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【起】私と妹は同じ立場じゃないらしい

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 妹は我が伯爵家のお姫様です。

「さ、ヴィクトリア、私のお姫様。欲しがっていた新しいドレスですよ」
「わあ! お母さま、すぐに着たいわ! これで外を歩きたいの」
「ええ、そういたしましょうね」

 お母さまは愛らしい妹を本当のお姫様のように扱います。私のお姫様、と言葉のとおりに、まるで王族のような暮らしをさせているのです。
 週に一度新しいドレス、月に一度の宝石、まるでメイドのように片時もそばを離れず、妹はひとりで靴を脱ぐこともできません。

「私も新しいドレスが欲しいわ……」

 私は聞かれないように呟きました。
 妹はドレスを数回着ては飽きてしまうので、クローゼットの中は二度と着られないドレスがぎっしり詰まっています。
 あの中の一枚でも、私にくれればいいのにと思います。

「お母さま、」
「ルイナ、ヴィクトリアについていて疲れているの。お話はまた今度ね」

 お母さまはドレスどころか、話を聞いてさえくれません。

「ルイナ様、ヴィクトリア様と同じと考えてはいけませんよ」

 家庭教師のマイア夫人が言います。穏やかですが、反論を許さない強さのある言葉です。
 私はいつも夫人の言葉にただ従うだけです。いつもヴィクトリアにはりついているお母さまのかわりに、そばにいてくれる人でした。

 でもそのマイア夫人も、私より妹の方を大事にします。
 私には厳しい教育をしますが、妹にはひたすらに優しいのでした。私が腹立たしくなるのも当然ではないでしょうか。

「でも、同じ姉妹なのに、」
「ルイナ様、お黙りください」
「……」
「ヴィクトリア様とご自分を比べてはいけませんよ。ルイナ様はこの伯爵家の長女です。よく勉強をして、この家を継がなければならないのです。ヴィクトリア様はこの家にとどまるお方ではありません」

 それはそうかもしれない。
 ……でも。
 納得したい気持ちと、とても飲み込めない気持ちがあります。私がこの家を継ぐのに、どうして妹の方が大事にされるのでしょうか。

 学べば学ぶほどに、それは理屈に合わないと思いました。
 ですが文句を言うことは許されないのです。

「ルイナって勉強ばかりね」
「……ええ、そうね」

 私が机にかじりついて勉強をしていると、妹がやってきてそう言いました。妹は私を「お姉さま」とは言いません。
 ずっと名前で呼んでいます。
 そしてそれを両親もマイア夫人も許しているのです。

「ぜんぜん面白そうじゃないわ。ねえ、私が遊んであげる。庭にきれいな花が咲いたのよ!」
「あっ!」

 ヴィクトリアが急に私の手を引くので、私は転びそうになりました。

「ルイナ!」
「ルイナ様、お気をつけください」
「ヴィクトリアが……っ!」
「ルイナ様!」

 悪いのは急に手を引いたヴィクトリアだ。でも母とマイア夫人は私が悪いかのように、きつく叱りつけてきました。

「常に周囲の状況を見なければなりません。何があっても対応できるように」
「そうよ、ルイナ。大事な方に何かあってからでは遅いのだから」
「ねえ、早く!」
「……!」

 構わず引っ張るヴィクトリアの手を、振り払いたくなりました。でもできません。
 私がヴィクトリアに少しでも冷たくすれば、みな血相を変えて私を叱るのです。何度も何度もそんなことがあったので、とても怖くてできないのです。
 ヴィクトリアを転ばせてしまった時など、私は一晩、倉庫に閉じ込められました。あの恐怖が私を動かなくさせます。

「ルイナ様、お気をつけください!」
「ルイナ、何度言わせればわかるの?」

 私の足はまるで上がらず、引きずられるように庭に出ました。ヴィクトリアは私の気持ちになど全く構わず、庭の花について話し始めます。

「あの白いのが一番に咲いたの! とってもきれいでしょう? ……きれいでしょ?」
「……はい」
「なんて素敵なのでしょうね。ルイナ、きれいな花を見せてもらって、その反応はないんじゃないかしら?」
「ええ……とても……きれいね……」

 お母さまの、優しく教え諭すような言葉を恐れ、私はなんとかそう言いました。足や手の先がひどく冷えたような気がしました。
 まるで見張っているかのような二人の目があります。悲しそうな顔をヴィクトリアに見せることも許されていないのです。

「そうでしょう! ねえお母さま、次は黄色いお花がほしいわ」
「ええ、すぐに準備させましょうね」
「もうよいでしょう。ルイナ様、お勉強にお戻りください」

 耳打ちされて、私はその場を離れるしかありませんでした。
 お母さまと妹は、いつまでも楽しげに話しています。
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