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まさかの事実

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「塗り薬つけますから、痛かったら仰って下さいね」

「ああ、わかった」

そう返事を返したけれど、一向に塗り始める気配がない。

「マクシミリアン? どうしたんだ?」

背後にいるマクシミリアンに向かって振り向くと、

「――っ、ああ、すみません。塗りますから前を向いていて下さい」

と優しく前を向けられる。

「ああ、わかった」

そういうとようやくマクシミリアンの手のひらの感触を感じ始めた。

「――っつ!」

「すみません、痛かったですか?」

「いや、大丈夫だ」

そう返したけれど、マクシミリアンはそれからはさらに優しい手つきで傷口に満遍なく薬を塗ってくれた。
しかし、その後右腕を脇腹にくっつけたまま大きなガーゼと包帯を巻かれ、物理的に動かすことができなくなった。

「これは流石に大袈裟じゃないか?」

「いいえ、こうでもしないと団長は無理をしてしまうでしょう?」

「だが、これだと本当に何もできないぞ」

「大丈夫です。そのために私がついているんですから。治るまで私にお任せください。医務室の医師にも約束しましたからね」

少しぐらい動かしても構わないだろうと思っていたが、そんな私の考えはマクシミリアンには見破られていたみたいだ。

「食事の支度をしている間、団長は休んでいて下さい」

「そんなに気を遣わなくていいんだぞ」

「じゃあ食事を作っている間、話し相手になってもらえますか?」

そう言って私を軽々と抱き上げてソファーに座らせてくれる。

「いちいち抱き上げなくても足を怪我したわけじゃないぞ」

「ええ。ですが、今の状態ではバランスがとりづらいでしょうから、転びでもしたら大変ですよ。それこそ足を怪我して治るのが遅くなったら困りますからね」

そんなことを言われてはこれ以上反論もできなかった。
とりあえず三日。
大人しく世話をされればそれで終わりだ。

「わかった。わかった。今はマクシミリアンの言う通りにするよ」

その言葉にマクシミリアンの目が光ったような気がしたが……あれ?
気のせいか?


「本当に料理作りが手慣れているな」

工程を全てわかっているからこその無駄のない動きと、手際の良さにただただ感心してしまう。

「ええ。7歳の頃には包丁で皮剥きができるくらいには仕込まれていましたからね。父も母のために毎日食事を用意していましたよ」

「毎日? あのベーレンドルフ侯爵が? 家族の分を全て?」

「ふふっ。違いますよ。父が作るのは母と自分の食事だけです。私はシェフの料理を食べていましたよ。言ったでしょう? あの料理はパートナーや伴侶のためだけの料理なんです」

「すごいな……徹底しているのだな」

「そうですね、でもそれが当然だと言われて育ってきましたから不思議には思いませんでしたよ。私もいつか、自分の大切な人に私の料理を食べてもらいたいとそれだけを願って勉強してましたからね。ですから、団長が美味しそうに召し上がってくださった時は本当に嬉しかったです。実はあの時緊張してたんですよ。なんせ、私の料理を誰かに食べてもらうのは初めてでしたから……」

「――っ!!」

そういえば、初めて朝食を持ってきてくれた時……私の最初の一口をやたらじっと見ているなと思っていたが、あれは初めてだったから緊張していたのか……。

あんなに手慣れた様子でズカズカと入ってきたから、てっきりみんなに振る舞っているとばかり思っていた。

「どうして私なんだ? マクシミリアンなら、私など相手に選ばずともパートナーなどすぐに見つかるだろう?」

「やはりお気づきではなかったのですね」

「どういう意味だ?」

「私はもうずっと団長しか見ていませんでしたよ。団長がこの騎士団に入団した時に一目惚れしたんですから」

「はっ? 私が入団した時って、もう10年以上も前の話だぞ」

あの時、私はもうすぐ13歳になる頃だったか……とすれば、マクシミリアンはまだ6歳。
そんな子どもの時に一目惚れなんて……信じられない。

「はい。あの時、騎士団始まって以来の最年少で合格なさって、オスカー騎士団長に連れられて陛下に挨拶に行かれたのを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、それはもちろん覚えているが、なぜその話をマクシミリアンが?」

「あの時、私も城にいたのです」

「えっ? マクシミリアンが? どうして?」

「祖父がルーディー王子の遊び相手になればと私を連れて行っていたのですよ。その時、オスカー騎士団長と一緒にいる団長の姿を見たのです。あの時、私には団長が運命の相手だとすぐにわかりました。だから、その日から、私は料理を習い始めたんです。いつか、団長に食べてもらう日を夢見て……。だから、入団テストで団長に会えた時は嬉しかったですよ。ようやく、団長を私のものにできるって。あの日は興奮して眠れませんでした」

笑顔で話すマクシミリアンとは対照的に、あまりにも驚きの事実を知りすぎて私はなんと言っていいのか言葉も出なかった。
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