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英雄
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「ん?」
今日も今日とてシャーロットは森に入り、崖の上に腹ばいになっていた。
断崖に小さな花が生えている。これが本日の採取対象だ。危険な場所に生えるため、高額で取引される花だった。
必要最低限の財産はできたけれど、あればあるほど安心できる。それに自分ができることを増やせば、最悪、身一つでも生きられるかもしれない。
「あれは……ドラゴン?」
崖の下にある木々から、巨大な体が見え隠れしている。ずいぶん興奮しているようだ。どすん、どすん、と地面を踏みしめる音が聞こえた。
「凶暴化してる……?」
ドラゴンは生物の頂点と言われているが、むやみに怒らせなければ暴れ出したりしない。
人間が怒らせても、一撃反撃すればそれで満足するような生き物だ。彼らにとって人間や他の生物など、構うに値しないのである。
しかし年を取り、死期の近いドラゴンは話が違ってくる。
感覚が麻痺し理性を失い、わけもわからず暴れ続けることになる。
仲間のドラゴンがそばにいれば落ち着かせるのだが、一匹のときにそのような状態になれば、周囲を破壊しつくすまで止まらない。
「町に、知らせなきゃ」
ドラゴンはそもそも長く生きるため、暴走して町を襲うことはめったにない。十年に一度、世界のどこかの町が襲われたらしいと言われる程度だ。
だが、そんなときのために冒険者がいる。彼らが討伐隊を組んでドラゴンを倒してくれるはずだ。
ドラゴンを倒したものは英雄だ。
国から報奨が貰える。多くの場合は討伐隊の戦果であるので、一人あたりにするとさほでもない。しかし、ひとりで倒した場合などは、爵位が与えられ、死ぬまで年金が貰えるのだとか。
「……」
いいなあ、と欲を持って見つめてしまった。
「……え?」
と、ドラゴンの背に剣が突き立っているのが見えた。
「討伐隊?」
それにしては一人の姿も見えない。
「……て!」
「……あぶな……右に!」
「リュシオス!」
「ぐああっ!」
いた。
四人の冒険者が、ドラゴンに距離を取りながら戦っている。
剣を突き立てたのも彼らなのだろう、戦士の手に武器がない。
「すごい……ドラゴンを四人で……あっ!」
戦士が暴れるドラゴンの尾で弾き飛ばされた。ずしりと地響きのような音がして、彼は樹に叩きつけられた。
そのままぐったりと倒れ込む。
「リュシオス!」
「アナ、やっぱり……町に……」
「あと少しなのに……!」
あと少し。
そう、ドラゴンの背にはしっかりと剣が突き立っている。ダメージを与えていないわけはないはずだ。暴れまわるドラゴンが咆哮し、よろめき、無闇矢鱈に周囲を攻撃する。
背から流れる血が、足まで伝い落ちていく。
「あと少し……」
シャーロットは呟き、ごくりと喉を鳴らした。
シャーロットは崖の上にいる。見下ろした先に、ドラゴンがいる。ドラゴンは暴れまわっているが、見上げてくることはない。
ときに樹にぶつかるさまからして、目潰しされているのかもしれない。
「……」
シャーロットは呼吸を整え、崖に足を踏み出してみた。
なんとか取っ掛かりがある。ここから落下すれば死しかないだろうが、シャーロットはもはやそんな状況に慣れていた。
(私は死なない、死なない……)
今にも崩れそうな崖に手を伸ばし、触れる。しっかりとした感触を探し、震える手で掴んで体を下ろしていった。
時折ごろごろと落ちていく小石に体を強張らせる。緊張する体から息を逃し、慎重に足場を確かめた。少しずつでも確実に進む。
ドラゴンは暴れ続けている。
その背が、背に突き立った剣が、だんだんと近くなる。
ドラゴンはこちらに意識を向けない。
「は……」
耳元の鼓動がうるさく、体全体がこわばっている。呼吸をする。なんとか体を動かす。
気づかれてはいけない。気を抜いて落下してもいけない。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……今だ)
ドラゴンの背がそこにある。
降りられる。
そう認識した瞬間、シャーロットは無心になり、崖から手を離した。
