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理玖の相談  <side晴>

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バトラー執事やコンシェルジュというのは日本ではそこまで浸透していませんよね。
ここのマンションは父がうちの学校を卒業したものがどれほど素晴らしいバトラーそして、コンシェルジュとしての能力を持っているかというのを示すために建てたマンションなんです」

「そうだったのか……」

なるほど、ここのコンシェルジュさんの行き届いたサービスはそのためだったんだ。

「はい。実は実地研修でもこのマンションで勉強するんですが、その時に早瀬さまにいろいろとお声掛けいただいて……この方のために働きたいって思ったんです」

「えっ? 俺?」

「ふふっ。覚えていらっしゃらないかもしれませんね。あの時、他の住民の方のご要望にお答えすることができなくて落ち込んでいたんです。私にはもうこの仕事は向いていないんじゃないかってそこまで思い詰めていた時、それでも仕事の間は笑顔を心がけ表情には一切出しませんでした。ですが、早瀬さまはお帰りになって私の顔を見た瞬間、
『何かあったのか?』と声をかけてくださったんです」

僕は咄嗟に隆之さんをみると、隆之さんはその時のことを思い出したのか『ああっ、あの時の』という表情をしていた。

「ふふっ。思い出していただけましたか?
表情を作るのには自信があったはずなのに、早瀬さまにすぐに指摘されて驚きました。
いつもなら上手くかわせるはずなのにあの日は取り繕うこともできずにあろうことか涙を流してしまったんです。
そうしたら早瀬さまは『理由はわからないが、仕事をしていれば辛いこともあるだろう。それでも君の仕事は人に幸せと愛を与えることができる仕事だ。今まで君がしたことにどれだけのお礼を言われたかを思い出すといい。そのお礼の数だけ、みんな君から幸せと愛をもらったはずだよ。たった一つの失敗で落ち込むことなどない。大事なことはそれを繰り返さない努力をすることだよ。さぁ、もう泣くな。いつものお礼にこれをあげよう』と言って、これをくださったんです」

将吾さんが胸ポケットからスッと取り出したものは、金色のボールペン。

「『仕事先でもらったものだが、【夢が叶うボールペン】なんだそうだよ。これはきっと君の夢が叶う手伝いをしてくれるはずだ』って。すごく嬉しくて、私はそれからずっと肌身離さず相棒として持ち続けたんです。これをみるたびにあの時の早瀬さまのお言葉を思い出して勇気が出ました。おかげで学校を主席で卒業でき、ここのコンシェルジュとして働くことを父にも認めてもらったんですよ」

とそれを愛おしそうに撫でボールペンを見せてくれた。
それは所々傷が入っていたけれど、将吾さんがどれだけ大切にしているかがよくわかる代物だった。

僕の知らない将吾さんと隆之さんの深い繋がりにほんの少し妬いてしまいそうになるけれど、将吾さんが尊敬の眼差しで隆之さんを見ているのがわかるから僕は嬉しさの方が多い。

「隆之さんとの出会いが将吾さんの運命を変えたんですね。素敵な思い出ですね」

「はい。私はここで働くことができて本当に幸せなんです」

将吾さんの嬉しそうな表情が本心を表しているようで僕も嬉しくなった。
隆之さんは自分の言葉が将吾さんの人生を大きく変えてしまったようで心配そうな表情をしていたけれど、将吾さんの嬉しそうな表情でホッとしているようだった。

「一度ちゃんとお礼を言いたいと思っていたので、今日こうやって直接お話しできて本当によかったです。香月くんが食事に誘ってくれたおかげだよ。ありがとう」

将吾さんから僕までお礼を言われて、和やかな雰囲気のまま食事会は終了した。

他のコンシェルジュさんにもお土産として作っておいた料理を将吾さんに渡すと、満面の笑みで

「みんな喜びます! ありがとう!」

と興奮で敬語とタメ口が混ざった言葉で返されて3人で笑ってしまった。

今日の食事会は将吾さんと隆之さんの意外な過去もわかってとても有意義な食事会になった。

パタンと扉が閉まった瞬間、『ふぅ』と一気に力が抜けてしまった。

「晴、疲れたんじゃないか?」

隆之さんはさっと僕を抱きしめながら心配してくれている。

「ううん。すごく楽しかったよ。将吾さんに喜んでもらえたのが嬉しくて安心しちゃっただけ」

「そうか。なら良いが。じゃあ部屋に戻ろう」

疲れてないと言ったけれど、隆之さんはそれでも僕のことを心配してリビングまで抱きかかえて連れて行ってくれた。
そして、隆之さんは僕を抱きかかえたまま、ソファーに腰を下ろし僕を見つめた。
何か言いたげなその視線が気になって僕は尋ねた。

