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番外編
最後の挨拶
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同窓会の翌日。
安慶名家のお墓参りに行ったお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
四月上旬、沖縄本島では晴明祭と呼ばれる行事があり、先祖のお墓参りを行う。
以前から悠真を祖父たちが眠るお墓に案内して、私の伴侶だと紹介しようと思っていたが、普段は離島と東京を行ったり来たりする生活で本島にはなかなか足を運ぶ機会がなく、それを実現できずにいた。
ところが三月某日、悠真が同窓会で本島に行くことになり、私もこっそり参加するためについていった。
その時に倉橋さんに協力を頼んだついでに、同窓会の日も含めて連休をもらうことができた。
そういうわけで晴明祭には少し早いが、悠真といっしょに安慶名家の墓に向かった。
「うわぁ、やっぱり本島のお墓も大きいですね」
「ええ。ここは門中墓なので特に大きいかもしれませんね」
門中墓とは父方の血族とその妻が入る墓のことで、この墓にはその始まりがいつかわからないほどたくさんの骨が納められている。
「伊織さんのお父さんは長男だったんですね」
門中墓に入れるのは、墓を受け継ぐ嫡男とその妻。そして、独身の息子のみ。
結婚し独立した次男以下のものはまた新たにお墓を作る必要がある。
悠真はそれを知っているから、私の父が長男だとわかったのだろう。
「ええ、でも近々このお墓は墓じまいするつもりです。だから、その前に悠真を連れてくることができてよかったです」
「えっ? 墓じまい、されるんですか?」
これだけ大きな墓だ。悠真が驚くのも無理はない。
でも私にはどうしても墓じまいをしなければいけない理由がある。
「ええ、これがあるうちは、もし何かあっても悠真と一緒のお墓に入れませんから」
私の言葉に悠真はハッとした表情を見せた。
この門中墓に入れるのは嫡男とその妻。
私にとって伴侶と呼べるのは悠真でしかありえないが、この墓には悠真を入れることはできない。
こんなことを言えば、自分のせいでこの安慶名家の墓じまいをさせることになったのかと悠真は責任を感じるかもしれない。でもそれは違う。
「悠真。よく聞いてください。これは私のためなんです」
「えっ……伊織さんの?」
「ええっ。私は自分の命が尽きた後でも悠真と共にありたい。もっと言うなれば、私たちの他に誰にも入ってほしくない。私は悠真と二人だけの墓に入りたいんです。そのために、この墓は終えることにしたんです。この墓は大きすぎて私以外の誰も継承したいと思っていないようでしたから」
本当なら私が責任を持って継承しなければいけなかったものだが、全ては私のわがままだ。それでも、この願いは諦めるわけにはいかない。
「悠真、きっと宮古島のご実家にも代々のお墓があるでしょう。でもどうか、私と二人だけのお墓に入ってください」
「伊織さん……」
私と同じ長男である悠真にもきっと重荷を背負わせる。
それでもこれだけは諦めきれない。
自分の命が尽きた時、離れ離れなんて絶対に嫌だ。
門中墓の前で悠真を抱きしめると、悠真も私の背中に腕を回してくれた。
「私もずっと伊織さんと一緒がいいです。二人だけのお墓に入りましょう」
悠真のその言葉が何よりも嬉しい。
私は我慢しきれず、そのまま悠真と唇を重ねた。
重ねるだけのキスだが、それでも私がどれだけ悠真を愛しているか、この墓に眠る祖父母や両親にはわかってもらえただろう。
「私に悠真のような素敵な伴侶ができて、祖父母も両親もみんな喜んでくれていますよ」
悠真は私からそっと離れると、お墓に向かってしゃがみ込み、手を合わせた。
「伊織さんをこの世に誕生させてくださったご先祖さま。そして、伊織さんを大切に育ててくださったお祖父さま。私が伊織さんのような素敵な方と出会えたのも皆さまのおかげです。これからも、そして命を終えても伊織さんと幸せであると誓います。どうか見守ってください」
悠真がこの墓に眠る御先祖たちに敬意を持って挨拶をしてくれて、私は嬉しい。
お祖父さん、お祖母さん。そして両親。
私はこの世にたった一人だけの愛する人と出会いました。
この人と共に幸せになるために、私のわがままをどうか許してください。
悠真の隣に座り、手を合わせると風がするりと私たちの間を抜けて行った。
――伊織、幸せになりなさい。悠真くんと幸せに……
そんな声が私の耳に聞こえた気がした。
「今、何か……」
「えっ? 悠真も聞こえたんですか?」
「ええ、とっても優しい声で幸せに……って聞こえた気が……」
あの声はきっと祖父だ。
祖父が私たちに最後の言葉を言いにきてくれたんだろう。
