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受け入れてくれるなら
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「あの、そんなにすごい人なんですか?」
「まだ若手だが、彼のデザインは唯一無二と言われているんだ。彼ならスアヴィスを辞めても就職先は引くて数多だろう。仮に独立しても仕事が切れることはないだろうな」
周平さんの自信満々な言葉に私も驚いてしまう。
「そんなに……? じゃあ上司は……」
「彼を会社に縛り付けておくために必死なんだろう。おそらく彼はそこでは正当な評価を受けていないな。もし、彼が望んでくれるならぜひうちで雇いたいくらいだよ」
「えっ? 周平さんの会社でですか?」
まさか周平さんからそのようなことを言い出すとは思いもしなかった。だが、周平さんは興奮気味に言葉を続けた。
「ああ、実はイリゼホテルでしか着られないドレスを作っているが、それと対になるようなエンゲージリングやマリッジリングをうちで作って売り出したら、もっとイリゼホテルの売りになるんじゃないかということで敬介とも相談しながらジュエリー部門を立ち上げようとしていたところなんだ」
ただでさえ、一生に一度の結婚式に周平さんのドレスを着たいと願う女性が多い中、そのドレスと対をなすようなリングがあればそれは確実に需要はあるだろう。ただ、ドレスのクオリティが素晴らしすぎてそれに見合うジュエリーをデザインするのはかなりのプレッシャーだろう。
「彼ならドレスに合わせたエンゲージリングや、新郎新婦に合わせたマリッジリングをデザインすることもできるだろう。できることなら専属で雇いたいくらいだよ」
そんな素晴らしいドレスをデザインする周平さんがここまで熱望するとは……舞川さんの実力は本当にすごいのだろうな。
「それに……彼がうちに入ってくれたら、もう一つ大きな仕事が舞い込んでくる」
周平さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「大きな仕事、ですか?」
「ああ。真壁も知っているだろうが、倉橋くんの開発しているGPSは今、世界の名だたる大富豪や王族も手に入れたいと躍起になっている。彼らは愛しい伴侶に似合うジュエリーを見つけ、それに倉橋くんのGPSをつけて伴侶たちにつけさせているが、イメージ通りのジュエリーを探すのも苦労していたようだ。そこで世界中を探し回って彼らが見つけたのが……」
「まさか、舞川さん?」
私の言葉に周平さんは大きく頷いてみせた。
「だが、さっきの話を聞くとおそらくスアヴィスの上層部、もしくは上司までが世界中のセレブたちからの依頼だと知っていて、舞川さんはただデザインをさせられているだけのようだな。私は倉橋くんからデザイナーの名前は聞かされていたがな」
そうか、だから上司は躍起になって舞川さんを復帰させようとしているんだ。舞川さんがいなければセレブたちの依頼を引き受けられないからな。一度依頼を断ればもう二度と発注が来ないかもしれないと危惧しているのだろう。おそらくセレブたちからは法外なデザイン料が支払われているはずだ。それを舞川さんには伝えていないのだろう。つまり、タダ働きさせられていたのと同義だな。スアヴィスを横領の件で調査を入れたほうがいいだろうな。
「だから、彼らのイメージ通りにデザインできる舞川さんをうちに雇えたら、彼がデザインしたジュエリーに倉橋くんのGPSをつけて彼らに販売することができるんだ。そうなれば世界中に彼のデザインしたジュエリーが広まり、舞川さんは正当な評価を受けられる」
「世界中に……それはすごいですね」
以前倉橋くんと呑む機会があったが、その時もそういった話をしていたな。
今や彼の開発する物は世界中で需要が高まっている。それも取引相手は金に糸目はつけない相手ばかりだから、これから先もっと成長する見込みがある。そこに彼のデザインしたジュエリーが広まるのなら確かにそれはすごいことだ。
