ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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第二部

嵐の前の…… <side栗原(昇の学校の学年主任)>

「先生! 栗原先生、大変です!」

もうすぐ三校時開始のチャイムが鳴る直前、利明が慌ただしく職員室に駆け込んできた。

「そんなに慌ててどうした、城戸先生」

声をかけながら、軽く肩に触れる。
こわばっていた彼の表情が、わずかに緩んだ。

「すみません。すぐに知らせないと、と思って。実は……今日、あの子が学校に来るそうなんです」

「あの子?」

聞き返すと、利明は周囲を一瞬だけ気にしてから声を落とした。

「磯山の、恋人です」

「はっ?」

思考が止まる。
恋人……磯山の。

その言葉を頭の中でなぞった瞬間、自然と浮かぶ姿があった。

「あの子、か……」

先月、校門を騒がせたあの可愛らしい子。
無垢で、あまりにも無防備だった……

そこまで考えて、ふと我に返る。

「それで? 今日は、まさか一人で来るんじゃないよな?」

「いえ。磯山先生と緑川教授のお父上もご一緒だそうです」

「それは、本当なのか?」

思わず問い返すと、利明は大きく頷いた。

「授業後に、磯山が西条と村山に話をしているのを聞きました。今日は迎えが来るから寄り道はしない、と。恋人の直くんが桜守に通い始めて、クラブの後にこちらに来るそうです……」

「なるほど……」

桜守の時間割を頭の中でなぞる。

「クラブ活動後なら……到着は、五時前くらいか……」

「はい。また大騒ぎになるかと……」

その言葉に、先月の光景が甦る。
ざわめく生徒たちと、収まらない熱気。
そして、中心にいたあの子。

「SHRを省いて早めに下校させるべきか、ご判断を仰ごうかと……」

「いや、それは必要ない」

考えるより先に答えていた。

「共通テスト直前だ。今日の確認は外せない。いつも通りでいい」

「ですが……」

「その代わり、対応はこちらで引き受ける」

はっきり言い切ると、利明は安堵したように息をついた。

「ありがとうございます。先生……」

その声色が少しだけ和らいだことに気づいて、視線を向ける。
すぐにいつもの城戸先生の顔に戻っていた。

「ああ、任せてくれ」

そう返しながら、小さく息を吐く。

やがて時間が過ぎ……
五時が近づくにつれて、少し落ち着かなくなってくる。
早めに待機していようと、職員室を出た。
昇降口に立ち、外を見回していたその時……

一際目を惹く三人の姿が視界に飛び込んできた。

桜守の制服を着た小柄な少年。
その右隣を歩くのは、弁護士の磯山寛先生。
年齢は八十をとうに過ぎているとは思えないほど、背筋の伸びた姿。
そして、左には医師の緑川先生。こちらも年齢を感じさせない落ち着いた佇まい。

気づけば、私はお二人の名を呼び、駆け寄っていた。

偶然を装ったつもりだったが、あの子は私と目が合った瞬間、緑川先生の後ろに隠れてしまった。

「あ……」

思わず声が漏れそうになるのを、かろうじて飲み込んだ。
どうにかいつもの調子を保とうとしたその時……

「せんせぇ……あのときは、ごめんなさい……」

潤んだ瞳で見上げられ、思考が止まる。
これはまずい。可愛すぎる。

「い、いや……」

慌てて首を振る。

「気にしないでいい。君が悪くないのは、磯山からちゃんと聞いたから。本当に、君は悪くないから」

自分でもわかるほど、声が少し上擦っている。
それでも、彼は一瞬きょとんとしてから、

「ほんと?」

と不安げに聞き返してくる。

「あ、ああ。本当だとも」

ほとんど反射で答えたその直後、

「よかったー!」

ぱっと、花が開くように笑った。

くっ、可愛い……。

このままだと、まずいな。

早くこの場所から、彼らを遠ざけないと。

考えていた計画を告げる。

「あ、あの、寛先生と緑川先生。よければ、後輩たちにエールを送ってもらえませんか? もうすぐ共通テストですし、先生方の応援があれば、頑張れると思います」

ここで不特定多数の前で待たせておくよりは、私と寛先生、そして緑川先生とでこの子を守りながら、磯山の教室につれて行った方がまだ騒ぎも小さくて済む。

先生方がそれに反応するよりも前に、彼が目を輝かせた。

「昇さんのクラスに行きたい!」

彼のその一言で、先生方はあっさりと折れた。

「では、ご案内します」

そう言って、校舎に向かって歩き出しながら、私は小さく息をついた。
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