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優しさを誓いに変えて
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寝室を出てこられた旦那様にクラウス殿は怒りの声をぶつけそうになっていたが、私はさっとそれを制した。
旦那様のあの表情を見る限り、後悔なさっているのがありありと伝わってきたからだ。
私は医師として、旦那様をこれ以上追い詰めるわけにはいかなかった。
「旦那様。少し、お話を宜しいでしょうか?」
旦那様からの返事はなかった。
だが、逃げる気がないことはわかる。それで十分だ。
旦那様は壁に背を預けたまま俯いていた。
先ほどまでの焦燥感と混乱は薄れていたが、代わりに強い自己嫌悪が滲んでいる。
「まず、トキ様の容態ですが……」
医師として淡々と話をする。
ここに感情を含めてはいけない。
それは旦那様の傷口を広げてしまう。
「命に別状はありません。先ほどの薬は即効性がありますので熱もすぐに落ち着くでしょう」
私の言葉に、旦那様の肩が僅かに落ちた。
少し安堵なさったのだろう。
「……そうか。よかった」
「ですが……」
私は一歩、旦那様に距離を詰めた。
「無事であったことと、正しかったことは別の話です」
追い詰めたくはないが、二度とこの過ちを繰り返さないためにもはっきりと伝える必要がある。
旦那様もそれがわかっているのだろう。反論はない。
「フィリグランの身体は我々とは違います。その上、まだ万全でないトキ様には心にも身体にも大きな負担がかかります。それはずっとお世話をなさってきた旦那様が誰よりもご存知のはず」
旦那様は小さく頷く。
私は医師として、これだけは伝えておきたい。
「私は、旦那様を責めたいわけではありません。ですが、愛している相手だからこそ抑えなければいけないのです。今夜、その一線を越えかけました。次はありません。どうか、トキ様をしっかりとお守りください」
私の言葉に、しばし沈黙が続いた。
そして、低く、掠れた声が返ってくる。
「……わかった」
その返事だけで十分だった。
「旦那様。後悔は、二度と繰り返さないためにあります。私は旦那様の味方です。ですが、トキ様の味方でもあります。もし、次にトキ様を傷つけるようなことはあれば、私は容赦しません」
医師としての言葉はしっかりと伝えた。
旦那様がそれをわかってくださればそれでいい。
私はそれだけ告げると、クラウス殿と一緒に部屋を出た。
あとは旦那様にお任せしよう。
<sideエリアス>
扉が静かに閉まる音を背に、私はその場からしばらく動けずにいた。
指先に、まだトキの熱が残っている気がして、無意識に握り締める。
「……馬鹿なことをした」
喉の奥で、ようやく言葉になる。
誰に聞かせるでもない、自分自身への断罪だ。
最初は、ただ触れているだけでよかった。
腕の中にいることを確かめて、体温を分け合って、それだけで満たされていたはずなのに。
欲が、トキを求める欲が理性を押し除けた。
ずっとこの日を待ち侘びて、抑え込んできた。
婚姻という名の許しを得た途端、堰を切ったように溢れ出した。
「優しくすると言ったのに……」
ベッドに横たわるトキの寝顔は、先ほどよりも穏やかだ。
ロジェリオの薬が効いてきたのだろう。
その事実に安堵する一方で、胸の奥が締め付けられる。
もし、ベルが鳴らなかったら。
もし、誰も来なかったら。
考えるだけで背筋が冷える。
取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
私はそっと膝をつき、トキの手を取った。
白く、細く、簡単に折れてしまいそうな指。
「……こんなに小さな身体に私はなんてことを」
眠っていると分かっていても、声は震えた。
謝罪は、まだ許されない気がして、ただ額をその手に押し当てる。
愛している。
誰よりも、トキのことを大切だと思っているのに。
それなのに、欲望が勝ってしまった。
次に目を覚ましたとき、トキはどんな顔をするだろう。
私を見て怯えたら……?
