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無事でいてくれ!
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「えっ? 晴がいない? どういうことですか?」
緒方部長との話を先に終えて、晴の楽屋に向かったはずの田村さんが、晴が楽屋のどこにも居ないと血相をかえて走ってスタジオに戻ってきた。
楽屋があるフロアには部屋が6部屋あるが、田村さんはその全ての部屋を開け、中を見て探したが晴の姿は見えなかったらしい。
「トイレか飲み物でも買いに行ってるんじゃないですか?」
スタジオスタッフの子が、20歳も過ぎた大人の男がほんの少し姿が見えないくらいで何を騒いでいるんだとでも言いたげな様子で平然と言い放つ。
「そんなところ、真っ先に探したに決まっているだろう!」
普段の穏やかな田村さんなら考えられないほど苛立った大声を出した。
そのただならぬ様子に田村さんをよく知るリュウールの社員やカメラマンの永山さんも驚きを隠せない。
「田村さん、落ち着いてください。もう一度、楽屋のフロアに行きましょう。私も一緒に探します」
「はい。すみません。どうも胸騒ぎが……」
俺は田村さんと共に階段を駆け下り、楽屋フロアを端から端まで探して回った。
本当にいない……。
晴、どこに行ったんだ?
ああ、やはりひとりで行かすんじゃなかった。
いや、今はこんなに悲観している場合じゃない。
少しでも早く晴を見つけなければ!
「田村さん、違う階も探してみましょう!」
田村さんとフロアを手分けして探すことにしたその時、スタジオフロアから緒方部長と友利さんが駆け下りてきた。
「香月くん、まだ見つからないのですか? 僕たちも探します!」
2人ずつに別れて探そうということになり、俺は緒方部長と、田村さんは友利さんとそれぞれ探しに出かけた。
俺はまず楽屋フロアのもう一つ下の階を探すことにした。
部屋をひとつひとつ開け、中を確認していく。
その最中、緒方部長が尋ねてきた。
「あの早瀬さん、もしかして香月くんの例の事件が関係あったりします? 田村さんの動揺を見ているとそうとしか思えなくて……」
「関係なければいいと思っています。ですが、こんなに探して見つからないとなると……もしかしたら香月くんは……」
そう話しながら、俺はある部屋に置かれた物に違和感を感じた。
何でこんなものがここに?
「緒方部長、あれ見てください!」
俺が指さした先には、晴の大好きな炭酸リンゴジュースの空瓶が置いてあった。
「ジュースの空き瓶? 外国製のジュースなんて珍しいですね」
「これ、香月くんの好きなドイツの炭酸ジュースの瓶なんですよ。アルが……あのシュパースのオーナーがわざわざドイツから直輸入してるやつです」
そう、あの瓶はシュパースのものに間違いない。
ならば、これをここに運び込んだやつは……。
俺は上着の胸ポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。
ーHallo.ユキ。元気だったかい?
ーアル、今電話大丈夫か?
ーああ、どうした? 何か急用か?
どうやら俺の低く沈んだ声に何やらいつもと違う雰囲気を感じ取ったらしい。さすがアルだな。
ー最近店で何かおかしなこと無かったか?
ー店で? いや、特になかったと思うが……
俺の勘違いか?
あれは絶対シュパース絡みだと思ったんだけど……。
『ねぇ、アル。どうしたの? 電話だれ?』
後ろの方で、声が聞こえる。
あっ、これは理玖か?
ーユキ、ちょっといいかい?
俺が返事するよりも早く、理玖との会話が聞こえてくる。
『ユキからなんだが、最近店でおかしなことは無かったかって。リクはわかるか?』
『ユキって、早瀬さんのこと?』
『ああ』
『おかしなこと…………あっ、そういえば、 Kellerからアプフェルショーレが3本、在庫数が足りなかったよ。俺の数え間違いだったのかと思ってたんだけど、出た本数と比べてもどうも足りなくて気になってたんだ』
やっぱりそうか!
ーアル、聞こえるか? やはり俺の思ってた通りだった。
ーユキ、何かあったのか?
ー晴が、晴がいなくなったんだ。どこかへ連れて行かれたかもしれない。晴がいたかもしれない部屋にアプフェルショーレの空き瓶が置いてあった。恐らく、アルの店から盗まれたんだ。
ーなら……犯人は……
ーああ。俺は東巫署の森崎刑事と田ノ上刑事を呼ぶから、アルも良かったらこっちにきてくれないか?
