俺の天使に触れないで  〜隆之と晴の物語〜

波木真帆

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俺の匂いが好きらしい

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どれくらい話をしていただろうか?

田村さんとはいつも打ち合わせで話すくらいでこんなにゆっくり話したことはなかったが、やはりモデル事務所の代表をしているだけあって、話が上手い。

スカウトの仕方や、モデルの見つけ方なんかもすごくためになるし何より面白い。

アルとも話が合いそうだし、今度誘って飲んでみようか……そんなことを思っていた。

「ねーぇ、隆之さーん」

人前だというのに何故か晴の距離が近い。

「どうした、晴?」

「ぼくにもおさけ、ちょーらい」

晴の口調が可愛らしくなってる……。
いや、元々可愛いんだけど。
そういうことじゃなくて……。

「晴? 酔っ払ってるのか? お酒はダメだって言ったろう?」

ワインはダメだと言ったから飲んでいないはずなのにどういうことだ?

「ぼく、のんでないもん。やくそくちゃんとまもったもん」

晴の大きくて真っ黒な可愛い瞳からみるみるうちにたくさんの涙が溢れてくる。

「ああ、ごめん、飲んでないよな。でもどうしたんだ?」

訳が分からなくて困惑していると、田村さんがおずおずと声をかけてきた。

「もしかして、香月くん。お酒に相当弱いんですか?」

「ええ。私もこの前初めて知って……だから飲ませないようにしてたんです」

「あー、それなら悪いことをしてしまいました。実はチョコレートの中にシャンパンが入っているものがあって……。そんなに強くはないと言っていたので大丈夫かと思ってたんですが……」

ああ、チョコか……。
それは考えてなかった。

晴がそこまで弱いとは知らなかったし……。

ぐすっ、ぐすっ。

晴の小さな手で涙を一生懸命拭っているが、次々に溢れでる涙に追いつかないでいる。

「ああ、ごめん  晴。ほら、目が腫れるから手で拭わないで」

ポケットに入れていたハンカチで優しく目元をぬぐうと、晴は小さく頷いた。

「たかゆきさんがぁ……おこったから、こわかったぁ……」

ぎゅっと抱きつきながら顔を擦り寄せてくる。
その仕草が可愛くて可愛くてどうしようもできなくなる。

「ああ、香月くん。酔うとこんなに可愛くなるんですね」

「あっ、すみません」

あまりの晴の可愛さにすっかり田村さんの存在を忘れてしまっていた。

「いえ、良いんですよ。でも、これはお酒禁止したくなるのよく分かります」

ふふっと笑っていう田村さんに、こんな可愛い晴の姿を見せてしまったという事実に俺はほんの少し嫉妬してしまっていた。

「これ以上香月くんの可愛い姿見るのは早瀬さんにも私にも良くないですから……今日はお暇しますね」

「あっ、でももう遅いですから泊まっていただいても……」

知らない間に時間は深夜になっていた。
家に呼んでおいでこんな時間に帰らせるのはやはり忍びない。

「いえいえ、明日の朝、香月くんが目覚めた時今のことを覚えていたら、顔を真っ赤にしてしまうでしょう? 私は見ずに帰ったことにしておきます」

いたずらっぽく笑う田村さんに、実はこんな性格だったのかと新たな一面を垣間見たようで、俺も少し笑ってしまった。

「そうしていただけるとありがたいです。今度またゆっくり飲みましょう。今度は下のカフェのオーナーアルも一緒に」

「はい。楽しみにしていますね。それではお邪魔しました。今日はごちそうさまでしたと香月くんにお伝えください」

そういうと、田村さんはそそくさと部屋を出て行った。

ふーーっと一息ついて、自分の胸元に目をやると、晴が俺の服にいっぱい涙を吸わせて眠っていた。

どうやら田村さんと話をしている間に眠ってしまったようだ。

そっと晴を抱き抱えてソファーへと寝かせた。
晴は俺のシャツをしっかりと握りしめていたので、ゆっくりとシャツを脱ぎ、晴を覆うようにかけてやった。
晴は俺の匂いを嗅いで安心したのか笑顔を浮かべてそのまま眠っていた。

さっとリビングを片付け、シャワーを浴びて晴の元に戻ると晴はまだソファーでぐっすりと眠っていた。

晴のお風呂は朝でいいか。

パジャマだけ着替えをさせてから自分の寝室のベッドに寝かせた。

俺の匂いが染み付いているのか、晴は枕に顔を寄せにっこりと笑顔を見せた。

寝ているのにこんな可愛い顔見せてくれるんだもんな。
そんなに俺の匂いは晴にとって良い匂いなんだろうか?

そんなに嬉しそうに嗅がれるのは些か恥ずかしくも思うが、にこにこと笑ってくれるのは嬉しい。

「晴。おやすみ」

俺は晴を腕の中に包み込むように抱きしめながら、おでこにキスをして眠りについた。
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