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リュウール特設会場
食事を終え、俺たちはこの後予定があったため早々に解散となった。
「お前たち、リュウールの特設会場に顔を出すんだろう?」
「はい。これから行く予定です」
なっ! と、晴に相槌を求めると晴は、
「そういうところに行くの初めてで楽しみなんです」
と言って嬉しそうに笑っていた。
「先方によろしく伝えてくれ」
桜木部長が長谷川さんを連れて家を出ようとすると、長谷川さんはさっと晴の前に立ちはだかり、さっきの約束をいつにするか決めたいから連絡先教えてと言い出し、俺が割り込む隙もなく、さっさとメッセージアプリのIDを交換してしまっていた。
「予定を調整して都合が良い日を連絡するから!」
必死に晴に伝えながら、桜木部長に腕を引っ張られて帰って行った。
最後は嵐のようだったなと思いながら、ふぅと一息つくと、晴はもう片付けを始めていた。
「晴、朝から忙しかったんだから少しくらいゆっくりしたら良いのに……」
と言いながら、俺も晴が洗った皿を拭きあげていく。
「はい。でも、早く隆之さんと出掛けたくて……」
そう言われれば嫌な気はしないというより、嬉しくてたまらない。
「なら、早く片付けて一度マンションに荷物を置きに行くとするか」
またいつ来るかわからないから、冷蔵庫の中のものを保冷袋に入れ、昨夜使った布団乾燥機を持って晴のアパートを出た。
タクシーでマンションに戻ると、高木が一緒に荷物を運んでくれた。
「準備してくれた布団乾燥機助かったよ。おかげで気持ちよく寝られた。なぁ、晴」
「はい。高木さん、ありがとうございました」
「いえ、ご満足いただけて幸いです」
あっという間に部屋の前に着き、高木はさっと扉を開け、荷物をリビングに運んでくれた。
「やぁ、助かったよ。ありがとう」
「あの、高木さん……これ、今日焼いたんですけどもし良かったら召し上がってください」
晴は紙袋に入ったパンを手渡した。
「えっ? これ、香月さまの手作り? こんな素晴らしいものを私共にいただいて宜しいのですか?」
「そんな大したものではないので申し訳ないんですが、召し上がっていただけたら嬉しいです」
たくさん焼いてるなと思ったらこれの為だったのか……。
高木には世話になってるからな、まぁ良しとするか。
「有り難く頂戴いたします」
「ふふっ。良かったです。それから、高木さんを呼んでのお食事会ですけど、来週金曜日の夕食はいかがですか?」
ああ、そういえばそんな約束していたな。
「はい。喜んでお伺いいたします」
高木はパンを嬉しそうに抱え、フロントへと戻って行った。
「晴、着替えよう」
2人で寝室に行き、晴の服を選んだ。
コスメイベントだから、格好良い感じにしてみるか。
しっかりした生地のシンプルな白のVネックカットソーに七分袖のネイビーシャツ、爽やかなベージュのパンツを合わせてみた。
着替え終わって姿見を覗く晴がなんだかとても嬉しそうだ。
どうやら大人っぽい服装を気に入っているようだ。
よし、これならあのポスターのモデルが晴だと気付かれることはないだろう。
違う意味で騒がれそうな気はするが、リュウールのためにも今日モデルの件がバレるわけにはいかないからな。
俺は晴に合わせてサックスブルーのシャツに夏用の薄手ネイビージャケット、白のパンツを合わせた。
少し若い感じはするが、晴を大人っぽい印象にしたから今日の格好だと歳は近く見えるかも知れないな。
「じゃあ出かけるか」
2人で車に乗り込み特設会場のある神楽百貨店へと向かう。
「隆之さんの車に乗るの、なんだか久しぶりな感じがしますね」
「そうだな。せっかくだから、帰りはドライブして帰るか」
「わぁーっ、良いんですか! やったぁ」
