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fierté【誇り】

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「早瀬さん、お待たせしました」

そう言ってロビーへと現れたのは、今回の担当者である、広報部の友利  啓ニともり  けいじ

今までのリュウールの広告は俺と、この友利とでタッグを組んで作ってきた。
言わば、戦友のような間柄だ。

「友利さん、彼が今回のポスターモデルに抜擢されました香月  晴くん。リヴィエラのモデルさんです。香月くん、彼が今回のリュウールの担当者、広報部の友利さんだよ」

「初めまして。リュウール広報部の友利  啓ニと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

晴は友利の差し出した名刺を流れるような無駄のない綺麗な所作で受け取り、

「頂戴致します。香月晴と申します。私は名刺を持ち合わせておらず申し訳ありません。よろしくお願い致します」

と見本と言えるくらいの完璧な名刺の受け取り方で両手で名刺を受け取り、初対面での挨拶の基本とも言われる30度の角度で綺麗なお辞儀をした。

その姿に友利もかなり驚いた様子で、

「早瀬さん、彼本当にモデルさんですか? いやいや、もの凄く可愛らしい子だから、モデルさんなんでしょうけど……こんなに名刺交換が完璧な若い人に出会ったことないですよ。これは付け焼き刃で教え込んだものじゃないって私でも分かりますよ! 君みたいな子が新卒で入ってきたら、教えるのも楽そうだ」

と、興奮気味に話す友利はすっかり晴を気に入っているようだ。

「そうでしょう。田村代表のとっておきの子ですからね。まぁ、彼の詳しいお話は後ほどゆっくりと」

そう含みを持たせて告げると、通じるところがあったらしくすぐに会議室へと案内された。

「他のメンバーを呼んできます」

そう言われ、晴と2人で会議室に入り、座って待っていると男性社員がコーヒーを運んできた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

晴の笑顔を見て、顔を真っ赤にして、

「し、失礼します」

と慌てて出て行った。

「早瀬さん、僕、何か失礼してしまいましたか?」

いや、多分、あれは晴の笑顔にやられただけだ。

「いいや、大丈夫だ。多分何か急用でもあったんだろう」

そうかなぁ? といいながらもとりあえずは納得したようだ。

持ってきてもらったコーヒーに口をつけて待っていると、ドアをノックする音が聞こえ、友利が会議のメンバーを連れて入ってきた。

広報部:友利  啓ニ
商品開発部  部長:緒方  透おがた  とおる
商品開発部  :小早川  皐月こばやかわ  さつき
営業部:手嶋  直人てしま  なおと

商品開発部の小早川さんを除いては全員大柄の男。
俺と晴の目の前に4人並ぶ様は些か緊張感を漂わせている。
まあ、社運をかけての一大プロジェクトの打ち合わせともなればそれくらいの緊張感は必要だろう。

友利からリュウールの面々の紹介を受け、こちらも晴を紹介する。

「先ほど、少し友利さんには紹介させていただきましたが、彼が今回の化粧品ポスターに抜擢されました香月  晴くん。リヴィエラに所属するモデルさんです」

晴が先程と同じように、初めましてと挨拶を交わし、綺麗な所作で彼らの名刺を受け取った。

「いや、君は本当に素晴らしい。中性的な顔も儚げな雰囲気も今回のポスターモデルの希望にぴったりな上に、こんなに所作が美しいだなんて……。ねぇ、部長。そう思いますよね?」

友利が感心しきりで緒方部長に話を振ると、部長も大層気に入っている様子だった。

「君、香月くんと言ったね。君は以前にもどこかのモデルを?」

「いえ、私はモデルをさせて頂くのは今回が初めてです」

「「初めて?」」

「はい。私はリヴィエラの事務所があるビルのカフェでアルバイトをしておりました時に、弊所の代表であります田村に声をかけて頂き、貴社のモデルに抜擢頂きました。普段は桜城大学の学生をしております」

「なるほど。香月くんはたしかに小蘭堂さんにお願いした希望のモデルにぴったりですね。無理難題を申したかと思っておりましたが、想像を上回る素晴らしさに脱帽です。近くで見ると余計に天使のような可愛らしさですね。男性らしい骨格なのに、しなやかな感じもするし、本当に素晴らしいな」