ーわかった。すぐ向かうよ。住所送っといてくれ。
電話を切るとすぐに緒方部長が近寄ってきた。
「何かわかったんですか?」
「はい。あのジュースは日本では香月くんがアルバイトをしている店でしか手に入らないものなんです。その空き瓶がここにあるということは、その店から盗み出されたということです。あのジュースに何か薬でも入れて飲ませ、香月くんはここから連れて行かれた可能性は高いと思います」
緒方部長は驚きのあまり声も出せないほどだ。
「私はあの事件の加害者が今回の犯人だと思っています。すぐに事件の捜査をしてくれている刑事さんを呼びます。緒方部長は田村さんたちにこの話を伝えてきてもらえますか?」
まだ身体も動かせないほど驚いている様子だったが、俺が頼むとハッと我に返ったように、急いで伝えてきますといって、走って部屋を出て行った。
「早瀬さん! 香月くんが薬を飲まされて連れ去られたかもしれないって本当ですか?」
田村さんが物凄い勢いで、晴が居たかもしれないこの部屋の入り口にやってきた。
「まだ可能性の範疇ですが、恐らくその可能性は高いと思います」
俺が田村さんに詳しく話そうとしたそのとき、友利さんの案内で森崎刑事と田ノ上刑事が走ってやってきた。
「真島が現れたかもしれないというのは本当ですか?」
「ええっ? 真島が?」
森崎刑事の言葉に田村さんも動揺を隠せない様子で大声を上げた。
俺は、シュパースにしか置いていない晴の好きなジュースがシュパースから盗まれたこと
その空き瓶がこの部屋に置いてあったこと
その空き瓶から薬のようなツンとした臭いがすること
晴の姿が見えないことも踏まえて、晴は誰かに連れ去られたに違いないと説明した。
「なるほど。その可能性は高いですね。それが真島だという確証はありますか?」
「確定ではありませんが、真島らしきスタッフの姿を桧山さんが見たと話していました」
「その桧山さんという方をこの場に呼んで頂けますか?」
森崎刑事の言葉に、友利さんが急いでスタジオフロアに戻り、桧山さんを連れて戻ってきた。
「桧山さんですね。この男に見覚えありますか?」
田ノ上刑事が上着の胸元のポケットから、真島の写真を取り出し、桧山さんに見せた。
「ああ、はい。多分この人です。スタッフジャンパー着てたんですけど、見たことない顔だなって気になってたんです。たまにアルバイトで入る人もいるんで、もしかしたらバイトの子かなと思ったんですけど、それにしては余所余所しい感じで……ここのバイトの子にしては珍しいなって」
やっぱり、真島だったか。
晴は奴に連れ去られたんだ。
一体晴は何処にいるんだ。
晴、すぐに探し出してやるから無事でいてくれ!!
階段の方からバタバタと走ってくる音がしたと思ったら、部屋の入り口にアルと理玖がやってきた。
「ユキ! ハルは見つかったか?」
「アル、来てくれてありがとう。晴は……晴はまだだ。真島にどこかに連れ去られたらしいというのはわかったんだけど、一体どこに連れて行かれたのか……」
「あの、俺ちょっと思ったところがあって……」
理玖が話した場所はまさかと思うような驚きの場所だったが、今は何としても手かがりが欲しい。
急いで理玖のいう場所へと向かうことにした。
「ここは…………」
理玖が俺たちを連れてきた場所は、桜城大学の裏門に程近い河原だった。
ここのどこかに晴が?
キョロキョロと見回しても誰かが隠れていそうな場所や監禁されていそうな場所は見当たらない。
「リク、ここは?」
「アルは初めてだよね。ここの裏手に香月のアパートがあるんだ」
理玖が指差した先には、俺が一度行ったことがある晴のアパートが見えていた。
「まさか……?」
俺の言葉に理玖が小さく頷くのが見えた。
「もし真島が香月を連れ去ったんなら、香月のアパートに連れていくんじゃないかって思ったんだ。近くまでいって、もし、真島と鉢合わせしたら悪いと思って、ここに来たんだけど……」
「それは良い判断だと思いますよ。ただ、まだ確証があるわけではないんですよね。事件性が確認できない以上、警察は中に踏み込むことは出来ないです」
この間にも晴は真島に何かされているかもしれない。
落ち着け、よく考えるんだ。
あっ、そうだ!
大家の林田さんに頼んでみよう。
彼ならマスターキーで入れるはずだし。
「あのアパートの大家さんに連絡してみます!」
俺はそう言うと、胸ポケットからスマホを取り出し林田さんへと電話をかけた。
ーはい。林田です。
ーあ、あの私、香月くんを預かっています小蘭堂の早瀬です。
ーああ、早瀬さん。お久しぶりですね。晴くんは元気ですか?
ーそのことでご相談が……
ー何かあったんですか?
ー実は…………
というわけで、今、香月くんの行方を探しているところなんです。
それでもしかしたら、香月くんの部屋に連れて行かれているんじゃないかって……。
ーなるほど。私、今自宅にいるのですぐにアパートに行けます! 早瀬さんもこっちに来れますか?