百貨店近くのパーキングに停め、歩いて向かうと百貨店に近づいていくにつれ女性の数が明らかに増えている。
「ねぇ、隆之さん。 あれ、見てください!」
晴が小声で見つめるほうに視線を向けると、すれ違う女性たちはみんなリュウールの紙袋を持っていることに気づいた。
「ああ、すごいな。かなり盛況のようだ」
その女性たちをみて、晴の足取りが軽くなった。
自分がポスターになったことで売上が悪くなったらなどと、俺からしたら絶対に有り得ない心配をしていたから、ここに着くまで緊張していたようだ。
神楽百貨店は都内にある百貨店の中でも一番歴史があり、煉瓦造りのその建物は創業当時からの姿を残している。重厚で洗練された外観に内装は和の趣きを兼ねそろえていて大変美しく、国の重要文化財に指定されているほどだ。
そこに出店できることは一流として認められたと言える。
リュウールはその神楽百貨店のコスメ売り場の中でも屈指の売り上げを誇っており、特設会場をセッティングすることにも神楽百貨店からはなんの異論もなかった。
とはいえ、今回の商品はリュウールにとって社の命運をかかった大事なコスメだ。
売上目標もかなり強気で出しているはずだ。
それを下回ることがあれば、神楽百貨店からの撤退も考えていることだろう。
しかし、すれ違う女性たちのあの満足そうな表情を見れば掲げた売上目標など遥かに上回りそうだ。
多くの百貨店と同じで神楽百貨店も正面玄関から中に入ると、一階フロアのほとんどがコスメフロアになっている。
そのフロアの中ほどリュウールの特設会場はセッティングされている。
晴と一緒にコスメフロアに足を踏み入れた途端、芳しい香水の香りに包まれる。
色々な香水が並びむせかえりそうになると思いきや、並びと空調を計算しているのかどこを歩いても良い匂いに迎えられて気分が良い。
晴は何も気にしてはいないようだが、コスメフロアを男2人で歩いているとどうやら目立っているらしい。
てっきり女性たちはコスメに夢中で我々など見ないと思っていたが、間違いだったようだ。
俺よりも晴を見つめる目が多いことに気づいた。
まさか晴がモデルだとバレたわけではないだろう。
おそらく、晴の格好良さに釘付けになっているのだ。
俺は自分の身体で晴を隠すように急いで特設会場へ向かった。
「わぁーっ、凄い!」
どうやらピークは過ぎたようだが、まだたくさんの女性が特設会場で行列を作っている。
女性たちの手には新商品のファンデーションだけでなく、既存の化粧品も多数持っている。
やはり、リュウールの基礎化粧品の人気は絶大なのだな。
そこにメイクアップ化粧品の売り上げが伸びれば、化粧品業界でも単独トップに踊り出ることだろう。
特設会場には甘い花の香りが漂っているが、これは香水ではない。
特設会場を彩っているアマリリスの香りだ。
本来のアマリリスには香りはほとんどないと言われているから、これは香りがするアマリリスなのだろう。
この柔らかい香りに女性たちの表情も綻んでいるように見える。
会場の様子に晴と2人感動していると、忙しなく動き回る女性スタッフのサポートをしているスーツの男性と目があった。
あっ、あれは……友利さんか?
いつものスーツの感じと違うからデパートの黒服スタッフに見えるな。
しばらく会場を見て回っていると、行列が落ち着いたのか友利さんが走って我々のもとにやってきた。
「早瀬さん、香月くん! 来てくださったんですね!」
「友利さん、大盛況のようで安心しましたよ」
「いやぁー、これも早瀬さんと香月くんのおかげですよー」
晴は嬉しそうに笑いながら、
「僕たちがここに来る時にすれ違う女の人たちがみんなリュウールさんの紙袋持ってて嬉しくなっちゃいました」
と報告していた。
「実はね、香月くんのおかげなんだよ」
「えっ?」
「これ、見て!」
そう言って友利が差し出したのは、スマホ。
どうやら友利の私物のようだが、これが……?
