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酒の勢い
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食事の後はテティシアと他愛ない話をした。あとの予定を気にしない話は盛り上がり、しかしそのうちにやはり、領地の新しい菓子についての話になった。
レナルドも呼んで議論する。美味しいだけでは流行にはできない。できるだけ簡単に集まる素材で、簡単につくれるのが良い。
「それにしても、ついつい食べてしまうわね、これ」
「お酒に合いますよね!」
「そうね。特に甘口のものが合っていて……」
「お酒の味も引き立てている気がします」
「それはありがたい。そっちの酒は今、王都で売れ行きが悪くて」
「まあ、それなら、ぜひ……え、でもこれ売れてないんですの? 不思議ですわ」
「王都で流行っているのはこっちですね」
「ん?、なるほど、刺激的な味ですね」
気づけば酒も進む。
そのうちにテティシアが場を去ってしまったが、二人で飲み続けた。
「王家ではいろんなものを頂きましたけれど、あまり味わう余裕がなかったのですよね。こんなに美味しいものがたくさんあったなんて。素晴らしい国です」
「ええ、もちろん、もちろん……」
「もったいないことをしました。どうせダメになる結婚なら、もっと図太く他でできない経験をすればよかったわ。お城の探索もしたかったのに」
「たんけん、しましょう、たんけん」
「……レナルド様? まあ、たいへん」
気づけばラチェリナはぺらぺら喋っていたし、レナルドは幼児のように舌足らずにしか喋らなくなっていた。
姿勢も今にもテーブルに突っ伏しそうだ。
慌ててラチェリナは彼を助け起こした。男性に触れるなど、普段なら絶対にしないことだ。メイリーフ家の雰囲気と酒の力で、ラチェリナの気分はずいぶん緩んでいた。
「レナルド様、もうお休みになった方がいいです」
「いやだ……」
「まあ。ふふっ」
子供のように嫌がるので、ラチェリナは笑ってしまう。本当に可愛い人だ。
だがもう寝かせたほうがいいだろう。
「だめですよ。レナルド様、パーティはおしまいです」
「いやだ、いやだ……あなたがいるのに」
「また今度にしましょうね」
「離れたくない」
「ふふ」
ラチェリナだってそうだ。こんなに楽しい気分は初めてのことで、終わりになんてしたくない。
でも明日ですべてが終わってしまうわけではない。楽しいことはまた始めればいいのだ。
「ラチェリナ」
「はい、はい」
「僕は、あなたがすきです」
「ふふっ、わたくしも、あなたが大好きですよ」
「ラチェリナ……」
目の前が暗くなった。
あら、とラチェリナは不思議に思う。誰か明かりを消してしまったのかしら。いや、とても近くにレナルドがいるのだ。
体はぽかぽかと暖かい。ぬくもりに抱きしめられている。
唇を、ふに、ふに、と唇で押された。
(あら? これってキスじゃないかしら)
そこに思い至りはしたのだが、ラチェリナはぼんやり受け入れてしまった。とてもいい気分で、嫌なことは何もなかったからだ。
「ラチェリナ」
名前を呼ぶことしかしなくなったレナルドは、相変わらず可愛い。様づけをどこかに忘れてしまったらしい。今のラチェリナは王太子妃でもないので、もともといらないのだが。
ラチェリナは笑いながら、彼を休ませるため部屋に連れて行った、はずだった。
ぽふんと寝台の上に彼を寝かせたのだ。しかしなぜか、ラチェリナも同じ寝台に倒れ込んでいた。二人は絡み合ってじゃれあった。
「あ、だめよ」
「いやだ、ラチェリナ、ラチェリナ」
「レナルド」
肌に触れられたとき、これはいけないと確かに思ったのだ。
彼は年下で、未婚で、それに二人は酒に酔っている。いけないことだ。だがラチェリナの知っている閨の空気とあまりに違いすぎた。
義務感ではなく親しさが、緊張ではなく喜びがあった。いけないことだと思い続けるのは難しかった。
それにラチェリナにはもう夫はいない。
そう、レナルドだって未婚だ。
だったら別に、いいじゃないの。
