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ここはどこ?
ファミレスでの夜勤のバイトを終えた僕、朝比奈斗希は、早く家に帰って身体を休ませようと自宅に向かっていた。バイト先から徒歩二十分の場所にある古い木造アパートの二階。そこが僕の住まい。
僕の年齢より二倍以上前に建てられたアパートの二階に上がる鉄骨の階段は、長年雨晒しになっているせいで錆びてボロボロになっている。すでに穴が空いているところもあって階段を上がるたびに、今にも崩れ落ちそうな音がしてヒヤヒヤする。
そんなアパートだからこそ、ここはワンルームで家賃二万五千円。トイレは共同。ただ、シャワールームだけはかろうじて部屋についていた。壁も薄く隣の声もまる聞こえだけど、東京でこの安さはかなりの破格だろう。
親からの仕送りもなく、大学に奨学金で通って日々の生活をバイト代で充てている僕にとって、不便でもボロくてもこの安さは何よりもありがたかった。
けれど、このアパートもあと二ヶ月後には出ないといけない。
なぜならここが取り壊されることが決まったから。
アパートの大家さんから引越し代は出してもらえるけれど、この家賃のアパートを探そうとしても見つからないだろう。
家庭教師のバイトの数を増やして頑張っていたけれど、さらに少しでもお金を貯めるためにそれに加えて、夜勤のバイトを始めた。仕事がきついという噂のファミレスを選んだのは、賄いが出て食費が節約できるから。
けれど、この生活を始めて一ヶ月。身体はすでに疲労困憊だ。
今日は大学は午後からだから少しでも身体を休ませておこう。
重い身体を引き摺りながら階段を上がる。
ようやく半分を上り終えた時、足の踏み板に穴が開き、僕はそのまま地面へ転落した。
そうして、気がつくとなぜか僕は深い森の中にいた。
地面に叩きつけられた衝撃はしっかり記憶の中にあるのに、どうして僕はこんな場所にいるのだろう。
考えても全くわからない。けれど不思議なことに身体のどこにも怪我はなかった。
これは夢なのか?
でもひどく喉が渇いている。
ファミレスの仕事から帰ってきて、いつも家で麦茶を一杯飲んで寝るのが習慣になっていた。
我慢しようと思えば我慢できないことはない。けれど一度喉の渇きを感じると飲まずにいられなくなった。
どこかに湧き水か、川はないか。
気持ちを奮い立たせて探してみることにした。
森の中を無闇に歩き回るのはよくない。
それはわかっていても、このままここにとどまってもどうしようもなかったからだ。
ここにいる理由もわからない。とりあえずここがどこなのか、手がかりを見つけないとどうしようもない。
耳を澄ませながら森の中を歩いていく。すると微かに人の声らしき音が聞こえた気がした。
緊張しつつ、その声に向かって歩き出す。
どうかいい人であってくれたら……
けれど、そんな期待は無惨にも打ち砕かれた。
僕の足音を獣か何かと勘違いしたんだろう。
猟銃を構えた男が突然目の前に現れた。
「ひぃっ!」
撃たれる!
咄嗟に頭を両手で庇い、その場にしゃがみ込んだ。
けれど、男は猟銃で撃つことはしなかったが、ツカツカと近づいてきて、あっという間に僕の胸ぐらを掴み地面に押し倒した。
怒りの表情で僕を地面に押し付ける。その力が強くて息ができない。
「うぐっ!」
「お前、どこから来た? この国を滅ぼしに来たのか?」
グイグイと力任せに押さえつけられてそんなことを尋ねられても声が出せない。
必死にもがいて、男の腕にしがみつき思いっきり爪を立てる。
「くっ!」
男の力が弱まった隙に体をぐるりと捻って転がるとやっと新鮮な空気が入ってきた。
「ごほっ。ごほっ」
抑えつけられた胸に手を当てて、必死に呼吸を整える。
思いっきり深呼吸を繰り返してようやく息が落ち着いた。
まだ声が出せなかったが、いきなりの暴力を振るってきた男を睨みつけた。
「なんだ? その挑戦的な目は! この私に刃向かうつもりか!」
カッと目を見開いて近づいた男は、もう一度僕の胸ぐらを掴んだ。
「くそっ、この黒髪を見ているだけで虫唾が走る!」
そう吐き捨てると、男は僕を掴み上げたまま森の奥に入っていく。
そして大きな池に僕を投げ捨てた。
お世辞にも綺麗とは言えない水だったけれど、口に入ってきた水を吐き出すことができないほど僕は喉が渇いていた。それを全て飲み干し、大して深くなかったその池の中に立つと、
「お前、殺されたくなかったらすぐに来い!」
と男に呼びつけられた。
全身ずぶ濡れのまま、池から上がる。男は池のそばに生えていた黄色の花を数本むしり取った。
男が何をしたいのか、全くわからない。
だが、男はその花に溜まった蜜のようなものを手のひらにのせるとそれを僕の髪に擦り付けた。
「なっ、やめて! 何するんだ!」
「うるさい! 大人しくしておけ!」
男は時間をかけて僕の髪にそれを擦り付ける。
そして、次に池の周りの泥を僕の顔に擦り付けた。
それらを終えると満足したように僕を放り出した。
「ふっ、これでいい。これでお前は誰からも気づかれない」
男が一体僕に何をしたのかわからないまま、僕は男に両手を後ろ手に縛られた。
「離せ!」
「静かにしておいたほうが身のためだぞ。この森には獰猛な獣たちがウジャウジャいるんだ。もうすぐ日が落ちる。そうなったらお前はここで奴らの餌になるだけだ。ここに置いていかれたくなかったら大人しくするんだな」
男に連れていかれても結局酷い目に遭わされそうな気がする。
