いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。

七辻ゆゆ

文字の大きさ
6 / 7

英雄

しおりを挟む
「ん?」

 今日も今日とてシャーロットは森に入り、崖の上に腹ばいになっていた。
 断崖に小さな花が生えている。これが本日の採取対象だ。危険な場所に生えるため、高額で取引される花だった。

 必要最低限の財産はできたけれど、あればあるほど安心できる。それに自分ができることを増やせば、最悪、身一つでも生きられるかもしれない。

「あれは……ドラゴン?」

 崖の下にある木々から、巨大な体が見え隠れしている。ずいぶん興奮しているようだ。どすん、どすん、と地面を踏みしめる音が聞こえた。

「凶暴化してる……?」
 
 ドラゴンは生物の頂点と言われているが、むやみに怒らせなければ暴れ出したりしない。
 人間が怒らせても、一撃反撃すればそれで満足するような生き物だ。彼らにとって人間や他の生物など、構うに値しないのである。

 しかし年を取り、死期の近いドラゴンは話が違ってくる。
 感覚が麻痺し理性を失い、わけもわからず暴れ続けることになる。
 仲間のドラゴンがそばにいれば落ち着かせるのだが、一匹のときにそのような状態になれば、周囲を破壊しつくすまで止まらない。

「町に、知らせなきゃ」

 ドラゴンはそもそも長く生きるため、暴走して町を襲うことはめったにない。十年に一度、世界のどこかの町が襲われたらしいと言われる程度だ。
 だが、そんなときのために冒険者がいる。彼らが討伐隊を組んでドラゴンを倒してくれるはずだ。

 ドラゴンを倒したものは英雄だ。
 国から報奨が貰える。多くの場合は討伐隊の戦果であるので、一人あたりにするとさほでもない。しかし、ひとりで倒した場合などは、爵位が与えられ、死ぬまで年金が貰えるのだとか。

「……」

 いいなあ、と欲を持って見つめてしまった。

「……え?」

 と、ドラゴンの背に剣が突き立っているのが見えた。

「討伐隊?」

 それにしては一人の姿も見えない。

「……て!」
「……あぶな……右に!」
「リュシオス!」
「ぐああっ!」

 いた。
 四人の冒険者が、ドラゴンに距離を取りながら戦っている。
 剣を突き立てたのも彼らなのだろう、戦士の手に武器がない。

「すごい……ドラゴンを四人で……あっ!」

 戦士が暴れるドラゴンの尾で弾き飛ばされた。ずしりと地響きのような音がして、彼は樹に叩きつけられた。
 そのままぐったりと倒れ込む。

「リュシオス!」
「アナ、やっぱり……町に……」
「あと少しなのに……!」

 あと少し。
 そう、ドラゴンの背にはしっかりと剣が突き立っている。ダメージを与えていないわけはないはずだ。暴れまわるドラゴンが咆哮し、よろめき、無闇矢鱈に周囲を攻撃する。
 背から流れる血が、足まで伝い落ちていく。

「あと少し……」

 シャーロットは呟き、ごくりと喉を鳴らした。
 シャーロットは崖の上にいる。見下ろした先に、ドラゴンがいる。ドラゴンは暴れまわっているが、見上げてくることはない。

 ときに樹にぶつかるさまからして、目潰しされているのかもしれない。

「……」

 シャーロットは呼吸を整え、崖に足を踏み出してみた。
 なんとか取っ掛かりがある。ここから落下すれば死しかないだろうが、シャーロットはもはやそんな状況に慣れていた。

(私は死なない、死なない……)

 今にも崩れそうな崖に手を伸ばし、触れる。しっかりとした感触を探し、震える手で掴んで体を下ろしていった。
 時折ごろごろと落ちていく小石に体を強張らせる。緊張する体から息を逃し、慎重に足場を確かめた。少しずつでも確実に進む。

 ドラゴンは暴れ続けている。
 その背が、背に突き立った剣が、だんだんと近くなる。

 ドラゴンはこちらに意識を向けない。

「は……」

 耳元の鼓動がうるさく、体全体がこわばっている。呼吸をする。なんとか体を動かす。
 気づかれてはいけない。気を抜いて落下してもいけない。

(大丈夫、大丈夫、大丈夫……今だ)

 ドラゴンの背がそこにある。
 降りられる。
 そう認識した瞬間、シャーロットは無心になり、崖から手を離した。

 落下する。その勢いのまま、手を伸ばした。剣の柄に触れる。掴む。そして、

 ドラゴンが断末魔の咆哮を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

愛で癒やす聖女「殿下の愛すべきところを教えてください。早く、教えてくれないと死んじゃいますよ!」

七辻ゆゆ
ファンタジー
「おまえのような醜い女との婚約は破棄だ」 ロッダン王子が婚約者にそう言ったとき、巨大なシャンデリアが落下、彼はその下敷きになった。 たまたま聖女テアがその場にいたものの、聖女とは愛で癒やすものだ。ことの成り行きを見てしまっていたテアは、ロッダンを愛すのが難しい。 「どなたか、殿下をご存知な方、お話をお伺いできませんか? ロッダン殿下の素晴らしいところを、どうか教えていただきたいのです」

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

聖女に選ばれなかったら、裏のある王子と婚約することになりました。嫌なんですけど。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「エミュシカ、君は選ばれなかった」 ほぼ確定だったはずの聖女に選ばれず、王太子の婚約者になってしまった。王太子には愛する人がいて、おまけに裏表が激しい。エミュシカだけに聞こえるように「君を愛することはないだろう」と囁いた。なるほど……?

処理中です...