緒方部長が俺と晴を交互に見ながら納得したような表情を見せ、興奮したように晴に声をかけた。

「香月くん、今学生さんだったよね? このあと、モデルを続ける予定がないのなら、うちに来ないか? 君なら、すぐにでも内定を出そう!」

物凄い勢いで晴を囲い込もうとしている。
ふふっ。その点ではうちの上層部と同じなのかもしれないな。

「あの、お気持ちは有り難いのですが、もう他の会社から内定を頂いておりまして、そちらへ入社する予定です」

「えっ? もう? 早すぎるな」

俺は苦笑いしかできなかった。
しかし、ここで隠しておいても後で知られるとまたややこしいことになりそうだ。

「彼は実はうちへの内定が決まっております」

「小蘭堂さんに?」

「はい。田村代表に声をかけられた時にはもうすでにうちへの内定が決まっておりまして、今回うちのものが貴社のモデルをするということに社内で会議もしたのですが、田村代表の強い推薦と弊社上層部の判断でオーケーサインが出ましたので、今回彼をこちらに連れてくることができました」

「そうか。小蘭堂さんがこんなに早く内定を出すとは彼は相当優秀な学生なんだな」

「はい。それはもう」

そう答えると、しきりに褒められて恥ずかしくなったのか晴は頭を下げた。

「さぁ、紹介も終わったところで、話を進めましょうか」

友利の仕切りが飛び出し、本来の目的であるポスターについて話を始めた。

「それで前回お話ししました通り、今回は弊社の商品開発部全勢力をあげて開発しました商品のポスターに関してですが、彼をモデルに起用してポスターに製作するということですね」

「いやー、彼みたいな可愛らしい子がどーんとアップでポスターを飾ってくれたら、うちの化粧品も映えるなぁ」

緒方部長の上機嫌な声を耳にしながら、俺は説明を始めた。

「前回貴社からいただきましたご要望を汲み取りまして、考案しました構図がこちらです」

俺は風間に仕上げを頼んだあの仮絵のコピーを友利たちの前に出した。

「「「「えっっ? これ、は……」」」」

コピーをまじまじと見つめ、みんな言葉が出ないようだ。
それはそうだな。思い描いていたものと180度違うのだから。
俺は友利達の反応は一切見ないふりをして説明を続ける。

「この空いている部分に香月くんの顔を入れます」

そう説明した時に、痺れをきらしたのか開発部の小早川が口を挟んだ。

「ご説明中に申し訳ありませんが、この構図だと弊社がお願いしたモデルのアップでという要望とはかなりかけ離れている気がするんですがどうでしょう?」

鼻息あらく威勢のいい声が会議室に響いている。
俺は穏やかでなおかつしっかりした口調で

「はい。その通りです」

と答えた。
すると、間髪入れずに小早川が畳み掛けてくる。

「何か意図があってのこの構図ということでしょうか?」

「はい。弊社内でもいろいろと話し合いを重ねた結果、今回の化粧品ポスターでは既存の構図は必要ないと判断しました」

必要がないと言った瞬間、部長を始め友利達の顔が強張った。

「必要がないとはどういうことですか?」

小早川は納得がいかないという様子で矢継ぎ早に質問してくる。

「貴社の商品を消費者に周知させ、確実に手に取ってもらうためには、従来の構図では難しいと判断したということです。
言葉ではなかなか納得はできないと思いますので、参考の為に作りましたこちらの構図をご覧ください」

そういって鞄から取り出した1枚のポスター、もちろん商用の大判ポスターではなく、30×40ほどの小型ポスターと呼ばれる小さなものではあるけれど、しっかりとしたものだ。

それには俺が第一の候補として考案していた構図パターンで作られたものだった。
急に新しい構図を見せられてもリュウール側は納得しない。
それなら比べるものを作って実際に見てもらおうと、晴に内緒で風間に作って貰っていたのだ。

ポスター上部に商品名、下部に商品画像、そして、天使のような笑顔を見せた晴の鎖骨より上のショット写真が真ん中に映し出されていた。

「えっ? これ? 僕の写真? いつの間に?」

晴は俺の出したポスターに驚きを隠せない様子で見入っていた。
ふふっ。晴のこの驚いた顔が、可愛らしくてたまらないな。

ついこのプレゼンの場に似つかわしくない満面の笑みになりそうになったのを必死に押し留め、小早川たちの方を見やった。

ポスターを見て愕然としている彼らに追い討ちをかけるように説明を続けた。

「この写真はカメラマンに撮って頂いた正式のものではありません。参考までに彼の写真を撮って当てはめただけのものです。それでもこの仕上がり、素晴らしいクオリティですよね? このポスターをご覧になっていかがですか?」