ー私、今裏手の河原にいますのですぐ向かえますよ。
ーああ、あそこですか。なら、左手にある家からゆっくりアパートに近づいてください。そっちからなら晴くんの部屋から見えませんから。
ーわかりました。
そう言って、電話を切ると俺は河原にいるみんなに声をかけた。
「今から大家さんと一緒にアパートを見てきます。あなた方が見つかると逃げられる恐れもありますので、あちらで待機していてもらえますか? 何かあったらすぐ連絡します!」
一緒に来ていたアルと理玖、そして森崎刑事をアパートの左手にある民家に身を隠させ、俺は林田さんが到着するのを待った。
林田さんを待つ、たった数分が俺には数時間のように感じられた。
この間にもあの部屋で晴は真島に酷い目に遭わされているのではないか……
そう思うだけで、はらわたが煮え繰り返る思いがした。
晴……すぐ助けに行ってやるから待ってろよ!
自宅からずっと走ってきたんだろう、顔中に汗をかきながら林田さんが現れた。
2人でゆっくりと階段を上がり、晴の部屋の前で様子を伺った。
人の居る気配がする。
少なくとも誰かが勝手に晴の部屋に入り込んでいることは間違いない。
これだけで既に犯罪だ。
「林田さん、良いですか……私が『警察だ』と大声をあげてまず入るので、すぐに後ろから突入して、部屋の中を探してください。晴を見つけたら、すぐに保護してください」
「早瀬さんが晴くんを保護してあげた方が良いんじゃ?」
「いえ、相手は刃物や凶器を持っているかもしれません。まずはそいつをやっつけないと危険が伴います!」
「わかりました。くれぐれも気をつけて」
小声でそう林田と打ち合わせをしてから、俺は林田さんが手に握っていた晴の部屋の鍵をそっと鍵穴に差し込み、音が出ないようにゆっくりと開けた。
「行きます!」
「警察だ!!!!」
そう叫んで部屋に飛び込んだ瞬間、
部屋の真ん中から
「うわぁぁぁーーー!」
と大声をあげながら飛び出してきた男がいた!
そして、俺の顔を見るなり、
「なんだ、お前! 警察じゃないじゃないか! ふざけやがって!」
と言って、手に持っていた刃物を振りかざして向かってきた。
こいつが真島か!
「ふざけているのはお前だ!」
俺は刃物を持つ男の右手首を咄嗟に捕まえ、もう片方の手で男の腹に拳を1発くらわせた。
男は
「がはっ」
と大きな呻き声をあげ、床に倒れ込み蹲った。
「晴はどこだ!」
そう叫んだが、男は蹲ったまま動かない。
どうやら失神したらしい。
俺はチッと舌打ちをしてハッと林田さんのことを思い出し大声で叫んだ。
「林田さん、晴は!? どこですか?」
「大丈夫、キッチンにいます! 無事です。でもすぐに救急車呼んでください」
俺はその声に玄関から外にいる森崎刑事に聞こえるように、
「救急車をお願いします!!」
と大声で叫んで、返答も聞かないうちにキッチンに居る晴の元に駆け寄った。
「晴!!!」
晴は林田さんによって手首の縄を解かれているところだったが、目を瞑り床に横たわったまま、身動きひとつしていなかった。
俺は晴を腕の中に抱き寄せ、必死で名前を呼び続けた。
「目立った怪我は見当たらないので、眠らされているだけだと思います」
あの薬か……。
その時、玄関から声が聞こえてきた。
アルと理玖の声だ。
「救急車はまだか!?」
「もう来るはずだ。ハルは大丈夫か?」
「怪我はないが、目覚めないんだ! 晴!」
俺がずっとそう叫んでいると、ようやく救急車がアパートの前に到着した。
一分一秒も惜しくて、晴を抱き抱えて玄関へとむかう。
俺が殴りつけた男は、森崎刑事の手によって、手錠がかけられていた。
俺はその男を殺してやりたいほど殴りつけたかったが、今は晴が優先だ。
男を一瞥し、玄関を出ようとした俺を遮るように理玖が立ちはだかったかと思うと、理玖は着ていたジャケットをさっと晴の顔にかけ、外から顔が見えないようにしてくれた。
「ありがとう、理玖」
理玖の優しさに少し心が落ち着いて、腕の中の晴に振動が伝わらないようにゆっくりと階段を下りていった。
晴と共に救急車に同乗し、近くの救急病院へと搬送された。
病院に到着するとストレッチャーに乗せられ、すぐに処置室へと連れて行かれた。
その間、俺は処置室にほど近い待合室で待たせてもらうことになった。
祈る思いで晴が出てくるのを待っていると、上着の胸元に入れていた携帯が震えていることに気づいた。
着信を見ると、桜木部長の表示がでていた。
ーはい。早瀬です。
ー早瀬、今どこだ? 何かトラブルがあったと聞いたが、大丈夫か?