ピンときてない俺と晴の反応に痺れを切らしたのか、『これですよ』としっかりと見せてくれたのが
《talk on》の日本トレンドランキング1位にリュウールと書かれていた。
「わぁっ、1位だ! 凄い!」
「香月くんのポスターがバズってるんだよ。あれは誰だって物凄く話題になってて」
コソッと俺たちの耳元でそう話す友利はとても嬉しそうだった。
「良かった、安心しました」
あのポスターならバズるのは当然だと思っていたが、まさかトレンド1位になるとは思わなかった。
これは物凄い効果だな。
これなら
第二弾、第三弾も問題ないどころか、今回よりもっと凄くなるかもしれないな。
「それにしても、香月くん。今日の格好は大人っぽいね。すごくカッコいいよ!」
「ありがとうございます。百貨店なんて敷居高くて滅多に来ないので早瀬さんにコーディネートお願いしたんですよ」
「へぇー、さすがだな。これなら、モデルだってバレないしバッチリだよ」
周りに聞こえないように小声で話す友利は、晴の格好に興味津々だ。
「あっ、そうだ。コレ、どうぞ」
「これは?」
「今日の特設会場で買ったら貰える抽選券なんだけど、あっちでガラガラやってるからしていってください」
そう言って抽選券を2枚渡してくれた。
「えっ? 良いんですか?」
「はい。部長の緒方から渡すように言われてるので大丈夫です。結構良いものが当たりますよ」
「僕、ガラガラするの初めてです! 嬉しい」
そうか、こういうのってあまり機会はないかもな。
晴が初めてなら行ってみるか。
友利さんに2人でお礼を言って早速抽選会場に行ってみる。
並んでいるのはやっぱり女性ばかりだが、晴はもうガラガラに夢中で自分が見られていることには何も気にしていない。
少しずつ俺たちの順番が近づくたびに晴の目が輝いていく。
なんで、晴はこんなに可愛いんだろう……。
はぁー、誰にも見せずに隠しておきたいくらいだ。
そして、とうとう俺たちの番がやってきた。
晴が嬉しそうに2枚抽選券を手渡すと、スタッフの女性は顔を赤らめて一回ずつどうぞと声をかけた。
「隆之さん、先にどうぞ」
「晴が2回していいよ」
「ダメです! 隆之さんもやってください」
そんな可愛い顔して言われたら、やらないわけにはいかないな。
それじゃあ先に……とガラガラを回すと、出てきたのはブルーの玉。
それを見てスタッフの女性がカランカランと鐘を鳴らした。
「おめでとうございます! 3等のダリオリーヌホテルのランチ券が当たりました!」
「わぁーっ! 隆之さん、すごい!」
晴が飛び跳ねて喜んでいる。ほんと、可愛いな。
「じゃあ僕も!」
よぉし! と勢いをつけて回すと…………
カラン
出てきたのは金色の玉。
えっ?
えっ?
えっ?
晴と俺とスタッフの女性、3人揃ってそれに見入った。
そして、一瞬止まってスタッフの女性がカランカランカランカランと先程の5倍くらいの勢いで鐘を振り回した。
「お、おめでとうございます! 特賞の温泉旅行券当たりましたーーー!!」
「「えーーーーっ!」」
その瞬間、周りに並んでいた女性たち全員が拍手してくれて場は騒然となった。
その騒ぎを聞きつけたのか、友利が走って抽選会場までやってきた。
「早瀬さん、何かありましたか?」
友利はまだ茫然としている晴をチラチラと見ながら、心配そうに尋ねた。
「いや、大丈夫ですよ。ただ、香月くんが……」
「こちらのお客さまが特賞を引き当てられたんです!」
女性スタッフが興奮した様子で友利に話しかけた。
「えーーっ! すごい! 香月くん、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます! でも、いいんですか? なんか申し訳なくて……」
「いやいや、せっかくだから喜んで貰ってくれた方がこっちも嬉しいよ」
その言葉に晴はやっと嬉しそうに笑顔を見せて、
「ありがとうございます。いただきます」
と女性スタッフの差し出した目録を受け取った。
晴は周りで拍手してくれた女性たちにもありがとうございますと頭を下げお礼を言って、俺たちは抽選会場を後にした。
「それにしてもすごいな、香月くんくじ運良いんだね」
「僕、くじ引いたの初めてなんです。だから、ビギナーズラックっていうやつかもしれないですね」