それでも、受け止めなければならない。
それが、私が背負うべき代償だ。
「……もう二度と、こんな思いはさせない」
誓うように呟き、私はトキの手を胸に引き寄せた。
夜は、まだ終わっていない。
だが、この先は己の欲ではなく、トキを見守る時間だ。
私は愛しいトキの横に身体を滑り込ませ、抱きしめて目を閉じた。
<side斗希>
「ん……」
目を開けると、エリアスさんに抱きしめられていた。
いつもの安心する匂いがする。
自分からも抱きつこうとして、身体中に痛みが走った。
「……った」
「トキ、無理しないでいい」
「え、りあすさん……ぼく……どうして?」
「昨日のことを覚えているか?」
そう尋ねられて、一気に記憶が甦った。
「あっ……」
国王さまに挨拶に行って、夫夫と認められたこと。
そして帰ってきて、エリアスさんと夫夫の儀式をしたこと。
「ぼく、えりあすさんの、つまになれたんですね……うれしい」
あのとき、無我夢中だったけれど、何度もエリアスさんが僕に愛の言葉を伝えてくれたのを覚えてる。
身体は痛いけど、胸の奥はぽかぽかしている。
「……トキ。どうして、そんなに優しいんだ……」
「えっ?」
僕が幸せでいっぱいの中、なぜかエリアスさんは目に涙を潤ませていた。
旦那様のあの表情を見る限り、後悔なさっているのがありありと伝わってきたからだ。
私は医師として、旦那様をこれ以上追い詰めるわけにはいかなかった。
「旦那様。少し、お話を宜しいでしょうか?」
旦那様からの返事はなかった。
だが、逃げる気がないことはわかる。それで十分だ。
旦那様は壁に背を預けたまま俯いていた。
先ほどまでの焦燥感と混乱は薄れていたが、代わりに強い自己嫌悪が滲んでいる。
「まず、トキ様の容態ですが……」
医師として淡々と話をする。
ここに感情を含めてはいけない。
それは旦那様の傷口を広げてしまう。
「命に別状はありません。先ほどの薬は即効性がありますので熱もすぐに落ち着くでしょう」
私の言葉に、旦那様の肩が僅かに落ちた。
少し安堵なさったのだろう。
「……そうか。よかった」
「ですが……」
私は一歩、旦那様に距離を詰めた。
「無事であったことと、正しかったことは別の話です」
追い詰めたくはないが、二度とこの過ちを繰り返さないためにもはっきりと伝える必要がある。
旦那様もそれがわかっているのだろう。反論はない。
「フィリグランの身体は我々とは違います。その上、まだ万全でないトキ様には心にも身体にも大きな負担がかかります。それはずっとお世話をなさってきた旦那様が誰よりもご存知のはず」
旦那様は小さく頷く。
私は医師として、これだけは伝えておきたい。
「私は、旦那様を責めたいわけではありません。ですが、愛している相手だからこそ抑えなければいけないのです。今夜、その一線を越えかけました。次はありません。どうか、トキ様をしっかりとお守りください」
私の言葉に、しばし沈黙が続いた。
そして、低く、掠れた声が返ってくる。
「……わかった」
その返事だけで十分だった。
「旦那様。後悔は、二度と繰り返さないためにあります。私は旦那様の味方です。ですが、トキ様の味方でもあります。もし、次にトキ様を傷つけるようなことはあれば、私は容赦しません」
医師としての言葉はしっかりと伝えた。
旦那様がそれをわかってくださればそれでいい。
私はそれだけ告げると、クラウス殿と一緒に部屋を出た。
あとは旦那様にお任せしよう。
<sideエリアス>
扉が静かに閉まる音を背に、私はその場からしばらく動けずにいた。
指先に、まだトキの熱が残っている気がして、無意識に握り締める。
「……馬鹿なことをした」
喉の奥で、ようやく言葉になる。
誰に聞かせるでもない、自分自身への断罪だ。
最初は、ただ触れているだけでよかった。
腕の中にいることを確かめて、体温を分け合って、それだけで満たされていたはずなのに。
欲が、トキを求める欲が理性を押し除けた。
ずっとこの日を待ち侘びて、抑え込んできた。
婚姻という名の許しを得た途端、堰を切ったように溢れ出した。
「優しくすると言ったのに……」
ベッドに横たわるトキの寝顔は、先ほどよりも穏やかだ。
ロジェリオの薬が効いてきたのだろう。
その事実に安堵する一方で、胸の奥が締め付けられる。
もし、ベルが鳴らなかったら。
もし、誰も来なかったら。
考えるだけで背筋が冷える。
取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
私はそっと膝をつき、トキの手を取った。
白く、細く、簡単に折れてしまいそうな指。
「……こんなに小さな身体に私はなんてことを」
眠っていると分かっていても、声は震えた。
謝罪は、まだ許されない気がして、ただ額をその手に押し当てる。
愛している。
誰よりも、トキのことを大切だと思っているのに。
それなのに、欲望が勝ってしまった。
次に目を覚ましたとき、トキはどんな顔をするだろう。
私を見て怯えたら……?
それでも、受け止めなければならない。
それが、私が背負うべき代償だ。
「……もう二度と、こんな思いはさせない」
誓うように呟き、私はトキの手を胸に引き寄せた。
夜は、まだ終わっていない。
だが、この先は己の欲ではなく、トキを見守る時間だ。
私は愛しいトキの横に身体を滑り込ませ、抱きしめて目を閉じた。
<side斗希>
「ん……」
目を開けると、エリアスさんに抱きしめられていた。
いつもの安心する匂いがする。
自分からも抱きつこうとして、身体中に痛みが走った。
「……った」
「トキ、無理しないでいい」
「え、りあすさん……ぼく……どうして?」
「昨日のことを覚えているか?」
そう尋ねられて、一気に記憶が甦った。
「あっ……」
国王さまに挨拶に行って、夫夫と認められたこと。
そして帰ってきて、エリアスさんと夫夫の儀式をしたこと。
「ぼく、えりあすさんの、つまになれたんですね……うれしい」
あのとき、無我夢中だったけれど、何度もエリアスさんが僕に愛の言葉を伝えてくれたのを覚えてる。
身体は痛いけど、胸の奥はぽかぽかしている。
「……トキ。どうして、そんなに優しいんだ……」
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