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同居の理由
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<side卓>
唇に、キスか……。
直くんの唇を奪われた、そんなことを思ってはいけないことは自分でもよくわかっている。
だが、まだ十四歳。もう少し子どものままでいてほしいという願いもあった。
これは父としてどうしようもない感情なのかもしれない。
それでも実際、自分が昇の立場なら我慢できないことは十分に理解できるし、直くんの気持ちを無視したわけでもないのなら親であってもとやかくいう権利はないだろう。
ただ、直くんはそういう知識に関しては何も知らないから、その点で言えば十四歳という年齢よりもはるかに幼い。
その子に必要以上に知識を植え付ける必要は無いだろう。
賢将さんが尋ねた結果、唇を重ねただけだとわかったからそれならまだ許容範囲だ。
それ以上のことをしないと誓うなら、もうここで話は終わりにしよう。
私は昇のことも直くんのことも信じているのだから。
自分からは直くんとどこまでのキスをしたのか聞く勇気を持てなかったから、父と賢将さんがいてくれて良かったのだと思う。
私は気持ちを切り替えて夕食の支度を再開した。
父と賢将さんは私たちの様子が見える場所に座ったかと思えば、突然驚きの言葉を告げた。
「卓、私はこれから賢将さんと一緒に暮らそうと思う」
「えっ?」
一瞬聞き間違いかと思った。
母を亡くして落ち込んだ父を見て、一人にはしない方がいいと思ったから、私も毅も一緒に住むことを提案した。
家族で住めば母を失った悲しみも癒せるのでは無いかと思ったのだ。
けれど、父は母との思い出が残る家を出ることを望まなかったし、何より私たちでは母の代わりにはなれなかったのだろう。私ももし絢斗を失ったら、どんなに周りが気遣ってくれても絢斗がいた頃のようには戻れない。自分でどうにかするしか無いんだ。だからこそ、父は拠り所のない思いを仕事にぶつけ、精力的に動いていた。
ここ最近でようやく落ち着いたと思っていたが、まさか賢将さんと一緒に暮らすと言い出すとは思わなかった。
「あの、それは父さんから提案したことですか?」
「いや、私が寛さんに提案したんだ」
父が賢将さんに無理強いしたのではなくて少しホッとした。
「私もアフリカから帰国して久しぶりの日本での生活だろう? あちらではいつも大勢に囲まれていたから一人の夜が寂しくなったようだ。私も年をとったな」
確かに一人の夜は何かと感傷的になってしまうものだ。それが余計に堪えるのかもしれない。
「とはいえ、君たちの世話になろうとは全く思っていない。まだまだ自分で動けるうちは動かないと何もできなくなるからな。だが、寛さんも一人暮らしなら一緒に暮らしたら寂しい夜も気が紛れるだろうし、何かあった時にお互いに便利だろう。付かず離れず、いい距離を保てるのも寛さんがちょうどいい関係だと思ったんだ」
「それで、賢将さんの提案を受けた、ということですか?」
「ああ。それにもう一つ、大きな理由がある」
父と賢将さんが一緒に暮らすのに、まだ理由があるのか?
それは一体なんだろう?
想像もつかなくて父の言葉を待つしかない。
「直くんのことだよ」
「えっ? 直くん?」
「ああ。あの子は気持ちの優しい子だろう? 私たちのどちらかとあえば、もう片方が寂しがっているんじゃないかと気にする子だ」
父の言葉に昇がハッとした表情を見せる。
「この前、じいちゃん家に行った時も大おじさんのことを話していたよ」
「これから直くんが桜守に通うことになって、私たちが昇や卓たちの代わりに迎えに行って世話をすることも増えるだろう。その時に直くんがどちらの家に行くかで迷ったりしないためにも私たちが一緒に住むのは悪いことじゃないと思ったんだ。それに、私たち二人なら昇と直くんを一晩預かることもできる。お前と絢斗くんにとっても息抜きの時間は必要だろう」
父と賢将さんの家に、直くんと昇が泊まりに行く。
確かに不測の事態があった時には、人手は多い方がいい。
「直くんにとっては二人の祖父と一度に過ごせるのは楽しいかもしれませんね。私も、元気とはいえ高齢の父が一人暮らしをしているのは心配でしたから賢将さんが一緒に住んでくださるなら安心です。住まいはどちらに考えているんですか?」
「安全面を考慮すれば、今賢将さんが住んでいるマンションに住まわせてもらうのがいいのかもしれない。あそこには二十四時間コンシェルジュが常駐しているし、直くんを預かる際も安心だろう」
「実家はどうするんです?」
「しばらくはそのままでいいだろう。直くんがあの家を気に入ってくれていたからたまにはあそこでみんなで過ごすのもいいだろう。毅たちがフランスから戻ってきたらあの家に住んでもらってもいいし」
そこまで考えているなら、私が反対する理由はないな。
「いいアイディアだと思います。父と賢将さんさえ良ければすぐに引越しの手配をしますよ」
「ああ、ありがとう。今年中には引っ越しを終わらせるつもりで考えていたから助かるよ」
明日、早速知り合いの業者に頼むとしようか。
父たちと相談してどこまで荷物を運ぶか話をしないとな。
「それじゃあ絢斗と直くんにもその話をしてこよう」
