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第二部
可愛い独占欲
<side昇>
「村山、西条。また明日な」
今日は邪魔が入らないうちにさっさと学校を出る。
駆け出しながら確認した直くんのGPSは、じいちゃんたちが暮らすマンションを指していた。
バスでも行けるが、走れない距離じゃない。
待ち時間を考えれば絶対に走ったほうが早く着ける。
そうして、ようやく到着したマンション。
息を整えながら、マンションに入る。
俺の顔を覚えてくれているコンシェルジュが笑顔で近づいてくる。
「これ、どうぞ」
渡されたのは厚手のおしぼり。
「えっ、ありがとうございます」
まさかこんなサービスまでしてもらえるとは思わず驚いた。
でも汗まみれの顔で直くんの前に出ないで済むのは助かる。
「磯山さまから伺っていたんですよ。きっと走ってくるだろうからおしぼりを渡して欲しい、と」
じいちゃんが、そんなことを……
俺の考えを先回りして読まれていたようで、少し照れ臭い。
「あの、直くんの様子はどうでしたか?」
そう問いかけると、コンシェルジュは優しい笑顔を浮かべた。
「ロビーに入ってこられても磯山さまと緑川さまにずっと楽しそうに話をしていらして、私にお気づきになったら笑顔を見せてくださいました。これまでも何度もお越しいただいてますが、あれほど柔らかな笑顔を向けられたのは初めてです。よほど、学校が楽しかったんでしょうね。きっと、昇さまにお話されるのを楽しみに待っていらっしゃると思いますよ」
じいちゃんたちから直くんのことについて細かくは聞いていなくても、直くんの特別な事情は察しているだろう。
それでもこうして直くんの変化を共に喜んでくれるのはありがたい。
「おしぼり、ありがとうございます」
俺はお礼を言って、エレベーターに飛び乗った。
直くんが楽しさを隠し切れないほどはしゃいでいたのなら、桜守学園での生活は安心できる。
さすが絢斗さんの母校だ。
そんなことを思っている間に、エレベーターはじいちゃんたちの部屋の階に到着した。
急いで降り、玄関のチャイムを鳴らす。
「今、直くんが開けに行ったよ」
インターフォンから大おじさんの声が聞こえたと思ったら、ガチャリと扉が開いた。
多分、コンシェルジュさんが俺が来たことを伝えてくれていたんだろう。
「昇さん。お帰りなさい!」
桜守の制服を着たままの直くんが、満面の笑みで出迎えてくれる。
「直くん、ただいま」
そのまま直くんを抱きしめ、唇を重ねる。
チュッと軽い音がして、唇を離すとほんのり頬を赤く染めた直くんが嬉しそうに俺を見上げる。
「直くん、学校はどうだった?」
すると、待ってましたとばかりに、この上ない笑顔を向けられる。
「すっごく楽しかったです!」
その一言に、今日の一日の出来事が全て詰まっている気がした。
「学校に着いたら、すぐに話しかけてくれた子がいて……」
そんな話をしながら、俺の手を引っ張っていく。
俺は直くんの楽しげな声を聞きながら、一緒に家の中に入った。
一旦、リビングに荷物を置いているときも直くんの話は止まらない。
一緒に洗面所に行き、手を洗っている間もずっと楽しそうに話をしていた。
「それで、恋人はいるのって聞かれたんです」
中学生で恋人の有無を聞いてくるのか……さすが桜守。
あの学校は小さい時から結婚の約束をしている子たちも普通にいるらしい。
中学生でも恋人がいる子もザラにいるんだろうな。
「うん、それで」
「昇さんの写真を見せたら、みんながかっこいいねって」
この反応もさすが桜守だな。
やっぱり俺たちの学校とは別世界みたいだ。
直くんが挨拶していた時の映像を見てもよくわかる。
西条が、桜守はすごいぞと言っていたわけがわかるな。
「どの写真を見せたの?」
そういうと、直くんは一瞬止まったような気がしたが、ポケットからスマホを取り出して俺に見せてくれた。
画面には、今朝一緒に撮った制服の写真。
もちろん、絢斗さんに撮ってもらったこの写真もよく撮れているけれど、直くんがお気に入りだと言ってくれたあの写真を見せたのかと思った。
「この写真もよく撮れてるよね。でも、あの正月の写真でもよかったのに」
なんの気もなくそう告げると、直くんは俺を見てゆっくりと口を開いた。
「あの写真は……僕だけが、見てたらいいかなって。だって、すっごくかっこいいから」
その表情と声に、直くんの独占欲のような見えた気がして胸が熱くなる。
我慢しきれず、俺は直くんを抱きしめた。
「わっ、昇さん」
びっくりして戸惑う直くんを腕の中に閉じ込めて、耳元で囁いた。
「俺は、直くんだけのものだよ」
そう告げると、直くんは嬉しそうに俺を見上げた。