小早川はもちろん、他のメンバーもポスターを齧り付くような勢いで眺めている。

「これは貴社のご要望に沿った構図で仮で製作しましたポスターです。これを見て、強いインパクトで目に入るのは商品でしょうか?」

俺は自信があった。
このポスターを見ればきっとこの構図ではいけないということに気づくはずだと。
いや、リュウールのような一流の会社であれば、気づかなければいけないのだ。

「これだと……彼しか目に入らないな」

営業部の手嶋がポツリと溢した言葉に緒方部長は無言で頷いた。

「その通りです。今までに貴社や他社の化粧品ポスターで確固たる売り上げを支えてきたあの既存の構図では、彼の持つオーラの強さに残念ながら負けてしまうんです。しかしながら、それは貴社の商品が彼に負けているということでは決してありません。彼をポスターに起用することは貴社の商品を売る上で必要不可欠です。彼の持つインパクトの強さに貴社の商品をよりよい形で合わせることで、今回のポスターは力を発揮するんです。その為にはこちらの構図ではなく、先程ご覧頂いたあの構図がベストだと判断しました」

「うーん、なるほど」

緒方部長がこちらへと傾いてきている。
よし、もう一息だ!

「もし、貴社がどうしてもこちらの構図をご希望とのことでしたら私共は遵守致しますが、その時は香月くんではなく他のモデルをリヴィエラさんに探していただきます。香月くんでなければ、こちらの構図でもいけるでしょう。いかがでしょうか?」

畳みかけるような俺の言葉にリュウール側に焦りが見え始めた。

「友利さん、そして手嶋さん。あなた方のご意見をお聞かせ頂けますか? 広報部、営業部の方の率直なご意見を伺いたいと思います」

今までにタッグを組んで仕事をしてきた相手だからこそ、そして、商品を社外にアピールすることに長けている広報部の人間だからこそ、また、営業部の人間であれば、どちらがプレゼンをやる上で勝機があるか嘘偽りのない言葉を言ってくれるだろう。

先に口を開いたのは手嶋の方だった。

「……私は、第一印象としてまず、今までに見たことのない最初の構図に惹かれました。そして、こちらのポスターを見て、それは確信に変わりました。彼を起用するなら、このポスターの構図では商品は売れません。商談で商品の取り扱いの契約を結べたとしても、このポスターを掲示してもらうのは私でもオーケーはでないと思います。それくらい、このポスターでは彼のインパクトが強すぎます」

手嶋がそう述べると、友利も口を開いた。

「私は今回の売り上げによって、メイクアップ化粧品を存続するかどうかが決まる大事な局面で、既存の構図にしがみつく必要はないように思うんです。せっかくこんな素晴らしいモデルさんを見つけてきていただいたのだから、モデルさんのお力をいただいて、この商品が活きるようなポスターにすべきです。最初の構図、私はとても良いと思います」

手嶋と友利の発言を受けて、緒方部長は、うーんと唸り、

「小早川さん、君はどう思う?」

先ほどまで俺に息巻いていた小早川に意見を求めた。

小早川は少し冷静を取り戻したのか、沈黙の後ゆっくりと口を開いた。

「正直言って驚きました。この写真は普段の彼の素顔を撮ったように見えます。画像も粗く綺麗とは言えないにも関わらず、このクオリティ。実際にカメラマンの方に撮っていただいた写真を入れたら、どれほどインパクトを与えるかを考えたら小蘭堂さんがこの構図では難しいと判断された意味が良くわかりました。しかし、最初の構図では折角の彼の顔がよく見えないのではないですか? 実際に商品を購入するのは女性が多いと思いますが、モデルの顔がよくわからないというのはポスターとしてどうなのでしょう? その点が気になります」

