イケメンスパダリ弁護士に助け出されて運命が変わりました

波木真帆

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お礼が言いたくて……

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弁護士の先生……。
観月法律事務所の観月先生……。

俺は必死にそれを記憶してその場に留まっていると、その先生ともう1人スーツを着た男の人が焦って止めようとする男を振り切りながらずかずかと事務所の中に入ってきた。

弁護士の先生は俺と強面の男に目を向け、何をしているのかと尋ねた。

よほどこの弁護士さんが怖いんだろう。
さっきまで威勢の良かった強面の男は、ビクビクした様子で

「い、いや、こいつがうちの大事な壺を割りやがったから反省させていたところで……」

と答えていた。

彼は強面の男の目をじっと見た後で、今度は俺を見た。

「君……本当に君が割ったのかな?」

強面の男に話していたのとは全然違う弁護士先生の優しい口調と視線に俺はドキッとした。

「お、俺……」

正直に話そうとすると、強面の男に怒鳴られた。
その迫力にびっくりして言い出せずにいると、もう1人のスーツを着た男の人が強面の男の腕を捻り上げて大人しくさせてくれた。

ふぇー、ものすごく強いこの人。

驚いている間に、もう一度弁護士先生に尋ねられて、俺は正直にこの強面の男に押されて壺にぶつかったと答えた。

すると彼は少し考え込んだ様子で、どうしてここにいるのかと聞いてきた。
だから俺は、

「アルバイトの募集が出てて中卒でも働かせてもらえるっていうから来たんですけど、チラシに書いてあった内容と全然違くて断って帰ろうと思ったら壺を割っちゃって……弁償するって約束するまで帰らせないって……それで……」

と必死に説明すると、彼は、

「私たちに任せて帰りなさい!」

と言ってくれた。

俺はこの恐怖の空間から抜け出せることが嬉しくて、急いで彼にお礼を言い外に出て急いで階段を駆け降りてその場から逃げた。

逃げつつも、頭の中にあるのはさっきの弁護士先生のことばかり。

きちんとお礼も言えなかったし、ちゃんとお礼はしたほうがいいよな。
そう理由をつけてみたものの、本音を言えばもう一度話したかっただけ。

あの優しい瞳でもう一度見つめられたくなったんだ。

とはいえ、もう一度あの事務所に戻るのは怖い。
どうしたら……と考えて、俺は記憶した彼の弁護士事務所に行ってみようと考えた。

観月法律事務所の観月先生って言ってたから、きっとすぐに見つかるはずだ。

俺は近くのコンビニに入り、

「あの、この辺で観月法律事務所ってありますか?」

と店員さんに尋ねた。

「観月法律事務所?? うーん、この辺で聞いたことないけど……。あ、ちょっと待って」

レジにいた女性店員さんは、その場から走り去って奥の<STAFF ONLY >と書かれた扉へと入っていった。
それから数分してスマホを手に戻ってきた店員さんは、

「これで調べてあげる」

と地図アプリを開いて教えてくれた。

わぁー、やっぱスマホって便利なんだな。
中学生の時、クラスの子に好奇心で見せて貰ったことあるけど、小さなパソコンって感じだったもんな。
地図まで入ってるとは思わなかったけど、これがあったらなんでも調べられそうだ。

そんなことを考えながら、探してくれているのを待っていると

「あっ、これじゃないかな。君の行きたいとこ。この先生で合ってる?」

と見せられた写真はさっきの弁護士先生そのもの。

「はい! この人です!」

「よかった。場所はここだって……。うーん、ここから15分くらいかな。今日は暑いから歩いて行くなら気をつけたほうがいいわよ」

「ありがとうございます」

ここまでお世話になったのに、何も買わないで出て行くのは失礼な気がして、俺はスポーツドリンクを1本買ってから、もう一度お礼を言ってコンビニを出た。

朝からいろんなことがあって喉が渇きまくっていた俺は、店先であっという間にそれを飲み干し、さっき覚えた場所を求めて歩き始めた。

「もしかして……ここ?」

現れたのは大きな3階建ての建物。
1階が事務所で、2~3階は普通の住宅みたい。
入り口には<観月法律事務所>と表札がかけられていた。

法律事務所って堅苦しくて怖そうと思っていたイメージとは全然違って、大きくて豪華な煉瓦造りの建物はまるで貴族の家みたいで恐ろしくカッコよかった。

こんなところを俺みたいな子どもがうろついてていいのかと心配になりながら壁際に立って待っていると、

「あれ? 君……さっきの」

とさっきの優しげな声が耳に飛び込んできた。

「こんなに暑いのに、太陽の下で立ってるなんて熱中症にでもなったらどうするんだ?」

焦った声で俺のそばに駆け寄ってくれる先生に、

「あの、ごめんなさい……俺、ちゃんとお礼が言いたくて……」

と必死で伝えると、

「そうか……とりあえず中に入ろう」

と俺に優しい笑顔を向けながら建物の中へと入れてくれた。

入ってすぐそのまま階段を上り連れて行かれた部屋を見て俺はびっくりした。

「うわぁーっ、すごいっ!」

外観も豪華でお洒落だったけれど、中はもっとすごい!
まるで王子さまでも住んでいるような綺麗な家具と照明に驚きすぎてつい口をポカーンと開けたまま、その場に立ち尽くしてしまった。

「ほら、こっちにおいで」

その声に慌てて近づくと、そこには俺なんかが座っていいのか戸惑ってしまうほど大きくて綺麗なソファーがあった。

「あ、あの……俺、こんなすごいソファーに座るの初めてで……俺なんかが座っていいんですか?」

「ふふっ。ソファーは座るためにあるんだから気にしないで座ってくれていいよ」

「は、はい……」

それでも壊しちゃいけないと、ゆっくり腰を下ろすと

「わっ! ふかふかだっ!」

あまりにも座り心地が良くて思わず声をあげてしまった。

「私も気に入っているんだよ。ふかふかで弾力があるから長時間座っても疲れないんだ」

俺がはしゃいだ声をあげても笑ったりもしない。
それどころか優しく返してくれて……観月先生って本当に王子さまみたいだ……。

「何か飲み物でも入れようか?」

「あ、さっきコンビニでスポーツドリンク飲んだばかりなので……」

「そうか。なら、ちょっと話を聞いてもいいかな?」

「は、はい」

きっとさっきの事務所でのことだ。
何を聞かれるんだろう?

「そんなに緊張しなくていいよ。さっきも少し聞いたけど、君は仕事を探してあの事務所に行ったのかな?」

「……はい。電信柱の張り紙に中卒でも働けるって……それに、住み込みもできるって書いてあったから……それで」

「住み込み? あいつらにどんな仕事を紹介された?」

「あの、その……あの人たちと一緒に住んで……お、俺の身体で奉仕しろって言われて、怖くなって慌てて帰ろうとしたら……」

「押されてあの壺を割った、と。そういうことかな?」

「はい。そうです」

「住み込みの仕事を探してるみたいだけど、君。いくつ? 名前も聞いてもいいかな?」

そうだ、俺……何も自分のこと何も話してなかった。
俺は少し緊張しながら、自分のことを話すことにした。
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