「すごいなんてものじゃない。ジュエリーデザイナーとして正当な評価を受ければ彼の知名度もグッと上がる。海外で人気が出れば日本国内での需要もますます上がる。うちとイリゼホテルにとっても嬉しいことだよ。一度彼と話をしてみたいものだな。うちの専属になってくれるのなら、仕事も在宅でやってもらっていいし、彼の体調には十分配慮しよう」
<Clef de Coeur>の社長に声をかけられるのは舞川さんにとっても嬉しいことだろう。
それに今の彼の状態を慮ってくれる職場なら、きっと彼の体調にとってもいいに違いない。
「その話を一度部下に話してみます。それからでも構いませんか?」
「ああ。うちは急がないからまずは今の仕事を辞めて、ゆっくり考えてくれたらいい」
やっぱり周平さんに相談してみてよかった。
新海も舞川さんもきっと喜ぶことだろう。
「周平さんは仕事は終わりですか?」
「ああ。今から敬介を迎えに行って自宅に戻るよ。敬介がまた久代くんと話がしたいと言っていたから、近いうちにマンションのBARで少し呑まないか? 無理にとは言わないが……」
「ええ。要さんに話をして連絡しますね」
「その時はこれを着てくるといい」
周平さんはカバーに入れたままラックにかけていた洋服を取り、私に手渡した。
「これは?」
「昨日、お前が久代くんに選んだ服とテイストを合わせたリンクコーデ服だよ。まるっきりお揃いではないから久代くんも恥ずかしがらずに着てくれるだろう」
カバーを開けて見せてくれた服は確かに私が選んだ要さんの服にテイストがよく似ていた。
「ありがとうございます!」
急いで財布を出そうとすると、それに気づいた周平さんにすぐに制される。
「敬介にいい友人を紹介してくれたお礼で私が勝手に用意した物だから気にしないでいい」
そこまで言ってくれる周平さんの気持ちをありがたく受け取ることにした。
「今日は二十時にベッドを搬入させる手筈になっているから忘れないようにな」
「はい。帰ったらすぐに準備をしておきます。ありがとうございます」
「さっきの奴らの件は久代さんに知られないように、私が伊織に話しておくよ」
「はい。よろしくお願いします」
私は頭を下げ、周平さんからもらった服を手に社長室を出た。
「まだ若手だが、彼のデザインは唯一無二と言われているんだ。彼ならスアヴィスを辞めても就職先は引くて数多だろう。仮に独立しても仕事が切れることはないだろうな」
周平さんの自信満々な言葉に私も驚いてしまう。
「そんなに……? じゃあ上司は……」
「彼を会社に縛り付けておくために必死なんだろう。おそらく彼はそこでは正当な評価を受けていないな。もし、彼が望んでくれるならぜひうちで雇いたいくらいだよ」
「えっ? 周平さんの会社でですか?」
まさか周平さんからそのようなことを言い出すとは思いもしなかった。だが、周平さんは興奮気味に言葉を続けた。
「ああ、実はイリゼホテルでしか着られないドレスを作っているが、それと対になるようなエンゲージリングやマリッジリングをうちで作って売り出したら、もっとイリゼホテルの売りになるんじゃないかということで敬介とも相談しながらジュエリー部門を立ち上げようとしていたところなんだ」
ただでさえ、一生に一度の結婚式に周平さんのドレスを着たいと願う女性が多い中、そのドレスと対をなすようなリングがあればそれは確実に需要はあるだろう。ただ、ドレスのクオリティが素晴らしすぎてそれに見合うジュエリーをデザインするのはかなりのプレッシャーだろう。
「彼ならドレスに合わせたエンゲージリングや、新郎新婦に合わせたマリッジリングをデザインすることもできるだろう。できることなら専属で雇いたいくらいだよ」
そんな素晴らしいドレスをデザインする周平さんがここまで熱望するとは……舞川さんの実力は本当にすごいのだろうな。
「それに……彼がうちに入ってくれたら、もう一つ大きな仕事が舞い込んでくる」
周平さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「大きな仕事、ですか?」