「どうしたの? 何かあった?」

「いや、晴が俺に何か言いたいことがあるんじゃないかと思って……」

やっぱり隆之さんは僕のことをよくわかってるんだな。多分、僕より僕のことを詳しいのかもしれない……そんなことを思ったら少し照れてしまった。

「ふふっ。正解。さすが隆之さんだね」

照れ隠しに隆之さんの胸元に顔を擦り寄せながら、思ったことを話してみる。

「あのね、将吾さんの話聞いて……いいなって思っちゃったんだ」

「いいな……って何がだ?」

「僕が知るよりもずっと前の隆之さんを知ってて、隆之さんに心が突き動かされるような言葉をもらって、しかもお守りまでもらえるなんて……羨ましいなって思っちゃった」

「ふふっ。そうか」

隆之さんはにっこり笑って僕の頭をそっと撫でてくれた。

「心が狭いなって思わないの?」

「ははっ。思うわけがないだろう。俺の方がいつも羨ましいなって思ってるんだから」

「えっ? 羨ましいって誰に?」

「たくさん居すぎて、誰にって言われても困るが……そうだな。一番は理玖かな」

「えっ? 理玖??」

思いもよらない人物の名前が出てきて、ぼくはおうむ返しに訊ね返してしまった。

「ああ。俺の知らない高校時代の晴を知ってるんだぞ。しかも勉強を教えてもらってたって言ってたし。制服を着た晴に家庭教師してもらうだなんて羨ましすぎるだろ!」

「ふふっ」

理由にびっくりしたけれどだんだんヒートアップしてくる隆之さんがおもしろくて可愛くって、つい笑ってしまった。

「晴、俺は本気だぞ。今度旅行で理玖に会った時は俺の知らない晴の話をたくさん教えてもらおうと思ってるんだ」

「ふふっ。そっか。じゃあ、理玖に変な話はしないようにちゃんと言っとかなくちゃ!」

「なんだ? 変な話って何かあるのか?」

「ふふっ。内緒」

笑って隆之さんに抱きつくと、隆之さんはそれ以上は追求せずにただ笑って抱きしめてくれた。

今日は久しぶりに理玖と会う日。
早々に掃除と洗濯を終わらせて、僕は大学へと向かった。

約束のランチの場所が大学に近いこともあり、僕が大学まで迎えにいくことになったのだ。
少し早く着きすぎたので、僕は学食のコーヒーを飲みながら理玖を待つことにした。

スマホで本を読みながら待っていると、

「あれ? 香月、来てたのか?」

と声をかけられた。

「ああ、前澤くん、おはよう。友達を待ってるんだ」

「そうか。あ、そうだ。この前の話だけど、この店にしようと思っててさ……」

と前澤くんはスマホ画面を見せてくれた。

そこは大学から数駅離れた繁華街にある居酒屋だったけれど、お刺身が新鮮で美味しいと評判のお店だった。

「ちょっと離れてるけど大きな駅だしみんな集まりも良さそうと思って、それに料理が美味しい店の方がいいじゃん」

「うん。いいね! 美味しそう。早瀬さんも和食が好きだし、二階堂教授もどちらかといえば魚派だからバッチリだよ」

「香月がそう言ってくれるなら、じゃあこの店で予約しとこうかな」

前澤くんは手早く日時と人数を打ち込み、あっという間に予約完了していた。

「みんな来られるって?」

「ああ、江口がちょっとバイトで遅れそうって言ってたけど絶対参加するって意気込んでたし、あとはみんな予定空けとくってさ。これも早瀬さんのおかげだよ」

「えっ? どう言うこと?」

「なんたってあの・・小蘭堂で営業トップの人が来て、話をしてくれるなんて機会そうそうないからな。
教授も早瀬さんが参加してくれるって話したら喜んでたぞ。香月のおかげだって言ってたな」

