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じいちゃんのために
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『えっ、あ、あの……』
やばいっ!
あまりにも信じ難いことの連続で頭がパニクってる。
どこから何を話せばいいのかわからなくなってきちゃった。
『ヨウスケ、まだ時間があるからゆっくり落ち着いて話を聞かせてくれ。ヨウスケがアーチーを知ったのはそのお祖父さんの影響だったんだろう?』
エリックさんの優しい声に混乱していた気持ちが落ち着いてくる。
ああ、不思議だ……。
そっと背中に手を回されると、エリックさんの手の温もりを感じる。
見上げると、エリックさんの優しい微笑みが見えた。
俺は誘われるように笑顔を見せながら、ゆっくりと口を開いた。
『祖父は親元を離れて進学した大学生の時、あまりにも違う環境の変化に慣れずに大学を辞めて地元に帰ろうとしたそうなんです。なけなしのお金を注ぎ込んで夜行バスで帰ろうとバスターミナルに行ったら、到着地が雪で運休になっていて……地元に帰ることもできずにがっかりして近くの古びた喫茶店に入ったんです。バスチケットを買おうとしたお金でコーヒーを頼み、これからどうしようと悲しみに沈みながら飲んでいた祖父の耳に入ってきたのが、アーチーさんの曲だったんです。『諦めることはいつでもできる。でもその前に一度だけ頑張ってみないか。頑張った上で諦めたなら自分も納得できるはずだから……』ってそう背中を押されたって祖父は何度も話してくれました。祖父はすぐに喫茶店の店主に曲名を聞いてそのレコードを買って、何度も何度も聞いて力をもらって……祖父は必死に勉強を続けて、やりたかった会社を起業して、父に会社を譲るまで必死で働いてました。そんな祖父のそばで僕はアーチーさんの曲を聞いて育ったんです。だから今回、アーチーさんに会えるって喜んでいて……でも、3ヶ月前に病気で急逝してしまって……今この場にいたらきっと喜んだことと思います』
じいちゃんとの思い出が甦ってきて、俺は涙を必死に我慢しながら話を終えた。
『ヨウスケ……よくここまで来てくれたな。きっとお祖父さんはヨウスケと共に来てくれていると思うよ』
『はい。僕もそう思います……ゔっ……うっ』
エリックさんにギュッと抱きしめられて、我慢していた涙が溢れてしまった。
じいちゃんが亡くなってから1人でいる時以外は泣かなかったのに。
どうしてエリックさんの前だと素直に泣けるんだろう……。
『ヨウスケ、くん……と言ったね。もしかして、君のお祖父さんは「キョウスケ」というのではないか?』
『えっ? ええ。確かに祖父の名前は匡輔ですが……』
アーチーの口から突然じいちゃんの名前が出てきて驚きが隠せなかった。
『アーチー、知っているのか?』
『ああ、おそらくそうだろう。彼からは今までに二度手紙をもらったことがある。一度目はさっきの話の頃だろう。私のおかげで諦めるまで努力しようと思えたと書いてあった。そして二度目は1年前。もう長くないだろうから死ぬまでに一度でいいから私の曲を直に聴きたい……そう書いてあったな』
『それで、アーチーは急にコンサートがしたいと言い出したのか?』
『ああ、お前には迷惑をかけたな。お前がいなければ、今日のコンサートはできなかっただろう。だが……そうか、キョウスケは来られなかったのだな……。あんなにも望んでくれていたのにな。もっと早くできれば良かった……』
悲しげなアーチーの表情に心が痛む。
でも、きっとじいちゃんはアーチーのこんな表情を見たくはないはずだ。
『あ、あの……祖父は喜んでると思います。最後までアーチーの曲を聴きながら旅立っていったので、多分今日だって観に来てるはずです。世界中のアーチーファンのために、素敵な歌声をお願いします!』
『ヨウスケ……』
俺の言葉に、エリックさんも同意するように
『アーチー! しっかり頼むぞ!』
と声をかけると、アーチーはふわりとした笑顔を浮かべながら、
『ああ、そうだな。キョウスケのためにも、集まってくれたファンのためにも頑張ってこよう。ヨウスケ、ありがとう』
と言ってくれた。
そろそろ最後の準備に向かうからとアーチーは一足早く会場へと向かった。
『ヨウスケ、まさか君が今回のコンサートの立役者の孫とはな……。世間は狭いな』
『あの、本当に祖父のためにコンサートを?』
『ああ、アーチーはもう歌手は事実上引退していたからな。もう人前で歌うつもりはなかったと思うよ。だけど、急にやりたいと言い出してね、本当は日本での開催を希望していたんだが、期間が足りなくてこのロサラン王国になったんだ。実はここの王子とは留学先の大学で一緒でね、それ以来ずっと交流があるから頼んだんだよ』
『ええっ! 王子さまとお知り合いなんですか?』
『ああ、かなり無理を言ったが、彼のおかげで今回の開催にこぎつけたんだ。ジェラルドには感謝してる。アーチーも喜んでたし、それに……』
『それに?』
『ヨウスケに出会えたからな』
『――っ!!』
パチンとウインクされて胸のドキドキが止まらない。
もう俺……おかしくなってる。
『さぁ、私たちもそろそろ会場に行こうか。いい場所があるからそこに案内するよ』
『えっ、でも……いいんですか?』
『ああ、問題ないよ』
そう言われて、エリックさんに連れられていった席はどこからどうみてもV.I.P席。
アーチーが真正面に見える特等席だ。
『僕がこんなところにいていいんですか?』
『ああ、お祖父さんの分までアーチーの曲を聴いてやってくれ。もう正真正銘最後のコンサートだからな』
俺とじいちゃんにとっては最初で最後のコンサート。
じいちゃん、一緒に楽しもうな!!
