ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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父の望み

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朝食を食べ終えて、卓さんを見送るために身支度を整えて部屋を出ると、直くんがリビングで勉強をしていた。

「直くん、おはよう」

「あ! あやちゃん、おはようございます。もう体調は大丈夫なんですか?」

「えっ? ああ、うん。ちょっと寝坊しちゃっただけだから心配しないで。それよりおにぎりすっごくおいしかったよ。ありがとう」

「わぁ、よかったぁ」

心から嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
本当にこの子は素直で可愛い。

「絢斗」

「あ、はい。直くんもおいで。卓さんを見送るよ」

「はーい」

私たちの後をトコトコとついてきて、靴を履き終えた卓さんに

「パパ、いってらっしゃい」

と笑顔を向ける。
卓さんはそれはそれは優しい笑顔を向けながら、

「ああ、行ってくるよ」

と言って優しく頭を撫でる。

「卓さん」

「今日も昼は戻ってくるから」

「うん、待ってる」

お昼も会えるんだと嬉しくなりながら卓さんに近づいて唇を合わせる。

「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくるよ」

同じように私の頭も撫でてから仕事に向かった。

「直くんは昇くんのお見送りもしたの?」

「はい。あやちゃんみたいに頑張りました」

「私みたいに?」

「はい。行ってらっしゃいってほっぺにチューしました」

「そうなんだ、昇くん喜んでるよ、きっと」

「はい。ありがとうって言って僕のほっぺにもチューしてくれました」

「そっか。頑張ったね」

これは直くんだけでなく、昇くんにも向けた言葉。
朝からそんなに可愛く見送られてよく反応できて学校に行けたな。

卓さんと一緒に住み始めた頃、同じように行ってらっしゃいってキスして見送ったら、その後しばらく玄関でキスしてたもんね。
卓さんったら、ギリギリまで仕事に行かなくて……ふふっ、懐かしい。

そう考えたら、昇くんは頑張ってるよね。
こんなに可愛い直くんがそばにいるのに。

「今日は午後からの講義だから、勉強わからないところがあったら声かけて」

「はい。桜守を受験できるって言われたから嬉しくて……勉強が楽しいです」

「うん。でも無理はしちゃダメだよ。適度に休まないとね」

「はい」

直くんは本当に素直でいい子だな。

椅子の方が楽かなと思ったけれど、実家で部屋で一人でずっと椅子に座らされて勉強させられてたからか、家族として過ごすようになってからはリビングのラグに座ってリビングテーブルで勉強するのが好きみたい。
そのほうが家族を感じられるのかな。
だから私も、空き時間にはそこにパソコンを置いて一緒の時間を過ごす。
これが結構楽しい。

直くんもわざわざ部屋に聞きにくるよりは、すぐに聞けて便利だろうしね。

再び勉強を始めた直くんに

「パソコン持ってくるね」

と声をかけて、一度部屋に戻った。

準備をしている最中に、そういえば! と思い立ち、私はスマホをとって未知子さんに電話をかけた。

<side卓>

「おはよう、中谷くん」

「おはようございます、先生。今日はどちらにしますか?」

「ああ。コーヒーを頼むよ」

「わかりました」

今まではずっと私が事務所にくるとさっとコーヒーを出してくれた。
いつも私好みの美味しいコーヒーを飲ませてくれて、それがプライベートと仕事との切り替えスイッチになっていた。

だが、ここ最近絢斗が直くんと一緒におにぎりを作ってくれるようになった。
だから、おにぎりを持ってきた日には美味しい玉露を淹れてくれるようになり、それが不定期だから毎日こうして声をかけてくれるようになったのだ。

私の答えでおにぎりがあるかどうかがわかるというわけだ。

「どうぞ」

「ありがとう。ああ、やっぱり中谷くんが淹れてくれるコーヒーは美味しいな」

「ありがとうございます。今日は何かご家族でいいことがありましたか?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「ここに向かう途中で昇くんが、ものすごく笑顔で羽でも生えているかのように軽やかに走っているのを見たんです」

中谷くんの言葉に、喜び勇んで走っている昇の様子が目に浮かぶようだ。

「ああ、なるほど。そういうことか。実はな、昇と直くんとの交際を認めたんだ」

「えっ? それは、直純くんが自覚したということですか?」

「そうなんだよ。昨日、一花くんと話をして教えてもらったらしい」

「ということはうまく行ったんですね」

「ああ、驚くほどうまく行ったよ。私たち頭の固い大人が考えるより、あの子たちの方が随分と大人だったな」

「そうですか。よかったですね。先生もホッと一安心ですね」

「そうだな」

これからは何も不安もなく、直くんも一花くんも自分の幸せのために過ごしていってもらいたいものだ。

「ちょうどいいタイミングで届いたかもしれませんね」

「んっ? なんだ?」

「事務所に入るときに、速達で受け取ったんです」

そう言って中谷くんが渡してくれたのは、中東にいる直くんの父、保さんからの郵便だ。
渡された封筒についている傷みが彼のいる場所までの距離を感じる。

その封筒にそっと鋏を入れると、中には必要な書類が一切の不備もなく入っていた。

彼はどんな思いでこの書類を揃えたのか……そう思うと少し心苦しいが、直くんが幸せになることを望んで用意してくれたのだと理解して、

「すぐに手続きに入ろう」

と中谷くんに声をかけた。
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