「そうか、本当にそんなことってあるんだな……って、早瀬さん? 何か持ってます?」
友利が俺の持っている封筒を目敏く見つけ視線を向けてきた。
「早瀬さんも3等当てたんですよ!」
晴が嬉しそうに友利に伝えると、
「えっ? すごいじゃないですか! 2人とも当たるなんて!」
と大興奮の様子だ。
「私たち2人で良いやつを2つも当てちゃって申し訳ないですね」
「いや、早瀬さんにはうちはいつもお世話になってますから気にしないでください」
柔かに笑う友利の様子にこれは本心だなと悟り、そのままいただくことにした。
晴と近いうちにランチ行ってみるか。
楽しみだな。
「早瀬さんたちはこの後のご予定は?」
うーん、特に予定はないが、無いと言えばこのまま食事に誘われるかもな。
そう思っていると、晴が先に答えた。
「僕、百貨店にはあまり来たことがないので早瀬さんに洋服を選んで貰おうと思ってるんです」
「そうなんだ、ここのは良いのが揃ってるからきっと気にいると思うよ」
「ふふっ。そうなんですね。楽しみです」
友利は『それじゃあ、次は撮影の日に』と小声で告げると、特設会場へと戻っていった。
「お前たち、リュウールの特設会場に顔を出すんだろう?」
「はい。これから行く予定です」
なっ! と、晴に相槌を求めると晴は、
「そういうところに行くの初めてで楽しみなんです」
と言って嬉しそうに笑っていた。
「先方によろしく伝えてくれ」
桜木部長が長谷川さんを連れて家を出ようとすると、長谷川さんはさっと晴の前に立ちはだかり、さっきの約束をいつにするか決めたいから連絡先教えてと言い出し、俺が割り込む隙もなく、さっさとメッセージアプリのIDを交換してしまっていた。
「予定を調整して都合が良い日を連絡するから!」
必死に晴に伝えながら、桜木部長に腕を引っ張られて帰って行った。
最後は嵐のようだったなと思いながら、ふぅと一息つくと、晴はもう片付けを始めていた。
「晴、朝から忙しかったんだから少しくらいゆっくりしたら良いのに……」
と言いながら、俺も晴が洗った皿を拭きあげていく。
「はい。でも、早く隆之さんと出掛けたくて……」
そう言われれば嫌な気はしないというより、嬉しくてたまらない。
「なら、早く片付けて一度マンションに荷物を置きに行くとするか」
またいつ来るかわからないから、冷蔵庫の中のものを保冷袋に入れ、昨夜使った布団乾燥機を持って晴のアパートを出た。
タクシーでマンションに戻ると、高木が一緒に荷物を運んでくれた。
「準備してくれた布団乾燥機助かったよ。おかげで気持ちよく寝られた。なぁ、晴」
「はい。高木さん、ありがとうございました」
「いえ、ご満足いただけて幸いです」
あっという間に部屋の前に着き、高木はさっと扉を開け、荷物をリビングに運んでくれた。
「やぁ、助かったよ。ありがとう」
「あの、高木さん……これ、今日焼いたんですけどもし良かったら召し上がってください」
晴は紙袋に入ったパンを手渡した。
「えっ? これ、香月さまの手作り? こんな素晴らしいものを私共にいただいて宜しいのですか?」
「そんな大したものではないので申し訳ないんですが、召し上がっていただけたら嬉しいです」
たくさん焼いてるなと思ったらこれの為だったのか……。
高木には世話になってるからな、まぁ良しとするか。
「有り難く頂戴いたします」
「ふふっ。良かったです。それから、高木さんを呼んでのお食事会ですけど、来週金曜日の夕食はいかがですか?」
ああ、そういえばそんな約束していたな。
「はい。喜んでお伺いいたします」
高木はパンを嬉しそうに抱え、フロントへと戻って行った。
「晴、着替えよう」
2人で寝室に行き、晴の服を選んだ。
コスメイベントだから、格好良い感じにしてみるか。
しっかりした生地のシンプルな白のVネックカットソーに七分袖のネイビーシャツ、爽やかなベージュのパンツを合わせてみた。
着替え終わって姿見を覗く晴がなんだかとても嬉しそうだ。
どうやら大人っぽい服装を気に入っているようだ。
よし、これならあのポスターのモデルが晴だと気付かれることはないだろう。
違う意味で騒がれそうな気はするが、リュウールのためにも今日モデルの件がバレるわけにはいかないからな。
俺は晴に合わせてサックスブルーのシャツに夏用の薄手ネイビージャケット、白のパンツを合わせた。