やばいっ!
あまりにも信じ難いことの連続で頭がパニクってる。
どこから何を話せばいいのかわからなくなってきちゃった。
『ヨウスケ、まだ時間があるからゆっくり落ち着いて話を聞かせてくれ。ヨウスケがアーチーを知ったのはそのお祖父さんの影響だったんだろう?』
エリックさんの優しい声に混乱していた気持ちが落ち着いてくる。
ああ、不思議だ……。
そっと背中に手を回されると、エリックさんの手の温もりを感じる。
見上げると、エリックさんの優しい微笑みが見えた。
俺は誘われるように笑顔を見せながら、ゆっくりと口を開いた。
『祖父は親元を離れて進学した大学生の時、あまりにも違う環境の変化に慣れずに大学を辞めて地元に帰ろうとしたそうなんです。なけなしのお金を注ぎ込んで夜行バスで帰ろうとバスターミナルに行ったら、到着地が雪で運休になっていて……地元に帰ることもできずにがっかりして近くの古びた喫茶店に入ったんです。バスチケットを買おうとしたお金でコーヒーを頼み、これからどうしようと悲しみに沈みながら飲んでいた祖父の耳に入ってきたのが、アーチーさんの曲だったんです。『諦めることはいつでもできる。でもその前に一度だけ頑張ってみないか。頑張った上で諦めたなら自分も納得できるはずだから……』ってそう背中を押されたって祖父は何度も話してくれました。祖父はすぐに喫茶店の店主に曲名を聞いてそのレコードを買って、何度も何度も聞いて力をもらって……祖父は必死に勉強を続けて、やりたかった会社を起業して、父に会社を譲るまで必死で働いてました。そんな祖父のそばで僕はアーチーさんの曲を聞いて育ったんです。だから今回、アーチーさんに会えるって喜んでいて……でも、3ヶ月前に病気で急逝してしまって……今この場にいたらきっと喜んだことと思います』
じいちゃんとの思い出が甦ってきて、俺は涙を必死に我慢しながら話を終えた。
『ヨウスケ……よくここまで来てくれたな。きっとお祖父さんはヨウスケと共に来てくれていると思うよ』
『はい。僕もそう思います……ゔっ……うっ』
エリックさんにギュッと抱きしめられて、我慢していた涙が溢れてしまった。
じいちゃんが亡くなってから1人でいる時以外は泣かなかったのに。
どうしてエリックさんの前だと素直に泣けるんだろう……。
『ヨウスケ、くん……と言ったね。もしかして、君のお祖父さんは「キョウスケ」というのではないか?』
『えっ? ええ。確かに祖父の名前は匡輔ですが……』
アーチーの口から突然じいちゃんの名前が出てきて驚きが隠せなかった。
『アーチー、知っているのか?』
『ああ、おそらくそうだろう。彼からは今までに二度手紙をもらったことがある。一度目はさっきの話の頃だろう。私のおかげで諦めるまで努力しようと思えたと書いてあった。そして二度目は1年前。もう長くないだろうから死ぬまでに一度でいいから私の曲を直に聴きたい……そう書いてあったな』
『それで、アーチーは急にコンサートがしたいと言い出したのか?』
『ああ、お前には迷惑をかけたな。お前がいなければ、今日のコンサートはできなかっただろう。だが……そうか、キョウスケは来られなかったのだな……。あんなにも望んでくれていたのにな。もっと早くできれば良かった……』
悲しげなアーチーの表情に心が痛む。
でも、きっとじいちゃんはアーチーのこんな表情を見たくはないはずだ。
『あ、あの……祖父は喜んでると思います。最後までアーチーの曲を聴きながら旅立っていったので、多分今日だって観に来てるはずです。世界中のアーチーファンのために、素敵な歌声をお願いします!』
『ヨウスケ……』
俺の言葉に、エリックさんも同意するように
『アーチー! しっかり頼むぞ!』
と声をかけると、アーチーはふわりとした笑顔を浮かべながら、
『ああ、そうだな。キョウスケのためにも、集まってくれたファンのためにも頑張ってこよう。ヨウスケ、ありがとう』
と言ってくれた。
そろそろ最後の準備に向かうからとアーチーは一足早く会場へと向かった。
『ヨウスケ、まさか君が今回のコンサートの立役者の孫とはな……。世間は狭いな』
『あの、本当に祖父のためにコンサートを?』
『ああ、アーチーはもう歌手は事実上引退していたからな。もう人前で歌うつもりはなかったと思うよ。だけど、急にやりたいと言い出してね、本当は日本での開催を希望していたんだが、期間が足りなくてこのロサラン王国になったんだ。実はここの王子とは留学先の大学で一緒でね、それ以来ずっと交流があるから頼んだんだよ』
『ええっ! 王子さまとお知り合いなんですか?』
『ああ、かなり無理を言ったが、彼のおかげで今回の開催にこぎつけたんだ。ジェラルドには感謝してる。アーチーも喜んでたし、それに……』
『それに?』
『ヨウスケに出会えたからな』
『――っ!!』
パチンとウインクされて胸のドキドキが止まらない。
もう俺……おかしくなってる。
『さぁ、私たちもそろそろ会場に行こうか。いい場所があるからそこに案内するよ』
『えっ、でも……いいんですか?』
『ああ、問題ないよ』
そう言われて、エリックさんに連れられていった席はどこからどうみてもV.I.P席。
アーチーが真正面に見える特等席だ。
『僕がこんなところにいていいんですか?』
『ああ、お祖父さんの分までアーチーの曲を聴いてやってくれ。もう正真正銘最後のコンサートだからな』
俺とじいちゃんにとっては最初で最後のコンサート。
じいちゃん、一緒に楽しもうな!!
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