ー今、香山医療センターにいます。
ー医療センター? 何があったんだ?
ー晴が、いえ、香月くんが男に連れ去られて、なんとか救出したんですが、まだ意識が戻らなくて……どうやら連れ去られる際に薬を飲まされたようです。
ーなんだと!? 犯人は誰かわかってるのか?
ーまだ詳しいことは分かりませんが、おそらく、真島じゃないかと……。
ー真島って、香月くんを狙ってつけ回しているやつか?
ーその可能性が高いというだけで、私は犯人の顔は見ましたが、真島の顔を知らないので。
ーそうか。とりあえず、お前は香月くんの容体がわかるまでそこにいろ。何か情報が入ったら何時でもいい、連絡してくれ。
ー承知しました。
ふぅーーー。
桜木部長との電話を終え、俺は大きなため息をついた。
晴、無事な顔を見せてくれ。
早くあのいつもの笑顔を俺に見せてくれ。
ああ、なんであのとき晴を1人にしたんだろう……。
晴が連れ去られてからなんと同じ後悔を口にしただろうか。
悔やんでも悔やみきれない。
晴、お願いだから、俺のところに戻ってきてくれ。
あれから、何時間経ったのだろう。
俺は待合室の椅子に座ったまま、どこにも動くこともなくただ呼ばれるのを待っていた。
カタンと物音がした方向に顔を向けると、扉の向こうから医師の姿が見えた。
「早瀬さんですね、香月晴くんの保護者代理の方だと救急隊員から話を聞いています。香月くんの意識が戻りました」
「本当ですか! 良かった」
俺はホッとしてその場に座り込んでしまった。
「早瀬さん、大丈夫ですか?」
「ああ、はい。大丈夫です。それより、早く晴のところに連れて行ってください」
医師に縋りつくようにお願いすると、医師は苦笑していた。
「落ち着いてください」
そう促され、俺はふぅと深呼吸すると、ほんの少し気持ちが落ち着いた気がした。
医師に連れられて、晴がいる病室へと入った。
緊張しながら、病室に足を踏み入れると晴は上半身を少し起こし、枕を背にしてヘッドボードに寄りかかっていた。
「晴!」
俺の声に晴はすぐにこっちを振り向いた。
「た、かゆき、さん!」
まだ声が出にくいのか、いつもより小声だったがちゃんと晴の声が聞こえた。
急いで晴の元に駆け寄り、抱き寄せると晴は涙をいっぱい溜めてポロポロと溢しながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と泣き続けた。
「晴は何にもしていないだろ! 謝ることなんてないんだ。ああ、無事で本当に良かった」
俺は必死に晴を慰めていると、後ろから
「そうですよ。香月くんは何にも悪いことはしてません」
穏やかな声が聞こえた。
ハッと振り向くと、さっき俺を晴の病室まで連れてきてくれた医師が柔かな顔をして、俺たちを見ていた。
あっ、先生の存在忘れてたな……。
晴と顔を見合わせて、恥ずかしいやら照れ臭いやらで気づけば晴の涙も止まっていた。
「ふっ、はっはっは」
部屋に響く先生の笑い声につられるように、俺も晴も笑ってしまった。
先生は晴の傍にきて、一通り診断してからにっこりと笑って
「薬の影響はなさそうですね。体調が戻ったら、帰宅して良いですよ」
と言ってくれた。
「本当ですか! 良かった」
「ただ、警察の方が事情を聞きたいと待っておられるので、それが終わってからになりますが……」
「晴、大丈夫か?」
またトラウマになったりしていないだろうかと心配したが、晴は気丈にも大きく頷き、
「すぐに呼んでいただいて構いません」
と先生に頼んでいた。
先生も晴のその様子に大丈夫だろうと思ったのか、すぐに刑事さんが呼ばれた。
病室に入ってきたのは森崎刑事と田ノ上刑事の2人。
「香月くん、お久しぶりですね。今回は我々の捜査が足りずに怖い思いをさせてしまってすみませんでした」
入って早々、晴に謝罪の言葉を述べる森崎刑事に俺も晴も驚いてしまった。
「少し話をさせて頂いても良いですか?」
そう切り出した森崎刑事の言葉に、俺も晴もさらに驚きを隠せなかった。
「まず、初めに伺いたいんですが、香月くんは君を連れ去ったあの男と面識はありましたか?」
「えっと、見覚えがある気はしたんですけど、よくわかりません」
「そうですか……」
なんだ? あの男は真島じゃなかったのか?
