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天使に出逢った
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<隆之side>
あぁ、早く来ないかなと時計に目をやったと同時に電車がホームに入るアナウンスが告げられた。
よし、今日は時間通りだなと思わず口角が上がる。
電車が到着し扉が開くと、俺はここ最近の定位置となった、入口とは反対側の七人掛けの一番右端の椅子に腰を下ろした。
ふと視線を横に向けると、先ほど遠巻きに俺を見ていた女性達がこちらに来ようとしている。
今から大切な人がやって来るのに邪魔されたくないなと思い、目で『こっちに来るなよ』と訴えかけてみると俺の目力に圧倒されたのか、女性達は対角線の少し離れた席に座った。
電車が動き出すと周りの視線はようやく俺からうつったのか、おもむろにスマホやら新聞やらを取り出し通勤時間を有効活用し始めた。
良かった、これで邪魔されずにすむなと思いながら、俺は次の駅に着くまでの間、自分が入ってきた入口の扉だけをただじっと見つめていた。
車内にアナウンスが流れ、電車は次の停車駅を知らせた。
俺は逸る気持ちを抑えながら到着を待った。
待ちに待った扉が開くと、まだ朝が始まったばかりだと言うのに疲れ切った様子のサラリーマンが数名と、その後ろから胸を強調したデザインの小花柄のノースリーブワンピースを着た女子大生が乗り込んできた。
女子大生は待ち合わせでもしていたのか、車内をさっと見渡したが、見つからなかったらしく『あれぇー?』と独り言にしてはやけに大きな声で隣の車両へと移っていった。
ほぼ同じ頃、俺も入口を見ながら あれ? と思っていた。
今日はいないのかとガッカリしかけたその時、そこに大学生らしき青年が少し小走りで乗り込んできた。
あぁ、良かった。今日も会えた。
今朝も可愛いな。
彼の可愛さにそっと笑顔が溢れる。
俺がここでずっと待ち望んでいたのは、いつもと同じ時間、同じ場所から乗り込んでくる彼。
昨日まで数回目にした、彼のお気に入りであろうベージュの長袖パーカーではなく、今朝は白のTシャツに水色の半袖シャツを羽織って、少し汗ばんだ様子で乗り込んできた。
入口近くで立ち止まった彼は無事に乗れたことにホッとしている様子だった。
また道案内でもしていたのだろうか、
いや、今日は少し寝坊したのかもしれない。
右耳の後ろにほんの少し寝癖ができている。
そんな想像をしながら、こっそり彼を眺めていると、走ってきたのでよほど暑かったんだろう。
Tシャツの首元を指で摘んで風を入れているのがみえた。
彼の流れる汗を見ながら、サラサラした前髪の下にのぞく可愛いおでこから首元へと吸い込まれていく汗を指で拭いたい。
寝癖のついた髪を手櫛でそっと撫で、あの柔らかな髪にキスしたい。
そんな不埒なことを思いながら、俺は彼に悟られないようにずっと彼の方に意識を向けていた。
俺が駅で彼を見つけたのは10日前。
営業部トップの成績を誇る百戦錬磨の俺が、10日という期間を経てもまだなんの接触もできないどころか、まだ名前を聞くことさえも出来ずに、ほんの数駅を一緒の空間で過ごすのみ。
俺にかかれば難攻不落なものなど今まで存在もしなかったのに、10日経っても何の成果もない。
この異常事態を社の人間が知れば、俺に何があったんだとパニックになるだろう。
とにかく今はこの時間、彼を見ながら過ごすためだけに俺はこの席に座っているのだ。
10日前、彼に出会ったのは本当に偶然だった。
前夜に大学時代の友人宅で家飲みをし、話が弾みすぎて終電を逃しそのまま泊めて貰った。
友人がネクタイだけ貸してくれたのでそのまま出社しようと思ったが、ホームで電車を待っている間に午後から大事な打ち合わせがあったことを思い出した。
さすがに昨日のスーツを着て行くのはまずい。
そう思って、時計を確認すると一度戻っても間に合いそうだと思い自宅に戻って着替えることにした。
俺は乗るはずだったホームを下り、自宅へと向かう反対側のホームへ向かおうと階段を下りた。
ふと左を見ると、ホームへ向かうエレベーターの前に桜色の訪問着を着た上品そうなおばあさんと大学生くらいの若者が立っているのが見えた。
普段なら特段気にも留めない状況だが、隣に立つおばあさんに、にこやかに話しかける彼の横顔に目が離せず、つい足がとまった。
二人に目を向けたまま、ほんの少しだけエレベーターの方に近づき、二人の話にそっと聞き耳をたててみた。
どうやら二人は家族ではなく、おばあさんの道案内をしてきたらしい。
おばあさんの手を優しく握り、エレベーターが開くと彼は右手で扉を押さえながら
「ここを上がって、来た電車に乗ってくださいね」
『気をつけて』と声をかけて手を振りながらエレベーターを見送る彼におばあさんは何度も頭を下げているのが見えた。
おばあさんの乗ったエレベーターがホームに着くのを見届けるまでそこを動かない彼の姿に、今時珍しいくらいに丁寧な子だなと思った。
ただそれだけだったはずだった。