賢将さんが立ちあがろうとしたその時、奥の部屋の扉が開く音が聞こえた。
唇に、キスか……。
直くんの唇を奪われた、そんなことを思ってはいけないことは自分でもよくわかっている。
だが、まだ十四歳。もう少し子どものままでいてほしいという願いもあった。
これは父としてどうしようもない感情なのかもしれない。
それでも実際、自分が昇の立場なら我慢できないことは十分に理解できるし、直くんの気持ちを無視したわけでもないのなら親であってもとやかくいう権利はないだろう。
ただ、直くんはそういう知識に関しては何も知らないから、その点で言えば十四歳という年齢よりもはるかに幼い。
その子に必要以上に知識を植え付ける必要は無いだろう。
賢将さんが尋ねた結果、唇を重ねただけだとわかったからそれならまだ許容範囲だ。
それ以上のことをしないと誓うなら、もうここで話は終わりにしよう。
私は昇のことも直くんのことも信じているのだから。
自分からは直くんとどこまでのキスをしたのか聞く勇気を持てなかったから、父と賢将さんがいてくれて良かったのだと思う。
私は気持ちを切り替えて夕食の支度を再開した。
父と賢将さんは私たちの様子が見える場所に座ったかと思えば、突然驚きの言葉を告げた。
「卓、私はこれから賢将さんと一緒に暮らそうと思う」
「えっ?」
一瞬聞き間違いかと思った。
母を亡くして落ち込んだ父を見て、一人にはしない方がいいと思ったから、私も毅も一緒に住むことを提案した。
家族で住めば母を失った悲しみも癒せるのでは無いかと思ったのだ。
けれど、父は母との思い出が残る家を出ることを望まなかったし、何より私たちでは母の代わりにはなれなかったのだろう。私ももし絢斗を失ったら、どんなに周りが気遣ってくれても絢斗がいた頃のようには戻れない。自分でどうにかするしか無いんだ。だからこそ、父は拠り所のない思いを仕事にぶつけ、精力的に動いていた。
ここ最近でようやく落ち着いたと思っていたが、まさか賢将さんと一緒に暮らすと言い出すとは思わなかった。
「あの、それは父さんから提案したことですか?」
「いや、私が寛さんに提案したんだ」
父が賢将さんに無理強いしたのではなくて少しホッとした。
「私もアフリカから帰国して久しぶりの日本での生活だろう? あちらではいつも大勢に囲まれていたから一人の夜が寂しくなったようだ。私も年をとったな」
確かに一人の夜は何かと感傷的になってしまうものだ。それが余計に堪えるのかもしれない。
「とはいえ、君たちの世話になろうとは全く思っていない。まだまだ自分で動けるうちは動かないと何もできなくなるからな。だが、寛さんも一人暮らしなら一緒に暮らしたら寂しい夜も気が紛れるだろうし、何かあった時にお互いに便利だろう。付かず離れず、いい距離を保てるのも寛さんがちょうどいい関係だと思ったんだ」
「それで、賢将さんの提案を受けた、ということですか?」
「ああ。それにもう一つ、大きな理由がある」
父と賢将さんが一緒に暮らすのに、まだ理由があるのか?
それは一体なんだろう?
想像もつかなくて父の言葉を待つしかない。
「直くんのことだよ」
「えっ? 直くん?」
「ああ。あの子は気持ちの優しい子だろう? 私たちのどちらかとあえば、もう片方が寂しがっているんじゃないかと気にする子だ」
父の言葉に昇がハッとした表情を見せる。
「この前、じいちゃん家に行った時も大おじさんのことを話していたよ」
「これから直くんが桜守に通うことになって、私たちが昇や卓たちの代わりに迎えに行って世話をすることも増えるだろう。その時に直くんがどちらの家に行くかで迷ったりしないためにも私たちが一緒に住むのは悪いことじゃないと思ったんだ。それに、私たち二人なら昇と直くんを一晩預かることもできる。お前と絢斗くんにとっても息抜きの時間は必要だろう」
父と賢将さんの家に、直くんと昇が泊まりに行く。
確かに不測の事態があった時には、人手は多い方がいい。
「直くんにとっては二人の祖父と一度に過ごせるのは楽しいかもしれませんね。私も、元気とはいえ高齢の父が一人暮らしをしているのは心配でしたから賢将さんが一緒に住んでくださるなら安心です。住まいはどちらに考えているんですか?」
「安全面を考慮すれば、今賢将さんが住んでいるマンションに住まわせてもらうのがいいのかもしれない。あそこには二十四時間コンシェルジュが常駐しているし、直くんを預かる際も安心だろう」
「実家はどうするんです?」
「しばらくはそのままでいいだろう。直くんがあの家を気に入ってくれていたからたまにはあそこでみんなで過ごすのもいいだろう。毅たちがフランスから戻ってきたらあの家に住んでもらってもいいし」
そこまで考えているなら、私が反対する理由はないな。
「いいアイディアだと思います。父と賢将さんさえ良ければすぐに引越しの手配をしますよ」
「ああ、ありがとう。今年中には引っ越しを終わらせるつもりで考えていたから助かるよ」
明日、早速知り合いの業者に頼むとしようか。
父たちと相談してどこまで荷物を運ぶか話をしないとな。
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賢将さんが立ちあがろうとしたその時、奥の部屋の扉が開く音が聞こえた。
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