「村山、西条。また明日な」
今日は邪魔が入らないうちにさっさと学校を出る。
駆け出しながら確認した直くんのGPSは、じいちゃんたちが暮らすマンションを指していた。
バスでも行けるが、走れない距離じゃない。
待ち時間を考えれば絶対に走ったほうが早く着ける。
そうして、ようやく到着したマンション。
息を整えながら、マンションに入る。
俺の顔を覚えてくれているコンシェルジュが笑顔で近づいてくる。
「これ、どうぞ」
渡されたのは厚手のおしぼり。
「えっ、ありがとうございます」
まさかこんなサービスまでしてもらえるとは思わず驚いた。
でも汗まみれの顔で直くんの前に出ないで済むのは助かる。
「磯山さまから伺っていたんですよ。きっと走ってくるだろうからおしぼりを渡して欲しい、と」
じいちゃんが、そんなことを……
俺の考えを先回りして読まれていたようで、少し照れ臭い。
「あの、直くんの様子はどうでしたか?」
そう問いかけると、コンシェルジュは優しい笑顔を浮かべた。
「ロビーに入ってこられても磯山さまと緑川さまにずっと楽しそうに話をしていらして、私にお気づきになったら笑顔を見せてくださいました。これまでも何度もお越しいただいてますが、あれほど柔らかな笑顔を向けられたのは初めてです。よほど、学校が楽しかったんでしょうね。きっと、昇さまにお話されるのを楽しみに待っていらっしゃると思いますよ」
じいちゃんたちから直くんのことについて細かくは聞いていなくても、直くんの特別な事情は察しているだろう。
それでもこうして直くんの変化を共に喜んでくれるのはありがたい。
「おしぼり、ありがとうございます」
俺はお礼を言って、エレベーターに飛び乗った。
直くんが楽しさを隠し切れないほどはしゃいでいたのなら、桜守学園での生活は安心できる。
さすが絢斗さんの母校だ。
そんなことを思っている間に、エレベーターはじいちゃんたちの部屋の階に到着した。
急いで降り、玄関のチャイムを鳴らす。
「今、直くんが開けに行ったよ」
インターフォンから大おじさんの声が聞こえたと思ったら、ガチャリと扉が開いた。
多分、コンシェルジュさんが俺が来たことを伝えてくれていたんだろう。
「昇さん。お帰りなさい!」
桜守の制服を着たままの直くんが、満面の笑みで出迎えてくれる。
「直くん、ただいま」
そのまま直くんを抱きしめ、唇を重ねる。
チュッと軽い音がして、唇を離すとほんのり頬を赤く染めた直くんが嬉しそうに俺を見上げる。
「直くん、学校はどうだった?」
すると、待ってましたとばかりに、この上ない笑顔を向けられる。
「すっごく楽しかったです!」
その一言に、今日の一日の出来事が全て詰まっている気がした。
「学校に着いたら、すぐに話しかけてくれた子がいて……」
そんな話をしながら、俺の手を引っ張っていく。
俺は直くんの楽しげな声を聞きながら、一緒に家の中に入った。
一旦、リビングに荷物を置いているときも直くんの話は止まらない。
一緒に洗面所に行き、手を洗っている間もずっと楽しそうに話をしていた。
「それで、恋人はいるのって聞かれたんです」
中学生で恋人の有無を聞いてくるのか……さすが桜守。
あの学校は小さい時から結婚の約束をしている子たちも普通にいるらしい。
中学生でも恋人がいる子もザラにいるんだろうな。
「うん、それで」
「昇さんの写真を見せたら、みんながかっこいいねって」
この反応もさすが桜守だな。
やっぱり俺たちの学校とは別世界みたいだ。
直くんが挨拶していた時の映像を見てもよくわかる。
西条が、桜守はすごいぞと言っていたわけがわかるな。
「どの写真を見せたの?」
そういうと、直くんは一瞬止まったような気がしたが、ポケットからスマホを取り出して俺に見せてくれた。
画面には、今朝一緒に撮った制服の写真。
もちろん、絢斗さんに撮ってもらったこの写真もよく撮れているけれど、直くんがお気に入りだと言ってくれたあの写真を見せたのかと思った。
「この写真もよく撮れてるよね。でも、あの正月の写真でもよかったのに」
なんの気もなくそう告げると、直くんは俺を見てゆっくりと口を開いた。
「あの写真は……僕だけが、見てたらいいかなって。だって、すっごくかっこいいから」
その表情と声に、直くんの独占欲のような見えた気がして胸が熱くなる。
我慢しきれず、俺は直くんを抱きしめた。
「わっ、昇さん」
びっくりして戸惑う直くんを腕の中に閉じ込めて、耳元で囁いた。
「俺は、直くんだけのものだよ」
そう告げると、直くんは嬉しそうに俺を見上げた。
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