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『お帰りなさい。Mr.タナベ。おや、Mr.スギヤマもご一緒だったのですね。別々でお出かけになりましたが、お知り合いだったのですか?』
『ただいま。ジャック。偶然スタジアムであってナンパしたんだ』
『ほお、それはそれは……』
「なっ、ナンパって、ちょっと。透也くんっ!」
「ふふっ。冗談ですよ」
男が男をナンパなんてそんなことを冗談でも言うなんて、そんな状況に慣れてない。
俺はいつだって隠されてきたんだから。
ジャックに変に思われるかもしれないのに……。
そう不安に思っていると、
『Mr.タナベがMr.スギヤマのお相手なら安心ですね』
とジャックがにこやかに冗談を返してくる。
ああ、なんだ。
ここならこんな冗談でも笑って言えるんだ。
じゃあ、俺も少しは乗ったほうがいいか。
『彼は私のヒーローだよ』
困っているところをさっと助けてくれたし。
大学生に間違われたけどね。
ジャックにそう返すと、
『おおっ、それは素晴らしいですね!』
と嬉しそうに笑い、なぜか透也くんは一瞬驚きの表情をした後で同じように笑っていた。
「何かおかしなことを言ったか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
不思議に思いながらもジャックに挨拶をして、その場を後にした。
「大智さん、あの部屋なんですね」
「ああ、そこしか空いてなかったんだ。一人なのに、広くて申し訳ないくらいだよ」
そう、俺の入った部屋は短期出張用のこの社宅の中で一番広い部屋らしい。
短期といっても1年未満の出張もここに入るから、婚約者や夫または妻を連れてくることもあるようだ。
そのために残してある部屋に、今回は急遽俺が入ることになり、一人では広すぎて持て余しているといった状況だ。
「でも、広い方がゆったり寛げるでしょう?」
「そんなことはないよ。東京の自宅も1LDKだったから広すぎて持て余すよ」
「そういうものですか……それなら、私が時々泊まりに来ますよ」
「えっ? でも、それは……」
思っても見ない透也くんの言葉に驚きが隠せない。
けれど、透也くんは気にすることなく、言葉を続ける。
「日本からも随時食材が届くことになってるんですけど、一人だと時々面倒になってデリバリーで済ませてしまうこともあるんですよ。大智さんが召し上がってくださるなら、作り甲斐もありますし食材を無駄にしてしまうこともないでしょう?」
「それはそうだろうが……」
「だから平日はうちで食事して、次が休みの日だけ大智さんのところで食事してそのまま泊まらせてくださいよ。それならいいでしょう? どうせ休みの日は一緒に出かけるんですし、一緒にいた方が出かける時間を合わせるのも楽ですよ」
「そ、そういうものか?」
こんなに密な友人関係を作ったことがないから、どう対応していいかわからない。
「ええ。せっかくこんなところで知り合いになれたんですし、お互いの部屋を行き来するのもいいでしょう? 大智さんも食事の支度がなくなるのは楽じゃないですか?」
「それはそうだな。正直、日本食に飢えてきていたから」
「ふふっ。ですよね? 私もこっちにきて三週間。かなり辛くなってきているので大智さんの気持ちはすごくよくわかりますよ。それに、この辺は治安もいいところですけど流石に夜は出歩くのは会社からも禁止だと言われてますし、暇を持て余してたんですよ。だから、食事の支度を請け負う代わりに、話し相手になってくださると本当に助かるんですよ。どうです?」
彼はまだ25歳。
確かに夜遅くまで遊びたい年頃だろう。
それを定時で帰ったらそのまま部屋に缶詰なのは確かに息苦しそうだ。
「話し相手くらいなら、役に立てるかもしれないな。だが、それと食事の支度なら透也くんの割に合わないんじゃないか?」
「そんなことないですよ。じゃあ、決まりですよ! 明日の朝食は何時にします? いつもは何時ごろ起きているんですか?」
「そうだな。休みの日は8時ごろ朝食を食べているかな」
「なら、ゆっくり準備してますから7時半からいつでもきてもらっていいですよ。じゃあ、また明日。待っていますね」
透也くんはそういうと、手を振って自分の部屋に戻って行った。
ふぅ……。
なんだかいろんなことが起こりすぎて、ついていけてないな。
とりあえず部屋に入り、俺はポスっとソファーに腰を下ろした。
部屋を出るまでは今までと変わらない日常だったのに、なんだか急激に世界が変わってしまったかのような気がする。
でも……。
あんなに大きな口開けてハンバーガーを食べたり、ソースを拭ってもらったり、日焼けも気にせず屋外であんなにはしゃいでハイタッチしたり……今までにない休日が楽しかった。
疲れたけど、心地よい疲れが身体に残っている。