そう思ってしまったらもう無理だった。縋るように名前を呼んでくるレナルドは、本当に可愛い。抱え込むように抱きしめて頭を撫でた。
レナルドも呼んで議論する。美味しいだけでは流行にはできない。できるだけ簡単に集まる素材で、簡単につくれるのが良い。
「それにしても、ついつい食べてしまうわね、これ」
「お酒に合いますよね!」
「そうね。特に甘口のものが合っていて……」
「お酒の味も引き立てている気がします」
「それはありがたい。そっちの酒は今、王都で売れ行きが悪くて」
「まあ、それなら、ぜひ……え、でもこれ売れてないんですの? 不思議ですわ」
「王都で流行っているのはこっちですね」
「ん?、なるほど、刺激的な味ですね」
気づけば酒も進む。
そのうちにテティシアが場を去ってしまったが、二人で飲み続けた。
「王家ではいろんなものを頂きましたけれど、あまり味わう余裕がなかったのですよね。こんなに美味しいものがたくさんあったなんて。素晴らしい国です」
「ええ、もちろん、もちろん……」
「もったいないことをしました。どうせダメになる結婚なら、もっと図太く他でできない経験をすればよかったわ。お城の探索もしたかったのに」
「たんけん、しましょう、たんけん」
「……レナルド様? まあ、たいへん」
気づけばラチェリナはぺらぺら喋っていたし、レナルドは幼児のように舌足らずにしか喋らなくなっていた。
姿勢も今にもテーブルに突っ伏しそうだ。
慌ててラチェリナは彼を助け起こした。男性に触れるなど、普段なら絶対にしないことだ。メイリーフ家の雰囲気と酒の力で、ラチェリナの気分はずいぶん緩んでいた。
「レナルド様、もうお休みになった方がいいです」
「いやだ……」
「まあ。ふふっ」
子供のように嫌がるので、ラチェリナは笑ってしまう。本当に可愛い人だ。
だがもう寝かせたほうがいいだろう。
「だめですよ。レナルド様、パーティはおしまいです」
「いやだ、いやだ……あなたがいるのに」
「また今度にしましょうね」
「離れたくない」
「ふふ」
ラチェリナだってそうだ。こんなに楽しい気分は初めてのことで、終わりになんてしたくない。
でも明日ですべてが終わってしまうわけではない。楽しいことはまた始めればいいのだ。
「ラチェリナ」
「はい、はい」
「僕は、あなたがすきです」
「ふふっ、わたくしも、あなたが大好きですよ」
「ラチェリナ……」
目の前が暗くなった。
あら、とラチェリナは不思議に思う。誰か明かりを消してしまったのかしら。いや、とても近くにレナルドがいるのだ。
体はぽかぽかと暖かい。ぬくもりに抱きしめられている。
唇を、ふに、ふに、と唇で押された。
(あら? これってキスじゃないかしら)
そこに思い至りはしたのだが、ラチェリナはぼんやり受け入れてしまった。とてもいい気分で、嫌なことは何もなかったからだ。
「ラチェリナ」
名前を呼ぶことしかしなくなったレナルドは、相変わらず可愛い。様づけをどこかに忘れてしまったらしい。今のラチェリナは王太子妃でもないので、もともといらないのだが。
ラチェリナは笑いながら、彼を休ませるため部屋に連れて行った、はずだった。
ぽふんと寝台の上に彼を寝かせたのだ。しかしなぜか、ラチェリナも同じ寝台に倒れ込んでいた。二人は絡み合ってじゃれあった。
「あ、だめよ」
「いやだ、ラチェリナ、ラチェリナ」
「レナルド」
肌に触れられたとき、これはいけないと確かに思ったのだ。
彼は年下で、未婚で、それに二人は酒に酔っている。いけないことだ。だがラチェリナの知っている閨の空気とあまりに違いすぎた。
義務感ではなく親しさが、緊張ではなく喜びがあった。いけないことだと思い続けるのは難しかった。
それにラチェリナにはもう夫はいない。
そう、レナルドだって未婚だ。
だったら別に、いいじゃないの。
そう思ってしまったらもう無理だった。縋るように名前を呼んでくるレナルドは、本当に可愛い。抱え込むように抱きしめて頭を撫でた。
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