愛しているから

七辻ゆゆ

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後編

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「な……に……」

 王太子は混乱していた。元妻、元王太子妃、処刑されるアリヤーシャ。気に食わない女だった。
 地味で暗い目をした女。王太子が何をしようとも、すべて事務的に片付けていく女だ。可愛げのあるはずがない。

 だがある日気付いた。なにひとつ身を飾らずとも美しい女なのだった。華美な女たちの中に埋もれて、全く気づかずにいただけだ。着飾ればどれだけ美しいことか。

 気付いたときには遅かった。
 もはやアリヤーシャは王太子に目を向けない。何をしても心を見せない。王太子もまた、いまさら彼女に優しくなどできなかった。

 けれど処刑が決まってから、彼女がようやく愛を見せてくれたのだと思ったのに。
 愛人を殺し続けるほど、自分を愛してくれていたのだと知った。そのはずだったのに!

「この俺より、処刑人が良いだと……?」

 処刑人に会うために愛人を処刑していたのだ、などと。
 あまりの信じがたい光景を認められない。うっとりと、アリヤーシャが愛をささやく。夫であったはずの王太子の眼の前で。彼女はこちらを見もしない。

「そんな、ば、か、な」

 アリヤーシャは王太子を見ない。
 呆然とする間にも処刑の準備は進み、慣例通りなら罪人をうつむかせるところ、アリヤーシャの望みで上向きにされた。ああ。
 最期の瞬間まで、
 男の妻であったはずの女は、うっとりと大剣を見上げていた。

 そして永遠に手の届かないところへ行こうとしている。

「待」

 静止も間に合わず切っ先が落ちる。

 だが首が、飛ばなかった。




 処刑人ロビデス。
 彼は処刑人の家に生まれた。であれば処刑人になるほかない。処刑の腕を磨く他に、人生にやるべきことなどなかった。彼がどのような思いを持つかなど意味がない。彼は心を殺してただ、剣を振るう。

 そして正式に処刑人を継いでから、王家の敵を斬り続けた。
 いつも一度で首を落とす。その手腕は他の追随を許さぬものであったが、ただひとり、王妃アリヤーシャの処刑においてだけは違った。

 高貴なる首は落ちず、王妃は苦しみ悶えた。二度目でさえ落ちきれず、三度目でようやく落ちた首は、恐ろしいまでの苦悶の表情を浮かべていたという。

 愛を囁かれたことで手元が狂ったのだろうか。
 民たちはそれを悲しくも美しい愛であると語ったり、あるいは家族を王家に処刑された復讐なのだと噂したが、真実はわからない。

 ただ、それによって彼は王家から放逐され、どこともしれない野に消えた。
 その5年後、民衆が蜂起し、王家のものはみななぶり殺された。処刑ではなく、私刑と言うべきであろう。誰もまともな形を残していなかったようだ。
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