前、この後に及んで何を言い出すんだ!!」
お義兄さんが由夏を咎めるが
「だって! ただの遊びだもん! 賢治はただ単にエッチがうまかったから一緒にいただけだし。巧巳と別れたら今みたいな快適な生活できないじゃない!!」
と言い放った。
なんだ、由夏はこの男を一ミリも愛してないじゃないか。あいつは身体だけの存在で、俺は単なるATMってわけか。
なんだ、それ。俺の中にあった由夏とのこれまでの日々がガラガラと音を立てて崩れ去っていくのを感じた。こんなやつとどうして結婚したんだろう。自分の見る目のなさにがっかりした。目の前の女をほんの少しでも愛してたなんて事実を記憶から抹消してしまいたい。
言い争う時間さえも使うのが勿体無く思えて、俺は『もういい』と部屋から出ていこうとした。しかし、そんな俺を止めたのはお義兄さんだった。
俺の手をぎゅっと握り、
「ちょっと待って」
と声をかけるとすぐに由夏に向かって怒鳴り始めた。
「お前、いい加減にしろよ。どれだけ巧巳くんを傷つければ気が済むんだ!! 今、親父と母さん呼んでるから、言いたいことがあるなら2人の前で好きに言うんだな」
「な、なんでお父さんたちまで? お兄ちゃんは私と巧巳のどっちの味方なのよ!!!」
「うるさいっ!! 誰がどう見たってお前が悪いんだろ!! 巧巳くんがどれだけお前に尽くしてくれてたかわかってるのか??」
言い争う2人を俺はただ黙って見つめていた。それからすぐに玄関のチャイムが鳴り、お義父さんとお義母さんが入ってきた。すでにお義兄さんからいろんな話を聞いていたらしいお義父さんは部屋に入ってくるなり、すぐに由夏の顔を平手で思いっきり殴りつけた。
「ギャァッ!」
あまりの勢いに由夏はそのまま吹っ飛ばされ口から血を流している。おそらく歯でも折れたのかもしれない。あまり激しい暴行はかえってこっちが訴えられかねない。
「お義父さん、やめてください!」
必死に止めると、お義父さんは大粒の涙を流しながら俺の方を向いた。
「巧巳くん、うちのばか娘が申し訳ない。由夏を許してもらえないだろうか?」
「親父、それは……」
「……すみません。俺はもう由夏さんと再構築することはできません。離婚しか考えていません。ですが、由夏さんが嫌だと言っていて……申し訳ないんですが、お義父さんの方から説得してもらえますか?」
お義兄さんの言葉を遮り、俺はお義父さんに離婚の意思を伝えた。
「……そうか、わかった。私が責任を持って離婚させる」
「はい。ありがとうございます」
「お父さんっ!!! 勝手なこと言わないでよっ!」
背後から由夏の叫び声が聞こえる。
「お前は自分が何をしたかわかってるのか?!」
「何よっ! ちょっと遊んだだけじゃないっ! 誰でもやってることでしょ! 巧巳だって、私が見てないところで何やってるかわかったもんじゃない!!」
はっ。なんだ、結局由夏は俺のことを信用さえもしていない。それなのに生活のために離婚したくないなんて本当に馬鹿げてる。
「お前がそう思っているなら、これから結婚生活続ける意味なんてないだろ」
そう言ってやると、
「あっ、違うっ! そうじゃないの! 巧巳と一緒にいたいだけなの! お願いだから離婚なんて言わないで!!」
と縋ってきたが、もうあいつには騙されない。
「すみません。お義父さん、お義母さん、お義兄さん。こういうことなんで、悪いんですけど、由夏さんが男と一緒にいた家で暮らすつもりないんで、俺この家から出て行きます。あとはよろしくお願いします」
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