うん、良いところをついてくるな。
女性ならではの視点といったところか。

「今回のポスターは第一弾と伺っております。第二、第三も彼を起用する予定でいますので、少しずつ彼の顔を明らかにしていくというのも、ひとつの戦略と考えています。
第一弾はファンデーションならではのすっぴんとファンデーションをつけた後の肌質の違いだけを見せつける。
第二弾はこのファンデーションをつけた肌にフェイスパウダーを施し、綺麗な肌を見せつける。
そして、第三弾に彼のアップ画像にリップをつけて、メイクが完成する。
徐々に彼の顔を少しずつ晒していくことで、商品と共に期待感が膨らむと思います」

「なるほど。たしかにこれは誰だろう? と話題にあがれば注目されますね。彼は今、すっぴんですよね?」

小早川の言葉にみんなが一斉に晴の顔を見つめた。

俺とリュウールとのやりとりを静かに聞いていた晴は、急に注目され少し焦ったように見えたが、うちの役員達の心を鷲掴みにしただけあって、注目された時の対処が上手い。

ひとりひとりの目をじっと見つめながら、ふんわりとした素の笑顔を見せていく。

これで落ちないやつはいないだろう…。
ずっと近くにいる俺でさえ、晴のこの笑顔にはクラクラしてしまうんだから。

「僕は今お化粧はしていません。というより、した事がないんです。だから、リュウールさんのお化粧品を使ってお化粧してもらったら、どんな風に変わるか楽しみです。僕みたいな素人でもリュウールさんのお化粧品使ったら綺麗になるんだって見せられるといいですね!」

晴は相変わらず、自分は平凡だと思っているようだが、ここにいる人間は敢えて追及はしなかった。
平凡だと思っていてもらったほうが、撮影の時も素の笑顔を出してもらえると判断したからだ。

晴の笑顔にドキドキさせられながらも、リュウールのメンバーはみんなで横目でアイコンタクトをしているのが感じ取れて面白かった。

「そ、それでは構図は最初の案でいくと言うことで決定ですね」

友利が緒方部長たちに確認を取る。
了承が取れたところで、今度は内容について話し合っていく。

「ところで、こちらの構図に描かれたお花ですが、どういう意味があるのでしょう? たしかに大変美しいお花で香月くんのイメージにもぴったりだと思いますが……あっ、もしかして、香月くんのイメージフラワーとかでしょうか?」

いち早く破壊力抜群の晴の笑顔から復活したらしい小早川が構図に描かれたアマリリスについて尋ねてきた。

「その前にお伺いしたいんですが、今回の化粧品シリーズの名前はお決まりですか?」

「はい。
fiertéフィエルテ】と【 clartéクラルテ】の2つで話し合いを重ねた結果、最終的に
fiertéフィエルテ】に決定しました」

「この名前は小早川さんが推していた名前ですよね」

「はい。私は開発者としてこの開発に誇りを持って今まで化粧品を作ってきたんです。この化粧品シリーズを使ってくださる方が、自分は一番美しいんだと誇りを持って、光り輝く時を歩んでくれるようにと願いを込めて作っていたものですから、名前には絶対これしか無いと思っていました」

自信満々に話す小早川の言葉に隣で晴は うん、うんと頷いていた。

「素晴らしい名前だと思います。ところで、このお花でしたね。小早川さん、このお花なんだかわかりますか?」

「いえ、私、花には詳しく無くて……」

小早川が少し恥ずかしそうにそう話すと、隣から手嶋が口を挟んだ。

「これ、アマリリスじゃないですか? うちの祖母の家に咲いてたんで見覚えがあります」

おお、手嶋さんが知っているとは驚きだ。
大柄な男が花に詳しいって意外性があって面白いな。

「そうです。アマリリスです。
実はアマリリスには【誇り】、そして【輝くばかりの美しさ】という花言葉を持ってるんです。これは化粧品の名前だけで無く、貴社の【リュウール】という社名に通じるものがありませんか?」