こんな日が俺の日常に訪れるなんて……。
透也くんには感謝しかないな。
『ただいま。ジャック。偶然スタジアムであってナンパしたんだ』
『ほお、それはそれは……』
「なっ、ナンパって、ちょっと。透也くんっ!」
「ふふっ。冗談ですよ」
男が男をナンパなんてそんなことを冗談でも言うなんて、そんな状況に慣れてない。
俺はいつだって隠されてきたんだから。
ジャックに変に思われるかもしれないのに……。
そう不安に思っていると、
『Mr.タナベがMr.スギヤマのお相手なら安心ですね』
とジャックがにこやかに冗談を返してくる。
ああ、なんだ。
ここならこんな冗談でも笑って言えるんだ。
じゃあ、俺も少しは乗ったほうがいいか。
『彼は私のヒーローだよ』
困っているところをさっと助けてくれたし。
大学生に間違われたけどね。
ジャックにそう返すと、
『おおっ、それは素晴らしいですね!』
と嬉しそうに笑い、なぜか透也くんは一瞬驚きの表情をした後で同じように笑っていた。
「何かおかしなことを言ったか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
不思議に思いながらもジャックに挨拶をして、その場を後にした。
「大智さん、あの部屋なんですね」
「ああ、そこしか空いてなかったんだ。一人なのに、広くて申し訳ないくらいだよ」
そう、俺の入った部屋は短期出張用のこの社宅の中で一番広い部屋らしい。
短期といっても1年未満の出張もここに入るから、婚約者や夫または妻を連れてくることもあるようだ。
そのために残してある部屋に、今回は急遽俺が入ることになり、一人では広すぎて持て余しているといった状況だ。
「でも、広い方がゆったり寛げるでしょう?」
「そんなことはないよ。東京の自宅も1LDKだったから広すぎて持て余すよ」
「そういうものですか……それなら、私が時々泊まりに来ますよ」
「えっ? でも、それは……」
思っても見ない透也くんの言葉に驚きが隠せない。
けれど、透也くんは気にすることなく、言葉を続ける。
「日本からも随時食材が届くことになってるんですけど、一人だと時々面倒になってデリバリーで済ませてしまうこともあるんですよ。大智さんが召し上がってくださるなら、作り甲斐もありますし食材を無駄にしてしまうこともないでしょう?」
「それはそうだろうが……」
「だから平日はうちで食事して、次が休みの日だけ大智さんのところで食事してそのまま泊まらせてくださいよ。それならいいでしょう? どうせ休みの日は一緒に出かけるんですし、一緒にいた方が出かける時間を合わせるのも楽ですよ」
「そ、そういうものか?」
こんなに密な友人関係を作ったことがないから、どう対応していいかわからない。
「ええ。せっかくこんなところで知り合いになれたんですし、お互いの部屋を行き来するのもいいでしょう? 大智さんも食事の支度がなくなるのは楽じゃないですか?」
「それはそうだな。正直、日本食に飢えてきていたから」
「ふふっ。ですよね? 私もこっちにきて三週間。かなり辛くなってきているので大智さんの気持ちはすごくよくわかりますよ。それに、この辺は治安もいいところですけど流石に夜は出歩くのは会社からも禁止だと言われてますし、暇を持て余してたんですよ。だから、食事の支度を請け負う代わりに、話し相手になってくださると本当に助かるんですよ。どうです?」
彼はまだ25歳。
確かに夜遅くまで遊びたい年頃だろう。
それを定時で帰ったらそのまま部屋に缶詰なのは確かに息苦しそうだ。
「話し相手くらいなら、役に立てるかもしれないな。だが、それと食事の支度なら透也くんの割に合わないんじゃないか?」
「そんなことないですよ。じゃあ、決まりですよ! 明日の朝食は何時にします? いつもは何時ごろ起きているんですか?」
「そうだな。休みの日は8時ごろ朝食を食べているかな」
「なら、ゆっくり準備してますから7時半からいつでもきてもらっていいですよ。じゃあ、また明日。待っていますね」
透也くんはそういうと、手を振って自分の部屋に戻って行った。
ふぅ……。
なんだかいろんなことが起こりすぎて、ついていけてないな。
とりあえず部屋に入り、俺はポスっとソファーに腰を下ろした。
部屋を出るまでは今までと変わらない日常だったのに、なんだか急激に世界が変わってしまったかのような気がする。
でも……。
あんなに大きな口開けてハンバーガーを食べたり、ソースを拭ってもらったり、日焼けも気にせず屋外であんなにはしゃいでハイタッチしたり……今までにない休日が楽しかった。
疲れたけど、心地よい疲れが身体に残っている。
こんな日が俺の日常に訪れるなんて……。
透也くんには感謝しかないな。
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