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彼への信頼
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<side昇>
直くんが谷垣さんと部屋に入ってまだそんなに時間は経っていないけれど、気になって仕方がない。
俺がここで焦ったところでどうしようもないのはよくわかっているけれど、直くんが心配でたまらない。
けれど、目の前にいる、谷垣さんと一緒にきた彼……志摩さんは動じる様子もなく、静かにコーヒーを飲んでいる。
心配でついてきた様子だったのに、気にならないんだろうか……。
つい、彼に視線を向けていると、
「何かお話がありますか?」
と問いかけられた。
「あ、いえ。なんでもないです……すみません」
「ふふっ。なんでもないというのは嘘ですね」
「えっ?」
「二人っきりが気になりますか?」
「――っ!!」
全てを見透かされている気がして恥ずかしくなる。
「気になることがあれば、お気になさらず聞いてくださって構いませんよ」
「でも……」
「昇、志摩くんがせっかくそう言ってくれているんだ。気になることがあるなら、しっかり聞いておけ。男だろう?」
伯父さんにそんな発破をかけられて、俺は思い切って尋ねてみた。
「あの……いえ、その、伯父さんからはお二人が恋人だと伺ったんですが……」
初っ端からプライベートな質問を浴びせたのに、彼は全く表情を変えることもなく、
「ええ。そうですよ」
と返してきた。
「それなのに、心配じゃないんですか? 気になりませんか?」
「全く気にならないかと言われればそれは嘘になりますが、それは二人がどうこうということではなくて、二人がお互いに辛い思いをしていないかということだけが心配です。心に傷のある二人ですからね」
確かにそうだ。
直くん自身は自分がしたことでないにしても、谷垣さんは一花さんに大怪我を負わせたのだから。
「あの、谷垣さんはそもそも、どうして一花さんの理学療法士を引き受けたんでしょうか? 自分が傷を負わせた相手と毎日向き合うのは辛いことじゃないですか?」
「そうですね。ですが、それが一花さんの希望でもありましたし、尚孝さん自身も一花さんを自分の手で元のように歩けるようにしたいと願ったんですよ。だから、尚孝さんは日々、自分の罪と向き合いながら、一花さんの笑顔を取り戻すために誠心誠意寄り添うことが自分の使命だと思ったんでしょう。そもそも一花さんは、自分のために必死にリハビリをしてくれる人を見て、怪我をさせたくせに! と思うような方じゃないんです。逆に相手の期待に応えて無理をしてでも頑張ってしまうような方なんですよ。だから、その点だけ少し心配でしたが、今は一花さんも尚孝さんも、お互いに意見を出し合ってリハビリを進めているようですし、お互いに相手を思いやる立場だったからこそ信頼関係は増したかもしれませんね」
「そう、なんですね……」
「きっと他の理学療法士に頼んでいたら一花さんはまだ自分で車椅子に移ることもできなかったと思いますよ。それくらい、事故当時の一花さんの状態はひどいものでしたから」
「それは事故で……?」
「いえ。慢性的な睡眠不足の中、朝から晩まで働かされて食事も満足に与えられていない状態だったので、事故に遭う前から身体も骨も脆かったんです。だから、大怪我を負った際に、怪我が治るまでの時間も通常よりも長くかかりました。尚孝さんは主治医の先生とも話をして食事の栄養管理から、日々の生活、リハビリと全てをしっかりと計算して今の状態まで上げることができたんです。それこそ、自分の時間を削ってまで……。私はそれを間近で見ていましたから、尚孝さんがやってきたことと同じことが他の理学療法士にできるとは思えません」
そんなすごい人だったんだ……。
「尚孝さんは、身体だけでなく心のケアも専門だそうですから、直純くんと話してプラスになることはあっても絶対にマイナスにはなりませんから、ご安心ください」
「そう、ですか……」
「ふふっ。それよりも私は安心しました」
「えっ?」
「今日、尚孝さんについてきたのは、あなたが心配だったからです」
「俺、ですか?」
「ええ。ですが、直純くんしか見えてないあなたを見てそれが杞憂だとわかってホッとしました」
「それって……」
――志摩くんはかなり狭量だそうだ
そういえば、確かに昨日伯父さんがそんなことを言っていた。
まさかと思っていたけれど、もしかして最初から俺のことだけをチェックしていた?
