ブラコン学園長が恋したのは真面目で可愛い新任教師でした

波木真帆

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結び目の記憶

「ふぅ……」

朝からこんなに食べたのはいつぶりだろう。
でも、大満足だ。

「うちの料理が口に合ったみたいでよかったよ」

「はい。すごくおいしかったです」

「カフェオレ、もういっぱい飲む?」

飲みたいけど、これ以上は入らない気がする。
首を振ったけれど、またもや部屋のインターフォンが鳴った。

「あ、来た!」

「あの、来たって……」

僕の問いかけが聞こえないまま、敬介さんが扉に駆けていく。

もしかして、先にカフェオレ頼んじゃってたのかな。
残しちゃったらどうしよう……

なんて思っていると、敬介さんが戻ってきた。
その手にあるのは、トレイじゃない。
スーツ用のガーメントケース。

「あの、それ……」

「斎川くんのだよ。開けてみて」

「僕のって……」

そんなわけないんだけど……

そう思いつつも、断れなくて敬介さんから渡されたガーメントケースのファスナーを開ける。

「わっ!」

出てきたのは、ネイビーのスーツ。
しかも触れただけでわかる上質なモヘア素材。

「あ、あの……これは、いったい?」

びっくりしてケースから取り出して、敬介さんに見せる。
けれど、驚いている僕とは対照的に敬介さんはスーツを見て笑顔になっている。

「ああ、いいね。そのスーツ、すごくよく似合ってる」

「いや、そうじゃなくて……これは、どこから? 僕のじゃないですよ」

すると、敬介さんは笑顔で口を開いた。

「これ、周平さんのところのスーツ。多分、兄さんが周平さんに頼んで斎川くんのスーツを用意したんだよ」

「えっ、学園長先生が、僕のスーツを?」

「うん。だって、今着てるスーツ……昨日着てたやつだよね? 同じスーツを二日連続で着るのも嫌じゃない?」

さらりとそんなことを言われて驚いてしまう。

スーツ自体、まだ三着しか持ってない僕にとっては、二日連続で同じスーツは別にないことではない。
中のシャツは毎日替えているから問題ないと思っていたけれど、もしかして桜守ではそれが普通だったりするんだろうか?

スーツを手にしたまま茫然と見つめていると、敬介さんが「ほら」と声をかけてくれる。

「せっかく新しいスーツが来たことだし、ちょっと着てみたら? ほら、シャツもネクタイも……」

そう言いかけて、敬介さんの手が止まった。

「あの、どうかしましたか?」

「あ、ううん。なんでもない。早く着替えておいで」

そう言われて、スーツを渡され寝室に連れて行かれる。

「着替えたら見せてね」

パタンと扉を閉められて、もう着替えないという選択肢は無くなってしまった。

ガーメントケースからスーツを取り出す。改めて手に取ると、その質の良さがはっきりと伝わる。
軽いのに、しなやかで、指に吸い付くような生地。
みただけで、自分の持っているスーツとは全く違うと理解できた。