けれど森の奥から聞こえてくる恐ろしい声に僕の思考は停止してしまっていた。
僕の年齢より二倍以上前に建てられたアパートの二階に上がる鉄骨の階段は、長年雨晒しになっているせいで錆びてボロボロになっている。すでに穴が空いているところもあって階段を上がるたびに、今にも崩れ落ちそうな音がしてヒヤヒヤする。
そんなアパートだからこそ、ここはワンルームで家賃二万五千円。トイレは共同。ただ、シャワールームだけはかろうじて部屋についていた。壁も薄く隣の声もまる聞こえだけど、東京でこの安さはかなりの破格だろう。
親からの仕送りもなく、大学に奨学金で通って日々の生活をバイト代で充てている僕にとって、不便でもボロくてもこの安さは何よりもありがたかった。
けれど、このアパートもあと二ヶ月後には出ないといけない。
なぜならここが取り壊されることが決まったから。
アパートの大家さんから引越し代は出してもらえるけれど、この家賃のアパートを探そうとしても見つからないだろう。
家庭教師のバイトの数を増やして頑張っていたけれど、さらに少しでもお金を貯めるためにそれに加えて、夜勤のバイトを始めた。仕事がきついという噂のファミレスを選んだのは、賄いが出て食費が節約できるから。
けれど、この生活を始めて一ヶ月。身体はすでに疲労困憊だ。
今日は大学は午後からだから少しでも身体を休ませておこう。
重い身体を引き摺りながら階段を上がる。
ようやく半分を上り終えた時、足の踏み板に穴が開き、僕はそのまま地面へ転落した。
そうして、気がつくとなぜか僕は深い森の中にいた。
地面に叩きつけられた衝撃はしっかり記憶の中にあるのに、どうして僕はこんな場所にいるのだろう。
考えても全くわからない。けれど不思議なことに身体のどこにも怪我はなかった。
これは夢なのか?
でもひどく喉が渇いている。
ファミレスの仕事から帰ってきて、いつも家で麦茶を一杯飲んで寝るのが習慣になっていた。
我慢しようと思えば我慢できないことはない。けれど一度喉の渇きを感じると飲まずにいられなくなった。
どこかに湧き水か、川はないか。
気持ちを奮い立たせて探してみることにした。
森の中を無闇に歩き回るのはよくない。
それはわかっていても、このままここにとどまってもどうしようもなかったからだ。
ここにいる理由もわからない。とりあえずここがどこなのか、手がかりを見つけないとどうしようもない。
耳を澄ませながら森の中を歩いていく。すると微かに人の声らしき音が聞こえた気がした。
緊張しつつ、その声に向かって歩き出す。
どうかいい人であってくれたら……
けれど、そんな期待は無惨にも打ち砕かれた。
僕の足音を獣か何かと勘違いしたんだろう。
猟銃を構えた男が突然目の前に現れた。
「ひぃっ!」
撃たれる!
咄嗟に頭を両手で庇い、その場にしゃがみ込んだ。
けれど、男は猟銃で撃つことはしなかったが、ツカツカと近づいてきて、あっという間に僕の胸ぐらを掴み地面に押し倒した。
怒りの表情で僕を地面に押し付ける。その力が強くて息ができない。
「うぐっ!」
「お前、どこから来た? この国を滅ぼしに来たのか?」
グイグイと力任せに押さえつけられてそんなことを尋ねられても声が出せない。
必死にもがいて、男の腕にしがみつき思いっきり爪を立てる。
「くっ!」
男の力が弱まった隙に体をぐるりと捻って転がるとやっと新鮮な空気が入ってきた。
「ごほっ。ごほっ」
抑えつけられた胸に手を当てて、必死に呼吸を整える。
思いっきり深呼吸を繰り返してようやく息が落ち着いた。
まだ声が出せなかったが、いきなりの暴力を振るってきた男を睨みつけた。
「なんだ? その挑戦的な目は! この私に刃向かうつもりか!」
カッと目を見開いて近づいた男は、もう一度僕の胸ぐらを掴んだ。
「くそっ、この黒髪を見ているだけで虫唾が走る!」
そう吐き捨てると、男は僕を掴み上げたまま森の奥に入っていく。
そして大きな池に僕を投げ捨てた。
お世辞にも綺麗とは言えない水だったけれど、口に入ってきた水を吐き出すことができないほど僕は喉が渇いていた。それを全て飲み干し、大して深くなかったその池の中に立つと、
「お前、殺されたくなかったらすぐに来い!」
と男に呼びつけられた。
全身ずぶ濡れのまま、池から上がる。男は池のそばに生えていた黄色の花を数本むしり取った。
男が何をしたいのか、全くわからない。
だが、男はその花に溜まった蜜のようなものを手のひらにのせるとそれを僕の髪に擦り付けた。
「なっ、やめて! 何するんだ!」
「うるさい! 大人しくしておけ!」
男は時間をかけて僕の髪にそれを擦り付ける。
そして、次に池の周りの泥を僕の顔に擦り付けた。
それらを終えると満足したように僕を放り出した。
「ふっ、これでいい。これでお前は誰からも気づかれない」
男が一体僕に何をしたのかわからないまま、僕は男に両手を後ろ手に縛られた。
「離せ!」
「静かにしておいたほうが身のためだぞ。この森には獰猛な獣たちがウジャウジャいるんだ。もうすぐ日が落ちる。そうなったらお前はここで奴らの餌になるだけだ。ここに置いていかれたくなかったら大人しくするんだな」
男に連れていかれても結局酷い目に遭わされそうな気がする。
けれど森の奥から聞こえてくる恐ろしい声に僕の思考は停止してしまっていた。
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