「ああ。真壁も知っているだろうが、倉橋くんの開発しているGPSは今、世界の名だたる大富豪や王族も手に入れたいと躍起になっている。彼らは愛しい伴侶に似合うジュエリーを見つけ、それに倉橋くんのGPSをつけて伴侶たちにつけさせているが、イメージ通りのジュエリーを探すのも苦労していたようだ。そこで世界中を探し回って彼らが見つけたのが……」
「まさか、舞川さん?」
私の言葉に周平さんは大きく頷いてみせた。
「だが、さっきの話を聞くとおそらくスアヴィスの上層部、もしくは上司までが世界中のセレブたちからの依頼だと知っていて、舞川さんはただデザインをさせられているだけのようだな。私は倉橋くんからデザイナーの名前は聞かされていたがな」
そうか、だから上司は躍起になって舞川さんを復帰させようとしているんだ。舞川さんがいなければセレブたちの依頼を引き受けられないからな。一度依頼を断ればもう二度と発注が来ないかもしれないと危惧しているのだろう。おそらくセレブたちからは法外なデザイン料が支払われているはずだ。それを舞川さんには伝えていないのだろう。つまり、タダ働きさせられていたのと同義だな。スアヴィスを横領の件で調査を入れたほうがいいだろうな。
「だから、彼らのイメージ通りにデザインできる舞川さんをうちに雇えたら、彼がデザインしたジュエリーに倉橋くんのGPSをつけて彼らに販売することができるんだ。そうなれば世界中に彼のデザインしたジュエリーが広まり、舞川さんは正当な評価を受けられる」
「世界中に……それはすごいですね」
以前倉橋くんと呑む機会があったが、その時もそういった話をしていたな。
今や彼の開発する物は世界中で需要が高まっている。それも取引相手は金に糸目はつけない相手ばかりだから、これから先もっと成長する見込みがある。そこに彼のデザインしたジュエリーが広まるのなら確かにそれはすごいことだ。
「すごいなんてものじゃない。ジュエリーデザイナーとして正当な評価を受ければ彼の知名度もグッと上がる。海外で人気が出れば日本国内での需要もますます上がる。うちとイリゼホテルにとっても嬉しいことだよ。一度彼と話をしてみたいものだな。うちの専属になってくれるのなら、仕事も在宅でやってもらっていいし、彼の体調には十分配慮しよう」
<Clef de Coeur>の社長に声をかけられるのは舞川さんにとっても嬉しいことだろう。
それに今の彼の状態を慮ってくれる職場なら、きっと彼の体調にとってもいいに違いない。
「その話を一度部下に話してみます。それからでも構いませんか?」
「ああ。うちは急がないからまずは今の仕事を辞めて、ゆっくり考えてくれたらいい」
やっぱり周平さんに相談してみてよかった。
新海も舞川さんもきっと喜ぶことだろう。
「周平さんは仕事は終わりですか?」
「ああ。今から敬介を迎えに行って自宅に戻るよ。敬介がまた久代くんと話がしたいと言っていたから、近いうちにマンションのBARで少し呑まないか? 無理にとは言わないが……」
「ええ。要さんに話をして連絡しますね」
「その時はこれを着てくるといい」
周平さんはカバーに入れたままラックにかけていた洋服を取り、私に手渡した。
「これは?」
「昨日、お前が久代くんに選んだ服とテイストを合わせたリンクコーデ服だよ。まるっきりお揃いではないから久代くんも恥ずかしがらずに着てくれるだろう」
カバーを開けて見せてくれた服は確かに私が選んだ要さんの服にテイストがよく似ていた。
「ありがとうございます!」
急いで財布を出そうとすると、それに気づいた周平さんにすぐに制される。
「敬介にいい友人を紹介してくれたお礼で私が勝手に用意した物だから気にしないでいい」
そこまで言ってくれる周平さんの気持ちをありがたく受け取ることにした。
「今日は二十時にベッドを搬入させる手筈になっているから忘れないようにな」
「はい。帰ったらすぐに準備をしておきます。ありがとうございます」
「さっきの奴らの件は久代さんに知られないように、私が伊織に話しておくよ」
「はい。よろしくお願いします」
私は頭を下げ、周平さんからもらった服を手に社長室を出た。
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