南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

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番外編

楽しい夜  <中編>

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「今日はワインとお肉、ごちそうさまでした」

「いや、こちらこそ美味しい夕食をありがとう。ではまた休み明けに」

夜の散歩を楽しみながら帰るという二人を見送り、私は悠真の手をとって家の中に入った。

「藤乃くんと楽しそうに話してましたね」

「伊織さんもでしょう? 社長となんだか楽しそうでしたよ」

あの薬をもらうところは見られていないようだが、少し近づいて話をしていたのには気づかれていたようだ。

「ステーキ肉を焼くときに使った鉄板、倉橋さんの開発したものだったでしょう? しばらく経ってからも味に変化はないか確かめるために今日あのお肉を持ってきてくれたんですよ」

悠真にあの薬のことを知られないための話だが、これは嘘ではない。
実際にあのキッチンに設置したステーキなどを焼くための鉄板は倉橋さんに依頼して作ってもらったものだ。
ただ今日来たのはその味を確かめにきたわけでないから半分嘘だが、本当の話に嘘を織り交ぜると嘘だとバレることはほとんどない。

「ああ、そうだったんですか。でも伊織さんが作ってくれるのものはいつでも美味しいから変化は感じないですね」

「悠真……いつもそうして可愛いことを言ってくれますね」

「だって、本当のことですから」

私の隣にそっと腰を下ろし、笑顔でもたれかかってくる。
やっと二人っきりになれたとでもいうように甘えてくれる悠真が愛おしくてたまらない。

「明日はお休みですし、少しお酒でも飲んでのんびりしましょうか」

「ええ、そうですね」

翌日が休日の日はよく二人で庭を見ながら晩酌をする。
だからこうして誘っても怪しまれることはない。

「すぐに準備しますから、ここで待っていてください」

急いでキッチンに行き、とっておきの古酒クースを酒器に入れ、お揃いで買った琉球ガラスの泡盛グラスを用意して一杯目の泡盛を注いでおいた。

古酒はグラスに注いでから十分ほど置いてから飲むと古酒の芳醇な香りが広がって美味しさが増す。
その飲み方を知っている悠真だから私が注いだまま持って行っても決して気づくことはない。
私は悠真のグラスにだけ、倉橋さんからもらったあの薬を入れておいた。

――何かに混ぜて飲ませるといいですよ。この薬は無味無臭ですから絶対に気づかれることはありません。ただ水分のほうがすぐに溶けるでしょうから、酒に混ぜるのが一番手っ取り早いかもしれませんね。

倉橋さんから説明されていた通り、泡盛を注いだグラスに薬を入れると一瞬で溶けた。
そしてなんの匂いもしない。

これなら絶対に飲んでくれる。

私ははやる気持ちを抑えながら、それらをトレイに載せ悠真の元に運んだ。

「お待たせしました」

私の声を聞くや否や、悠真がピッとリビングの明かりを消す。
星と月の明かりだけが差し込んで実に美しい夜だ。

その美しい景色を背景に悠真と唇を重ねる。

この後に楽しいことが待っていると思うと興奮してしまうがいつもの私と違うと気づかれるわけにはいかない。

甘い悠真の唇を堪能して、ゆっくりと唇を離すと幸せそうな悠真の笑顔に見つめられる。

「明日はずっと伊織さんを独占できると思うと嬉しいですね」

「私もですよ。遠く離れて暮らしている時は一緒に暮らせるだけで十分だと思ってましたが、一緒に暮らし始めてから日が経つほどにどんどん贅沢になってます。悠真とほんのわずかな時間すら離れるのが寂しくなってきました」

「伊織さん……そんなに私を思ってくださって嬉しいです」

「乾杯、しましょうか。これからの二人の楽しい時間に」

そっとグラスを取って悠真に渡すと、嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
どんな悠真が見られるんだろうと期待に胸を膨らませながら、カチンとグラスを鳴らし泡盛に口をつけた。

悠真がごくっと口に入れ喉が動くのをドキドキしながら見つめる。

どれくらいで効果が出るのか聞いてなかったが、倉橋さんのことだ。
そんなに時間はかからないだろう。
だがあまりにも早いと怪しいだろうから、きっと即効性はないはずだ。

そんなことを考えながら、私ももう一口泡盛を口にする。

すると、悠真の腕がそっと私に伸びてきた。

「悠真、どうかしましたか?」

「このふく、じゃまかなって……えーい、ぬがしちゃおう!」

「えっ?」

突然の悠真の行動に驚いている間に、悠真が私の上着を脱がしにかかる。
ボタンを器用に外し、あっという間に私を半裸にすると、恍惚とした表情で私の上半身を見つめる。
そして悠真の細くて綺麗な指が私の硬い胸に触れた瞬間、ビクッと身体が震えた。
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