南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

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西表島へ

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借りていたレンタカーを返して離島ターミナルへと向かうと、すぐに西表島行きの船がやってきた。

「伊織さん、こちらです」

いそいそと私を船へと案内してくれる悠真がまるで私の秘書のように見えてくる。
ああ、いっそのこと彼が本当に私の秘書になってくれたら仕事も捗るのだがな。

K.Yリゾートの仕事をあんなにも楽しそうに話してくれていた悠真に辞めてくれとは絶対に言えないから仕方がない。
私がこっちにくればいいだけの話なのだから、悠真の迷惑には絶対にならないようにしなければな。

石垣から西表までは船で小一時間。
激しい揺れもなく、悠真と話をしているとあっという間に西表の港へと到着した。

同じ離島とはいえ、やはり西表は空気が違う気がする。
初めての地に愛しい人と降り立つことができるのを幸せに感じながら、私は悠真に案内されながらタクシー乗り場へと向かった。

K.Yリゾートまではここから車でそんなにはかからないようだ。
2人でタクシーに乗り込むと運転手が気軽に話しかけてきた。

えーあっ、砂川さん、出張ね?」

「はい。そうなんです。今回は石垣に」

「そっちのイケメンは新入社員?」

「いえ、こちらの方は――」
「初めまして。この度K.Yリゾートさんの顧問弁護士を委託されました安慶名と申します」

「べ、弁護士さん? はぁーっ、すごい。ここに住んで長いけど弁護士さんは初めて見たよ。
こんなにイケメンな上に弁護士さんね?! いやぁー、これで砂川さんも安心だねぇ」

「えっ……いえいえ、そんなことは……」

あまりにも気さくに悠真に声をかける運転手に大人げなく嫉妬してしまったけれど、相手は何も気にするどころか私を褒めてくれて逆に驚かされてしまった。
そうか、いつも礼儀正しくて優しい悠真はきっと、恋愛感情とかそういう意味ではなくてこの島の方に愛されているんだな。

嫉妬する方が恥ずかしかったな。

「K.Yリゾートさんは砂川さんはもちろん、社長さんもかなりのイケメンさんだからね。やっぱりイケメンさんが集まるのかね? 安慶名さんが西表に来るようになったらまたうちの母ちゃんが喜びそうだよ」

運転手は尚も話し続けて、ずっと私たちのことをイケメン、イケメンと言って騒いでいたが不思議と嫌な気持ちには全くならなかった。

これが島の人たちの優しさか。
こうやって島の人たちに歓迎されて島民として認められるんだろうな。

会社の前でタクシーを降りると、かなり大きな会社に驚いた。
離島の観光ツアー会社だからそこまでではないだろうと勝手に思っていたが、ここでこの規模の会社か……。
改めて倉橋さんの手腕に驚かされる。

「伊織さん、さぁどうぞ」

案内され、中に入ると

「安慶名さん、お越しいただきありがとうございます」

と奥から声をかけられた。

えっ? この声は……とそちらに目を向けると、そこには倉橋さんの姿があった。

「えっ? 倉橋さん! 倉橋さんも西表に来られていたんですか?」

実は悠真は知っていて隠していたのかと思ったが、悠真も目を丸くして驚いている。
どうやら倉橋さんは悠真にも告げずにこちらにきていたようだ。

「実は昨日砂川から連絡をもらった時、私は沖縄本島にいたんですよ」

「社長! 私、そんな話聞いてませんよ」

悠真が少し焦っている。
たった今まで私の悠真だったはずなのに、倉橋さんと出会った途端に倉橋さんの悠真になってしまったようなそんな喪失感に襲われる。

「ああ、急に決まったんだ。浅香が本島にイリゼの新ホテルを予定していてね、その場所にいいところが見つかったものだから、一緒に見に来て欲しいと頼まれて急遽沖縄に飛んだんだ」

「そうでしたか。浅香さんの……。それでは社長をわざわざこちらにお呼びだてすることになってしまって……申し訳ございません」

「社員の一大事だ。社長として当然のことだからそこは気にしなくていい」

「ありがとうございます」

やはり2人の間には私が入り込めないようなそんな雰囲気が漂っている。
悠真の気持ちを疑うことは全くないが、倉橋さんの気持ちはどうなのだろう。

「改めまして、安慶名さん。こんな遠くまでお越しいただきありがとうございます」

「いえ、ここに来るまでの間に素晴らしい自然はもうすでに堪能していますし、島民の方も気さくで倉橋さんがこちらに会社をおつくりになったのもわかる気がします」

「ふふっ。運転手さんですか? 私もここに来たばかりの頃は離島のコミュニティにうまく入れるか心配だったんですがね、西表という土地柄、自然の美しさに魅せられて移住してくる人も結構多いので、よその離島よりは懐が広い方が多いみたいですよ」

「なるほど。確かにそうかもしれませんね」

「会社の中とそれからご存じかもしれませんが私の所有する無人島にご案内いたしましょう」

「えっ? あそこに行けるのですか?」

「ええ。時期的に少し早いかもしれませんが、運が良ければ見られるかもしれません」

「楽しみですね」

そのまま私は倉橋さんに会社内を案内されることとなった。
悠真は社長である倉橋さんが直々に案内するのに自分がついて行っては迷惑だろうと私を倉橋さんに任せ、通常業務へと戻ってしまい2人だけの時間は唐突に終わりを迎えてしまった。

ひとしきり会社内を案内され、最後に社長室へと招き入れられた。

「お見せいただいた今までの契約書や従業員との雇用契約、就業規則や事業計画に関しても全く非の打ちどころがないですね。特にクレームやトラブルなどもなかったようですし今までの顧問弁護士さんはよほど優秀だったと見えます」

「以前の方は私の父の知り合いでしてね、すごくよくしていただいていたので海外に行かれると聞かされた時は愕然としましたよ。ですが、安慶名さんにお引き受けいただけるのであれば、これ以上心強いことはありませんよ。安慶名さんになら会社経営についてもいい助言をいただけそうですし」

「そう仰っていただけて光栄です。是非ともお引き受けさせていただきます」

「本当ですか? ああ、よかった。安慶名さんに断られたら困ることになると思っていましたよ」

そう言って笑顔を見せる倉橋さんを見ながら、本当に彼は経営者として素晴らしい資質の持ち主だと感じていた。
人当たりもよく交友関係は広いが、人を見極める力は素晴らしく備わっていて彼がYESと判断したものは確実にいい結果を生み出し、逆にNOと判断し彼が手を引いたものは必ず破綻する。

やはり彼には経営者として天性の才能があるといえる。
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