そりゃあ、そうか。
僕でもそんな機会あったら話を聞きに行きたいもんね。

「でも、香月は本当によかったのか? 心配してただろう?」

前澤くんが心配そうに尋ねてくれるけれど、僕はもうすっかり吹っ切れていた。

「うん。良いんだ。僕のわがままでみんなから貴重な時間を取るのは申し訳ないし、それに……」

「それに……?」

「心配するようなことは何もないってわかったから」

僕が隆之さんとあの話をした時のことを思い出しながらにっこり笑ってそういうと、前澤くんは

「あーはい、はい。ごちそうさま」

とそっけない態度で話を終わらせようとしていた。

「ねぇ、ちゃんと聞いてよー!」

「ただの惚気話を聞く気になれないよ。大体、俺だってお前のこと……いいなって思ってたのに……」

「んっ? 大体……その後なんて言ったの?」

「なんでもない。とにかく、飲み会みんな楽しみにしてるから早瀬さん連れてくるの忘れないようにな。じゃあな」

前澤くんはパッと背中をむけ後ろ向きにバイバイと手を振って教室の方に戻っていった。

「あ、うん。わかった。またねー」

僕は前澤くんの背中に向かって声をかけたけれど、聞こえたかどうかはわからなかった。

さっき、なんて言ったんだろうな……?
僕は手に持っていたスマホの電子書籍に目を落としたけれど、結局それが気になって本は一行も読み進めることはできなかった。

「香月、お待たせーって、どうした?」

僕が画面を開いたまま、ぼーっと空を眺めて考えていたところを見られて、理玖に心配されてしまった。

「あ、ううん。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」

「そうか? なら、行こうか」

飲み干したコーヒーのカップをゴミ箱にすて、理玖と一緒に学食をでた。

「香月と大学内を歩くのも久しぶりだよな」

「そうだね。卒論終わってからはめっきり学校に来る機会も減ったし」

「香月は一足早く仕事もしてたしな」

「ふふっ。仕事と言えるほど役に立ててるかはわかんないけどね。でも、来年からは実際に働くところで手伝いをさせてもらえるのはすごく勉強になってるよ」

「香月はもうこのままシュパースは辞めるのか?」

そうだ、そのことを考えないといけない。
あの事件が終わるまでと思って休ませてもらっていたけれど、他にも仕事の話が出てきてバイトを続けるのは難しそうだもんね。

「うーん、オーナーの好意で一応休んでることにしてもらってるけど、ちゃんと辞めたほうがいいんだろうな」

「香月はもう時間作るのも難しそうだしな。無理しなくていいんじゃないか? 俺も卒業する頃には辞めないとだし。それまでに新しい子入れて、戦力になるまで教えとかないとな」

「そっか。そうだよね。僕はともかく理玖が辞めたら困るもんね。あと半年で戦力になる子を見つけなきゃいけないんだね。僕、オーナーにちゃんと辞めますって話をしに行こうかな」

「そっか。今日夜にでも話しにいくか? 俺もついてくよ」

「うん。早い方がいいよね。ありがとう、理玖」

歩きながら話をしている間に、理玖が予約してくれていた洋食屋さんに着いた。
料理も美味しそうと思ったけれど、外観も可愛らしくて雰囲気がいい。

カランカラン

ドアを開け中に入って理玖が予約していたことを伝えると、すぐに席に案内してくれた。

席はサイトに書いてあった通り、半個室で隣とも席が離れているし話もしやすそうだ。

僕はハンバーグ、理玖は日替わりランチを頼んだ。

僕はゴクっと水を一口飲んでから、

「それで、話ってどうしたの? オーナーと何かあった?」

と尋ねると、水を飲んでいた理玖が『ゴホッ、ゴホッ』とむせ返った。

「だ、大丈夫?」

慌てておしぼりを渡し、立ち上がって理玖の背中をさすると

「あ、ああ。大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

と少し涙目で大丈夫だと言い張っていた。

「で、でもなんで……オーナーが出てきたんだ?」

「んっ? だって、今日会うことをオーナーにも隆之さんにも内緒にしててって言ってたし、何かオーナーとあったか、サプライズでも考えてるのかなって。とにかくオーナー絡みの話かなと思ったんだ」