少し若い感じはするが、晴を大人っぽい印象にしたから今日の格好だと歳は近く見えるかも知れないな。
「じゃあ出かけるか」
2人で車に乗り込み特設会場のある神楽百貨店へと向かう。
「隆之さんの車に乗るの、なんだか久しぶりな感じがしますね」
「そうだな。せっかくだから、帰りはドライブして帰るか」
「わぁーっ、良いんですか! やったぁ」
百貨店近くのパーキングに停め、歩いて向かうと百貨店に近づいていくにつれ女性の数が明らかに増えている。
「ねぇ、隆之さん。 あれ、見てください!」
晴が小声で見つめるほうに視線を向けると、すれ違う女性たちはみんなリュウールの紙袋を持っていることに気づいた。
「ああ、すごいな。かなり盛況のようだ」
その女性たちをみて、晴の足取りが軽くなった。
自分がポスターになったことで売上が悪くなったらなどと、俺からしたら絶対に有り得ない心配をしていたから、ここに着くまで緊張していたようだ。
神楽百貨店は都内にある百貨店の中でも一番歴史があり、煉瓦造りのその建物は創業当時からの姿を残している。重厚で洗練された外観に内装は和の趣きを兼ねそろえていて大変美しく、国の重要文化財に指定されているほどだ。
そこに出店できることは一流として認められたと言える。
リュウールはその神楽百貨店のコスメ売り場の中でも屈指の売り上げを誇っており、特設会場をセッティングすることにも神楽百貨店からはなんの異論もなかった。
とはいえ、今回の商品はリュウールにとって社の命運をかかった大事なコスメだ。
売上目標もかなり強気で出しているはずだ。
それを下回ることがあれば、神楽百貨店からの撤退も考えていることだろう。
しかし、すれ違う女性たちのあの満足そうな表情を見れば掲げた売上目標など遥かに上回りそうだ。
多くの百貨店と同じで神楽百貨店も正面玄関から中に入ると、一階フロアのほとんどがコスメフロアになっている。
そのフロアの中ほどリュウールの特設会場はセッティングされている。
晴と一緒にコスメフロアに足を踏み入れた途端、芳しい香水の香りに包まれる。
色々な香水が並びむせかえりそうになると思いきや、並びと空調を計算しているのかどこを歩いても良い匂いに迎えられて気分が良い。
晴は何も気にしてはいないようだが、コスメフロアを男2人で歩いているとどうやら目立っているらしい。
てっきり女性たちはコスメに夢中で我々など見ないと思っていたが、間違いだったようだ。
俺よりも晴を見つめる目が多いことに気づいた。
まさか晴がモデルだとバレたわけではないだろう。
おそらく、晴の格好良さに釘付けになっているのだ。
俺は自分の身体で晴を隠すように急いで特設会場へ向かった。
「わぁーっ、凄い!」
どうやらピークは過ぎたようだが、まだたくさんの女性が特設会場で行列を作っている。
女性たちの手には新商品のファンデーションだけでなく、既存の化粧品も多数持っている。
やはり、リュウールの基礎化粧品の人気は絶大なのだな。
そこにメイクアップ化粧品の売り上げが伸びれば、化粧品業界でも単独トップに踊り出ることだろう。
特設会場には甘い花の香りが漂っているが、これは香水ではない。
特設会場を彩っているアマリリスの香りだ。
本来のアマリリスには香りはほとんどないと言われているから、これは香りがするアマリリスなのだろう。
この柔らかい香りに女性たちの表情も綻んでいるように見える。
会場の様子に晴と2人感動していると、忙しなく動き回る女性スタッフのサポートをしているスーツの男性と目があった。
あっ、あれは……友利さんか?
いつものスーツの感じと違うからデパートの黒服スタッフに見えるな。
しばらく会場を見て回っていると、行列が落ち着いたのか友利さんが走って我々のもとにやってきた。
「早瀬さん、香月くん! 来てくださったんですね!」
「友利さん、大盛況のようで安心しましたよ」
「いやぁー、これも早瀬さんと香月くんのおかげですよー」
晴は嬉しそうに笑いながら、
「僕たちがここに来る時にすれ違う女の人たちがみんなリュウールさんの紙袋持ってて嬉しくなっちゃいました」
と報告していた。
「実はね、香月くんのおかげなんだよ」
「えっ?」
「これ、見て!」
そう言って友利が差し出したのは、スマホ。
どうやら友利の私物のようだが、これが……?
ピンときてない俺と晴の反応に痺れを切らしたのか、『これですよ』としっかりと見せてくれたのが
《talk on》の日本トレンドランキング1位にリュウールと書かれていた。
「わぁっ、1位だ! 凄い!」
「香月くんのポスターがバズってるんだよ。あれは誰だって物凄く話題になってて」
コソッと俺たちの耳元でそう話す友利はとても嬉しそうだった。
「良かった、安心しました」
あのポスターならバズるのは当然だと思っていたが、まさかトレンド1位になるとは思わなかった。
これは物凄い効果だな。
これなら
第二弾、第三弾も問題ないどころか、今回よりもっと凄くなるかもしれないな。
「それにしても、香月くん。今日の格好は大人っぽいね。すごくカッコいいよ!」
「ありがとうございます。百貨店なんて敷居高くて滅多に来ないので早瀬さんにコーディネートお願いしたんですよ」
「へぇー、さすがだな。これなら、モデルだってバレないしバッチリだよ」
周りに聞こえないように小声で話す友利は、晴の格好に興味津々だ。
「あっ、そうだ。コレ、どうぞ」
「これは?」
「今日の特設会場で買ったら貰える抽選券なんだけど、あっちでガラガラやってるからしていってください」
そう言って抽選券を2枚渡してくれた。
「えっ? 良いんですか?」
「はい。部長の緒方から渡すように言われてるので大丈夫です。結構良いものが当たりますよ」
「僕、ガラガラするの初めてです! 嬉しい」
そうか、こういうのってあまり機会はないかもな。
晴が初めてなら行ってみるか。
友利さんに2人でお礼を言って早速抽選会場に行ってみる。
並んでいるのはやっぱり女性ばかりだが、晴はもうガラガラに夢中で自分が見られていることには何も気にしていない。
少しずつ俺たちの順番が近づくたびに晴の目が輝いていく。
なんで、晴はこんなに可愛いんだろう……。
はぁー、誰にも見せずに隠しておきたいくらいだ。
そして、とうとう俺たちの番がやってきた。
晴が嬉しそうに2枚抽選券を手渡すと、スタッフの女性は顔を赤らめて一回ずつどうぞと声をかけた。
「隆之さん、先にどうぞ」
「晴が2回していいよ」
「ダメです! 隆之さんもやってください」
そんな可愛い顔して言われたら、やらないわけにはいかないな。
それじゃあ先に……とガラガラを回すと、出てきたのはブルーの玉。
それを見てスタッフの女性がカランカランと鐘を鳴らした。
「おめでとうございます! 3等のダリオリーヌホテルのランチ券が当たりました!」
「わぁーっ! 隆之さん、すごい!」
晴が飛び跳ねて喜んでいる。ほんと、可愛いな。
「じゃあ僕も!」
よぉし! と勢いをつけて回すと…………
カラン
出てきたのは金色の玉。
えっ?
えっ?
えっ?
晴と俺とスタッフの女性、3人揃ってそれに見入った。
そして、一瞬止まってスタッフの女性がカランカランカランカランと先程の5倍くらいの勢いで鐘を振り回した。
「お、おめでとうございます! 特賞の温泉旅行券当たりましたーーー!!」
「「えーーーーっ!」」
その瞬間、周りに並んでいた女性たち全員が拍手してくれて場は騒然となった。
その騒ぎを聞きつけたのか、友利が走って抽選会場までやってきた。
「早瀬さん、何かありましたか?」
友利はまだ茫然としている晴をチラチラと見ながら、心配そうに尋ねた。
「いや、大丈夫ですよ。ただ、香月くんが……」
「こちらのお客さまが特賞を引き当てられたんです!」
女性スタッフが興奮した様子で友利に話しかけた。
「えーーっ! すごい! 香月くん、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます! でも、いいんですか? なんか申し訳なくて……」
「いやいや、せっかくだから喜んで貰ってくれた方がこっちも嬉しいよ」
その言葉に晴はやっと嬉しそうに笑顔を見せて、
「ありがとうございます。いただきます」
と女性スタッフの差し出した目録を受け取った。
晴は周りで拍手してくれた女性たちにもありがとうございますと頭を下げお礼を言って、俺たちは抽選会場を後にした。
「それにしてもすごいな、香月くんくじ運良いんだね」
「僕、くじ引いたの初めてなんです。だから、ビギナーズラックっていうやつかもしれないですね」
「そうか、本当にそんなことってあるんだな……って、早瀬さん? 何か持ってます?」
友利が俺の持っている封筒を目敏く見つけ視線を向けてきた。
「早瀬さんも3等当てたんですよ!」
晴が嬉しそうに友利に伝えると、
「えっ? すごいじゃないですか! 2人とも当たるなんて!」
と大興奮の様子だ。
「私たち2人で良いやつを2つも当てちゃって申し訳ないですね」
「いや、早瀬さんにはうちはいつもお世話になってますから気にしないでください」
柔かに笑う友利の様子にこれは本心だなと悟り、そのままいただくことにした。
晴と近いうちにランチ行ってみるか。
楽しみだな。
「早瀬さんたちはこの後のご予定は?」
うーん、特に予定はないが、無いと言えばこのまま食事に誘われるかもな。
そう思っていると、晴が先に答えた。
「僕、百貨店にはあまり来たことがないので早瀬さんに洋服を選んで貰おうと思ってるんです」
「そうなんだ、ここのは良いのが揃ってるからきっと気にいると思うよ」
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