14 / 93
逃げても無駄
しおりを挟む
逃げても無駄という言葉は、久代さんを脅していた写真に書かれていた言葉だ。
だからこそ、その件もすでに知られているとわかってマル被も観念したのだろう。
私はすぐにマル被に手錠をかけ、近くにいた部下たちに引き渡し、出入り口近くに移動させた。
これなら駅に着いたと同時に連行できる。
そして、被害者の元に向かい、次の駅で降りてこれから事情聴取を受けていただきたいと告げると、彼は震えながらもそれに了承してくれた。まだ震える被害者に寄り添う部下と共に到着した駅で降り、マル被の姿を彼に見せないように配慮しながら駅前で待っていたパトカーに乗り込んで警視庁へ向かった。
本来ならば私が後部座席に座るところだが、被害者とその彼に寄り添う部下に譲った。
それはなんとなく、二人の間に、いや特に部下から発せられる空気に配慮したからかもしれない。
一応警視庁の真壁だと告げると、隣で部下が警視正だと伝える。
階級は別に言わなくてもいいが民間人の感覚として上層部が関わっていると安心感は高まるようだ。
とはいえ、隣にいる直属の部下もキャリアで今は警視。優秀だから順調に出世はするだろうが。
「あ、あの……ありがとうございます。僕、ここのところずっと、その……被害に遭っていて……でも、誰にも言えなくて困っていたので……」
「あなたへの被害が始まったのはいつ頃からですか?」
「え、えっと……一週間くらい前から、です。最初は勘違いだと思ったんですけど、いつも同じ人が後ろにいる気がして……今日も触られた瞬間に身体が震えました。だから……」
「よくわかりました。後の事情聴取は警察で行いますのでそれまでは気持ちを落ち着かせていてください」
私の言葉に、被害者は少しホッとしているように見えた。
被害者への痴漢行為が始まったのは、久代さんに直接会いに行った頃くらいか。
その日から久代さんが八尋家に泊まり込むようになって電車に乗らなくなったから、他のターゲットを探したわけか。常に標的を見つけていたとしたら、かなりの余罪が出て来そうだな。
警視庁に到着するとすでに捜索差押許可状が発布されていた。
「新海、彼の事情聴取は頼む。私はマル被の家宅捜索に行ってくるから」
「えっ? 警視正が行かれるんですか?」
「ああ。どうしても行かなければいけない理由があるからな」
崇史さんの大事な人の映像が保存されていたとしたら、いくら警察官とはいえ大勢の目に触れることを崇史さんもよしとはしないだろう。それに何より久代さんのものも確実にあるだろうから、それを誰にも見せたくない。
私は令状を手に数人の部下を連れて早速マル被の自宅に向かった。
驚くことにマル被は母親と二人暮らしであった。
見張をしていた部下から聞いてそれを知ったわけだが、母親が自分の息子が痴漢やストーカー行為に勤しんでいたことを知っていてそれを隠蔽していたのなら母親にも責任の一端はあると言える。
だが、自宅に行き、玄関で令状を見せると何が何だかわからないという表情を見せていたから、おそらく何も知らなかったのだろう。年老いた母親は自分の息子が犯罪者となった現実を知って力なくその場に頽れた。
私はすぐに奴の部屋に入り、パソコンを押収。
意外にも几帳面だったのか、全ての写真が古いものではフロッピーディスクに、現在のものはブルーレイディスクやUSBメモリに保存されていて、路線やターゲットの特徴なども記されてファイルにまとめられていた。ファイルの正面にはご丁寧に印刷した写真が貼り付けられていて、一目で被害者がわかる。奴はそれを眺めて楽しんでいたのだろうが、これのおかげで被害者が特定しやすくて助かる。
その中でも特に丁寧に保存されていた中に、おそらく崇史さんの大事な人だと思しきものがあった。
それがわかったのは、彼が被害に遭っていた状況と記載されていた特徴が酷似していたからだ。
きっと奴の中で一番気に入っていたのかもしれない。印刷した写真を見ると久代さんにどことなく似ているのがわかる。
だからこそ久代さんに余計に執着したのかもしれない。ストーカー行為にまで及んだ理由がわかった気がした。
全ての捜索を終え、段ボール十箱にも及ぶ証拠品の数々を押収し、警視庁に戻った。
今回の痴漢行為については概ね認めているようだ。まぁ、あれだけ目撃者がいるのだから言い逃れはできないだろう。これから余罪についてもしっかりと追及し、認めさせるとしよう。
久代さんと崇史さんの大事な人の分だけは私のほうで書類にまとめ、あとは部下たちに任せて、久代さんの家の引越しを任せていた業者に連絡を入れた。
一度自宅に戻り、荷物の搬入を見届けてからもう一度警視庁に戻り、奴の事情聴取にも立ち会った。
優秀な部下たちが素早く処理をしてくれたおかげで、被害者の数人とコンタクトが取れすでに被害届も受理されていた。本当に仕事が早い部下たちで助かる。マル被は反論も何もできず、黙秘を続けていたがこちらには完璧な証拠が揃っていたため黙秘の意味を全く成していないから、無事に送致となるだろう。
これだけの証拠を揃えていれば検察官も指摘のしようがない。
犯罪行為に及んでいた人数と期間を考えれば実刑は免れないだろう。
あとは崇史さんの大事な人からの被害届も欲しいところだ。
今日はきっと忙しいだろから明日にでも連絡を入れておこう。
捕まえて欲しいと言っていたぐらいだから被害届は出すだろうから、今のうちから成瀬たちに頼んでおくか。
二人にメッセージを送り、私は急いで聖ラグエル病院に向かった。