「香月、お前……自分のこと以外には聡いな……」

理玖は『はぁーっ』と小さなため息をつきながら、『実はそうなんだ……』と話し始めた。

「今度一緒に旅行にもいくし、香月には全部バレてるから話すけど……あ、アルと付き合ってすぐに風呂の話になったんだ」

「お風呂?」

「ああ、俺のアパートの風呂ってトイレも一緒だから湯船が小さいだろ? だから、広い風呂に入りたい時とか疲れてリラックスしたい時は近くの銭湯に行ってたんだ」

確かに理玖のアパートは部屋が広い分、キッチンが狭くてお風呂もユニットバスなんだよね。
前に僕も理玖の家に泊まった時に、一緒に銭湯行ったっけ。

「で、それをアルに言ったらこれからは銭湯に絶対行ったらダメだって怒られてさ……」

「えっ? なんで?」

「俺が他人の前で裸になるのがダメなんだってさ。風呂に入りたいならうちに来ればいいって誘われたんだけど……正直アルの家に行くと一緒に、その、風呂に入りたがるし、一緒に入ればリラックスするより、その……な、わかるだろ?」

ああ、なるほど。僕も隆之さんと一緒に入りたいって思う時はリラックスするっていうよりは一緒にいたい気持ちが多いもんね。
1人で入る時より入っている時間も長くなっちゃうしのぼせちゃいそうになるのはわかるかも。


あ、でもそうなら……

「ねぇ、今度の旅行は大丈夫なの? あそこ、温泉だよ?」

「ああ、あそこは家族風呂があるから良いんだってさ」

ってことは、理玖とは一緒に入れないってことかな?
それはそれでちょっと寂しい気もするけど、オーナーが嫌なら仕方ないか。
ドイツだと温泉は水着だしね。

「そうだ! 旅行の時は水着持っていったら、一緒に入れるね」

「ああ、そうかもな。って、話はそこじゃなくてさ……」

「んっ?」

「アルからその風呂の件もあるからずっと一緒に住もうって言われてたんだけど……どうしようかって悩んでたんだ。アルといたいから一緒には住みたいけど……香月もアルの家行ったから知ってるだろう?
あんな大きな家に転がり込むって、どうしても俺が居候って感じが拭えないんだ。
俺も来年から社会人になるし、やっとアルと対等になれるかもって思ってたのに、家賃も払わずに居候って……。
どうしてもアルに養われてる感じがして……それが嫌だったんだ」

うん。やっぱり僕と一緒だ。
僕も隆之さんと正式に住むって決めるまで悩んだもんね。

「わかるよ。理玖のその気持ち……。その気持ちをオーナーに伝えたの?」

「いや、言わなきゃわかってもらえないかもって思ってたんだけど……この前アルが突然、今の家を引っ越して2人で住む家を探さないかって言ってくれてさ」

そっか。オーナー、本当に理玖に提案したんだ。
オーナー、理玖のこと本気で好きなんだな。
なんか嬉しい。

「良いじゃない! きっと、理玖のことを考えて言ってくれたんじゃない?」

「うん、そうなんだけど……。あんなすごい家持ってるのに、わざわざ引っ越させるのも申し訳ない気がして……」

「オーナーは家よりも理玖と一緒に住みたいんだよ。そのために色々考えてくれてるなら、理玖もそこは甘えたら良いんじゃない?」

「そんなんで良いのかな……?」

理玖の悩んでいる姿が、ここ1、2ヶ月の僕を見ているようでなんだか不思議な気がした。
やっぱりみんな突き当たる壁なのかな。

「実はさ、僕もずっと同じことで悩んでたんだ」

「えっ? 香月も?」

「うん。僕の場合はすぐにアパートを出なきゃいけない理由があったからなし崩しに隆之さんと一緒に住む事になったけど、ずっとアパートは契約してたんだ。あくまでもあの事件が解決するまでって自分に言い聞かせてたから、ずっと自分のことを居候だと思っていたけど、隆之さんはこのまま一緒に住みたいって言ってくれてたんだ。でも居候だと思ってるから急には気持ちを変えられなくて……ずっと悩んでたんだ」

「そっか……。そうだよな。わかるよ」

本気で好きだからこそ甘えるだけの存在になりたくないって言う気持ちを、他ならぬ理玖に理解してもらえたことがすごく心強くて嬉しかった。

「うん。でも、離れることは考えられないし、それならちゃんとルールを決めて対等にしてもらえるようにしようって思ったんだ」

「対等って、具体的にはどうするんだ?」

「あのマンションは僕もすごく気に入ってるからあそこに住むことは変わらないけど、ちゃんと家賃も払うし、家事も補い合ったり、言いたいことは我慢しないで言うとか……そういう一緒に住むためのルールを決める事にしたんだ」

「なるほど。家賃か……それ、いいな」

「オーナーが引っ越しって言ってくれたのも、理玖に居候とか思わせないための思いやりなんじゃないの? 理玖、愛されてるね」

僕がそう言うと理玖は顔を真っ赤にしてじっと睨んできたけど、瞳の奥は嬉しそうだったからきっと照れ隠しなんだろう。

「お待たせしましたー!」

ちょうど話が途切れたタイミングでハンバーグと日替わりランチが運ばれてきた。
今日の日替わりランチはグリルチキンとメンチカツのセットらしい。
僕のハンバーグもジュージューと美味しそうな音を立てながら鉄板に乗せられてやってきて、どちらも美味しそうだ。

「「いただきまーす」」

フォークを刺した瞬間に溢れでる肉汁が熱々の鉄板に彩を添える。
切り口に鉄板で熱せられたデミグラスソースを擦りつけ、口に入れると熱さの後にジュワジュワとお肉の美味しさが広がった。

「おいひい」

はふはふと口の中で冷ましながら食べるハンバーグが美味しすぎて一心不乱に食べ進めてしまった。
ふと理玖を見ると、理玖もまた、サックサクのメンチカツに心奪われ美味しそうに頬張っているのが見えた。

ふふっ。ここ、ほんと当たりのお店だったなぁ……。

今度、隆之さんと……そうだ、オーナーも一緒に4人で食べに来たいな。

食事が一段落したところで、そういえば……と思い出したことを理玖に聞いてみることにした。

「そういえばさ、ちょっと理玖に聞こうと思ってたことがあるんだけど……」

「んっ? どうした? 今日はお互い気になることはなんでも話そうぜ」

「あのさ、この前裸でエプロンつけてたらね……」

「ぶっっ!! ゴホッ、ゴホッ」

僕が話を始めたら理玖が急に飲みかけの水を溢し、苦しそうに咽せ始めた。

「ど、どうしたの?」

慌てて理玖の背中をさすっていると、少し落ち着いてから

「な、なんて言った?」

と尋ね返された。

「えっ? ああ、さっき話しかけてたやつ? うーん、だから……この前裸でエプロンつ……」

「ああ、もういい! 最初から詳しく話してくれ。どうしてそんなことになったんだ?」

そう言われて、僕はあの時のことを思い出しながら、全部話して聞かせた。

「でね、疲れてるから癒してもらいたいって言われて、なんでもしますって言ったらお風呂上がりにエプロンつけてほしいって……それでつけたら、急に隆之さんが悪戯してきてそのまま……」

「で、そのまま早瀬さんに食われたってわけか」

「く、食われたって……」

隆之さんとひとつになった時のことを思い出して、顔が真っ赤になっていくのが自分でもよくわかった。

「まぁ、でもそれは香月が悪いな。誘ったって思われても仕方ないよ」

「え~~っ? なんで?」

「お前、本当に知らないのか? 裸エプロンはな、男の憧れなんだよ。それっぽい格好して『おかえり』なんて迎えられたら、そりゃあ早瀬さんだってグラっと来るだろう」

男の憧れ?
だから、あんなに興奮してくれてたのかな?

『うーん』と考えていると、

「それで? もう慣れてきた?」

と理玖が尋ねてきた。

「慣れてきたって何が?」

「だから、早瀬さんとそういうことするのだよ。たまには香月からも誘うんだろ? 俺は自分から誘うのはまだ恥ずかしくてさ……」

そういうことって、あのことだよね?
でも、慣れてきたも何も……

「あの時が初めてでまだ一度しかしたことないよ、僕」

「――えっ?」

僕の言葉に理玖は今まで見たことのないような驚愕の表情をしていた。
僕、何か変なこと言ったっけ?
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