「皆が祝福してくれた証ですね」
私の言葉に、悠真はこの上ない笑顔を見せてくれた。
安慶名家のお墓参りに行ったお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
四月上旬、沖縄本島では晴明祭と呼ばれる行事があり、先祖のお墓参りを行う。
以前から悠真を祖父たちが眠るお墓に案内して、私の伴侶だと紹介しようと思っていたが、普段は離島と東京を行ったり来たりする生活で本島にはなかなか足を運ぶ機会がなく、それを実現できずにいた。
ところが三月某日、悠真が同窓会で本島に行くことになり、私もこっそり参加するためについていった。
その時に倉橋さんに協力を頼んだついでに、同窓会の日も含めて連休をもらうことができた。
そういうわけで晴明祭には少し早いが、悠真といっしょに安慶名家の墓に向かった。
「うわぁ、やっぱり本島のお墓も大きいですね」
「ええ。ここは門中墓なので特に大きいかもしれませんね」
門中墓とは父方の血族とその妻が入る墓のことで、この墓にはその始まりがいつかわからないほどたくさんの骨が納められている。
「伊織さんのお父さんは長男だったんですね」
門中墓に入れるのは、墓を受け継ぐ嫡男とその妻。そして、独身の息子のみ。
結婚し独立した次男以下のものはまた新たにお墓を作る必要がある。
悠真はそれを知っているから、私の父が長男だとわかったのだろう。
「ええ、でも近々このお墓は墓じまいするつもりです。だから、その前に悠真を連れてくることができてよかったです」
「えっ? 墓じまい、されるんですか?」
これだけ大きな墓だ。悠真が驚くのも無理はない。
でも私にはどうしても墓じまいをしなければいけない理由がある。
「ええ、これがあるうちは、もし何かあっても悠真と一緒のお墓に入れませんから」
私の言葉に悠真はハッとした表情を見せた。
この門中墓に入れるのは嫡男とその妻。
私にとって伴侶と呼べるのは悠真でしかありえないが、この墓には悠真を入れることはできない。
こんなことを言えば、自分のせいでこの安慶名家の墓じまいをさせることになったのかと悠真は責任を感じるかもしれない。でもそれは違う。
「悠真。よく聞いてください。これは私のためなんです」
「えっ……伊織さんの?」
「ええっ。私は自分の命が尽きた後でも悠真と共にありたい。もっと言うなれば、私たちの他に誰にも入ってほしくない。私は悠真と二人だけの墓に入りたいんです。そのために、この墓は終えることにしたんです。この墓は大きすぎて私以外の誰も継承したいと思っていないようでしたから」
本当なら私が責任を持って継承しなければいけなかったものだが、全ては私のわがままだ。それでも、この願いは諦めるわけにはいかない。
「悠真、きっと宮古島のご実家にも代々のお墓があるでしょう。でもどうか、私と二人だけのお墓に入ってください」
「伊織さん……」
私と同じ長男である悠真にもきっと重荷を背負わせる。
それでもこれだけは諦めきれない。
自分の命が尽きた時、離れ離れなんて絶対に嫌だ。
門中墓の前で悠真を抱きしめると、悠真も私の背中に腕を回してくれた。
「私もずっと伊織さんと一緒がいいです。二人だけのお墓に入りましょう」
悠真のその言葉が何よりも嬉しい。
私は我慢しきれず、そのまま悠真と唇を重ねた。
重ねるだけのキスだが、それでも私がどれだけ悠真を愛しているか、この墓に眠る祖父母や両親にはわかってもらえただろう。
「私に悠真のような素敵な伴侶ができて、祖父母も両親もみんな喜んでくれていますよ」
悠真は私からそっと離れると、お墓に向かってしゃがみ込み、手を合わせた。
「伊織さんをこの世に誕生させてくださったご先祖さま。そして、伊織さんを大切に育ててくださったお祖父さま。私が伊織さんのような素敵な方と出会えたのも皆さまのおかげです。これからも、そして命を終えても伊織さんと幸せであると誓います。どうか見守ってください」
悠真がこの墓に眠る御先祖たちに敬意を持って挨拶をしてくれて、私は嬉しい。
お祖父さん、お祖母さん。そして両親。
私はこの世にたった一人だけの愛する人と出会いました。
この人と共に幸せになるために、私のわがままをどうか許してください。
悠真の隣に座り、手を合わせると風がするりと私たちの間を抜けて行った。
――伊織、幸せになりなさい。悠真くんと幸せに……
そんな声が私の耳に聞こえた気がした。
「今、何か……」
「えっ? 悠真も聞こえたんですか?」
「ええ、とっても優しい声で幸せに……って聞こえた気が……」
あの声はきっと祖父だ。
祖父が私たちに最後の言葉を言いにきてくれたんだろう。
「皆が祝福してくれた証ですね」
私の言葉に、悠真はこの上ない笑顔を見せてくれた。
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