じゃあ、一体誰だったんだ?
緒方部長との話を先に終えて、晴の楽屋に向かったはずの田村さんが、晴が楽屋のどこにも居ないと血相をかえて走ってスタジオに戻ってきた。
楽屋があるフロアには部屋が6部屋あるが、田村さんはその全ての部屋を開け、中を見て探したが晴の姿は見えなかったらしい。
「トイレか飲み物でも買いに行ってるんじゃないですか?」
スタジオスタッフの子が、20歳も過ぎた大人の男がほんの少し姿が見えないくらいで何を騒いでいるんだとでも言いたげな様子で平然と言い放つ。
「そんなところ、真っ先に探したに決まっているだろう!」
普段の穏やかな田村さんなら考えられないほど苛立った大声を出した。
そのただならぬ様子に田村さんをよく知るリュウールの社員やカメラマンの永山さんも驚きを隠せない。
「田村さん、落ち着いてください。もう一度、楽屋のフロアに行きましょう。私も一緒に探します」
「はい。すみません。どうも胸騒ぎが……」
俺は田村さんと共に階段を駆け下り、楽屋フロアを端から端まで探して回った。
本当にいない……。
晴、どこに行ったんだ?
ああ、やはりひとりで行かすんじゃなかった。
いや、今はこんなに悲観している場合じゃない。
少しでも早く晴を見つけなければ!
「田村さん、違う階も探してみましょう!」
田村さんとフロアを手分けして探すことにしたその時、スタジオフロアから緒方部長と友利さんが駆け下りてきた。
「香月くん、まだ見つからないのですか? 僕たちも探します!」
2人ずつに別れて探そうということになり、俺は緒方部長と、田村さんは友利さんとそれぞれ探しに出かけた。
俺はまず楽屋フロアのもう一つ下の階を探すことにした。
部屋をひとつひとつ開け、中を確認していく。
その最中、緒方部長が尋ねてきた。
「あの早瀬さん、もしかして香月くんの例の事件が関係あったりします? 田村さんの動揺を見ているとそうとしか思えなくて……」
「関係なければいいと思っています。ですが、こんなに探して見つからないとなると……もしかしたら香月くんは……」
そう話しながら、俺はある部屋に置かれた物に違和感を感じた。
何でこんなものがここに?
「緒方部長、あれ見てください!」
俺が指さした先には、晴の大好きな炭酸リンゴジュースの空瓶が置いてあった。
「ジュースの空き瓶? 外国製のジュースなんて珍しいですね」
「これ、香月くんの好きなドイツの炭酸ジュースの瓶なんですよ。アルが……あのシュパースのオーナーがわざわざドイツから直輸入してるやつです」
そう、あの瓶はシュパースのものに間違いない。
ならば、これをここに運び込んだやつは……。
俺は上着の胸ポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。
ーHallo.ユキ。元気だったかい?
ーアル、今電話大丈夫か?
ーああ、どうした? 何か急用か?
どうやら俺の低く沈んだ声に何やらいつもと違う雰囲気を感じ取ったらしい。さすがアルだな。
ー最近店で何かおかしなこと無かったか?
ー店で? いや、特になかったと思うが……
俺の勘違いか?
あれは絶対シュパース絡みだと思ったんだけど……。
『ねぇ、アル。どうしたの? 電話だれ?』
後ろの方で、声が聞こえる。
あっ、これは理玖か?
ーユキ、ちょっといいかい?
俺が返事するよりも早く、理玖との会話が聞こえてくる。
『ユキからなんだが、最近店でおかしなことは無かったかって。リクはわかるか?』
『ユキって、早瀬さんのこと?』
『ああ』
『おかしなこと…………あっ、そういえば、 Kellerからアプフェルショーレが3本、在庫数が足りなかったよ。俺の数え間違いだったのかと思ってたんだけど、出た本数と比べてもどうも足りなくて気になってたんだ』
やっぱりそうか!
ーアル、聞こえるか? やはり俺の思ってた通りだった。
ーユキ、何かあったのか?
ー晴が、晴がいなくなったんだ。どこかへ連れて行かれたかもしれない。晴がいたかもしれない部屋にアプフェルショーレの空き瓶が置いてあった。恐らく、アルの店から盗まれたんだ。
ーなら……犯人は……
ーああ。俺は東巫署の森崎刑事と田ノ上刑事を呼ぶから、アルも良かったらこっちにきてくれないか?