だからこそ、その件もすでに知られているとわかってマル被も観念したのだろう。
私はすぐにマル被に手錠をかけ、近くにいた部下たちに引き渡し、出入り口近くに移動させた。
これなら駅に着いたと同時に連行できる。
そして、被害者の元に向かい、次の駅で降りてこれから事情聴取を受けていただきたいと告げると、彼は震えながらもそれに了承してくれた。まだ震える被害者に寄り添う部下と共に到着した駅で降り、マル被の姿を彼に見せないように配慮しながら駅前で待っていたパトカーに乗り込んで警視庁へ向かった。
本来ならば私が後部座席に座るところだが、被害者とその彼に寄り添う部下に譲った。
それはなんとなく、二人の間に、いや特に部下から発せられる空気に配慮したからかもしれない。
一応警視庁の真壁だと告げると、隣で部下が警視正だと伝える。
階級は別に言わなくてもいいが民間人の感覚として上層部が関わっていると安心感は高まるようだ。
とはいえ、隣にいる直属の部下もキャリアで今は警視。優秀だから順調に出世はするだろうが。
「あ、あの……ありがとうございます。僕、ここのところずっと、その……被害に遭っていて……でも、誰にも言えなくて困っていたので……」
「あなたへの被害が始まったのはいつ頃からですか?」
「え、えっと……一週間くらい前から、です。最初は勘違いだと思ったんですけど、いつも同じ人が後ろにいる気がして……今日も触られた瞬間に身体が震えました。だから……」
「よくわかりました。後の事情聴取は警察で行いますのでそれまでは気持ちを落ち着かせていてください」
私の言葉に、被害者は少しホッとしているように見えた。
被害者への痴漢行為が始まったのは、久代さんに直接会いに行った頃くらいか。
その日から久代さんが八尋家に泊まり込むようになって電車に乗らなくなったから、他のターゲットを探したわけか。常に標的を見つけていたとしたら、かなりの余罪が出て来そうだな。
警視庁に到着するとすでに捜索差押許可状が発布されていた。
「新海、彼の事情聴取は頼む。私はマル被の家宅捜索に行ってくるから」
「えっ? 警視正が行かれるんですか?」
「ああ。どうしても行かなければいけない理由があるからな」
崇史さんの大事な人の映像が保存されていたとしたら、いくら警察官とはいえ大勢の目に触れることを崇史さんもよしとはしないだろう。それに何より久代さんのものも確実にあるだろうから、それを誰にも見せたくない。
私は令状を手に数人の部下を連れて早速マル被の自宅に向かった。
驚くことにマル被は母親と二人暮らしであった。
見張をしていた部下から聞いてそれを知ったわけだが、母親が自分の息子が痴漢やストーカー行為に勤しんでいたことを知っていてそれを隠蔽していたのなら母親にも責任の一端はあると言える。
だが、自宅に行き、玄関で令状を見せると何が何だかわからないという表情を見せていたから、おそらく何も知らなかったのだろう。年老いた母親は自分の息子が犯罪者となった現実を知って力なくその場に頽れた。
私はすぐに奴の部屋に入り、パソコンを押収。
意外にも几帳面だったのか、全ての写真が古いものではフロッピーディスクに、現在のものはブルーレイディスクやUSBメモリに保存されていて、路線やターゲットの特徴なども記されてファイルにまとめられていた。ファイルの正面にはご丁寧に印刷した写真が貼り付けられていて、一目で被害者がわかる。奴はそれを眺めて楽しんでいたのだろうが、これのおかげで被害者が特定しやすくて助かる。
その中でも特に丁寧に保存されていた中に、おそらく崇史さんの大事な人だと思しきものがあった。
それがわかったのは、彼が被害に遭っていた状況と記載されていた特徴が酷似していたからだ。
きっと奴の中で一番気に入っていたのかもしれない。印刷した写真を見ると久代さんにどことなく似ているのがわかる。
だからこそ久代さんに余計に執着したのかもしれない。ストーカー行為にまで及んだ理由がわかった気がした。
全ての捜索を終え、段ボール十箱にも及ぶ証拠品の数々を押収し、警視庁に戻った。
今回の痴漢行為については概ね認めているようだ。まぁ、あれだけ目撃者がいるのだから言い逃れはできないだろう。これから余罪についてもしっかりと追及し、認めさせるとしよう。
久代さんと崇史さんの大事な人の分だけは私のほうで書類にまとめ、あとは部下たちに任せて、久代さんの家の引越しを任せていた業者に連絡を入れた。
一度自宅に戻り、荷物の搬入を見届けてからもう一度警視庁に戻り、奴の事情聴取にも立ち会った。
優秀な部下たちが素早く処理をしてくれたおかげで、被害者の数人とコンタクトが取れすでに被害届も受理されていた。本当に仕事が早い部下たちで助かる。マル被は反論も何もできず、黙秘を続けていたがこちらには完璧な証拠が揃っていたため黙秘の意味を全く成していないから、無事に送致となるだろう。
これだけの証拠を揃えていれば検察官も指摘のしようがない。
犯罪行為に及んでいた人数と期間を考えれば実刑は免れないだろう。
あとは崇史さんの大事な人からの被害届も欲しいところだ。
今日はきっと忙しいだろから明日にでも連絡を入れておこう。
捕まえて欲しいと言っていたぐらいだから被害届は出すだろうから、今のうちから成瀬たちに頼んでおくか。
二人にメッセージを送り、私は急いで聖ラグエル病院に向かった。
851
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる