有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

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待ち合わせの前に

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今日はランチだし、夜のこともあるから酒を飲むつもりはない。
まぁ、伊月くんは飲んでくれても構わないが、砂川くんは弱そうだからきっとユウさんは飲ませたりしないだろう。

「わぁ、やっぱりマンションだけあって車がいっぱいですね」

止めてある車を見て伊月くんがそういうけれど、ここは俺専用の駐車場だ。

「全部俺たちの車だよ」

「えっ? ここにあるの、全部ですか?」

目を丸くしているのが可愛いな。車が趣味で結構集めてしまったけれど、それでも15台くらいしかないが、伊月くんの今までの環境を思えば多い方なんだろう。ユウさんも結構車を持っていたし、それが普通になってたな。

「ああ。今日はどれにしようか? どれでもいいよ」

「えっ、あ、あの……」

「どれでも好きなのを言っていいよ」

「えっと……あっ、あの車、可愛いです」

伊月くんが迷いながらも選んでくれたのは30年ほど前に50台限定で販売された復刻版のクラシックカー。
数年前に新品のまま大切に保管されていたのを手に入れたが、可愛らしく気品溢れるフォルムはマニアの間ではかなりの人気を誇り、今では俺が購入した金額よりもかなり高額で取引されている車だが伊月くんは知らないだろうな。そんなところも可愛い。見た目はクラシックだが、内装には結構手を入れて乗りやすくしているから伊月くんも気に入ってくれるだろう。

「じゃあ今日はこれにしよう」

助手席を開け、伊月くんを座らせて俺は運転席に乗り込む。

「中も可愛いですね」

「気に入ってくれて嬉しいよ」

快適な乗り心地に嬉しそうな伊月くんを乗せ、マンションを出た。

待ち合わせの店がある近くまでやってきたが、約束の時間にはまだ少し早い。いつも止めている高級車専用の駐車場に車を止め、少し買い物に行くことにした。

伊月くんの腰に手を回し歩いていると、やはりいろんなところから視線を感じるが、男同士に対する好奇な視線というよりも可愛い伊月くんに対しての邪な視線だ。

この二ヶ月ですっかり健康的になったし、肌も髪も艶々で伊月くんの本来の可愛さが目に見えてわかるようになったから当然と言えば当然かもしれない。

俺は周りに牽制するように威圧を与えながら、あるホテルに向かった。

「慎一さん、どこに行くんですか?」

「連れて行きたかった店があるんだ。こっちだよ」

「ホテル、ですか?」

「うん。ホテルの中にね、伊月くんが好きそうな店があるんだよ」

高級感溢れるホテルの入り口で黒服のスタッフにお辞儀をされ、緊張している様子の伊月くんを連れて向かったのは、可愛いぬいぐるみを置いている店で有名な『Glücksグリュックスbringerブリンガー

「わぁーっ! 可愛いっ!!」

店の外観を見るや否や、伊月くんの表情がさっきまでの緊張の様子から一気に笑顔になる。

「よかった、中にもいっぱいいるから入ろうか」

まるでメルヘンの世界に迷い込んだような可愛らしい店の中に伊月くんと入ると、クマやキリン、ゾウ、ウサギ、犬、猫など数え上げたらキリがないくらいの種類の動物のぬいぐるみで溢れている。

ここは運命の一体を見つけることができる店としても知られていて、『Glücksbriお守りnger』という店のなまえはぴったりだ。

俺がいない間、伊月くんを守ってもらうにはいいアイテムだな。

「どれでも好きなのを選んでいいよ」

「えっ、そんなの、いいんですか?」

「もちろん。俺から伊月くんへの退院祝い。俺がいない時間もそばに置いてて欲しいんだ」

俺の言葉に伊月くんは嬉しそうに笑って、楽しげにぬいぐるみを選び始めた。

「どれも可愛くて悩んじゃいますね」

「いいよ、まだ時間はいっぱいあるからゆっくり選んで」

伊月くんはじっくりと店内を回っていたが、店員さんは決して声をかけようとはせず、少し離れた場所から温かく見守っているようだった。

「あっ! この子!」

「どう? いい子がいた?」

「あの、この子……慎一さんがプレゼントしてくれたスマホケースのワンちゃんにそっくりです」

「ああっ、本当だね」

大きな犬のぬいぐるみに寄りかかるようにいた小さな犬は、俺が伊月くんに似合うと思って選んだスマホケースの犬と同じ、ミニチュアダックスフンドの白い犬だった。

「僕、この子がいいです」

「そうか、じゃあこの子にしよう」

60センチほどのぬいぐるみを棚からとり、伊月くんに渡すとなんとも言えない可愛さに思わず言葉に詰まった。

「慎一さん?」

「ああ、ごめん。ぬいぐるみを抱っこしてる伊月くんが可愛すぎたんだ」

「そんな……っ」

恥ずかしそうにしながらも抱っこしたままの伊月くんがたまらなく可愛い。

「すみません、この子をお願いします」

「はい。承知しました。あの……」

「はい。なにか?」

「実はこの子は、こっちの子と対になっている子なんですよ。もしよかったらこの子も一緒にお連れになりませんか?」

どうやら寄りかかっていた少し大きめの犬と伊月くんの選んだ犬はペアだったらしい。
それを聞いたら、離れ離れにしてしまうのはかわいそうに思えてくる。なんとなくデカい方は俺に似ている気もするし。引き離すのはかわいそうか……。

「じゃあ、この子もお願いします」

せっかく来たしお守りなら多い方がいいだろう。

「慎一さん、いいんですか?」

「ああ。構わないよ。この二体とも配送してもらっていいかな?」

「あ、そうですよね。まだこの後も出かけるんですもんね」

少し名残惜しそうだったが、そのまま二体とも配送してもらうようにした。俺たちが帰宅する頃には家に届いているだろう。

支払いを済ませ、店を出るとちょうど待ち合わせにいい時間になっていた。
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