「すごい……」

小さく呟いてから、今着ているジャケットを脱ぐ。
普段通りの動作のはずなのに、どこか落ち着かない。
まるで、すぐ近くで誰かに見られているような気がしてしまう。

昨日も着ていたシャツを脱ぎ、新しいシャツに袖を通す。

「あれ?」

袖の長さも、身幅もどこにも違和感がない。
ここまでぴったりなシャツも珍しい。

次に新しいスラックスを穿いてみる。
丈が長いか、短いか……どっちだろうと思っていたけれど、

「えっ?」

思わず声が漏れた。
まるで誂えたかのような丈とウエストに驚きしかない。

鏡の前に立ち、全身を映してみる。
細身なラインが綺麗に出ていて、脚もいつもより長く見える。

「うそ……っ、こんなに合うものがあるんだ……」

これまで既製品では合わないと言われ続けてきた。
だからこそ、このピッタリが信じられない。

ふと、ネクタイに手を伸ばす。

一緒に用意されていたそれは、落ち着いた色味でスーツによく合っていた。
けれど、結び始めたところで手が止まる。

「あれ?」

いつも通り結んでいるはずなのに、どこかしっくりこない。
少し歪んでしまっている気がする。

結び直そうとしても、なぜかうまく行かない。

何度かやり直して、結局中途半端な形のまま手を下ろした。

「これで、いいのかな……?」

鏡に映る自分は、さっきまでとはまるで違って見えた。
整っているはずなのに、どこか落ち着かない。

理由はわからないけれど、なんとなく不思議な感じがした。

「斎川くん。着替え終わった?」

扉の向こうから敬介さんの声がする。

「あ、はい。今、出ます」

慌てて返事をして、もう一度だけ鏡を見る。
ジャケットを羽織り、扉に手をかけた。

「あ、あの……なんか、似合ってないかもしれないです……」

恐る恐る、今の自分の姿を敬介さんに見せる。
すると、僕の姿を上から下までさっと目を通した敬介さんは、ふっと笑って僕に近づいた。

「ちょっと俺にやらせて」

手を伸ばし、慣れた手つきで僕のネクタイを外していく。
そして、ささっとやり直すと、「よし、これで完璧!」と笑顔を見せる。

「すごくよく似合っているよ」

そう言われて、鏡の前に連れて行かれる。

「えっ? これが、僕……?」

鏡に映っていたのは、さっきの違和感ばかりの姿ではなく、綺麗にスーツを着こなした僕の姿だった。

「あれ? なんで?」

「ネクタイの結び方だよ。それを変えたからしっくりきたんじゃない?」

そう言われれば、いつもと形が違う気がする。
でも……こっちのほうがすごく似合っているな。

このネクタイの形、どこかで見たような……

どこだっけ?
感想 15

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みんなの感想(15件)

いぬぞ~
2026.03.26 いぬぞ~
ネタバレ含む
2026.04.01 波木真帆

いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭目覚めてイリゼホテルのジュニアスイートの豪華なベッドに寝ていたらびっくりしちゃいますよね。
焦っちゃうことも見越して、ちゃんと敬介が来てくれるところさすがですよね。

本能でときめいちゃってますね。
でも、まさか自分が学園長先生とどうにかなっちゃうなんて夢にも思ってないので
迷惑かけちゃったって思っちゃったんでしょうね。
確かに、旦那観点からのアドバイスも知識として身につけるようにしてもいいかもですね。

もうすっかり一実の好みは把握しちゃってますので、どこでも連れて行けますね。

敬介と一緒に朝食。
この映像も知成のところに行ってるかもですね(笑)

イリゼホテルのジュニアスイート。しかも当日宿泊なんでかなりの高額。
一実でもポンと払うのは厳しそうです💦
もうすでに支払ってあるんで問題ないんですけどね。

知成は今頃浮かれてるかなぁ。
敬介から色々報告受けるかもですね。

解除
四葩(よひら)
2026.03.25 四葩(よひら)
ネタバレ含む
2026.03.31 波木真帆

四葩さま。コメントありがとうございます!
体格差があるので余計に可愛いんですよね。
知成は本当にめちゃくちゃ我慢しました(笑)
祐悟は絶対に我慢しなさそうですもんね。
食べちゃってから、じっくり話して洗脳……いやいや、落ち着かせます(笑)

起きたところを見計らってルームサービス。
そうじゃないと何も食べずに学校に飛んできそうですからね。
ちゃんと敬介もわかってきてくれるのがありが愛ですよね。
周平も相手が知成のニャンコなので心配してませんし。
いい義兄弟になりそうです♡

解除
いぬぞ~
2026.03.10 いぬぞ~
ネタバレ含む
2026.03.14 波木真帆

いぬぞ〜さま。コメントありがとうございます!
ふふ🤭周平さんにお願いしようか?と敬介が言ったときの周平の顔が見たいですよね(笑)
絶対に無理無理!!って顔してるはず。あのイタリアマフィアがビビってるのちょっと面白いかも。
さすがの周平も、知成の最愛だとわかって抱っこはできませんね。

ビキューナ100%の最高級ジャケット。
これを彼ジャケさせて、ほっぺ袖すりすり……くぅー!めっちゃ可愛い♡
知成の理性飛びそうです(笑)

ジュニアスイートに残して帰る知成。さすが紳士ですよね。
祐悟なら……いや、考えるのはやめとこう(笑)

翌朝の一実の様子、どうぞお楽しみに♡

解除

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