ーわかった。すぐ向かうよ。住所送っといてくれ。
電話を切るとすぐに緒方部長が近寄ってきた。
「何かわかったんですか?」
「はい。あのジュースは日本では香月くんがアルバイトをしている店でしか手に入らないものなんです。その空き瓶がここにあるということは、その店から盗み出されたということです。あのジュースに何か薬でも入れて飲ませ、香月くんはここから連れて行かれた可能性は高いと思います」
緒方部長は驚きのあまり声も出せないほどだ。
「私はあの事件の加害者が今回の犯人だと思っています。すぐに事件の捜査をしてくれている刑事さんを呼びます。緒方部長は田村さんたちにこの話を伝えてきてもらえますか?」
まだ身体も動かせないほど驚いている様子だったが、俺が頼むとハッと我に返ったように、急いで伝えてきますといって、走って部屋を出て行った。
「早瀬さん! 香月くんが薬を飲まされて連れ去られたかもしれないって本当ですか?」
田村さんが物凄い勢いで、晴が居たかもしれないこの部屋の入り口にやってきた。
「まだ可能性の範疇ですが、恐らくその可能性は高いと思います」
俺が田村さんに詳しく話そうとしたそのとき、友利さんの案内で森崎刑事と田ノ上刑事が走ってやってきた。
「真島が現れたかもしれないというのは本当ですか?」
「ええっ? 真島が?」
森崎刑事の言葉に田村さんも動揺を隠せない様子で大声を上げた。
俺は、シュパースにしか置いていない晴の好きなジュースがシュパースから盗まれたこと
その空き瓶がこの部屋に置いてあったこと
その空き瓶から薬のようなツンとした臭いがすること
晴の姿が見えないことも踏まえて、晴は誰かに連れ去られたに違いないと説明した。
「なるほど。その可能性は高いですね。それが真島だという確証はありますか?」
「確定ではありませんが、真島らしきスタッフの姿を桧山さんが見たと話していました」
「その桧山さんという方をこの場に呼んで頂けますか?」
森崎刑事の言葉に、友利さんが急いでスタジオフロアに戻り、桧山さんを連れて戻ってきた。
「桧山さんですね。この男に見覚えありますか?」
田ノ上刑事が上着の胸元のポケットから、真島の写真を取り出し、桧山さんに見せた。
「ああ、はい。多分この人です。スタッフジャンパー着てたんですけど、見たことない顔だなって気になってたんです。たまにアルバイトで入る人もいるんで、もしかしたらバイトの子かなと思ったんですけど、それにしては余所余所しい感じで……ここのバイトの子にしては珍しいなって」
やっぱり、真島だったか。
晴は奴に連れ去られたんだ。
一体晴は何処にいるんだ。
晴、すぐに探し出してやるから無事でいてくれ!!
階段の方からバタバタと走ってくる音がしたと思ったら、部屋の入り口にアルと理玖がやってきた。
「ユキ! ハルは見つかったか?」
「アル、来てくれてありがとう。晴は……晴はまだだ。真島にどこかに連れ去られたらしいというのはわかったんだけど、一体どこに連れて行かれたのか……」
「あの、俺ちょっと思ったところがあって……」
理玖が話した場所はまさかと思うような驚きの場所だったが、今は何としても手かがりが欲しい。
急いで理玖のいう場所へと向かうことにした。
「ここは…………」
理玖が俺たちを連れてきた場所は、桜城大学の裏門に程近い河原だった。
ここのどこかに晴が?
キョロキョロと見回しても誰かが隠れていそうな場所や監禁されていそうな場所は見当たらない。
「リク、ここは?」
「アルは初めてだよね。ここの裏手に香月のアパートがあるんだ」
理玖が指差した先には、俺が一度行ったことがある晴のアパートが見えていた。
「まさか……?」
俺の言葉に理玖が小さく頷くのが見えた。
「もし真島が香月を連れ去ったんなら、香月のアパートに連れていくんじゃないかって思ったんだ。近くまでいって、もし、真島と鉢合わせしたら悪いと思って、ここに来たんだけど……」
「それは良い判断だと思いますよ。ただ、まだ確証があるわけではないんですよね。事件性が確認できない以上、警察は中に踏み込むことは出来ないです」
この間にも晴は真島に何かされているかもしれない。
落ち着け、よく考えるんだ。
あっ、そうだ!
大家の林田さんに頼んでみよう。
彼ならマスターキーで入れるはずだし。
「あのアパートの大家さんに連絡してみます!」
俺はそう言うと、胸ポケットからスマホを取り出し林田さんへと電話をかけた。
ーはい。林田です。
ーあ、あの私、香月くんを預かっています小蘭堂の早瀬です。
ーああ、早瀬さん。お久しぶりですね。晴くんは元気ですか?
ーそのことでご相談が……
ー何かあったんですか?
ー実は…………
というわけで、今、香月くんの行方を探しているところなんです。
それでもしかしたら、香月くんの部屋に連れて行かれているんじゃないかって……。
ーなるほど。私、今自宅にいるのですぐにアパートに行けます! 早瀬さんもこっちに来れますか?