貴船コンツェルンの会長秘書で、どんな相手とでも対峙してそうなこの人が……ただの高校生の俺のことが気になっていたなんて……。
ちょっと笑ってしまう。
でもそれくらい、谷垣さんを愛しているということなんだろう。
俺も直純くんのことに関しては冷静じゃいられなくなるんだから、好きな人相手なら、大人とか、年齢とか、経験とか関係ないんだろうな。
「ふふっ。もうそろそろ部屋から出てくるころだと思います。直純くんの表情をしっかりと見てあげてくださいね」
志摩さんがそういったと同時に、直くんの部屋の扉が開く音が聞こえた。
直くんが谷垣さんと部屋に入ってまだそんなに時間は経っていないけれど、気になって仕方がない。
俺がここで焦ったところでどうしようもないのはよくわかっているけれど、直くんが心配でたまらない。
けれど、目の前にいる、谷垣さんと一緒にきた彼……志摩さんは動じる様子もなく、静かにコーヒーを飲んでいる。
心配でついてきた様子だったのに、気にならないんだろうか……。
つい、彼に視線を向けていると、
「何かお話がありますか?」
と問いかけられた。
「あ、いえ。なんでもないです……すみません」
「ふふっ。なんでもないというのは嘘ですね」
「えっ?」
「二人っきりが気になりますか?」
「――っ!!」
全てを見透かされている気がして恥ずかしくなる。
「気になることがあれば、お気になさらず聞いてくださって構いませんよ」
「でも……」
「昇、志摩くんがせっかくそう言ってくれているんだ。気になることがあるなら、しっかり聞いておけ。男だろう?」
伯父さんにそんな発破をかけられて、俺は思い切って尋ねてみた。
「あの……いえ、その、伯父さんからはお二人が恋人だと伺ったんですが……」
初っ端からプライベートな質問を浴びせたのに、彼は全く表情を変えることもなく、
「ええ。そうですよ」
と返してきた。
「それなのに、心配じゃないんですか? 気になりませんか?」
「全く気にならないかと言われればそれは嘘になりますが、それは二人がどうこうということではなくて、二人がお互いに辛い思いをしていないかということだけが心配です。心に傷のある二人ですからね」
確かにそうだ。
直くん自身は自分がしたことでないにしても、谷垣さんは一花さんに大怪我を負わせたのだから。
「あの、谷垣さんはそもそも、どうして一花さんの理学療法士を引き受けたんでしょうか? 自分が傷を負わせた相手と毎日向き合うのは辛いことじゃないですか?」
「そうですね。ですが、それが一花さんの希望でもありましたし、尚孝さん自身も一花さんを自分の手で元のように歩けるようにしたいと願ったんですよ。だから、尚孝さんは日々、自分の罪と向き合いながら、一花さんの笑顔を取り戻すために誠心誠意寄り添うことが自分の使命だと思ったんでしょう。そもそも一花さんは、自分のために必死にリハビリをしてくれる人を見て、怪我をさせたくせに! と思うような方じゃないんです。逆に相手の期待に応えて無理をしてでも頑張ってしまうような方なんですよ。だから、その点だけ少し心配でしたが、今は一花さんも尚孝さんも、お互いに意見を出し合ってリハビリを進めているようですし、お互いに相手を思いやる立場だったからこそ信頼関係は増したかもしれませんね」
「そう、なんですね……」
「きっと他の理学療法士に頼んでいたら一花さんはまだ自分で車椅子に移ることもできなかったと思いますよ。それくらい、事故当時の一花さんの状態はひどいものでしたから」
「それは事故で……?」
「いえ。慢性的な睡眠不足の中、朝から晩まで働かされて食事も満足に与えられていない状態だったので、事故に遭う前から身体も骨も脆かったんです。だから、大怪我を負った際に、怪我が治るまでの時間も通常よりも長くかかりました。尚孝さんは主治医の先生とも話をして食事の栄養管理から、日々の生活、リハビリと全てをしっかりと計算して今の状態まで上げることができたんです。それこそ、自分の時間を削ってまで……。私はそれを間近で見ていましたから、尚孝さんがやってきたことと同じことが他の理学療法士にできるとは思えません」
そんなすごい人だったんだ……。
「尚孝さんは、身体だけでなく心のケアも専門だそうですから、直純くんと話してプラスになることはあっても絶対にマイナスにはなりませんから、ご安心ください」
「そう、ですか……」
「ふふっ。それよりも私は安心しました」
「えっ?」
「今日、尚孝さんについてきたのは、あなたが心配だったからです」
「俺、ですか?」
「ええ。ですが、直純くんしか見えてないあなたを見てそれが杞憂だとわかってホッとしました」
「それって……」
――志摩くんはかなり狭量だそうだ
そういえば、確かに昨日伯父さんがそんなことを言っていた。
まさかと思っていたけれど、もしかして最初から俺のことだけをチェックしていた?
貴船コンツェルンの会長秘書で、どんな相手とでも対峙してそうなこの人が……ただの高校生の俺のことが気になっていたなんて……。
ちょっと笑ってしまう。
でもそれくらい、谷垣さんを愛しているということなんだろう。
俺も直純くんのことに関しては冷静じゃいられなくなるんだから、好きな人相手なら、大人とか、年齢とか、経験とか関係ないんだろうな。
「ふふっ。もうそろそろ部屋から出てくるころだと思います。直純くんの表情をしっかりと見てあげてくださいね」
志摩さんがそういったと同時に、直くんの部屋の扉が開く音が聞こえた。
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