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第一章
第十一話
しおりを挟むなんてことない日曜日、今日は風が強くていつもより寒い。
家の片付けでもするかーなどと思い、片付けしつつダラダラしつつ。ご飯も家にあるもので適当なものでいいや、と莉子の一日はあっという間に過ぎた。
電気ストーブをつけていても、家の中は壁側から冷気がじわじわ侵食してくる気がして、身体も冷えていく。明日も当然仕事なので、莉子は早めに風呂を終えて、リビングで髪の毛を乾かしている時だった。
手に持ってるスマホが鳴り、加瀬から【ちょっと今電話していい?】とメッセージが入っていた。莉子は【いいよー】と返事をすぐに送り、ドライヤーを終わらせてソファに座った。
すぐにかかってきた電話をスピーカーにして、テーブルの上に置く。
「どうしたのー?」
『ごめんな急に、ちょっと相談したいことあって』
「うん、何?」
『今度さ、新商品企画の関係で会う人に、いい感じの手土産を知りたくて』
「手土産?」
『そう、海外慣れしてる方で、ちょっとキーパーソンな感じで失敗したくない。色々考えたり調べたりしたんだけど、全然いいの分からん』
「何系の何歳くらいの方?」
『外資寄りの四十代女性』
「あー」
『周りもそういうの疎い人ばっかりで。南そういうのセンスいいじゃん』
莉子は、ちょっと見てみるから待ってね、と電話を繋げたままスマホを操作する。確か前にスクショしてた気がするやつがあると思うんだよねー、と言いながらフォルダを探っていると、記憶していたものが出てきたので加瀬にそれの名前を伝えた。
「今送ったんだけどね、」
スクリーンショットをした画像をそのままメッセージで送り、追加で店舗情報のURLも送信した。加瀬は画面の向こうでそれを読んでいるのか、へー調べても出てこなかったとこだわ、と聞こえてくる。
「美味しそうでしょ、チョコなんだけど甘過ぎないみたいよ。焼き菓子もあるし、シェフは元パン職人らしいよ」
『ここにする』
「百貨店とかにもこの間ポップアップで出てたから安心だと思う」
『なんだこの生ガトーショコラ、俺が食いたい』
「私ラングドシャをいただいたことあるんだけど、美味しかった」
『会社で?さすがデザイン事務所』
「そう、パッケージがすごい可愛くておしゃれで気になって調べたんだー」
ありきたりでもなく、ここでしか買えない。我ながらいいところをストックしておいたのでは。と満足気な気持ちになりながらソファから寝室へと移動する。せっかくお風呂で温まったからには、この熱を逃したくない。
『助かった、ありがとう』
「加瀬が買いに行くの?」
『…なんか一緒に買ってきて欲しいんだろ』
「バレた?あのねー食パンも売ってるんだけど、それが食べたい」
『いいよ俺も自分に生ガトーショコラ買いたい』
「思ったより加瀬にハマっててウケる」
先日のシュークリームといい、加瀬は意外と甘いものが好きなんだよなーそういえば高校の時も飲み物がミルクティーで揶揄ったことあるなーなどと思いながら、莉子はベッドに入る。電気毛布を入れておいて正解だった。足元の温もりが心地良い。
『もう寝んの?』
布の音が伝わったらしく、加瀬がそう言った。スピーカーモードを解除して、耳にスマホを当てながら莉子は返事をする。
「まだ寝ないけど、早くお風呂に入ったからもうベッド入ろうかなって」
『今日寒かったな』
「ねー、加瀬は何してたの?」
『家で寝てた』
「家から出たくないよねーこういう日は」
『そんで今も布団にいる』
「寝すぎ」
『てか、他にもさっきみたいな店の情報とか覚えてんの?』
「別に積極的に探してるわけじゃないけど、インスタで流れてきたり、流行りっぽかったり、気になったの調べてはスクショしてる」
『すげえ、また困ったら聞いていい?』
「うん、いいよ」
こういうことで頼られるのは嬉しい。莉子はそういえば、と最近気になった出来事の話を始める。加瀬はいつも対面で会っている時のように、画面の向こうから相槌を打って聞いてくれる。
「それでね、」
返事がなくなって、莉子の口が止まる。寝たのかな?と思い何となく耳から離して画面を見つめると、どうした?と聞こえてくる。
「いや、寝たのかなと思って」
『寝てないよ』
「でも声、なんか眠そう」
『んー繋いでて』
「いいよ別に、大した話してるわけじゃないから」
まだ本格的に眠る気がない莉子の寝室の電気はつけたままで、加瀬がもう眠るなら申し訳ない、と思いながら莉子は言った。
『南の声、聞いてるだけだから』
「そ、う」
『んーでも寝落ちしたらごめん』
「それは、いいけど…」
耳に当てたスマホが少しだけ発熱していて熱い。莉子は数センチだけ耳から距離をあけて、先ほどの話を続けた。程なくして加瀬は宣言通りと言うべきか、相槌がなくなり、莉子も話をやめた。
再び耳に当てると、加瀬の寝息が聞こえてきて、寝落ちしたんだなと分かる。
なんか、こんな、寝落ち電話とか、
あの日、加瀬に『可愛いじゃん』と言われた時みたいな、変な動悸がまた戻ってきた気がして、莉子はそのまま赤いボタンをタップして電話を終了させた。加瀬はスマホを電源に繋げていたんだろうか。
莉子はもそもそと身体を起こして、枕元のリモコンで部屋の電気を消した。布団の中で温まった莉子に、この後布団の外へ出るという選択肢はもうなかった。
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