婚約者である侯爵令嬢に浮気されて傷心の僕を癒してくれたのは××でした

波木真帆

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思いがけない展開

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それから数日のうちに僕とビアンカの婚約は正式に破棄され、ビアンカは侯爵家から離籍され平民落ちとなっただけでなく、バートン侯爵が肩代わりして我が家に払った多額の慰謝料をビアンカの力で返すべく、強制労働に行かされたと聞いた。
けれど、強制労働での収入を慰謝料返済に費やしても、おそらく数十年はかかるだろう金額だ。それが終わるまで強制労働から逃れる術はないのだから、かなり重い罰と言えるだろう。

本来なら侯爵令嬢から平民に落ちるだけでもかなりの罰だが、慰謝料まで返済させるなんてかなり厳しい。ハロルドさまから少しの慈悲もなかったところを見ると、怒りは凄まじかったのだろうということが窺えた。

それだけ、ハロルドさまは僕に申し訳ないと思ってくれたのだろう。でも、ビアンカが平民落ちして強制労働に行かされても僕の心が晴れるわけではない。この数ヶ月、本当に充実した日々を過ごしていただけに、ここに帰ってきて何もすることがなく、ただただ塞ぎ込む毎日。

父上からはあの男の家であるヴェセリー子爵家からも婚約破棄の原因となった責任として慰謝料が届いたときいた。そして、男も慰謝料の支払いのために強制労働に行かされたようだ。もちろん、ビアンカとは別の場所だ。

だが、もうあの二人のことはどうでもいい。思い出すのは、ハロルドさまとの楽しい時間。本当に有意義な時間だった。

はぁーーっ。

もう何度ため息をついたかしれやしない。
もうハロルドさまと一緒に過ごすこともできないなんて……これから僕は何を楽しみに生きていけば良いのだろう。こんなことなら、ビアンカに浮気をされたままでも良いからハロルドさまのおそばにいられる選択をすればよかった……。

そんな考えまで浮かぶ始末。

こう思っている時点で、僕がビアンカを愛していなかったことは明白だな。もしかしたら、ビアンカにもそれが伝わっていたのかもしれない。

そんなことを思っていると、突然部屋の扉がノックされた。

「アランさま、お客様がお越しでございます」

「ごめん。今は誰にも会う気になれなくて……申し訳ないんだけどことわ――」
「アラン! 私だ、ハロルドだ! ここを開けてくれないか?」

えっ? 今、なんて?

まさか……。

「頼む、アランと話がしたいのだ。ここを開けてくれないか?」

信じられないけれど、どうしても声はハロルドさまだ。

慌てて扉を開けると、

「ああっ! アランっ!」

ハロルドさまの胸にギュッと抱きしめられた。

「は、ろるど、さま……どう、して……」

もう会えないと思っていたのに。どうしてここに?

「アランに会いにきたのだ。ああ、こんなに目を腫らして……。食事をとっていないのか? すごく痩せているじゃないか」

「食、欲がなくて……」

ハロルドさまは僕を抱きかかえると、

「少し二人で話をするから」

と執事にいい、そのまま僕の部屋に入った。

僕の部屋にハロルドさまがいる。その不思議な状況に目が慣れない。しかもハロルドさまに抱きかかえられたままでいるなんて……。

「あ、あの……ハロルドさま、どうして……」

「話をしにきたと言ったろう? アランに大切な話があるのだ」

「あの、僕、ビアンカのことならもう……」

今、自分でもビアンカを愛していないと気づいたばかりだ。今さらビアンカとのことを思い直すつもりもないし、許す許さない以前の問題だからどうでもいい。

けれど、

「違う。私のことだ」

と想像していない言葉が出てきて驚きしかない。

「えっ? ハロルド、さまの?」

「ああ。アラン……君は私のことをどう思っている?」

「どう、って……それはどういう意味ですか?」

「恋愛相手として見れないか?」

「れ、恋愛?」

ど、どういう意味? ハロルドさまと恋愛ってこと?

「そうだ。私はアランと一緒に時を過ごすうちに、娘の婿としてではなく、一人の男としてアランを見ていた。アランのことを特別な存在だと思っていたんだ。けれど、あくまでもアランは娘の夫となる身。だから、私は自分の思いを押し殺して一生伝えず、ビアンカとアランの仲を見守るつもりでいた。だが、ビアンカはアランを裏切ってあのようなことをしでかしてしまった。そのことは本当に申し訳ないと思っている」

「ハロルドさま……」

「だが、もうビアンカのことを考えなくて良いのだから、私は自分の思いをぶつけたいと思ったのだ。もし、アランが同じように私のことを思ってくれるのなら、私はアランを伴侶として迎えたい」

「えっ……ぼ、僕が……ハロルドさまの伴侶? そんなこと……」

「アラン……私のことが嫌いか?」

「嫌いだなんてそんなっ! 僕はここに帰ってからずっとハロルドさまにお会いできなくなったことが辛くて寂しくて、ハロルドさまのことばかり考えていました……」

「本当か? ならば、私のことを?」

「でも、僕がハロルドさまの伴侶だなんて許されるはずがないです……」

「なぜだ? 好きなもの同士ならそれでいいじゃないか」

「でも……僕では後継を作ることはできませんよ。そんなこと許されません……」

どんなにハロルドさまと一緒にいたくても、僕では侯爵家の後継は作れない。そのせいでバートン侯爵家が終わってしまうようなことになったら僕は一生後悔するだろう。ハロルドさまだって公爵家を無くしてしまうことは望んではいないはずだ。

「ああ、それなら心配はいらない」

「えっ? それはどういう意味ですか?」

「つい先日、私の弟のところに3人目の男子が生まれた。弟と話をして、その子を後継にする約束を取り付けてある。だからアランを伴侶にしても問題はない」

「弟さんの子どもを……それでハロルドさまはよろしいのですか?」

「アランを伴侶にできるのなら、たいしたことではない。それよりアランの懸念が後継のことならもう問題は無くなっただろう? ならば、私との結婚を受け入れてくれるか?」

そんなことって……僕に都合が良すぎて……。本当にいいの? 僕がハロルドさまの伴侶になっていいの?

「本当に、僕でいいんですか?」

「違う! アランがいいんだ。アラン以外は考えられない」

「ハロルドさま……」

「アラン、返事を聞かせてくれ。私の伴侶になってくれるか?」

「……はい。喜んで」

「ああ、アラン! それではすぐにオルドリッチ伯爵と話をするとしよう」

父上よりも年上なハロルドさまとの婚姻に流石に驚いていたけれど、僕がハロルドさまを愛していると言うと、反対はしなかった。父上にしてみれば、僕が侯爵家に入れるのなら、ビアンカの夫になるのも、ハロルドさまの伴侶になるのもあまり変わりはなかったようだ。

もちろん、ハロルドさまの親戚その他からも反対が出なかったこともあって、僕たちはすぐに結婚式を挙げた。
ビアンカとの結婚式のためにしていた準備が無駄にならずにすんでよかった。
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