「花言葉……が【誇り】」

小早川は信じられないという表情で仮絵を見つめている。
隣でそれを見ていた友利は

「これはすごいな! ぴったりじゃないですか! さすがですね、早瀬さん! どうしたらそんなアイディア思いつくんですか!」

興奮して俺の肩をポンポンと叩き、褒め称えてくる。

「いや、実はこのアイディアを出してくれたのは香月くんなんですよ」

「「「えっ?」」」

そりゃあ、驚くよな。
俺らだって驚いて声も出なかったくらいだし……。

「香月くん! 素晴らしいな」

「いえ、緒方部長。たまたまなんです。小早川さんが仰ったように僕が好きなお花ということはあながち間違いでもないので……」

「そうか。いやぁ、君の好きな花と我が社の化粧品が同じ名前だなんてこれは運命だよ。小早川くん推しの【fiertéフィエルテ】にして正解だったわけだな」

緒方部長はすっかり晴にメロメロになってしまっている。

「そこで提案なのですが、香月くん曰く、アマリリスの旬は【fiertéフィエルテ】シリーズ第一弾の発売の頃と同時期だそうで、特設会場での発売日には彼のポスターと共に色とりどりのアマリリスで会場を飾って演出をするというのも華やかでいいと思いませんか?」

そう提案すると、友利が勢いよく乗ってくる。

「いいですね! それ。旬の時期まで知ってるなんて香月くんもはや天使超えて神レベルですね。ははっ」

友利の笑い声に会議室が和やかな雰囲気になった。

その後は、ポスター完成に向けての話が続いて会議は無事終了となった。

「それでは、次回は撮影に入ります。カメラマンとスタジオの日程が決まりましたらお知らせします。今日はありがとうございました」

「僕をポスターに起用することをご了承いただき本当にありがとうございました! 撮影もですが、お化粧も初めてなので撮影の日を楽しみにしています」

「いや、こちらこそ君がモデルになってくれたことありがたいと思っているよ。撮影の日は私も見させてもらうから楽しみにしているよ」

「はい。宜しくお願い致します」

会議室前で部長たちとは別れ、友利がエントランスロビーまで見送ってくれた。

「それにしても、最初こちらの希望とは全く違う構図出された時はびっくりしましたよ。部長、何も言ってませんでしたが、少し怒ってましたよ」

友利はその時のことを思い出しているようで、口元から少し笑みが溢れている。

まあ、上手くいったから今笑えるんだろうけどな。

「友利さんには先に伝えておこうかと思っていたんですが、フレッシュな反応を見たくて」

ニヤリと友利を見ると、気づいていたのか

「そうでしょう。急にあんなこと仕出かすから何か勝算があるものを持ってると思ってましたけど……。まあ、でも香月くんのアップ見た時は実際驚きましたよ。こんなに商品が目に入らないことがあるんだってね……」

「???」

友利は晴を見ているが、晴にはなんのことやらよく分かっていないようだ。

「ふふっ。とりあえず、撮影の日は私も同行しますので楽しみにしておきます。では、今日はありがとうございました」

「?? はい。ありがとうございました」

わかっていなくてもとりあえずはお礼を言う晴が可愛すぎる。


リュウールを出ると、もうお昼時を過ぎていた。

「晴、会社戻る前にどこかで食べていくか?」

「はい。この辺に隆之さんのおすすめのお店とかあるんですか?」

「ああ、そういえばあっちに中華料理屋があるな。あそこの麻婆豆腐とエビチリが絶品なんだよ。晴は辛いの平気だったか?」

「そこまで激辛じゃなければ中華は好きですよ。隆之さんのオススメ食べたいです」

ああー、すごく食べたそうな顔が可愛すぎる。
これは絶対連れて行かないとな!!

「じゃあ行くか!あっちだよ」

目の前の横断歩道がタイミングよく青に変わったので、晴の手を引いて歩いていく。

「た、隆之さん……手……」

「いやか?」

「ううん、嫌じゃないけど……」

周りをキョロキョロと見回しながら、

「隆之さんが、変な風に見られないかと思って……」

といってきた。

ああ、俺に気遣ったのか。
そんな心配なんかしなくてもいいのに。

俺は晴の耳元にそっと唇を寄せると、

「俺には晴だけって言ったろう」

と囁くと晴は顔を真っ赤にして耳に手を当てた。

「もう、耳はダメだってば!!」

こんな話し方の晴も可愛いな。

もう! と言いながら、少し拗ねた様子の晴は俺の手を離したものの、そっと俺の上着の裾を握って、早く行こうと言ってきた。

ぐぅぅ……。

だからそれが可愛すぎるんだ。
これがわざとじゃないから余計……なんだよな。


そんな2人の様子をリュウール本社ビルの影から何かが見つめていたことにまだ2人は知る由もなかった。



「やっと見つけた……香月  晴」
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