ー私、今裏手の河原にいますのですぐ向かえますよ。
ーああ、あそこですか。なら、左手にある家からゆっくりアパートに近づいてください。そっちからなら晴くんの部屋から見えませんから。
ーわかりました。
そう言って、電話を切ると俺は河原にいるみんなに声をかけた。
「今から大家さんと一緒にアパートを見てきます。あなた方が見つかると逃げられる恐れもありますので、あちらで待機していてもらえますか? 何かあったらすぐ連絡します!」
一緒に来ていたアルと理玖、そして森崎刑事をアパートの左手にある民家に身を隠させ、俺は林田さんが到着するのを待った。
林田さんを待つ、たった数分が俺には数時間のように感じられた。
この間にもあの部屋で晴は真島に酷い目に遭わされているのではないか……
そう思うだけで、はらわたが煮え繰り返る思いがした。
晴……すぐ助けに行ってやるから待ってろよ!
自宅からずっと走ってきたんだろう、顔中に汗をかきながら林田さんが現れた。
2人でゆっくりと階段を上がり、晴の部屋の前で様子を伺った。
人の居る気配がする。
少なくとも誰かが勝手に晴の部屋に入り込んでいることは間違いない。
これだけで既に犯罪だ。
「林田さん、良いですか……私が『警察だ』と大声をあげてまず入るので、すぐに後ろから突入して、部屋の中を探してください。晴を見つけたら、すぐに保護してください」
「早瀬さんが晴くんを保護してあげた方が良いんじゃ?」
「いえ、相手は刃物や凶器を持っているかもしれません。まずはそいつをやっつけないと危険が伴います!」
「わかりました。くれぐれも気をつけて」
小声でそう林田と打ち合わせをしてから、俺は林田さんが手に握っていた晴の部屋の鍵をそっと鍵穴に差し込み、音が出ないようにゆっくりと開けた。
「行きます!」
「警察だ!!!!」
そう叫んで部屋に飛び込んだ瞬間、
部屋の真ん中から
「うわぁぁぁーーー!」
と大声をあげながら飛び出してきた男がいた!
そして、俺の顔を見るなり、
「なんだ、お前! 警察じゃないじゃないか! ふざけやがって!」
と言って、手に持っていた刃物を振りかざして向かってきた。
こいつが真島か!
「ふざけているのはお前だ!」
俺は刃物を持つ男の右手首を咄嗟に捕まえ、もう片方の手で男の腹に拳を1発くらわせた。
男は
「がはっ」
と大きな呻き声をあげ、床に倒れ込み蹲った。
「晴はどこだ!」
そう叫んだが、男は蹲ったまま動かない。
どうやら失神したらしい。
俺はチッと舌打ちをしてハッと林田さんのことを思い出し大声で叫んだ。
「林田さん、晴は!? どこですか?」
「大丈夫、キッチンにいます! 無事です。でもすぐに救急車呼んでください」
俺はその声に玄関から外にいる森崎刑事に聞こえるように、
「救急車をお願いします!!」
と大声で叫んで、返答も聞かないうちにキッチンに居る晴の元に駆け寄った。
「晴!!!」
晴は林田さんによって手首の縄を解かれているところだったが、目を瞑り床に横たわったまま、身動きひとつしていなかった。
俺は晴を腕の中に抱き寄せ、必死で名前を呼び続けた。
「目立った怪我は見当たらないので、眠らされているだけだと思います」
あの薬か……。
その時、玄関から声が聞こえてきた。
アルと理玖の声だ。
「救急車はまだか!?」
「もう来るはずだ。ハルは大丈夫か?」
「怪我はないが、目覚めないんだ! 晴!」
俺がずっとそう叫んでいると、ようやく救急車がアパートの前に到着した。
一分一秒も惜しくて、晴を抱き抱えて玄関へとむかう。
俺が殴りつけた男は、森崎刑事の手によって、手錠がかけられていた。
俺はその男を殺してやりたいほど殴りつけたかったが、今は晴が優先だ。
男を一瞥し、玄関を出ようとした俺を遮るように理玖が立ちはだかったかと思うと、理玖は着ていたジャケットをさっと晴の顔にかけ、外から顔が見えないようにしてくれた。
「ありがとう、理玖」
理玖の優しさに少し心が落ち着いて、腕の中の晴に振動が伝わらないようにゆっくりと階段を下りていった。
晴と共に救急車に同乗し、近くの救急病院へと搬送された。
病院に到着するとストレッチャーに乗せられ、すぐに処置室へと連れて行かれた。
その間、俺は処置室にほど近い待合室で待たせてもらうことになった。
祈る思いで晴が出てくるのを待っていると、上着の胸元に入れていた携帯が震えていることに気づいた。
着信を見ると、桜木部長の表示がでていた。
ーはい。早瀬です。
ー早瀬、今どこだ? 何かトラブルがあったと聞いたが、大丈夫か?