彼がほっとさせた表情でこちらを振り向くまでは。
あの時、俺は天使に出逢ったんだ。
あぁ、早く来ないかなと時計に目をやったと同時に電車がホームに入るアナウンスが告げられた。
よし、今日は時間通りだなと思わず口角が上がる。
電車が到着し扉が開くと、俺はここ最近の定位置となった、入口とは反対側の七人掛けの一番右端の椅子に腰を下ろした。
ふと視線を横に向けると、先ほど遠巻きに俺を見ていた女性達がこちらに来ようとしている。
今から大切な人がやって来るのに邪魔されたくないなと思い、目で『こっちに来るなよ』と訴えかけてみると俺の目力に圧倒されたのか、女性達は対角線の少し離れた席に座った。
電車が動き出すと周りの視線はようやく俺からうつったのか、おもむろにスマホやら新聞やらを取り出し通勤時間を有効活用し始めた。
良かった、これで邪魔されずにすむなと思いながら、俺は次の駅に着くまでの間、自分が入ってきた入口の扉だけをただじっと見つめていた。
車内にアナウンスが流れ、電車は次の停車駅を知らせた。
俺は逸る気持ちを抑えながら到着を待った。
待ちに待った扉が開くと、まだ朝が始まったばかりだと言うのに疲れ切った様子のサラリーマンが数名と、その後ろから胸を強調したデザインの小花柄のノースリーブワンピースを着た女子大生が乗り込んできた。
女子大生は待ち合わせでもしていたのか、車内をさっと見渡したが、見つからなかったらしく『あれぇー?』と独り言にしてはやけに大きな声で隣の車両へと移っていった。
ほぼ同じ頃、俺も入口を見ながら あれ? と思っていた。
今日はいないのかとガッカリしかけたその時、そこに大学生らしき青年が少し小走りで乗り込んできた。
あぁ、良かった。今日も会えた。
今朝も可愛いな。
彼の可愛さにそっと笑顔が溢れる。
俺がここでずっと待ち望んでいたのは、いつもと同じ時間、同じ場所から乗り込んでくる彼。
昨日まで数回目にした、彼のお気に入りであろうベージュの長袖パーカーではなく、今朝は白のTシャツに水色の半袖シャツを羽織って、少し汗ばんだ様子で乗り込んできた。
入口近くで立ち止まった彼は無事に乗れたことにホッとしている様子だった。
また道案内でもしていたのだろうか、
いや、今日は少し寝坊したのかもしれない。
右耳の後ろにほんの少し寝癖ができている。
そんな想像をしながら、こっそり彼を眺めていると、走ってきたのでよほど暑かったんだろう。
Tシャツの首元を指で摘んで風を入れているのがみえた。
彼の流れる汗を見ながら、サラサラした前髪の下にのぞく可愛いおでこから首元へと吸い込まれていく汗を指で拭いたい。
寝癖のついた髪を手櫛でそっと撫で、あの柔らかな髪にキスしたい。
そんな不埒なことを思いながら、俺は彼に悟られないようにずっと彼の方に意識を向けていた。
俺が駅で彼を見つけたのは10日前。
営業部トップの成績を誇る百戦錬磨の俺が、10日という期間を経てもまだなんの接触もできないどころか、まだ名前を聞くことさえも出来ずに、ほんの数駅を一緒の空間で過ごすのみ。
俺にかかれば難攻不落なものなど今まで存在もしなかったのに、10日経っても何の成果もない。
この異常事態を社の人間が知れば、俺に何があったんだとパニックになるだろう。
とにかく今はこの時間、彼を見ながら過ごすためだけに俺はこの席に座っているのだ。
10日前、彼に出会ったのは本当に偶然だった。
前夜に大学時代の友人宅で家飲みをし、話が弾みすぎて終電を逃しそのまま泊めて貰った。
友人がネクタイだけ貸してくれたのでそのまま出社しようと思ったが、ホームで電車を待っている間に午後から大事な打ち合わせがあったことを思い出した。
さすがに昨日のスーツを着て行くのはまずい。
そう思って、時計を確認すると一度戻っても間に合いそうだと思い自宅に戻って着替えることにした。
俺は乗るはずだったホームを下り、自宅へと向かう反対側のホームへ向かおうと階段を下りた。
ふと左を見ると、ホームへ向かうエレベーターの前に桜色の訪問着を着た上品そうなおばあさんと大学生くらいの若者が立っているのが見えた。
普段なら特段気にも留めない状況だが、隣に立つおばあさんに、にこやかに話しかける彼の横顔に目が離せず、つい足がとまった。
二人に目を向けたまま、ほんの少しだけエレベーターの方に近づき、二人の話にそっと聞き耳をたててみた。
どうやら二人は家族ではなく、おばあさんの道案内をしてきたらしい。
おばあさんの手を優しく握り、エレベーターが開くと彼は右手で扉を押さえながら
「ここを上がって、来た電車に乗ってくださいね」
『気をつけて』と声をかけて手を振りながらエレベーターを見送る彼におばあさんは何度も頭を下げているのが見えた。
おばあさんの乗ったエレベーターがホームに着くのを見届けるまでそこを動かない彼の姿に、今時珍しいくらいに丁寧な子だなと思った。
ただそれだけだったはずだった。
彼がほっとさせた表情でこちらを振り向くまでは。
あの時、俺は天使に出逢ったんだ。
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