有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

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二人の家へ

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「ごめんね、引き止めちゃって。河北さんも突然すみません」

「気にしないでいいよ。田淵くんも谷垣くんが来てくれて喜んでるから。ねぇ、田淵くん」

「はい。尚孝くん……尚孝くんのおかげで自分で歩いて退院できるんだよ。僕のために一生懸命指導してくれてありがとう」

田淵くんから向けられた笑顔に谷垣くんは、少しでも言葉を発すると涙を流してしまいそうなくらい目を潤ませて何度も頷いていた。

「谷垣くん、これからどこに行くの? よかったらそこまで送って行こうか?」

この子をこのまま一人にしたら絶対に危ないと思って声をかけたが、

「あ、あの……僕、せっかくなのでこれから山野辺先生のところに行こうかと思っていて……」

という言葉が返ってきた。

桜守は実習生の安全を確実に守るように徹底していると聞いている。だから、実習先までは保護者の送迎、もしくは桜守と提携のタクシーを利用することが義務付けられている。運転免許を持っている学生に限り、自家用車での実習先への通勤も一応認めてはいるが、受け入れ先の都合で不可となっていることも多い。きっと事故などの危険性を考慮しているのだろう。
山野辺先生は実習後に谷垣くんを自宅まで送っていると聞いていたから、実習が終わった今でも谷垣くんが訪ねて行ったら、一人で帰したりはしないだろう。それくらい谷垣くんを大切にしていた。その先生のところに行くのなら安心だろう。

「そうか、じゃあ山野辺先生にもよろしく」

「はい。じゃあ伊月くん、またね。あ、そうだ! これ、僕の連絡先」

「えっ……いいの?」

「うん。伊月くんとはずっと友達でいたいから。連絡先交換したかったんだ。でも実習生の間は渡せなかったからそれも渡したくて今日来たんだ」

「尚孝くん……嬉しい、ありがとう」

そうか、まだこの二人……連絡先を交換していなかったんだな。実習中に公私混同しないようにという大学からの教えなんだろうが、本当に真面目というか、律儀というか……。こういうところも似ている二人だから仲良くなれたんだろうな。

「あの、河北さん。そのバッグの外側のポケットの中に………」

「ああ、これだね」

真新しいスマホを田淵くんに手渡すと、田淵くんはそれを両手で大事そうに受け取った。

「わぁ、伊月くんのスマホ。可愛いカバーだね!」

「河北さんがプレゼントしてくれたんだ」

そんな話をしながら、連絡先を交換するのを俺は微笑ましく思いながら見つめていた。

転院するにあたって、田淵くんが持っていたものを纏めていたとき、小さな巾着袋に入ったものを見つけて中を確認すると、壊れてしまっているガラケーが入っていた。きっと事故で壊れてしまったんだろうが、今時の大学生がガラケーだなんてそのことに驚く。聞けば、高校生の時に親との連絡手段として買ってもらったものらしい。大学入学が決まってすぐに両親が離婚し、その時には大学の寮は全て埋まってしまっていてアパートで一人ぐらしを余儀なくされ、かなり切り詰めた生活の中でスマホを買うことができなかったらしい。
大学の講義や教授とのやりとりでも今はスマホは必需品だろうに、きっと苦労していたに違いない。

俺はすぐに最新機種を購入し、危険そうなアプリはダウンロードできないように設定して、全ての準備を整えて田淵くんにプレゼントをした。田淵くんに似合いそうな、モコモコの犬の形をしたスマホカバー付きで。とりあえず選んだもので後で好きなものに替えてもらったらいいと思ったけれど、予想以上に喜んでくれて嬉しかった。

使い方を教えると流石に若いだけあって飲み込みがいい。メッセージアプリもスタンプもあっという間に使えるようになった。入院中は離れている時間もそれでメッセージを送りあったり、テレビ電話もできたから本当によかった。

無事に谷垣くんとの連絡先交換を済ませて、谷垣くんが病院へ入っていくのを見届けて、俺たちは車に乗り込んだ。
田淵くんを助手席に座らせてシートベルトをつけてやるとやはり少し緊張しているようだ。

でも緊張する必要なんかない。これから一生俺たちは一緒に生活するのだから。

しばらく車を走らせて、これから田淵くんの自宅にもなる俺の・・マンションに到着した。
俺のと言ってわかるようにこのタワマンのオーナーが俺。全てが億超えの分譲だが、立地もよく何より設備の豪華さに建設段階であっという間に完売した。
ここ以外にも不動産を多数所有していてその不動産収入だけでも一生遊んで暮らせるほどの資産はあるから、田淵くんを一生苦労させない自信はある。今まで大変だった分、これからは徹底的に甘やかしてやる。

豪華なタワマンに隣で溢れそうなほど目を丸くしている田淵くんを見て、俺はそう誓った。
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