ー今、香山医療センターにいます。
ー医療センター? 何があったんだ?
ー晴が、いえ、香月くんが男に連れ去られて、なんとか救出したんですが、まだ意識が戻らなくて……どうやら連れ去られる際に薬を飲まされたようです。
ーなんだと!? 犯人は誰かわかってるのか?
ーまだ詳しいことは分かりませんが、おそらく、真島じゃないかと……。
ー真島って、香月くんを狙ってつけ回しているやつか?
ーその可能性が高いというだけで、私は犯人の顔は見ましたが、真島の顔を知らないので。
ーそうか。とりあえず、お前は香月くんの容体がわかるまでそこにいろ。何か情報が入ったら何時でもいい、連絡してくれ。
ー承知しました。
ふぅーーー。
桜木部長との電話を終え、俺は大きなため息をついた。
晴、無事な顔を見せてくれ。
早くあのいつもの笑顔を俺に見せてくれ。
ああ、なんであのとき晴を1人にしたんだろう……。
晴が連れ去られてからなんと同じ後悔を口にしただろうか。
悔やんでも悔やみきれない。
晴、お願いだから、俺のところに戻ってきてくれ。
あれから、何時間経ったのだろう。
俺は待合室の椅子に座ったまま、どこにも動くこともなくただ呼ばれるのを待っていた。
カタンと物音がした方向に顔を向けると、扉の向こうから医師の姿が見えた。
「早瀬さんですね、香月晴くんの保護者代理の方だと救急隊員から話を聞いています。香月くんの意識が戻りました」
「本当ですか! 良かった」
俺はホッとしてその場に座り込んでしまった。
「早瀬さん、大丈夫ですか?」
「ああ、はい。大丈夫です。それより、早く晴のところに連れて行ってください」
医師に縋りつくようにお願いすると、医師は苦笑していた。
「落ち着いてください」
そう促され、俺はふぅと深呼吸すると、ほんの少し気持ちが落ち着いた気がした。
医師に連れられて、晴がいる病室へと入った。
緊張しながら、病室に足を踏み入れると晴は上半身を少し起こし、枕を背にしてヘッドボードに寄りかかっていた。
「晴!」
俺の声に晴はすぐにこっちを振り向いた。
「た、かゆき、さん!」
まだ声が出にくいのか、いつもより小声だったがちゃんと晴の声が聞こえた。
急いで晴の元に駆け寄り、抱き寄せると晴は涙をいっぱい溜めてポロポロと溢しながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と泣き続けた。
「晴は何にもしていないだろ! 謝ることなんてないんだ。ああ、無事で本当に良かった」
俺は必死に晴を慰めていると、後ろから
「そうですよ。香月くんは何にも悪いことはしてません」
穏やかな声が聞こえた。
ハッと振り向くと、さっき俺を晴の病室まで連れてきてくれた医師が柔かな顔をして、俺たちを見ていた。
あっ、先生の存在忘れてたな……。
晴と顔を見合わせて、恥ずかしいやら照れ臭いやらで気づけば晴の涙も止まっていた。
「ふっ、はっはっは」
部屋に響く先生の笑い声につられるように、俺も晴も笑ってしまった。
先生は晴の傍にきて、一通り診断してからにっこりと笑って
「薬の影響はなさそうですね。体調が戻ったら、帰宅して良いですよ」
と言ってくれた。
「本当ですか! 良かった」
「ただ、警察の方が事情を聞きたいと待っておられるので、それが終わってからになりますが……」
「晴、大丈夫か?」
またトラウマになったりしていないだろうかと心配したが、晴は気丈にも大きく頷き、
「すぐに呼んでいただいて構いません」
と先生に頼んでいた。
先生も晴のその様子に大丈夫だろうと思ったのか、すぐに刑事さんが呼ばれた。
病室に入ってきたのは森崎刑事と田ノ上刑事の2人。
「香月くん、お久しぶりですね。今回は我々の捜査が足りずに怖い思いをさせてしまってすみませんでした」
入って早々、晴に謝罪の言葉を述べる森崎刑事に俺も晴も驚いてしまった。
「少し話をさせて頂いても良いですか?」
そう切り出した森崎刑事の言葉に、俺も晴もさらに驚きを隠せなかった。
「まず、初めに伺いたいんですが、香月くんは君を連れ去ったあの男と面識はありましたか?」
「えっと、見覚えがある気はしたんですけど、よくわかりません」
「そうですか……」
なんだ? あの男は真島じゃなかったのか?
じゃあ、一体誰だったんだ?
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