落下する。その勢いのまま、手を伸ばした。剣の柄に触れる。掴む。そして、
ドラゴンが断末魔の咆哮を上げた。
今日も今日とてシャーロットは森に入り、崖の上に腹ばいになっていた。
断崖に小さな花が生えている。これが本日の採取対象だ。危険な場所に生えるため、高額で取引される花だった。
必要最低限の財産はできたけれど、あればあるほど安心できる。それに自分ができることを増やせば、最悪、身一つでも生きられるかもしれない。
「あれは……ドラゴン?」
崖の下にある木々から、巨大な体が見え隠れしている。ずいぶん興奮しているようだ。どすん、どすん、と地面を踏みしめる音が聞こえた。
「凶暴化してる……?」
ドラゴンは生物の頂点と言われているが、むやみに怒らせなければ暴れ出したりしない。
人間が怒らせても、一撃反撃すればそれで満足するような生き物だ。彼らにとって人間や他の生物など、構うに値しないのである。
しかし年を取り、死期の近いドラゴンは話が違ってくる。
感覚が麻痺し理性を失い、わけもわからず暴れ続けることになる。
仲間のドラゴンがそばにいれば落ち着かせるのだが、一匹のときにそのような状態になれば、周囲を破壊しつくすまで止まらない。
「町に、知らせなきゃ」
ドラゴンはそもそも長く生きるため、暴走して町を襲うことはめったにない。十年に一度、世界のどこかの町が襲われたらしいと言われる程度だ。
だが、そんなときのために冒険者がいる。彼らが討伐隊を組んでドラゴンを倒してくれるはずだ。
ドラゴンを倒したものは英雄だ。
国から報奨が貰える。多くの場合は討伐隊の戦果であるので、一人あたりにするとさほでもない。しかし、ひとりで倒した場合などは、爵位が与えられ、死ぬまで年金が貰えるのだとか。
「……」
いいなあ、と欲を持って見つめてしまった。
「……え?」
と、ドラゴンの背に剣が突き立っているのが見えた。
「討伐隊?」
それにしては一人の姿も見えない。
「……て!」
「……あぶな……右に!」
「リュシオス!」
「ぐああっ!」
いた。
四人の冒険者が、ドラゴンに距離を取りながら戦っている。
剣を突き立てたのも彼らなのだろう、戦士の手に武器がない。
「すごい……ドラゴンを四人で……あっ!」
戦士が暴れるドラゴンの尾で弾き飛ばされた。ずしりと地響きのような音がして、彼は樹に叩きつけられた。
そのままぐったりと倒れ込む。
「リュシオス!」
「アナ、やっぱり……町に……」
「あと少しなのに……!」
あと少し。
そう、ドラゴンの背にはしっかりと剣が突き立っている。ダメージを与えていないわけはないはずだ。暴れまわるドラゴンが咆哮し、よろめき、無闇矢鱈に周囲を攻撃する。
背から流れる血が、足まで伝い落ちていく。
「あと少し……」
シャーロットは呟き、ごくりと喉を鳴らした。
シャーロットは崖の上にいる。見下ろした先に、ドラゴンがいる。ドラゴンは暴れまわっているが、見上げてくることはない。
ときに樹にぶつかるさまからして、目潰しされているのかもしれない。
「……」
シャーロットは呼吸を整え、崖に足を踏み出してみた。
なんとか取っ掛かりがある。ここから落下すれば死しかないだろうが、シャーロットはもはやそんな状況に慣れていた。
(私は死なない、死なない……)
今にも崩れそうな崖に手を伸ばし、触れる。しっかりとした感触を探し、震える手で掴んで体を下ろしていった。
時折ごろごろと落ちていく小石に体を強張らせる。緊張する体から息を逃し、慎重に足場を確かめた。少しずつでも確実に進む。
ドラゴンは暴れ続けている。
その背が、背に突き立った剣が、だんだんと近くなる。
ドラゴンはこちらに意識を向けない。
「は……」
耳元の鼓動がうるさく、体全体がこわばっている。呼吸をする。なんとか体を動かす。
気づかれてはいけない。気を抜いて落下してもいけない。
(大丈夫、大丈夫、大丈夫……今だ)
ドラゴンの背がそこにある。
降りられる。
そう認識した瞬間、シャーロットは無心になり、崖から手を離した。
落下する。その勢いのまま、手を伸ばした。剣の柄に触れる。掴む。そして、
ドラゴンが断末魔の咆哮を上げた。
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